私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

R2PというFAKE

2018-02-08 21:17:21 | 日記・エッセイ・コラム
 R2P(Responsibility to Protect, 保護する責任)という言葉の意味するところは、大部分の方々がよくご存知でしょう。この考えの要点は簡単です。ある国家の支配者が自国民をひどく迫害する場合には、他の国家には、迫害されている人々を保護する責任があり、他の国のことだからといって傍観すべきではないという考えです。R2Pに先行する言葉に「人道的介入」があります。
 2011年、NATOによる残酷極まりないリビア侵略破壊が行われました。「3月19日、安保理がリビア情勢に関する追加の制裁決議、決議1973を採択。決議1970に基づきリビア政府当局に引き続き「人民を保護する責任」の履行を求める一方で、国連憲章第7章に基づき、文民保護のための飛行禁止区域の設定とこれを強制するための「必要なあらゆる措置("all means necessary")」を講じる権限を加盟国に付与した。国連史上初めて、保護する責任原則に基づいて武力行使が容認された決議」(ウィキペディア)となりました。
 リビアに対するR2Pの適用は、当時アフリカ大陸で最も高い成功度を示していたリビアという国家を破壊し尽くしてしまいました。この事実を否定する国際政治論の学者は一人もいないでしょう。また、R2Pに基づく軍事介入に以前と、介入後のリビアの人々の生活状態を比較して、介入後の状態(現在の状態)の方が介入前の状態よりはるかに悪いことを否定する(否定できる)人も皆無でしょう。今のリビアは“a living hell”だとよく言われます。社会統計的数字に照らして、リビアに対するR2Pの適用は巨大な失敗であったのは明々白々の事実です。つまり、介入した外国勢力は、保護してあげる筈であったリビア国民を、惨殺された独裁者カダフィがいじめたよりも数十倍、数百倍の酷さで今もいじめ抜いているというわけです。
 現在進行中のシリア戦乱についてもほぼ全く同じことが言えます。リビアとシリアの場合に、もしR2Pの適用による外部からの介入がなかったとした場合に、それぞれの国の国民がどれだけの苦難を強いられることになったかを、社会統計的に推量算定することを試みるのは、クレオパトラの鼻がもう少し低かったら世界の歴史はどうなったかを推量するより遥かに意味があり、定量的推定が可能と思われます。R2Pの関心事のトップは人種差別に基づくジェノサイドでしょうが、リビア(カダフィ)の場合もシリア(アサド)の場合も該当する要素は見当たりません。シリアの場合にクルド人に対する同化政策の強制の問題などが存在し、シリアの紛争の初期にロジャバ革命が立ち上げられましたが、この場合のシリア国民としてのクルド人の被害の程度は国内政治の問題としてかなり正確に評定することが可能です。宗教的差別についても同様の評定が可能でしょうし、思想言論の自由度についても同じです。
 R2Pについては、ネット上で多数のアカデミックな議論を読むことができます。例えば、大阪大学からは、257ページに及ぶ報告がアップされています。現職の学者さんたちに「リビアの場合もシリアの場合も、R2Pは全く外部からの介入を正当化するための虚偽のこじつけであり、真の理由は別にある」という学問的議論を前面に出してもらうことを期待するのは無理かもしれません。しかし、せめて、リビアとシリアの場合について、R2Pという錦の御旗の下での外部干渉がなかったとした場合の両国の内政状況の進展を社会統計的に推定する試みをやってみて頂きたいと私は思うのです。そうしたことが実行され、公表されれば、R2Pが如何に残忍非情な欺瞞であるかが浮き彫りになり、少し回り道ながら、世界の人々が、リビア戦争、シリア戦争の真の理由を明確に直視する姿勢を取りやすくなると私は考えます。
 私は、7年あまり前(2010年6月9日、リビア騒乱以前の時点)、『人道主義的介入という偽善と欺瞞』と題するブログ記事を掲げました。その後半部分を以下に再録します:
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2010年5月19日のブログ『核抑止と核廃絶(5)』の中で、アメリカの私の知人マクリーン氏の奥さんがベトナム戦争反対の運動をしたために警察に拘束されたという話をしました。その話をもう少し詳しく申し上げましょう。現在の事情は知りませんが、昔は、外国国籍の移民がアメリカで市民権の取得を願い出ると、アメリカ合州国についての知識のテストをされることになっていました。マクリーン夫人は、ボランティアとして、そのテストの準備を助ける講師役を買って出て、アメリカ合州国の独立宣言の初等知識の解説などをしていたのですが、独立宣言の文言に明らかに背反するアメリカ合州国軍のベトナム侵略がいよいよ激しく露骨になって行くにつれて、良心の呵責なしには、受講者の前に立つことが出来なくなり、遂にはベトナム戦争反対のデモの先頭に立つようになったのでした。アメリカ建国の出発点である独立宣言が、事の始めから、大きな欺瞞であったことは、拙著『アメリカン・ドリームという悪夢』で詳しく論じました。特に、p113には
■ 1776年7月4日の「独立宣言」は、アメリカ論のアルファでありオメガである。アメリカ合州国創設のこの宣言がひとつの大いなる欺瞞であったことが、善かれ悪しかれ、その後のアメリカ合州国の歴史を決定した。アメリカを叩くための誇張では決してない。あらゆるアメリカ論者が、その心底では、認めざるを得ない歴史的真実である。■
と書きました。そのあたりを読んでいただければ幸いです。植民地主義的な外国侵略を「人道主義的は立場から、お前たちの為にしてやっているのだ」と言いくるめる歴史的伝統は、「白人の重荷」から「明らかなる天命」へ、そして、ジャン・ブリクモンはいみじくも喝破するように、「人道主義的介入」という形の帝国主義へと、驚くべき一貫性をもって、受け継がれて行っています。
 攻撃的な帝国主義政策を推し進めるアメリカ政府とそれを支持する保守勢力が“外国国民の人権を守るため”の人道主義的介入という口実を用意するのは、いわば、自然なこととも言えましょうが、ジャン・ブリクモンが問題とするのは、元来、帝国主義的外国侵略に反対の立場を取る進歩的な人々の中にも、この「人道主義的介入」というロジックを採用する傾向が広がっているという事実です。近年、アメリカ、イギリス、フランスなどの豊かな先進国で、世界の国々、特に貧しい後進国で行なわれている人権侵害を監視することを事業とする組織や団体が数多く結成されています。「ヒューマン・ライト・ウォッチ」や「アムネスティー・インターナショナル」などは日本でもよく知られているようです。こうした組織体は政治的中立を原則として、ただ、諸国でおこなわれる人権侵害の事実を世界に向かって告発することを実行しています。しかし、ブリクモンが詳しく論じるように、これはいろいろと問題をはらむ事業です。
 まず、人権(Human Rights)とは何かという大問題があります。アメリカ合州国独立宣言に基づけば、「幸福に生きる」ということが人間の権利の一つであることは明らかでしょう。ところで、いまアメリカ合州国では、医療保険制度の枠外に押し出されているために適切な医療が受けられないという理由で毎日百人ほど死んでいます。公式の統計数字です。一方、一党独裁の貧乏国キューバでは、医療は無料なので、費用のために医者にかかれないという理由で死ぬ人はゼロです。この意味では、アメリカ合州国では重大な人権侵害が行なわれていることになります。しかし、いわゆる人権侵害監視団体はこの問題にはそっぽを向いているのが通常です。
 キューバの首都ハバナの町の真ん中で、「フィデル・カストロはひどい独裁者だ」と叫んだら、どうなるのか、私にはわかりません。しかし、もしそうすることで警官に捕われたとしたら、「ヒューマン・ライト・ウォッチ」や「アムネスティー・インターナショナル」はそれを政治的自由の人権の侵害だとして報告するでしょう。同じようなことはベネズエラとかボリビアについても言えると思います。実際、2年ほど前、「ヒューマン・ライト・ウォッチ」がベネズエラでは政治的発言の自由という人権が侵害されていることを非難していました。しかし、こうした第三世界の国の貧困層の人々は、新しい政権から言論の自由を制限されても、目や歯の治療が無料であることの方を幸せに思うに違いありません。彼らにとっては生きるという人権の方が、政治的発言の自由という人権より大切なのですから。ブリクモンの『人道主義的帝国主義、人権を使って戦争を売る』には、このタイトルの意味について、もっと精緻な議論が展開されています。興味のある方は是非お読み下さい。
藤永 茂 (2010年6月9日)
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 現時点で判断する限り、すでに30〜40万人の死者、500万人を超える難民を数えるシリア国民の苦難に、まだ終わりが見えません。騒乱発生時の総人口は約2000万人、アサド現大統領がどのようにひどい男であったにしても、自国民をこれだけ無残に迫害するはずは絶対にありません。R2P(Responsibility to Protect, 保護する責任)という標語が如何にインチキなものであるか、改めて、思いを馳せてください。

藤永茂(2018年2月8日)

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4 コメント

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世界は私たちが願う方向には決して向かっていない (海坊主)
2018-02-10 21:09:21
 「R2Pの適用がその対象国の国民全体にとってどのような利益を齎らし得るか」を社会統計的に推量算定し、主権者たる自国民に提示する事は、多大な国家予算を投じる西側先進国政府の義務と私は思うのですが、R2Pの行使において説得力のある根拠を報道等で見た記憶が私にはありません。そして、R2Pの果てに見えてきたリビアやシリアの現状は、その行使が正しかったのかを強く疑わせるものばかりです。R2P行使の真の理由は行使国政府から決して明かされることはないでしょう、それは人道的見地から遠くかけ離れた地政学的、エネルギー政策的な価値判断から出されたことであり、さらに「もう一つの世界」を実現しようとした者たちへの凄惨な仕置ですから。みせしめでもあるのです。

 西側先進国がどのように発展してきたか、歴史を振り返れば納得いきます。南北アメリカ大陸の発見によって、まずは現地の富の収奪と先住民のジェノサイド。その時に残された広大な土地の開発に導入されたアフリカ生まれの黒人奴隷達。アフリカでは中古の銃器と弾薬を売りつけて在庫処分をすると共に奴隷を効率より生み出す社会構造を作りました。ヨーロッパよりもたらされた新しい武器は奴隷狩りにも戦争にも役立ったことでしょう。黒人国家に奴隷を生み出させ、それを安く購入してアメリカ大陸に供給する、いわゆる奴隷貿易(三角貿易)の完成です。中南米はヨーロッパ主導のモノカルチャー経済が導入され、生産した原料を安く買い叩かれ、その代わりにヨーロッパの商品を高く売りつけられました。もちろん、アジアでも同じような経済構造が形成されました。

 コーポレートクラシー(企業独占主義)に陥った西側先進国たちはその価値判断基準が企業体のそれと似通っています。企業体は利益を生み出すことがその存在理由であり、投じた資本以上の回収益が見込まれないと企業活動は成り立ちません。それには、企業の製品を求める市場が潜在的に存在する、あるいは市場が求める製品を投入することが前提です。裏を返せば、新たな魅力的な市場の発見と開拓が、企業体の生命線なのです。
 なれば「資本主義」はこの地球上の全てを覆い尽くすまで拡大してゆくことを是としていると私は確信しています。地球上が「資本主義」で埋め尽くされた先に何が待っているのかは分かりません。マルクスが予言したように社会主義、共産主義が要請されることになるのか、それとも新たな植民地を得るために他の星を開拓してゆくのか・・。あるいは、その前に人類は滅亡しているかもしれません。

実は、本当に書きたかったことはここからなのです。

 私が訪問するブログの中で藤永先生の「私の闇の奥」は特別です。「このブログの人気記事」のランキングを見れば読者の方々もお気づきになると思いますが、最近の記事だけでなく初期に近い昔の記事もランキングに連ねているという稀有なプログです。そしてそのランキングに出てくる記事は一つのテーマに偏ることはなく、常に移り変わっています。それは何を意味するでしょう。

 私はこう感じています。「私の闇の奥」を訪れる方々は藤永先生の記事から、耐えず何かを受け取っているのだと。一つの記事から次の記事へと辿ってゆくうちに、その記事で取り上げられた出来事や人物に興味を抱き、もっと深く知りたいという強い好奇心を持った方々なのだと。そして、藤永先生が書かれた数々の文章は昔の記事であっても常に新鮮に読むことが出来て、その記事で議論されたことが今も問題提起される未解決な問題が多いこと、なのだと。

でもそれは、この世界が私たちが願っている方向に進んでいないことを意味することのかも知れません。
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捏造、違法、偽善 (桜井)
2018-04-16 00:15:53
藤永先生が常々推奨されるブログ「マスコミに載らない海外記事」に、今回の米英仏のシリア攻撃に関してのポール・クレイグ・ロバーツ氏の記事が紹介されていました。「現場に到着したグータの人々や、グータの医師たちも、ロシア専門家も、いかなる化学兵器攻撃の兆候もないと報告している。シリア軍が解放した一般市民に対して、シリアが化学兵器を使っていなかったのみならず、シリア軍によって、グータから追い出されたアメリカに支援された傭兵がしくんだ偽旗作戦も含め、化学兵器攻撃はなかったのだ。言い換えれば、化学兵器攻撃は全くのでっちあげだ。」とありました。

愚行がこの世の終わりをもたらしつつある
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2018/04/post-0faf-1.html

ニュースで流された「子供たちに救命処置をほどこす映像」は、また例の戦争プロパガンダの実働部隊「ホワイト・ヘルメット」による捏造でしょう。心臓専門医によるこんな批判もSNS上に出ていました。「心電図の電極の位置が違う。これではなんのデータも得られない。これはフェイクだ」と。

https://twitter.com/Thomas_Binder/status/984934979451879424

以下のような記事もありました。政府軍が奪還した反政府イスラム武装組織(政権側の表現でいえばテロリスト)支配地域に、化学兵器を製造していた跡が発見されたという写真入りの記事です。上記「マスコミに載らない海外記事」のポール・クレイグ・ロバーツ氏の記事によると、今回は、化学兵器の使用そのものが無い状態での捏造ということですが、反政府側の手には現に化学兵器があって、実際に使用してそれを政権側の仕業と偽る謀略も可能ということでしょう。

Syria in the Last 24 Hours: Army Discovers Toxic Munitions Factory in Eastern Ghouta
https://syria360.wordpress.com/2018/04/13/syria-in-the-last-24-hours-army-discovers-toxic-munitions-factory-in-eastern-ghouta/

今回の米英仏の武力行使は、以上のように「捏造」にもとづくもので、許しがたい暴挙ですが、国内法・国際法を無視した「違法」な武力行使であるという点も見定めておく必要があるでしょう。つまり、国内法の面では議会の承認なしに行っている点、国際法の面では武力行使が認められる条件(自国が攻撃された際の自衛、または、国連安保理の武力行使容認決議がある場合)を満たしていない点です。米国はよく「世界の警察官」をきどって、敵対する国を「ならず者」「無法者」とさげすみますが、自分たちこそ法を無視した「無法者」、「世界の警察官」ならぬ「世界の暴力団」です。

In 'Clear Violation of Domestic and International Law,' Trump Bombs Syria
https://www.commondreams.org/news/2018/04/13/clear-violation-domestic-and-international-law-trump-bombs-syria

「捏造」、「違法」と続いて、もう一点あげるべきは、欧米の「偽善」という点でしょう。以下の記事は、ロバート・フィスク氏によるものですが、「偽善」に焦点をしぼって今回の軍事攻撃を批判していました。イラン・イラク戦争の際、欧米はイラクのフセイン政権を支援し、化学兵器の原料も援助し、フセイン政権がイランに化学兵器を使用するのも、自国内のクルド人に化学兵器を使用するのも、黙認していたではないか。そんな過去を都合よく忘却し、いまさら化学兵器の使用・拡散は許せないとは「偽善」もいいところだ、と。

As Theresa May gears up for war in Syria, we should remember what hypocrites we are about chemical warfare in the Middle East
https://www.independent.co.uk/voices/theresa-may-syria-war-uk-chemical-weapons-attack-iran-iraq-thatcher-russia-a8300881.html

今回の攻撃はこのように、「捏造」、「違法」、「偽善」にまみれた、とうてい許しがたい暴挙。シリアの和平を妨害し、火に油をそそぐ暴挙であることは間違いありません。
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「間違い」と「捏造」 (桜井)
2018-04-17 01:29:23
先の投稿で、心臓専門医と称する人物のSNS上の発言を紹介しましたが、当人が直後に「間違い」を認めて撤回しました。私も、このような発言を軽々に紹介してしまったことを反省しお詫びいたします。

https://twitter.com/Thomas_Binder/status/985665154695262211

とはいえ、今回の「化学兵器使用」の訴えが捏造であること、それを口実に国際法無視の軍事攻撃をしかけた米英仏が批判されるべきであることに変わりはありません。

シリアを支援するロシアの報道機関のサイトに、以下のような記事がありました。

The facts behind the ‘staged’ video of kids’ chemical weapons drill in Syria
https://www.rt.com/news/423927-syria-staged-chemical-attack-drill/

2013年9月にyoutubeにアップされた動画が紹介されています。東グータ地区のNesmaという団体が企画した芝居の一部で、その目的は「化学兵器の恐怖を子供たちに教えること」と「自国民に化学兵器を使用する人物に対しなんら行動を起こさない国際社会の姿を示すこと」だと団体自身が公表していたそうです。しかし、ネットを利用する人々は、この映像に間違った説明を付けて、つまり、「子供たちが戦争プロパガンダ、フェイク動画の撮影の練習をさせられている」という間違った説明を付けて、拡散してまったというのです。このNesmaの公開した映像には、反アサド派の自由シリア軍やアルカイダの旗を振る人々の集会の様子も複数存在するそうで、シリア政府とロシアの側からすれば敵対している側の団体でしょう。しかし、それでも間違いは間違い、事実に反するものを拡散してはいけないという姿勢が、ロシアの報道機関の記事からは感じられました。一方、これはそういう「目的」の「芝居」とはいえ、子供たちの迫真の演技を見るかぎり、いつでもフェイクを撮影しようと思えば容易にできる状況にあることは間違いない、そういう点も感じました。

今回のシリア化学兵器使用が反政府・欧米側の「捏造」であることは、以下の記事が参考になりました。ダマスカスの住宅密集地に位置する「Barzeh scientific research centre」も攻撃された施設の一つですが、化学兵器工場などではなく、医薬品や化学工業の研究・教育拠点で、経済制裁で抗がん剤すら輸入が禁じられるなか、そこが破壊されて非常に厳しい状況とあります。センターに勤務する一人が「もしここが化学兵器工場なら、(攻撃後)我々は生きていられない。朝の5時半からここにいるが、至って健康、咳も出ていない」と語った内容も紹介されています。そして、仮に欧米の言うとおり化学兵器工場だとした場合、攻撃は「シリア人の命を救う」ことになるのだろうか、というもっともな疑問が呈されています。「シリア人の命を救うため」だと、住宅密集地に位置する、危険な有毒物質が存在すると見立てた場所に、ミサイルを撃ち込む、その論理はおかしいのではないかと。

政権側が戦いを優勢に進めるなかでわざわざ国際非難をあびること必定の化学兵器を使用する動機がないこと、中立的なOPCWの査察チームが現地に入る直前に攻撃が開始されたこと、証拠があるあるというだけで何も具体的に示さないこと、トランプ・メイ・マクロンのそれぞれの思惑(シリア人の命、人道などでは決してない)等々も含め、すべてが怪しすぎます。

ベトナム戦争のトンキン湾事件の捏造も、イラク戦争の大量破壊兵器の捏造も、保育器の赤ん坊を虐殺しているという捏造も、リビアのカダフィ政権が民衆を弾圧している、兵士にバイアグラを配布してレイプさせているという捏造も、すべてが露見しました。シリアの化学兵器に関する今回の一件も、同じように欧米の悪辣な捏造の歴史、侵略口実を捏造する歴史の一例として、後世に語り継がれることでしょう。
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欧米の「人道的介入」と偽善 (桜井)
2018-04-22 03:21:34
米英仏によるシリアへのミサイル攻撃は、「捏造」と「違法」と「偽善」にまみれた悪辣きわまる汚らわしいものですが、以下のいくつかの記事ではこのうち「偽善」の側面に注目して書かれています。

湾岸戦争までは、欧米はサダム・フセインのイラクを支援しましたが、そのイラクはイランとの戦争で化学兵器を使用し、自国のクルド人にも使用しました。欧米は、化学兵器使用の可能性を事前に把握しつつ黙認し、それどころか衛星写真でイラン兵の位置をイラク側に教えて攻撃を助長したほか、化学兵器製造に必要な物資も欧米側が提供しました。イランの兵士や民間人やクルドの住民の壮絶な死について欧米は知らん顔を決め込みましたが、記事では、「欧米はフセインを処刑することで自分たちの悪事の口封じをした」というロバート・フィスク氏の言葉が引用されています。

Gassing is bad, but OK for some: US complicity in past chemical attacks
https://www.rt.com/op-ed/424236-us-complicity-chemical-attacks/

次の記事では、イエメンに対するサウジアラビアの非道、国際法で禁じられている兵器の使用、そのサウジの軍事力を欧米が支援しているという事実と、欧米のシリアに対する態度とサウジに対する態度との間のダブルスタンダード、「偽善」の問題が論じられています。

'Double standards: US, UK, France stand by Saudis in Yemen but pose as moral crusaders in Syria'
https://www.rt.com/news/424195-us-uk-yemen-saudi-syria-double-standards/

欧米のダブルスタンダード、偽善の例として、以上のイラク、サウジのほかに、以下の記事ではイスラエルを取り上げています。パレスチナはイスラエルによる無差別攻撃にさらされ、兵器の実験場になっていますが、白リン弾、劣化ウラン弾などがもたらす人体や遺伝子、土壌や水などへの深刻な被害が記されています。また、ここには、イスラエルの攻撃により傷つき殺された犠牲者の写真が掲載されており、「自分の子供だと想像してみて…」という言葉が冒頭に記されています。よくもこんなむごい事ができるものだ、何が「イスラエルの自衛のため」だ、と本当に怒りがわいてきます。

Israel’s Weapons: A Crime on Humanity
https://occupiedpalestine.wordpress.com/2011/05/01/israels-weapons-warcrime-on-humanity/

#GazaUnderAttack| Imagine… That This Would Be Your Child! – In Pictures
https://occupiedpalestine.wordpress.com/2014/07/29/sos4kidsofgaza-imagine-if-this-would-be-your-child-in-pictures/

イスラエルがパレスチナにどんなに残虐なことをしようとも、米国はイスラエルを擁護し、巨額の軍事支援を続けてきました。以下の記事には、米国からの軍事支援の額に応じて国々の面積を大小させた地図が掲載されていますが、イスラエルが米国の軍事支援の大半を受けていることが一目瞭然です。しかもその額は膨らむ一方で、現在は史上最高の額を受けているところです。

Seventy-five percent of U.S. foreign military financing goes to two countries
https://edition.cnn.com/2015/11/11/politics/us-foreign-aid-report/index.html

US pledges record $38bn military aid to Israel over next 10 years
https://www.theguardian.com/world/2016/sep/13/us-israel-aid-38-billion-record-military-assistance

「アサド政権が化学兵器を使用した」という反政権側(ホワイト・ヘルメット)による捏造は以前から執拗に続き、昨年4月にはイドリブ県で捏造され、それを口実に米国のミサイル攻撃がありました。その際、トランプ大統領は「小さな子供たち、美しい小さな赤ちゃんたち」の犠牲を口にしています。しかし、先のサイトのいたましい写真の子供たち、米国が支援するイスラエルの犠牲になったパレスチナの子供たちのためには、そのような言葉は絶対に口にしないのです。クリントン政権下のオルブライト国連大使がテレビ番組の中で、イラクへの経済制裁で50万人の子供たちが犠牲になった事実を指摘されても、「それだけの犠牲を払う価値はあった」と語ったのは有名ですが、ここにも「人道」のダブルスタンダード、偽善が示されています。

FNN: President Trump CONDEMNS Chemical Attack in Syria That Killed "Beautiful Little Babies"
https://www.youtube.com/watch?v=NdW-szibRf4

Madeleine Albright - The deaths of 500,000 Iraqi children was worth it for Iraq's non existent WMD's
https://www.youtube.com/watch?v=RM0uvgHKZe8
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