平安夢柔話

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恋衣 とはずがたり

2011-10-15 20:47:22 | 図書室3
 今回は、鎌倉時代の歴史小説を紹介します。

☆恋衣 とはずがたり
 著者=奥山景布子 発行=中央公論新社 価格=1680円

☆要旨
 十四の歳から寵愛を受け続けた後深草院、結ばれぬ初恋の人・実兼、禁忌を犯した高僧・有明の阿闍梨…男たちとの愛欲に溺れる華やかな宮廷生活から、晩年は尼となり自らの脚で諸国を遍歴した、美しく、気高く、そして奔放な一人の女がいた。己の出生を知らぬまま平凡に暮らしてきた露子はある日、亡き母・二条が遺した手記とめぐり合う―。鎌倉末期の、もつれ合う愛が現代に蘇る長篇小説。


 後深草院二条の著した手記「とはずがたり」を、西園寺実兼との間の娘、露子が読んでいくというスタイルで書かれた小説です。なので、露子の実生活と、「とはずがたり」の引用が交互に展開していきます。少しネタばれになりますが、内容を紹介してみましょう。

 二条と西園寺実兼の間に生まれた娘の消息については、その頃、実兼の正妻が生んだ娘が生後間もなく亡くなったので、すり替えてしまったと書いてある本もあります。
 また、新とはずがたり(杉本苑子著)では、実兼の家来の妹の嫁ぎ先に養女に出されたという設定になっています。こちらは小説なので作者の創作なのでしょうけれど、実際、実兼と二条の間の娘の消息については不明な点が多いのかもしれません。

 この「恋衣 とはずがたり」では、娘は「露子」と名付けられ、実兼の家司の家に養女に出されたことになっていました。
 露子はそのことを全く知らずに成長するのですが、15歳の時、実父が実兼であることを知らされます。でもその時は、母については何も教えてもらえませんでした。

 やがて露子は結婚し、男子を一人もうけます。しかし、夫はよその女との間に娘を作ってしまいます。裏切られた露子はひどく傷つくのですが、間もなく夫は病で世を去ります。それ以前に養父も亡くなり、息子は元服して家を出て行き、養母は出家、露子は静かな未亡人生活を送ることになるのですが、そんな時、実兼が二条の手記を露子のもとに持ってきたのでした。そして実兼は、「この中に勅撰集に入れるのにふさわしい歌はないか、探して欲しい」と露子に頼みます。

 実兼から初めて実母のことを知らされ、動揺する露子でしたが、手記を巻一から順番に読んでいきます。その衝撃的な内容に、さらに動揺する露子でした。自分が生まれたときのことを記した場面を読んだあとは、何日も続きが読めなくなったり、有明と二条の契りの場面を読んだときは、「おぞましい」と思ったりします。

 しかし、読み進めていくうちに、母の手記を冷静な目で見られるようになっていくところが文章から伝わってきます。
 母の手記を「源氏物語」に似ていると思ったり、文章は面白いが歌はあまり深みがないと感じたりします。その結果、露子は実兼に、「この中には勅撰集に入れるような歌はありません」と言うことになるのです。
 また、この手記は後深草院や亀山院といった高貴な人たちの秘事にも触れており、今、世の中に出すのはまずいと思うようになります。露子は実兼から借りた手記を写本するのですが、結局、自分の文箱に隠してしまいます。いつかこの本を世に出してもいい時代が来ることを願いながら…。なるほど、「とはずがたり」が昭和時代になるまで陽の目を見なかったのは、そんな事情があったのかもしれない…と思いました。

 そして最後に露子は、夫がよその女(この女は露子が手記を読んでいるときに急死します)との間に作った娘を養女にする決心をします。もちろん、そのように決心するまでの露子には心の葛藤がありましたが。それでも、この娘と露子が実の親子のようにうまく行きますようにと願いながら、私は本を閉じました。

 読んだ感想ですが、娘の立場からの「とはずがたり」の解釈がとても面白かったです。二条という女性の奔放さだけではなく、出家してからの様々な出来事によって成長していく姿もかいま見られました。

 そして、二条が最後まで慕っていたのは、彼女を幼いときから養育し、愛し、もてあそんだり裏切ったりした後深草院だったのかな?…と思ったりしました。文章もなめらかできれいで、とても読みやすいです。二条と露子の時空を超えた世界をぜひ味わってみて下さい。

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