陽だまりの旅路イスキア

あ、slice of life…日向香を感じる日々の暮らし…

七月の読書 神戸・続神戸

2020年07月18日 | slow culture

“昭和十七年の冬、私は単身
東京の何もかもから脱走した。
そしてある日の夕方
神戸の坂道を下りていた…”

実はわたし、ひそかな三鬼ファンである。
密かにと云うのは、私は伝統俳句系だから
あまり声高に言えないのである。もちろん
彼の俳句も好きだが、それよりも彼自身の
生きざまに強い憧憬がある。そしてそれは
このエッセイによって益々補強されたのだ。

西東三鬼(1900-1962)は
東京から逃れるように神戸に来て
昭和十七年から十四年間神戸に暮らした。
その間の戦前、戦中、戦後の神戸の暮しを
淡淡と描いた写生文がこの「神戸・続神戸」だ。

神戸のトーアロードにある奇妙な国際ホテル。
ここを常宿とする外国人とバーのママ、娼婦たちの
人間模様を描いた作品である。後半、三鬼は北野の
異人館に居を移すのだが、そこでも米兵や三鬼を
訪ねてくる色んな人間たちの人生模様が描かれる。

一気に読んでしまった。こんな俳人を私は知らない。
三鬼はとてもじゃないが品行方正な来し方ではない。
娼婦と同棲はするし、頼まれて隠し子を作ってもいる。
写生文とはいえ、赤裸々に描かれたその生きざま。
私の阿保さ加減を曝したいからだと本人は言っている。

おそるべき君等の乳房夏来る 三鬼

この三鬼の有名な句も、このエッセイを読むと
あの時代の神戸の街角に立つ常宿の女たちの
映像が見えてくるのである。

“港神戸にしか存在しなかったコスモポリタニズムが
新興俳句の鬼才の魂と化学反応を起こして生まれた
魔術のような二編。”

正に!これほどの文を書く俳人を私は知らない。

■神戸・続神戸 西東三鬼著 新潮文庫
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