頭の中は魑魅魍魎

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『ふたりぐらし』桜木紫乃

2018-09-04 | books
札幌、妻は看護師、夫は映画の技師。夫の仕事はほとんどなくて、妻に支えられている。夫の母親は、腰が痛いとか膝が痛いとか電話をかけてきて、毎週月曜日は札幌から江別まで行って、札幌の病院まで行って、また江別まで送り届けないといけない。妻の母親は、ストレートにモノを言うタイプで夫の収入のないことに対する不満を隠さない。妻は自分が看護師に向いているのだろうかとそこはかとない疑問を持ちながら仕事をしている・・・

夫婦の絶妙な機微を淡々と描く感じ。やっぱり桜木紫乃はいい。

彼女らしいドロドロした愛憎は少な目。淡いホームドラマに、桜木紫乃の強烈なスパイスをふりかけたと言えば分かるだろうか?分かるわけないか。

短編集が連作になっているのだけれど、短い話の中にちゃんとそれぞれの起承転結があって、さらに全体としてまたきちんと繋がっているのもまた素晴らしい。細かい台詞もまたいい。

実りが多いはずの若い時間をひとを恨んだり責めたりして過ごしてはいけない、という話に思うところがあったのか、

住職は、男と女にはどうしても埋めきれぬ大きな溝があるが、それゆえ多くの人間がその溝を埋めようと苦しむのだと締め括った。

「なんだかいいな、そういうのって。僕はこのとおり家族も持たなかったし、親もとうに見送ったんで、誰に何を隠そうにも、いちいち相手を探すところから始めなくちゃいけない。改めて先輩の言ったことが重みを増すね。自由ってのはあんがい寄る辺ないものなんだな」



ふたりぐらし
桜木紫乃
新潮社



今日の一曲

Mick JaggerとKeith Richardsで、 "Honky-Tonk Woman"(アコースティックギターバージョン)



The Rolling Stonesは、高校時代の我がヒーローだった。では、また。

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