かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

14.死神の陰謀 その1

2008-01-27 22:49:47 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 ガチャン! と受話器を放り投げた蘭は、してやったりと得意満面で受話器を奪い合った二人に振り返った。
「さあ、戦闘開始よ!」
 だが、案に相違してあれほど昂揚していた美奈とハンスが、今は緊張した面もちに不安の色を浮かべている。二人とも、ついさっきまでアルファ、ベータの件で怒り心頭に達していたのだが、その怒りを吐き出した途端、冷静になった頭へかえって不安が募ってきたのである。
「大丈夫デショウカ?」
 ハンスがたまらず蘭に言った。蘭は、憤然として二人に言った。
「今更何言ってるの! もう挑戦しちゃったのよ。覚悟を決めなさい!」
 すると、美奈がまだ眠ったままのアルファをぎゅっと抱きしめた。
「こ、このまま逃げたら・・・」
「駄目よ! どこへ逃げたって、眠ったらその時点で掴まっちゃうわ。今度掴まったらもう猶予はないわよ」
 蘭の一言に、二人は一段と肩を落として来るべき災厄に目を逸らそうとした。蘭はやれやれと腕を組むと、二人に言った。
「いいこと? 今あの高原の野望を阻止できるのは私達だけなのよ? 夢を無くしちゃうなんて、そんなこと許せるわけないでしょう?」
 三人はすっかり高原と麗夢達の話を聞いていた。蘭が、実験室前で高原に偽物のセキュリティーキーを渡したとき、隙を見て盗聴器を白衣のポケットに放り込んだのである。その微弱な電波に乗ったノイズの多い会話を、三人は寄り添うようにして聞いていたのだった。
「とにかく頑張るしかない。私達が頑張って高原を少しでも弱らせれば、麗夢ちゃん達が何とかしてくれるわ」
 やるしかない! 蘭の決意に二人も退路が無いことを改めて意識した。弱気が影を潜めて、悲壮な決意が表に上がってくる。
 その時、人気のないナノモレキュラーサイエンティフィックの空気が、突然一変したことに3人は気がついた。ちりちりと首筋が焦げるような感じがして、思わず3人は身震いした。しかし、周りを見回してみても辺りの風景は何も変わっていない。閑散としたホールに人気は絶えて無く、3人の人いきれさえ聞こえてきそうなくらい静寂に包まれている。だが、3人の研ぎ澄まされたドリームガーディアン遺伝子がこの気配を感じ取った。励起したDNAがその波動を敏感に捉え、眠っていた力を呼び覚ます。三人もその感覚にようやく気づいた。これは、夢の中と同じ感覚だ。
「きっと高原の仕業ね」
「ドウシマス?」
「どうするも何もないわ。夢の中で闘うというならそこでやるまでよ」
 こともなげに蘭は言ったが、正直夢の中でのトレーニングでは、三人がかりで高原相手に一本どころか有効一つ取った試しがない。ハンスは、やれやれと天を仰ぐと胸に抱いたベータをせめて少しでも危なくないよう、エントランスホールの壁際にそそり立つ、柱の影においた。美奈も習ってアルファをその隣に寝かしつける。
 こうして再び三人が寄り添ったその時、奥に三つ並んだエレベーターの右端の一台の頭上に突然灯が灯り、ちーん、と到着音の澄んだ音色が鳴り響いた。三人の緊張が再び高まる中、そのエレベーターのドアが開いた、その瞬間。
 美奈は、気がつくと天井が高速で流れていくのを見つめていた。音もなくただ肌に靡く風が妙に冷たい。と、唐突に背中が折れ砕ける勢いで打ち付けられ、肺の空気を一瞬にして失った。ほとんど同時に後頭部へ倍する衝撃が走り抜け、文字通り目が真っ赤に発火する。美奈は、濡れ雑巾を思い切り振り回して床に叩き付けたみたいに、なんの抵抗も出来ないままのびた。
「起きろ! 馬鹿者共!」
 高原の怒号が、美奈の耳に遠いところから耳鳴りのように響いた。起きようとして、全身が張り裂けるような痛みに思わずうめき声をもらす。それでもやっとの事で上体を起こしてみると、一〇メートルは離れたところに蘭、そしてハンスの身体が転がっており、美奈と同じく全身強烈な電撃を浴びたように感覚がしびれたまま、なんとか起きあがろうともがいていた。続けて美奈は、さっきまで三人が固まっていたその場所を見てさっと青ざめた。一瞬、またあの時の夢を見ているのかと思ったのだ。あの、高原が片時も忘れないと言う夢。憤怒の形相で古びた西洋甲冑に身を包んだ高原の姿だ。だが、今高原は轟然と床に立ち、手にした大剣を振り回している。
「起きろと言っているのが判らんのかぁっ!」
 怒りの叫び声が、強烈な物理的圧力を伴って三人を翻弄した。正面からまともに受けたハンスは、ようやく上体を起こしたと思う間もなくまた仰向けに倒された。美奈、蘭も目をつむり、必死に圧力に耐える。それが薄れたところで、三人はようやくの思いでよろよろと立ち上がった。
「ほう? よく立ち上がったな。さっきの一撃は手加減無しだったんだが、そこまで成長してくれていたとは、私もうれしいよ」
 高原は、大きく剣を回して、とんと肩に載せた。その顔は一時の憤怒を収めて、笑みさえ浮かべている。だがけして心は笑っていない。大噴火が一段落し、次の破局のためのインターバルタイムに入っているにすぎないことは、三人にもはっきりと理解できた。

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