江戸糸あやつり人形

江戸時代から伝わる日本独自の糸あやつり人形。その魅力を広めるためブログを通して活動などを報告します。

新宿の"彼"

2010-07-03 21:47:16 | 大道芸
今日は下町風俗資料館。
遣い始めて気付くと、道路に横たわる男の人。
行き倒れか。
近くの交番からお巡りさんが二人来ていろいろ聞いている。
やがてお巡りさんは離れていった。
どうやら大丈夫らしい。

ふと、新宿の"彼"を思い出した。

私たちが初めて大道芸に出たのは、新宿西口の地下通路。
まだホームレスの住居が一杯あるとき。
私たちが始めると近くに彼らの輪ができ、酒盛りが始まった。
お囃子の音などが郷愁を誘うのであろうか。
私の連れはその感覚がよくわかるので、私たちは構わないでいた。
ところが一般の見物の人は酒盛りを避けて立ち止まるので、
投げ銭にならない。
片付けていると、酒盛りの一人が近づいてきて、
「オウ、調子はどうだい」
「はあ、まあまあです」
「頑張れよ」
「有難うございます・・・・」

"彼"はその集団から離れていた。
私たちが初めて"彼"に会ったときは、始めると真正面に立った。
獅子が見得を切って決まると、"彼"は思わずズボンのポケットの両手を入れてまさぐり
やがてゆっくり後ずさりしていった。
次に会ったときは、匂いで彼が近づいてきたのがわかった。
その次に会ったときは、真正面から動かないので
「後ろの人が見えませんから」と言いかけると
"彼"は静かに前に落ちていたタイルのかけらを拾うと、私たちの横にべったりと坐った。
次に"彼"を目にしたときは、私たちはどこかに行こうとして急いでいるときだった。
暑い日だった。
彼はまるで何日も何も口にしていないかのようにべったりと柱にもたれるように座り込み、
指先で落ちていたタバコの吸殻をいじっていた。
そしてすぐにホームレス追い出し作戦が始まった。
それ以来"彼"には会っていない、

今日の人は"彼"とは似ても似つかない人だった。
3時半になるとむっくり起き上がり、通り過ぎる人に卑猥な言葉を怒鳴り始めたのだ。

新宿駅からホームレスを追い出すため、動く歩道と"オブジェ"が置かれた。
"オブジェ"は一度も塗り直されることなく錆びて、朽ち始めている。
コメント
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