土

今さら農作業でもないだろう、と思う。
でも大道芸をしているうちに、一度でいいからせめて田植えぐらいしたいと思うように
なった。
先日稲作に励んでいる人に、失礼を承知でそんな話をした。
この年齢になって農作業をしても、体がそれ様に作られていないから持つはずがない。
でも田んぼのぬかるみを経験したい、もしかしたら田植え前の水を張った田んぼを歩く
だけになるかもしれないが。

腰が痛くなっても伸ばさず田植えをし続けることだと、その人は言う。
ちょっと自信がなくなる。
水を張った田んぼを歩くと、ナンバになるという。
右手右足が揃ってしまう歩き方だ。
そうしないと、足が抜けないのだそうだ。
土の上で大道芸をするうちに自然と体が腰を落とすことを覚えたと話したら
あぜ道を歩くとき、その人は普通に歩けても、慣れない人は良く躓くと言った。

田んぼは深い粘土層があると稲はしっかりと根を張り、いもち病にもならないそうだ。
そして一日の寒暖の差が大きければ大きいほど、うまい米が取れると言う。
そこで目をつけたのが、中国の黄砂の元になる地域。
良質の粘土層があって、霜柱が大きく育つほど寒暖の差が大きいそうだ。
もう何年も前の話で今はどうか分からないが、その時托されていたらきっと良質な
田んぼを作れただろうと話していた。

稲は横に伸びていく茎もある。
遠回りしながらも最終的には上に伸びて、実をしっかりつけるという。
それを真っ直ぐ育てようとすると、実りは悪くなるそうだ。

なんだか子育てに相通じる話。
管理された環境の元でぬくぬく育ち、遠回りしようとする芽を矯正されては、
精神的にもろい人間になるだろう。

別の人の話。
「成長は痛みが伴う」
その人は中学３年間で身長が３０ｃｍ伸びた。
まず膝が痛くなったそうだ。次に腰が痛くなり、ついにはかかとが痛くなって
かかとが関節だと実感したそうだ。
それだけの体があればバスケットなど運動に良かったのではないかと言うと、
痛みで運動どころではなかったらしい。

今親も社会も画一的な子育てを望んでいるように思える。
でも自然は容赦しない。
今の世の中は、余りにも土から離れすぎたようだ。