平安夢柔話

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愛と野望 源氏物語絵巻を描いた女たち

2013-05-23 10:12:32 | 図書室3
 最近読んだ、院政期の宮廷社会と庶民たちの生活を生き生きと描いた小説を紹介いたします。

☆愛と野望 源氏物語絵巻を描いた女たち 上巻
 著者=長谷川美智子 発行=文芸社 価格=1575円

内容紹介
 時の最高権力者・白河法皇の財力のもとに、鳥羽天皇后璋子(たまこ)は「源氏物語絵巻」制作を下命する。絵巻制作プロジェクトに抜擢された若手の絵師あかねは、仲間たちと研鑽を積むが、彼女とその恋人には隠された出生の秘密があった。璋子の意図するものは何であったのか。複雑に絡み合う人間模様と絵師たちの心意気を描く歴史ファンタジー。

☆愛と野望 源氏物語絵巻を描いた女たち 下巻
 著者=長谷川美智子 発行=文芸社 価格=1575円

内容紹介
陰謀が渦巻く貴族社会は足元から崩壊しつつあった。迫り来る武士たちの雄叫びのなか、「絵巻」はいずこへ。七年の歳月と心血を注いでの完成は波瀾への旅立ちでもあったのだ。絵師たちが命を吹き込んだ作品は、その後、様々な人の手を経て現代に受け継がれてきた。千年の流転の果てに私たちの前に姿を現した「源氏物語絵巻」に捧げる歴史ファンタジー。


 この小説は、40歳くらいの絵師の男が、羅城門で立派な衣装にくるまれた女の赤児を拾うところから始まります。彼女は「あかね」と名づけられて、絵師の娘として育ち、長じて育ての父親と同じ絵師となります。

 ちょうどその頃、鳥羽天皇中宮璋子が顕仁親王を出産します。顕仁親王誕生を祝い、璋子とその養父であり恋人でもある白河法皇は、源氏物語絵巻を作ることを計画し、準備に取りかかります。
 あかねはかつて、璋子に絵の手ほどきをしたことがあり、璋子もあかねの源氏絵を気に入っていたので、彼女は源氏物語絵巻制作プロジェクトに抜擢されます。すでにあかねは父を失い、夫は仕事のため飛騨に行く途中に行方不明になっていたため、「私は千年のちまで残るような素晴らしい絵巻を作るという道を歩こう」と決心するのでしたが。…

 以上が、この小説の序盤のあらすじです。

 読んだ感想ですが、史実とフィクションが非常にうまく融合しているという印象を受けました。登場する歴史上の人物も藤原璋子や白河法皇、源有仁、藤原忠実など多彩ですし、個性的なオリキャラも多数登場します。

 紹介文にもありますが、あかねとその恋人には出生の秘密がありました。それが、この小説の大きなテーマになっています。あかねの真の両親は誰なのか、恋人との運命はどうなるのか、最後まではらはらさせられました。

 それともう一つの大きなテーマは、璋子と白河法皇の関係です。
 この時代を扱った多くの小説がそうですが、この小説も、顕仁親王は白河法皇の子ということになっていました。しかも宮廷のほとんどの人がその事実を知っていました。そしてそのことが、保元・平治の乱へとつながっていくのです。
 璋子は無邪気ともしたたかとも取れる性格の女性に描かれていて、昨年の大河ドラマ「平清盛」の璋子を彷彿とさせられました。

 あと面白いなあと思ったのは、璋子は源氏物語絵巻」を「女の物語」と考えているのに対し、皇位から遠ざけられてしまった輔仁親王の子である源有仁は、「女三宮と柏木の密通を絵巻にし、顕仁親王が正統な皇統ではないと告発する」と考えているところ、立場の違いなのでしょうね。

 そして最後に思ったことは、「この小説で描いているように璋子と関係を持ったり、あちらこちらで子を作っていたのが事実としたら、白河法皇ってやっぱり罪な御方」ということ、そして、絵巻の残りはいったいどこに行ってしまったのかということです。やっぱり源平合戦や応仁の乱、たびたびの火災で焼けてしまったのでしょうか。少し余韻の残る読後感でした。

 ただ難点は、最後の章が少し駆け足になってしまっていたこと、でも、次にどうなるかと気になり、上下2巻を二日で読み切りました。怪しげな陰陽師(この人が物語全体の大きな鍵を握っていたのですが)が出て来るなど、オカルト的、ファンタジー的なところもあり、文章も読みやすく個人的にはかなりお薦めです。

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