浄土寺・浄土堂、ふたたび・・・・その技法

2006-11-29 19:55:31 | 建物づくり一般

1986年(昭和61年)、(財)文化財建造物保存技術協会から、『文化財建造物伝統技法集成―継手及び仕口―』上下二巻が刊行された。
同協会は、長年にわたり、わが国の重要文化財建造物の保存・修理工事に関わってきているが、これは工事によって同協会に蓄積された資料を編集・集成したきわめて貴重な出版物である。
しかし、残念ながら、この書は研究機関等に配付されただけで、市販されていないから、手に入れるのは容易ではない(私の場合、たまたま目にした古書店のカタログで知り購入)。

このような資料が、社会の一部に偏在し広く開示されないのは決してよいことではない。著作権等の問題もあろうかと思うが、私が知るかぎりの情報を、ブログ上で紹介したいと思っている。

と言うのも、今、わが国の(木造)建築は、建築法令によって、長い歴史と一切無関係な形に変質してしまっているが、それには、このような資料が市販されていないこと、そのため、そのような技術体系の存在自体を、関係者はもちろん、一般の人びとが知らないこと(知らされていないこと)が、大きく影響していると考えられるからだ。

なお、同協会では、保存・修理を行った建造物の一部を「文化遺産オンライン・建造物修復アーカイブ」(試行版)として配信・紹介している。
 アドレスは http://archives.bunkenkyo.or.jp/index.html

同書に、浄土寺浄土堂を例に、「大仏様(だいぶつよう)」の特徴が解説されているので、そのまま引用、紹介させていただく。

  [10月20日の浄土寺浄土堂、先回の東大寺南大門の断面図、
  ならびに上図を参照しつつお読みください]

① 柱は屋根裏まで達しているので、大径長大材が必要となる。
② 和様の積上式構架法と異なり、
  横架材はすべて
  「挿肘木(さしひじき)」「貫(ぬき)」「虹梁(こうりょう)」によって構成され、
  しかも桁行、梁行の材が同高に納まるので、
  横架材の仕口穴は集中的、かつ過密となる。
③ ②の仕口穴は「大入れ(おおいれ)」であるので、
  仕口孔の大きさは柱径に対して比較的細く、
  長辺と短辺との比率が小で正角に近い。
  この点からも、柱を大径材にしないと、割裂の原因となる。
④ 上記の仕口穴の大きさは、数種類に規格化がはかられている。
  また、仕口穴の下端に小溝が彫られている手法は珍しい。
  通気孔であろうか。
⑤ 上記仕口はすべて楔締(くさびしめ)であるが、
  「足固(あしがため)貫」に限り、側面も「楔締」とする手法は他に見られない。
  (建て方にあたり:筆者追加)最初に入れる最も重要な「貫」であるから、
  通りをよくするために配慮したのであろうか。
⑥ 柱頭部の納まりは、「頭貫(かしらぬき)」の上端を柱頂より
  若干高く(浄土寺浄土堂で3寸、東大寺南大門は図*によると4寸)納め、
  「頭貫」の柱上部分を大部分柱頂高さまで欠きとり、「大斗」を据える。
  「大斗」は柱頂高さに平らに据わるが、
  「頭貫」の欠き取り木口(こぐち)が若干「大斗」の皿斗付近に欠込みとなる。
  「大斗」は四方が押えられるので斗尻に「太枘(ダボ)」を設けない。
  これは大仏様の特異な手法で理由はよく分からないが、
  他の大入れ仕口穴の丈(せい)とほぼ同じにしたかったからであろうか。
⑦ 「虹梁」や「貫」(側面に胴張りがあって巾が広い)も
  柱に挿さる部分は巾や丈を落して、これと接続する
  「挿肘木」「通肘木(とおしひじき)」「貫」等と断面の大きさを同じとし、
  継手や仕口を形成する。
  柱の中での工作は引掛りをつけた「合欠(あいがき)」で、
  「四方差」の場合は、断面をそれぞれ合欠とする至極簡単なものである。
⑧ 軸部等の構造部分や軒廻り等の継手、仕口は驚くほど簡単であるが、
  雑作(ぞうさく)材には他で見られない、技法的に特殊で巧妙なものがある。

東大寺南大門は浄土寺浄土堂と建物の性格は異なるものの、昭和5年の修理記録によると(⑥項中の[図*]は、この修理記録を指す)、基本的には浄土寺浄土堂とほぼ同じとみてよく、継手も仕口も簡単である。  [以下略]

 

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