平安夢柔話

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女人平家

2013-07-13 20:50:19 | 図書室3
 今回は、平家の栄枯盛衰を女性たちの視点から描いた小説を紹介します。

☆女人平家 上
 著者=吉屋信子 発行=角川書店・角川文庫

内容(「BOOK」データベースより)
 牡丹の花が今を盛りと咲き誇る平家六波羅邸―。平家の嫡男平清盛は、牡丹園のほとりで1人の娘に会い、見初めた。兵部権大輔平時信の娘時子である。清盛に後妻として嫁した時子は、先妻の子重盛をはじめ、異腹の子供たちも皆邸に引き取り、自分の子同様大切に育てた。男の子たちは平家軍団の根拠地で武士に、女の子たちは西八条の私邸で雅な姫たちに―。慈母観音のような時子ではあったが…。時子と6人の姫たちをめぐって物語は展開する。

☆女人平家 下
 著者=吉屋信子 発行=角川書店・角川文庫  

内容(「BOOK」データベースより)
 西八条の私邸で大切に育てられた6人の姫たちは、平家のために政略的な結婚を余儀なくされ、それぞれ権門に嫁していく。その頂点が徳子の入内であった。その陰には、大江広元への淡い恋を秘めながら、帝の目に止まるのを恐れて他家へ嫁がせられた異腹の娘佑子の悲劇があった。やがて徳子は男子を生み、安徳帝となり、清盛の栄華は極まったかに見えたが…。滅びへと向かう平家の歴史を、清盛の妻時子と6人の姫たちを通して描く。

*この本は、朝日新聞社からも発行されていましたが、現在ではいずれも絶版になっているようです。興味を持たれた方、図書館か古書店を当たってみて下さい。

 タイトル通り、平家の栄枯盛衰を清盛の妻時子と、娘たちの視点から描いた小説です。

 清盛の娘のうち、最も有名なのは高倉天皇に入内し、安徳天皇をもうけた徳子(建礼門院)だと思いますが、この小説で中心となっているのは、藤原隆房室となった佑子と、藤原信隆室となった典子です。2人とも史料にはほとんど記載されていないと思いますので、小説で描かれている事項の多くは作者のフィクションと思われます。でも、筋運びがとてもうまいなと思いましたので、少々ネタバレになりますが、この2人について書かせていただきますね。
 なおこの小説、私は20年前に読んだことがあり、今回は再読でした。それで、20年前と較べて違った感想を抱いた部分もあったので、そのあたりも書いてみます。

 佑子は、清盛の脇腹の娘で、わけあって生後間もなく尼寺に預けられ、9歳の時、それを哀れに思った時子に引き取られ、西八条の邸に連れてこられます。
 美貌で頭の良い佑子は周りを感心させ、姫たちの家庭教師だった世尊寺伊行の推薦で秀才の誉れの高い大江広元が、彼女の漢学の師として招かれます。
 やがて2人は密かに恋し合い、将来を誓い合うようになるのですが、佑子はある日、西八条に行幸した高倉天皇の目に止まってしまいます。高倉天皇に入内させるのは正妻時子の生んだ徳子という周りの思惑、藤原隆房の佑子への執心などが重なり、佑子は無理やり広元への思いを断ち切られ、隆房に嫁がされます。この部分は読んでいてとても辛かったです。

 佑子の婚約を聞いた広元も失意の底に突き落とされます。しかし彼は、親友が源頼朝の乳母の縁者であったことからそのいとこを妻に娶り、頼朝に将来を賭けようと決心、やがて源平合戦が勃発すると鎌倉を本拠とした頼朝に招かれ、京を去ります。つまり、平家から見ると敵方へ行ってしまったわけです。

 20年前に読んだときは、佑子の恋人を後に鎌倉幕府の政務官となる大江広元を持ってきた筋運びのうまさに感心し、ラストの2人の再会にも感動しました。
 今回ももちろん、そのあたりに感動はしたのですが、新しい道を選び取ることによって失恋の悲しみを克服した広元に較べ、佑子がかわいそうだと思いました。どうしても愛せない夫と連れ添い、広元への思いと悲しみを胸に秘め、流されるままに生きるしかなかったのですから…。
 それと、隆房が悪く書かれすぎ…。実際の彼は平家の公達からも信用があり、後に『平家公達草紙』を書くことになる教養人なのです。

 実はこの小説、40年以上前にドラマ化されていて、最近もBSで再放送されたそうです。我が家はBS契約をしていないので見ていませんが、ご覧になった方もいらっしゃると思います。
 それで、twitterでも話題になり、ドラマについてのツイートをまとめて下さった方もいらっしゃって、私も少し読ませていただきました。
 ツイートを拝見した限り、ドラマは原作に忠実に作られているようです。その中で、「ラストに広元との恋に心の整理がついた佑子がその後、隆房と仲良く暮らし、隆房は平家の人たちへの思い出を胸に『平家公達草紙』を書いたと思いたい」と書いていた方がいらっしゃいました。私も全く同感です。

 佑子についてはこのくらいにし、典子の方に話を移しますね。

 典子は時子の末娘で甘やかされて育てられるのですが、突如西八条に引き取られた佑子に感化され、彼女を慕うようになります。思ったことを率直に何でも言い、怖い者知らずのわがままな姫です。

 そんな典子の婿は普通の公達では無理だと周囲は判断し、選ばれたのは30歳以上年上の藤原信隆でした。2人は一子をもうけ、仲睦まじく暮らしていたのですが、結婚生活は短く、やがて信隆は世を去ります。でも、優しい継子の信清や殖子に「母上」と大事にされ、典子は安定した暮らしを送っていました。
 ところが、殖子は高倉天皇に見初められ、守貞親王と尊成親王をもうけます。高倉天皇の中宮は典子の姉、徳子なので、典子は複雑な立場に置かれることになります。
 更に木曾義仲の軍が京に近づくと平家は徳子の生んだ安徳天皇を奉じて都落ち、密かに比叡山に登って都落ちを逃れた後白河院は新しい帝を立てます。その新帝こそ、殖子の生んだ尊成親王(後鳥羽天皇)だったのでした。都落ちした安徳天皇の叔母でありながら、新帝の継祖母となってしまった典子の立場はいよいよ複雑なものとなり、彼女は色々悩むようになりますが、悩みながら大きく成長していきます。そして、平家の滅亡も冷静に受け止めるのです。末っ子でわがままだった典子が立派な女性に成長していく、このあたりも小説の大きな読みどころだと思います。

 以上、佑子と典子について述べてきましたが、小説にはその他、多様な人物が登場します。時子と清盛の新婚時代とか、佑子に献身的に仕える乳母、汐戸の一家の物語など、様々なドラマが描かれています。
 悲恋や平家の滅亡など、重い内容の話が多いのですが、時にはほっとさせられるほほえましいエピソードも挟まれています。何より小説のラストの典子の一言「平家は女人によって今でも滅びませぬ。」は明るい希望を与えてくれます。読み応えのある長編歴史小説だと思います。

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