今回は、江戸時代初期の天皇家を舞台にした小説を紹介します。
☆葵の帝 明正天皇
著者=小石房子 発行=作品社 価格=2100円
内容(「BOOK」データベースより)
天皇家の乗っ取りを企む家康の野望。幕府を利用しつつ徳川の血を断固拒む後水尾天皇。東福門院と後水尾という強烈な個性の宿命の確執を、政略に翻弄される娘の視点より鋭く描く。好評の書き下ろし女帝シリーズ第4弾。
タイトル通り、江戸時代初期に女帝として即位した、後水尾天皇と徳川秀忠の娘の東福門院和子との間に生まれた明正天皇(小説では女一宮で通されていたので、以降、小説の内容に触れる時は女一宮と記載します)を主人公にした歴史小説です。
まず最初に書いておきますが、この本、ネット上の評判はあまり良くありません。
確かに主人公である女一宮は、古代の持統女帝や孝謙・承徳女帝と比べると性格もおとなしく地味で、業績らしい業績もありません。物語のヒロインとしてはかなり役不足です。
また、この小説では、即位後の女一宮が養育係のお図や侍女たちと一緒に、御所の築地塀の破れ目から通行人を眺め、庶民の生活について学習するといった、絶対あり得ないようなエピソードも出てきます。そのような点で、好き嫌いが別れる本だと思います。
しかし…、なぜか私、この小説をかなり面白く読みました。
その理由は、ずっと以前から、明正天皇という女帝のことが気になっていたからだと思います。
上でも書きましたが彼女は、天皇家を思い通りにしようとする徳川家の娘、東福門院和子と、天皇家を徳川の思い通りには絶対にさせないと考えている後水尾天皇との間に生まれました。つまり仇同士の両親の間に生まれたのです。
東福門院については、何とか天皇家に溶け込もうと努力するものの、なかなかそうはいかないという微妙な立場について書かれた本を、何冊か読んだことがありました。政略結婚の悲劇とも言うべきでしょうか。
しかしそのたびに思うことは、何もわからない7歳の幼さで天皇にさせられてしまった明正天皇の立場や気持ちはどうだったのかしら?ということでした。そこでこの、「葵の帝 明正天皇」を手に取ってみたわけです。
確かに、両親のせめぎ合いの話が多く、その間で苦悩する女一宮は天皇というよりも、平凡な一人の皇女というイメージを受けました。しかし、女一宮の心の動きはかなり詳細に描かれていて、それほど退屈には思えませんでした。お忍びでの行幸など、ちょっとはらはらさせられる場面もあります。
それと、やはり脇役に個性的な人物が多かったです。
後水尾天皇や東福門院はもちろんですが、私の印象に強く残ったのは、女一宮の養育係のお図という女性です。
お図は、女一宮に日本の歴史や古典を教えると同時に、女一宮が立派な女帝になれるように心を配り、「人には誰でも宿命というものがある。おかみの宿命は、天皇家と徳川家の融和を図ることです。」と諭します。女一宮はお図の教育によって成長し、何度も心が救われることになるのです。
もし、この小説にお図が登場しなかったら、本当につまらない話になっていたと思いますので、私はこちらで紹介しなかったかもしれません。
それに、お図がいなかったら、女一宮が譲位後に心のよりどころとする一介の僧、江玉和尚との出会いもなかったわけですし。
そうそう、私は上で、女一宮がお図や侍女たちと一緒に御所の築地塀の破れから通行人を眺めるなんてあり得ないエピソードだと書きました。が、実はこのエピソードが、女一宮と江玉和尚を出逢わせる伏線となっているのです。なのでこのエピソードは、小説としては大変面白いです。
この「葵の帝 明正天皇」では、一生独身を強いられた女一宮は、お図と江玉和尚によって心が救われたと描かれています。地味な作品ですが、私にとっては心に残る1冊になりそうです。明正天皇の勅願寺である京都山科の十禅寺にも、いつか訪れてみたいと思いました。
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☆葵の帝 明正天皇
著者=小石房子 発行=作品社 価格=2100円
内容(「BOOK」データベースより)
天皇家の乗っ取りを企む家康の野望。幕府を利用しつつ徳川の血を断固拒む後水尾天皇。東福門院と後水尾という強烈な個性の宿命の確執を、政略に翻弄される娘の視点より鋭く描く。好評の書き下ろし女帝シリーズ第4弾。
タイトル通り、江戸時代初期に女帝として即位した、後水尾天皇と徳川秀忠の娘の東福門院和子との間に生まれた明正天皇(小説では女一宮で通されていたので、以降、小説の内容に触れる時は女一宮と記載します)を主人公にした歴史小説です。
まず最初に書いておきますが、この本、ネット上の評判はあまり良くありません。
確かに主人公である女一宮は、古代の持統女帝や孝謙・承徳女帝と比べると性格もおとなしく地味で、業績らしい業績もありません。物語のヒロインとしてはかなり役不足です。
また、この小説では、即位後の女一宮が養育係のお図や侍女たちと一緒に、御所の築地塀の破れ目から通行人を眺め、庶民の生活について学習するといった、絶対あり得ないようなエピソードも出てきます。そのような点で、好き嫌いが別れる本だと思います。
しかし…、なぜか私、この小説をかなり面白く読みました。
その理由は、ずっと以前から、明正天皇という女帝のことが気になっていたからだと思います。
上でも書きましたが彼女は、天皇家を思い通りにしようとする徳川家の娘、東福門院和子と、天皇家を徳川の思い通りには絶対にさせないと考えている後水尾天皇との間に生まれました。つまり仇同士の両親の間に生まれたのです。
東福門院については、何とか天皇家に溶け込もうと努力するものの、なかなかそうはいかないという微妙な立場について書かれた本を、何冊か読んだことがありました。政略結婚の悲劇とも言うべきでしょうか。
しかしそのたびに思うことは、何もわからない7歳の幼さで天皇にさせられてしまった明正天皇の立場や気持ちはどうだったのかしら?ということでした。そこでこの、「葵の帝 明正天皇」を手に取ってみたわけです。
確かに、両親のせめぎ合いの話が多く、その間で苦悩する女一宮は天皇というよりも、平凡な一人の皇女というイメージを受けました。しかし、女一宮の心の動きはかなり詳細に描かれていて、それほど退屈には思えませんでした。お忍びでの行幸など、ちょっとはらはらさせられる場面もあります。
それと、やはり脇役に個性的な人物が多かったです。
後水尾天皇や東福門院はもちろんですが、私の印象に強く残ったのは、女一宮の養育係のお図という女性です。
お図は、女一宮に日本の歴史や古典を教えると同時に、女一宮が立派な女帝になれるように心を配り、「人には誰でも宿命というものがある。おかみの宿命は、天皇家と徳川家の融和を図ることです。」と諭します。女一宮はお図の教育によって成長し、何度も心が救われることになるのです。
もし、この小説にお図が登場しなかったら、本当につまらない話になっていたと思いますので、私はこちらで紹介しなかったかもしれません。
それに、お図がいなかったら、女一宮が譲位後に心のよりどころとする一介の僧、江玉和尚との出会いもなかったわけですし。
そうそう、私は上で、女一宮がお図や侍女たちと一緒に御所の築地塀の破れから通行人を眺めるなんてあり得ないエピソードだと書きました。が、実はこのエピソードが、女一宮と江玉和尚を出逢わせる伏線となっているのです。なのでこのエピソードは、小説としては大変面白いです。
この「葵の帝 明正天皇」では、一生独身を強いられた女一宮は、お図と江玉和尚によって心が救われたと描かれています。地味な作品ですが、私にとっては心に残る1冊になりそうです。明正天皇の勅願寺である京都山科の十禅寺にも、いつか訪れてみたいと思いました。
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