余録・・・・「建て方」考

2009-05-09 10:22:23 | 建物づくり一般

梅雨時のような雨がやみ、庭先のアヤメがかがやいています。


ここ数回、二十数年前に設計した建物の「建て方」の一連の写真を載せました。行方不明の写真もありますが、何とか順番どおりにはなっていると思います。

建物の規模は、1階:約150㎡、2階:約80㎡、延べ約230㎡。
「上棟」までに(「垂木」や「根太」を掛けることのできる状態になるまでに)、正味5~6日かかったと思います。

こんなに日数がかかる?と思われる方がおられるのではないかと思います。
しかし、無駄に時間を費やしているわけではありません。
今普通に行なわれている仕事と違って、写真で分るかと思いますが、主要な開口部の「縦枠」「鴨居」「窓台」などは上棟時点に組み上がっていて、後は「方立」や「敷居」などの仕事が残るだけだからです。こういう方法を「建て込み」と言います。この方法は、かつて、町家や農家ではあたりまえでした(寺院建築でも「大仏様」はこの方法です)。
けれども、武家の住まいや、その流れをくむ明治以来の都市の住居、さらにその流れの上で変質した「今の一般に見られる仕事」では、これらは、「造作仕事」として、上棟後の仕事になるのが普通です。

   註 「造作仕事」というと聞こえはよいのですが、本当のところは、
      「おっつけ」仕事がほとんどです!

もちろん、この仕事では、上棟後に、屋根や床下地、壁下地などの仕事もする必要はありますが、これは「今の一般に見られる仕事」でも同じこと。

   註 「今の一般に見られる仕事」は、大概、一日で上棟になります。
      どうしてそうなるかは、言うまでもないでしょう。
      金物を「信仰」して、「継手・仕口」に神経を払わないからです。
      単に工期が短いのは、「合理化」ではなく「合利化」です。


建て方の日数は、「架構の設計」と「敷地の状況」に左右されます。
と言うより、あらかじめ「敷地の状況」を念頭に「架構の設計」をする必要があります。
簡単に言えば、刻んだ材料を何処に仮置きし、どこから組み出すか、を考えた「架構の設計」をする、ということです。いわゆる「番付」も、このことを考えて振ればよいことになります。
とは言うものの、はっきりとそう気がついたのは、この設計の後になってからのこと。たまたま棟梁の考えと一致していたからよかったけれども、それはまったくの偶然。
また、もう少し「手順」を考えてあったならば、あと1日ぐらいは短縮できたかもしれない、と思っています。
この「手順」を、十分とは言えないまでも念頭に入れて設計したのが、以前に紹介した「棟持柱形式」の建物です(「棟持柱の試み・・・・To邸の設計」)。

今ならば、たとえば、「追掛け大栓継ぎ」は使わないなど、さらにもう少し「りこう」になっているかもしれません。
その一例として紹介したのが、「現行法令の下での一体化工法の試み・・・・1~4」
です。端から順に立ててゆけばいい、という考え方で、通し柱を多用して「追掛け大栓継ぎ」も使わずにまとめてみた計画案です。

なお、工事中、「仮筋かい」が少ないのが、写真でお分かりいただけると思います。最初の段階と、あと数回、本当に仮の支えのために使っているだけで、その箇所が組立て終わると、「仮筋かい」をはずしても、架構だけで自立するからです。

また、刻みがしっかりしていて、基礎も正確につくられていれば(つまり、仕事の精度がよければ)、架構の水平、垂直は自ずと確保され、いわゆる「間起こし」などの作業はほとんど不要です。
これが「差物」を多用する「一体化工法」の特徴で、上棟後、架構の上を歩いても、ゆっさゆっさ揺れる、などということはありません。
「今の一般に見られる仕事」では、「仮筋かい」なしではぐらぐら揺れるのが普通です(ときには、本「筋かい」が入っていても・・・!)。

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