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生きること:過去と未来とエスペラントと

カンボジア開発:国境を超えるダム被害、その後(1)

2011-10-04 08:14:50 | 平和

 先日ラオス在住のの知人からカンボジアでのダム開発に絡む農民たちがおかれた状態に関する報告書を転送されてふと迷いました。

 日本で東南アジアに関心を持っている人はどの程度いるでしょうか。他の国と国境をほとんど接していない日本人にはピンと来ない問題です。ただ昨年北海道の土地を中国人か買っているとか、富士山麓の土地を買う外国人が増えており、ミネラルウォーター採取が目的と見た自治体が販売目的の採取を禁じる条例を作ったと言う事が話題となっています。

 メコン川支流のダム開発が自国政府だけでなく隣国のベトナムや中国など国境を接する国々とも関連していると聞き、日本が他国で行ったバナナ栽培とかエビの養殖とかそんな事を思い出し、ブログに載せる事にしました。 

      

みなさま

セコン、セサン、スレポックというメコンの支流は、地図で見るとメコンの左岸
に扇のようにカンボジア東北部、ラオス南部、ベトナム中部高原に広がっていま
す。3つの河川の流域はその頭文字をとって、3Sと表記されることもあります。
カンボジアのラタナキリ州は、この3つのうちセサンとスレポック川が流れてい
ます。森林も多く緑の美しい場所です。13の民族が暮らす州内は、様々な文化や
生活様式のあるところです。セサンとスレポックはセコンに合流してからメコン
に注ぎますが、合流点はカンボジア、上流はラオスとベトナム、という国際河川
となっています。

この流域には、2000年に操業を開始したベトナムのヤリ滝ダムをはじめとし、数
多くの水力発電ダムが計画・建設されてきました。ダム建設の影響は国境を超え
て広がっています。特に、カンボジアでの影響は深刻です。メコン・ウォッチで
は、2008年に「水の声:ダムが脅かす村びとのいのちと暮らし」として、現地の
人々の暮らしと国境を越えたダム開発の影響についてまとめました。

http://www.mekongwatch.org/resource/publication.html#watervoice2

冊子では、人々の日々の暮らしに対する考え、望んでいることからダムの影響ま
でを写真を交えてお伝えしています。この地域での個別のダム建設計画は、50-
58ページに紹介しています。現地ではその後も状況が改善されず、人々は未だに
ダムの放水による洪水被害に悩まされています。2011年7月に現地を訪問した際
も、その暮らしは困難を極めていました。

今回は、現地の情報を3回にわたってお届けします。初回は、ラタナキリ州の中
心バンルンから40kmほどのヴォンサイ郡PコミューンのF村の状況です。

■村の抱える問題

この地域で、米は1期作、晩生や早稲を育て洪水や干ばつのリスクを分散する栽
培がおこなわれてきました。村人の生業は、水田での稲作を中心とし、畑作、川
での漁業、森での林産物採取を営む自給自足に近いものでした。しかし今、村人
の多くが米の不作に悩まされています。スッさん(女性・56歳)はヤリ滝ダムが
できてから、村は顕著な洪水被害を受けるようになったと言います。

「1993年、ベトナム側でヤリ滝ダムの建設が始まり、1996年から影響がひどくな
りました。以降、連続で洪水被害を受けています。最初の年は3回洪水があり、
すべての水田がダメになりました。今も、1日3回もセサン川の水位が変わること
があります。」

「(放水の影響で)河岸が崩れ川の淵を埋めてしまい、魚の生息場所がなくなり
ました。また、乾季に水位が自然な状態よりも大きく下がり、淵に集まった魚を
村人が一網打尽にしてしまいます。そのため、魚は減っています。」

同じくF村のヌピットさん(55歳、男性)の家をたずねましたが、ラオスやタイ
では川沿いの村では必ず見かける漁具が、彼の高床の家の下にはありませんでし
た。

「川魚が減った理由の1つは、戦争です。爆撃と兵士が爆弾漁をしたため、減っ
てしまった。でも、それよりもダムの放水が決定的に魚を減らしました。(自分
の記憶では)約70種いた魚が5-6種類になってしまった。100種類もあった川の野
草もなくなった」と話していました。彼は既に漁をすることを諦めています。

村人は口をそろえて、食糧の安全保障がダムによって脅かされ、そのために持続
的でない漁業もおこなわれるようになったといいます。それだけでなく、自然な
状態でも水が少なく流れの穏やかな乾季に川の水が干上がり、かつ放水があると
川は急流になります。この村の周辺では、延べ29名以上の方が、流されておぼれ
るなどして亡くなっています。村人は、セサン・スレポック・セコン保全ネット
ワーク(3SPN)をNGOと共に立ち上げ、政府やメコン河委員会に問題を改善する
よう交渉し続けています。しかし、改善はほとんど見られないといいます。

スッさんは「3SPNのネットワークができるまでは全く情報がありませんでした。
(ネットワークが設立された後)村人の抗議を受けて、ベトナム政府はプノンペ
ンにある水資源省にダムの放水を連絡することになりました。しかし、仮に連絡
あったとしても、意味がないでしょう。国から州、郡、コミューン、村という順
に連絡があるため、水のほうが早く村に着くからです」と話しています。

今、この村の抱える問題は、ベトナムのダムの影響にとどまらなくなっています。
現在、村が抱える新たな問題を次回のメールニュースで報告します。

(文責/木口由香 メコン・ウォッチ)

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メコン河開発メールニュース
発行:特定非営利活動法人メコン・ウォッチ
E-mail: info@mekongwatch.org
Website: http://www.mekongwatch.org/

 

コメント (3)
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