私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ジャーナリストの苦衷

2018-03-08 21:58:07 | 日記・エッセイ・コラム
 2月24日の朝日新聞朝刊に「逃れる 生きるため ベネズエラ経済危機」、「経済失政の果て 飢えるベネズエラ」と題する二つの大きな記事が出ました。出だしのところにこう書いてあります:
*****
「世界一の原油埋蔵量を誇り、かつて南米で最も豊かな国の一つとされたベネズエラで広がる人道危機。食料や医薬品が足りず、命を落とす人や国から逃げ出す人が後を絶たない。危機を招いたマドウロ政権は独裁色を強めており、解決の道筋は見えない。」
*****
「昨年のインフレ率は2400%」とも書いてありますが、私はこのひどい記事を読みながら、かつてのジンバブエの惨状の報道とムガベ大統領に対する悪口雑言を思い出しました。このベネズエラの現状についての記事ほどではないにしても、シリア政府軍とロシア軍が激しい攻撃を加えているグータの反政府勢力占領地域で一般市民の死傷者が多数出ている状況に関する報道も、あまりにも反政府側のプロパガンダの線にベッタリ寄り添ったものばかりです。これらの記事は外部から新聞社に加えられた圧力あるいは指令によって書かれたものに違いありません。記事の偏向のひどさよりもこうした記事を書かされるジャーナリストの苦衷を思うと、私はとても気の毒な気持ちになります。
 以前にロバート・フィスクという英国人(ベイルート在住)の優れた老練ジャーナリストを紹介したことがあります。2月15日付と2月26日付の二つの記事をここでは取り上げます。

https://zcomm.org/znetarticle/acknowledging-the-facts-of-history/

https://zcomm.org/znetarticle/the-bombardment-of-ghouta/

始めの記事は、トルコが行なった Armenian Holocaust(アルメニア人大虐殺)についての考察であり、二番目は、今、グータをめぐる状況についての記事ですが、こうしたロバート・フィスクの記事を読む者は、少し持って回ったような記事作りが、かえって、彼の語りたいシリア戦争の真実の核心を伝えてくれているのだという感じを強く持ちます。外部の権力機構からの制約の下にある日本の新聞ジャーナリストたちが、フィスクのこうした語り口のスタイルを学び、身につけて欲しいものです。そうすれば、検閲をかいくぐり、ベネズエラやシリアやウクライナの現地の真実を、プロパガンダの煙幕をかいくぐって、我々に告げることができるのではありますまいか?
 なお、これは全くの余談になりますが、このグログの読者の中に、ウイリアム・サローヤンの小説『僕の名はアラム』(My Name Is Aram)(和訳あり)をまだ読んでない方がおいででしたら、ぜひお読みください。決して時間の無駄にはなりませんから。ウイリアム・サローヤンはアルメニア人です。

藤永茂(2018年3月8日)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿