頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『その愛の程度』小野寺史宜

2018-09-08 | books
35歳、防虫メーカーの営業マン、豊永。年上の妻はカフェの店長、娘菜月7歳は前の夫との間の子供。家族3人仲良くやっていたはずだった。大勢で川遊びに行った。菜月と一緒に川に入ったのは6歳の留衣。気づいたら、二人とも溺れてしまった。慌てて菜月を助けようとして、間違えて留衣の方を助けてしまった。そして、菜月は口をきいてくれなくなる・・・流転していく豊永の人生・・・

なんということのない話なのに、なぜか、面白いなー、と呟きながら読んでしまった。台詞とか、ストーリー展開が自分の肌に合ったようだ。

「二年で一度も子どもを叱らない父親なんて、いる?」
ドキッとした。居る?ではなく、要る?かと思って。

時折登場する、会社の後輩の小池くん。彼女が男友達と旅行にいっても、許すと言う。

「電車でイスに座ってたら眠りこけた隣の人に寄りかかられた人、を見ればわかります。ただ寄りかかられただけ。それだけのことなのに、人って、すごく嫌な顔をするじゃないですか」
「あぁ。するね」
「ぼくは、それを見るのがすごくいやなんですよ。といって、自分もいやな顔をしちゃうんですけど」
「おれもしちゃうよ、たぶん」
「で、くるみが電車でその状況になったことがあるんですよ。イスが一人分しか空いてなかったんで、くるみに座らせて、ぼくは前に立ってました。そしたら眠りこけた隣のおじさんが、くるみに寄りかかってきたんですよ。あ、ヤバいなって、ひやひやしました。くるみは、どうしたと思います?」
「さあ」
「笑ったんですよ。しょうがないなぁって感じに。この人はだいじょうぶだなって思いました」

この小池くんの感覚、すごく分かる。寄りかかられても嫌な顔をしないような人、私も好きだ。

結婚する自信はないが離婚する自信はある。大学生のころに自分がよくそう言っていたことを思いだす。

私も同じようなことを思ってたよ。

もし顔が嫌いなら、どんなに性格がよくても、その人は好きになれない。性格のよさはもちろん重要だが、所詮、一般化されるものでしかない。だから、顔が好き、を軽視してはいけない。

確かに。

ちょっと冴えない(?)豊永くんがまるで自分の分身のようだった。ラストの方に向かって、あーそうなるのだなー、と思ってたら、それもどんでん返されてしまった。どんでん返し好きが、どんでん返しが来ると思ってない時にくらうこの感じ。BBQに行って、焦げた野菜を食わされるのだろうなと思っていたら、美味い刺身が出て来た感じ?違うか。

傑作「ひと」はものすごく良かったけれど、こっちも結構面白かった。


その愛の程度
小野寺史宜
講談社



今日の一曲

田島貴男と長岡亮介で、「接吻」と"FUEL"



最後の方で、ダ・ダ・ダの歌う音、すごくいい。では、また。
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