
「これはどういうことなの?! ミイラなんか盗んで、何をするつもりなの?!」
いち早く自分を取り戻した麗夢が、語気鋭く円光に迫った。
「な、何故麗夢殿がその事を・・・」
明らかに狼狽する円光に、麗夢は畳みかけた。
「さあ、馬鹿な真似は止めて、ミイラを返して頂戴、円光さん」
「・・・それはできぬ」
「何故!」
円光はしばしうつむき、答えたものかどうか迷った。だが、結局は麗夢の瞳に睨まれて抵抗出来る円光ではない。円光は再び顔を上げると、麗夢がかつて見たことのない表情で語りだした。
「・・・拙僧、これまで麗夢殿に隠していたことがござる」
麗夢は、深刻な悩みと憂いを浮かべた円光の顔に仰天した。
「な、なに?」
ほんの二、三瞬の見つめあいが十数分のようにも感じられたころ、ようやく円光は二の句を継いだ。
「拙僧、・・・実は人間ではなかったのです」
「何ですって? 円光さん、何を言っているの?」
「拙僧は、拙僧は、ただの人形だったのです!」
円光の魂の叫びは、麗夢の戸惑いをいやましに増した。
「で、でも円光さん・・・」
「だから、拙僧にはミイラが必要なのです!ミイラを二〇体、それがあれば拙僧はこの偽りの器を真の肉に換えられる。ことが済めば必ずお返し申すゆえ、それまでしばし見逃して下され、麗夢殿!」
「そんなの駄目よ円光さん! 理由がどうあれ、見逃すわけにはいかないわ! それにこの先には榊警部が警備しているのよ!」
「榊殿が・・・」
円光は再びうつむいた。このまま踏みとどまってかつての旧交を再確認するか、一線を越えて敵として対峙するか。だが、その苦悩も自分に注がれる心配げな二〇の視線に気づいた途端、踏ん切りがついた。もともと、ことの最初から問題は自分だけですむことではなかったのだ。
円光はゆっくり頭を上げると、まっすぐ麗夢を見つめ返した。
「すまぬ麗夢殿。道を開けて下され」
「円光さん!」
「ごめん!」
円光は、麗夢を押しのけるようにして博物館に足を向けた。麗夢は、銃口を再び円光に向けた。
「待ちなさい!」
その瞬間である。
一人の山伏が円光と麗夢の間に割って入り、円光の身体に抱きついた。
「兄上様、危ない!」
「あにうえさまぁ?!」
麗夢は目を丸くして驚いた。円光はそんな麗夢に一瞥をくれると、その山伏の肩を両手で包み込み、そっと引き剥がして自分の後ろに追いやった。
「ここは大丈夫だ。拙僧に任せて、蓮花殿は自分のやるべき事を成されよ」
「でも・・・」
「いいから、早く!」
円光の強い物言いに山伏はびくっと震えると、麗夢をきっと鋭い憎悪の目で睨み付け、仲間の山伏と共に博物館の方に走った。
「あ、待って!」
呆気にとられていた麗夢が慌てて銃口を山伏達に向け直した時だった。
「ごめん!」
はっと気がついた瞬間、麗夢は自分の目が捉えた光景が信じられなかった。自分の腹に、円光の右拳が深々と突き立っているのが見えたのだ。山伏に気取られた瞬間、円光が電光石火の早業で麗夢に走り寄り、無防備になったその鳩尾を一撃したのである。
「・・・な、何で・・・?」
麗夢は信じられない面もちで、薄れゆく視界に円光の姿を追った。
「すまぬ、麗夢殿」
円光は、一瞬だけはっと驚いた顔をして見せた。円光自身も、自分のしでかしたことが信じられない様であった。だが、それもほんのわずかな間でしかなかった。円光は再び思い詰めた顔で麗夢を見つめると、崩れ落ちる麗夢の肉体をそっと地面に横たえた。
「アルファ、ベータ、麗夢殿を頼む!」
二頭もこの思いもかけない展開に為す術を知らないまま、走り去る円光を黙って見つめるしかなかった。
いち早く自分を取り戻した麗夢が、語気鋭く円光に迫った。
「な、何故麗夢殿がその事を・・・」
明らかに狼狽する円光に、麗夢は畳みかけた。
「さあ、馬鹿な真似は止めて、ミイラを返して頂戴、円光さん」
「・・・それはできぬ」
「何故!」
円光はしばしうつむき、答えたものかどうか迷った。だが、結局は麗夢の瞳に睨まれて抵抗出来る円光ではない。円光は再び顔を上げると、麗夢がかつて見たことのない表情で語りだした。
「・・・拙僧、これまで麗夢殿に隠していたことがござる」
麗夢は、深刻な悩みと憂いを浮かべた円光の顔に仰天した。
「な、なに?」
ほんの二、三瞬の見つめあいが十数分のようにも感じられたころ、ようやく円光は二の句を継いだ。
「拙僧、・・・実は人間ではなかったのです」
「何ですって? 円光さん、何を言っているの?」
「拙僧は、拙僧は、ただの人形だったのです!」
円光の魂の叫びは、麗夢の戸惑いをいやましに増した。
「で、でも円光さん・・・」
「だから、拙僧にはミイラが必要なのです!ミイラを二〇体、それがあれば拙僧はこの偽りの器を真の肉に換えられる。ことが済めば必ずお返し申すゆえ、それまでしばし見逃して下され、麗夢殿!」
「そんなの駄目よ円光さん! 理由がどうあれ、見逃すわけにはいかないわ! それにこの先には榊警部が警備しているのよ!」
「榊殿が・・・」
円光は再びうつむいた。このまま踏みとどまってかつての旧交を再確認するか、一線を越えて敵として対峙するか。だが、その苦悩も自分に注がれる心配げな二〇の視線に気づいた途端、踏ん切りがついた。もともと、ことの最初から問題は自分だけですむことではなかったのだ。
円光はゆっくり頭を上げると、まっすぐ麗夢を見つめ返した。
「すまぬ麗夢殿。道を開けて下され」
「円光さん!」
「ごめん!」
円光は、麗夢を押しのけるようにして博物館に足を向けた。麗夢は、銃口を再び円光に向けた。
「待ちなさい!」
その瞬間である。
一人の山伏が円光と麗夢の間に割って入り、円光の身体に抱きついた。
「兄上様、危ない!」
「あにうえさまぁ?!」
麗夢は目を丸くして驚いた。円光はそんな麗夢に一瞥をくれると、その山伏の肩を両手で包み込み、そっと引き剥がして自分の後ろに追いやった。
「ここは大丈夫だ。拙僧に任せて、蓮花殿は自分のやるべき事を成されよ」
「でも・・・」
「いいから、早く!」
円光の強い物言いに山伏はびくっと震えると、麗夢をきっと鋭い憎悪の目で睨み付け、仲間の山伏と共に博物館の方に走った。
「あ、待って!」
呆気にとられていた麗夢が慌てて銃口を山伏達に向け直した時だった。
「ごめん!」
はっと気がついた瞬間、麗夢は自分の目が捉えた光景が信じられなかった。自分の腹に、円光の右拳が深々と突き立っているのが見えたのだ。山伏に気取られた瞬間、円光が電光石火の早業で麗夢に走り寄り、無防備になったその鳩尾を一撃したのである。
「・・・な、何で・・・?」
麗夢は信じられない面もちで、薄れゆく視界に円光の姿を追った。
「すまぬ、麗夢殿」
円光は、一瞬だけはっと驚いた顔をして見せた。円光自身も、自分のしでかしたことが信じられない様であった。だが、それもほんのわずかな間でしかなかった。円光は再び思い詰めた顔で麗夢を見つめると、崩れ落ちる麗夢の肉体をそっと地面に横たえた。
「アルファ、ベータ、麗夢殿を頼む!」
二頭もこの思いもかけない展開に為す術を知らないまま、走り去る円光を黙って見つめるしかなかった。
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