私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

アザーズとアレッポの戦い

2016-02-21 22:05:36 | 日記・エッセイ・コラム
 トルコ東南部、イラク北部、イラン北西部、シリア北部を覆う広大なクルド人居住地域は、北クルディスタン、南クルディスタン、東クルディスタン、西クルディスタンとも呼ばれますが、西クルディスタン、このブログでロジャヴァ(西を意味する)と呼ぶシリア北部の地域は北クルディスタンの南の縁のような形でトルコとシリアの国境を南に越える地続きです。
 私が強い関心を持っているロジャヴァ革命が進行拡大中のロジャヴァ地域は革命のはじめ頃は東西に延びる国境沿いの三つの飛び地から成っていましたが、第二のスターリングラードの戦いとも言われる(少し大袈裟?)コバネの戦いでイスラム国軍を破った後は次第に勢力を拡大して、数十キロほどの開きを残して、トルコ/シリア国境線全体をカバーするまでになりました。もし、トルコとトルコが直接操作しているテロリスト軍団(IS, Al Nusra)が支配する、この残された国境の出入り口が塞がれて、テロリスト軍団への補給路が絶たれてしまうと、トルコ、サウジアラビア、イスラエル、NATO、そして、総大将の米国が目論んできた、アサド政権の打倒と、傀儡政権によるシリアの分割統治の計画が根底から瓦解してしまいます。
 この状況の展開に狂った猛獣のように叫び声を上げているのはトルコのエルドアン大統領です。トルコ/シリア国境に残っている東西数十キロのアキ間のすぐ南にアザーズ、そのまたすぐ南にシリア第二の都市で世界遺産の古代都市アレッポがあります。エルドアン大統領は「ロジャヴァのYPG軍にアザーズを渡すことは絶対に許さない」と息巻いて砲撃を行っています。1月20日の時点では、確かに、アザーズはトルコ側の手中にあるようです。しかしアレッポの北部ではアサド大統領のシリア軍が着々と反政府勢力を制圧排除しています。エルドアン大統領はアザーズの北の国境にトルコ地上軍を配置して今にもシリアに軍を進めるような構えを見せて、NATOと米国からのゴーサインを待っているところです。今後どういう展開になるか、神のみぞ知る、といった所ですが、ロジャヴァのクルド人たちが、シリア戦争(シリア内戦ではありません。これは外国による侵略戦争です)の去就を決めるキャスティングボートを握る状況となってきたのは確かだと思われます。
 2月21日(日)午後6時10分からのNHK番組「世界のいま:IS 包囲網のはずが・・・戦闘渦中シリアに異変」は、実にひどい内容で、例えば、一般の視聴者は戦争の初期にアサド大統領が毒ガスを使用したので米国が参戦しそうになったらしいと思うに違いありません。クルド問題の扱いも全くでたらめです。このプログラムの制作者たちの苦悩はいかばかりかと、むしろ同情したい気持ちにさえなります。今の世界でニュースと呼ばれているものはプロパガンダです。
 2月18日付のBBC の報道記事『Syria conflict: Why Azaz is so important for Turkey and the Kurds 』は色々な意味で興味深く読めます。

http://www.bbc.com/news/world-middle-east-35595023

SYRIA360゜というウェブサイトもそれなりに偏向しているでしょうが、私には、貴重な情報源です。例えば、次の記事

https://syria360.wordpress.com/2016/02/19/syrian-front-army-controls-more-strategic-areas-in-lattakia-and-aleppo/

しかし、中東事情一般について、私が最も信頼しているジャーナリストはRobert Fisk です。この人の記事は前にも使わせてもらったことがあります。今、アレッポの周辺で本当に何が起こっているかを、私のような者が嗅ぎつけるには、この人の次の記事が一番有用かと思われます。

https://zcomm.org/znetarticle/after-entering-aleppo-with-russias-help-the-syrian-army-may-set-its-sights-on-raqqa/

藤永茂 (2016年2月21日)