益田の石見美術館に行く。
驚いた。
とにかく立派な建物だったから。
失礼だが、こんな町になんであるの?
と思ってしまうほどに。
外観に地元名産の石州瓦を用いていた。
その瓦が醸し出す波線が美しく
また、なんとも心地よいゆらぎを感じた。
ここ正式には、島根県芸術文化センター
“グラントワ”と称すらしい。
美術館と劇場が一体となった複合施設だ。
地方行政のハード優先ウワモノ主義という
やぶにらみも感じずにはいられないが
とにかく立派で現代的意匠の美術館だ。
この夏休み期間に、ここで
近代日本洋画の巨匠である
黒田清輝展が開催されているのだ。
黒田清輝画伯が
ここ石見出身である森鴎外と
交流があった縁で
この展覧会が開催されたらしい。
館内は平日とあって空いていた。
ゆっくり鑑賞することができた。
湖畔に腰掛けながら
うちわを持って夕涼みする
浴衣姿の美人で有名な
あの絵画“湖畔”を観たかった。
この絵は、照子夫人がモデルである。
明治三十年、芦ノ湖のほとりで
約1ヶ月かけて制作されたとあった。
夫人が二十三歳の頃の作品だとか。
子どもの頃、切手で親しんだ絵だ。
パステル調の美しい絵だが、実物は
意外と霞がかったような作品だった。
「昔語り」という作品がある。
この作品は辻で、舞妓と仲居
そしていなせな男と舞妓のカップルに
行きずりの草刈娘が、僧侶から
“小督(こごう)”という女性の
悲恋物語を聞いている図なのだが
この下絵が実に30点も展示されていた。
これが実に見事で綿密で驚いてしまった。
このモチーフに対する画家の思い入れを
感じずにはいられなかった。
この完成作品が焼失したのがとても残念。
湖畔以外で私が気に入った絵
・雲(6枚組)
きれいな雲の絵が六枚。哀愁感じる空だ。
こんな絵を家に飾っておきたいな。
・鎌倉にて(小壺にて、菜種、初更の田舎)
これも小品。どことなくペーソス溢れる絵。
・案山子
まるでミレーのような絵。何故か
不思議と惹きつけられる絵。
こういう絵に私は弱い。
・森の夕日
・其の日のはて
・少女
・野原の立木
・赤髪の少女
少女の後姿と森の木の光りが美しい
印象派的作品。
・田園の夏
・智・感・情
裸女三連作。これは圧巻。
画家自らの感興にゆだねた描写に
作家の揺らぎが…と解説。
確かに。そこが
観る側の心の琴線に触れてくる。
どこか懐かしくて、どこか
哀愁的な絵が私は好きである。
※小督(こごう)は、平安時代末期
類稀な美貌の箏の名手であった。
高倉天皇に愛されながら
平清盛の怒りに触れ出家させられた
悲しい女性の物語である。