2022年の第167回芥川賞を受賞した作品である。タイトルに惹かれて読んでみた。
勿論これはグルメ小説ではない。食が横軸にはなっているけれど人間関係の綾を描いた作品である。それもとある会社の一部署の人間関係だけが展開する物語である。
“選考委員の川上弘美さんは「少人数の職場の中での男女関係を立体的に描き得ている作品。いかに書くかの技術が非常に優れており、人間の中の多面性もうまく描かれている」と授賞理由を述べた。”とあった。確かに…。
職場小説というジャンルがあるかどうか解らないが、こんな職場小説もあるのである。私なんかは源氏鶏太のサラリーマン小説で育ったから、こういう物語はなんかモヤモヤとしてしまう。しかし筋立てがつまらないということは全然ないし、現代の職場の人間関係なら、さもありなんとも思う。だからそこにはまったく絵空事ではない現実感がある。
この職場は支店長とナンバーツーの男、そして転勤してきた二谷という男と、実家から通う職場の花的存在の芦川さん、たぶん一人暮らしで仕事ができる押尾女子、そしてパートのおばさんたち。人間関係はこれだけである。まあこの辺のキャラは上手く立てている思う。
芦川さんは仕事にプレッシャーがかかるとエスケイプするが、職場に手作りのケーキやクッキーを毎回持参して気配りを欠かさないタイプ。押尾さんはそんな芦川さんを苦々しく思っている仕事タイプの女子。二谷は食に関心があるようでなく、実際は家でカップラーメンを食べることが好きな男。二谷の家に芦川さんはご飯を作りに来る。まあこの二人は出来ている。そのことはパートのおばさんたちが敏感に気付いている。押尾さんも二谷には好意を持っている。こういう伏線があって物語は展開しているようで展開していない。まあ結末はあることはあるのだが…。
誠に面白いので読み進むのだが、なんかもやもや感が拭えない小説なのである。そこがたぶんこの作者の秀逸なところなのかもしれない。
◇おいしいごはんが食べられますように 高瀬隼子 講談社 2022年3月初版