「建築」をどのようにつくるか・・・・落水荘のRC・1

2009-08-10 19:17:08 | RC造

「落水荘」の話から、大分遠回りをして「建築」とは「何をつくることか」について考えてきましたが、ここでは、「何」を「いかにつくるか」を、「落水荘」の施工手順を通じて考えてみたいと思います。

普通、建築を紹介する書物や雑誌は、「できあがり」は紹介しても、施工過程について紹介することはめったにありません。
しかし、「過程」を踏まないで「建築」が出現することはあり得ません。

「施工過程」は、材料によって、独自の形をとるものです。
たとえば、木造とRCとではまったく「過程」は違います。
したがって、「設計」自体も、違ってきて当然です。
けれども、その「違い」を考慮せず設計が行なわれているのが現実のように思えます。
それは多分、設計者の多くが、「できあがり」の姿を、いわば勝手に、恣意的に、材料の違いを無視して「想像」するからなのだと思います。
もちろん、材料については意識はしていると思いますが、あくまでも、「表現される形」の点での意識なのです。だから時折り、どう考えても「無理」な施工を強いられたはずの「表現」を見受けます。

聞くところによると、最近「イメージ・スケッチ」を「提示」して、その「実現」は工事担当者にお任せ、という設計・設計者?が増えているのだそうです。「どうやってつくるか」はまったく考えていないのです。
かつて、江戸幕府の作事奉行(さくじ・ぶぎょう)のように、建物づくりの差配に長けた人たちがいました。小堀遠州はその一人です。
しかし、そういう人たちは、「どうやってつくるか」を詳しく知って差配していたのです。いや、一般の人たちでさえ、「どうやってつくるか」は知っていました。

ライトが「落水荘」を設計したのは、ヨーロッパでRC造が橋などの土木工事や建築工事で盛んに使われだし、それまでには見たこともない構築物がつくられていた頃です。その一人、積極的にRCにかかわったマイヤールについては、かなり以前に紹介しました。

   註 「コンクリートは流体である・・・・無梁版構造の意味」

ライトは、「落水荘」の設計の前後に、「無梁版構造」によるジョンソンワックス・ビルを設計しています。ヨーロッパの建築界の動向を知っていたのです。

マイヤールの仕事は、その見事な形をつくるために、数多くの木造構築物をつくることのできる量の資材を用いた壮大な「形枠工事」が必要だったはずですが、残念ながら、書物で、施工中の様子は見たことがありません。
「落水荘」には、幸い工事中の写真が残されていました。上掲の写真は、その一部です。

「落水荘」では、木製の形枠でコンクリートを流す方法の他に、石積みで外周部をつくり、そこにコンクリートを流し込む方法も採られています。左側の写真が打設中の写真。
これは、煉瓦壁で周壁をつくり、その中に石灰と土と砂利をまぜたものを流し込んだローマの壮大な構築物で使われた方法と同じで、コンクリート打設後、「形枠」を壊す必要がありません。周壁に使われた煉瓦形枠が、そのまま構築物の仕上り面になります。

   註 前川國男氏は、特性の窯芸ブロックを形枠にした建物を
      数多く設計していますが、その場合は、積んだ窯芸ブロックの
      外側に合板形枠を張っています。 

もっとも、ローマ時代には、アーチ、ヴォールト部分には木製の「型枠」が使われています。ただ、アーチ、ヴォールトの形を規格化して、少ない種類の「形枠」を使い回していたようです。使った「形枠」は、大事に保管して他の構築の際に使うのです。貴重な木材を無駄にしないための方策です。
話は横にずれますが、喜多方の登り窯にも、煉瓦積みの窯の補修用にヴォールト用の形枠が保管されています。

迫り出し、跳ね出しの部分では、そのための専用の「形枠」を支柱で支えることが必要になります。これが上掲右側の写真です。
この「形枠」ならびに「形枠」を支える支柱の類い:「仮設」材は、完成後撤去することになります。

現在の普通のコンクリート工事の場合、仮設に使われた「形枠」のかなりの部分は、再利用はできず、廃棄されます。
「落水荘」の場合も、支柱の材はともかく、「形枠」材で再利用できたのは少なかったと思われます。
これは、RC造のいわば宿命的な特徴と言ってよいでしょう。
それゆえ、RC造の設計では、「形枠」の合理的な利用、すなわち無駄に仮設材料を使わない方策を考慮することが、設計の重要な要点だ、と私は考えています。
そのことに気付いた経緯も、先の「コンクリートは流体である・・・・」で書いたような気がします。

   註 プレキャストコンクリートの使用は、施工工程の無駄を省くために
      生まれたと考えてよいと思います。
      また、鋼製の「形枠」を使い、その寸法を単位尺度にして
      設計する方法を採る設計者もいます。

写真の下の2枚の図は、「落水荘」の工事のためにライトが用意した設計図面と思われます。
上の図は、敷地への建物の配置、下は、建物の上部を支える部分の計画図です。
先回紹介した「測量図」に基づいて計画されていることが分ります。

次回は、各階の構築手順の解説図がありますので、それを紹介したいと思います。

今回の図版も、Edgar Kaufmann.jr 著“FALLINGWATER”(ABBEVILLE刊)からの転載です。 
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする