かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

15.奇跡 その4

2008-02-27 19:29:25 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 高原の先導で、榊を除いた三人が地下通路を駆け抜けた。辛うじて機能を残していたエレベーターに飛び乗り、遂に美奈達がいるフロアへと辿り着く。真っ先にアルファとベータの変身した巨体が目に入り、その元気な姿に、思わず麗夢の目頭が熱く潤んだ。だが、その向うに見えるおどろおどろしい夢魔の大群と、中央にそそり立つ漆黒の姿は、麗夢達の心を一気に沸騰させた。
「死夢羅!」
 円光が真っ先に錫杖を鳴らして突っかかり、麗夢も愛用の拳銃を抜いて走り寄ろうとした。が、二人は、右目の端から飛び込んできた光に、思わず足を止めて振り返った。
「あ、あれは?」
 視神経を灼き切らぬばかりに輝いているというのに、ちっともまぶしさを感じない。やがて膨大な柔らかい光がフロア全体まで満ちあふれ、夢魔の一群は気圧されるように後退した。
 はじめ、光から湧き出た姿は、三人三様のいでたちであった。先頭に立つ少女は、紺の袴に白い白筒袖の着物をまとい、その上から、黒のハート型を横にして引き延ばしたような胸当てを当て、手には背丈の一・五倍はありそうな弓を携えていた。その後ろに並ぶ若い男女は、女性が全身を覆うグレーのレオタード姿、青年が豊かな金髪に黒のシルクハットを載せ、死夢羅を彷彿とさせる黒マントとタキシード姿であった。が、見る間にその姿が再び光に包まれた。まず華麗な装飾を施された弓を持って、一人の少女が光から再登場した。その衣装は、まるで光その物をそのまま生地にしたような白を主体に要所要所を紺で締め、透明なミニのフレアスカートを靡かせてている。手にするのは銀に輝く天使の弓である。もう一人はサファイアのような宝石をあしらった豪奢なコバルトブルーをベースにした華麗な装いに、長い棒を持って現れた。おのおのに特徴ある姿はしているが、デザインの基本コンセプトは同じベースであると言えた。肌も露わなビキニスタイルに肩や膝を覆う硬質のプロテクター。妖艶にして力強く気高き戦士の姿。それは、普段麗夢が纏う夢の戦士その物であった。
「あら、結構いいじゃない。動きやすそうだし」
「あ、あたし、ちょっと恥ずかしいです・・・」
「大丈夫よ、可愛らしい上に強そうじゃない」
「そうでしょうか?」
 水着よりも露わになった肌に、美奈は思わず頬を真っ赤に染めてうつむいた。蘭はそんな美奈を励ましながら、二メートル近い槍を軽く振った。
「私の武器は、これね」
 蘭は一旦槍を両手でしっかり握ると、はっと気合いも鋭く槍を振り回した。まるで生き物のようにしなって、穂先が縦横に宙を割く。一通り振り回した蘭は、両手を上げ、くるりと頭上で槍を一回転させて、腰だめにびしっと構え直した。空を切った切っ先が前に突き出されてぴたりと止まる。その凛々しいポーズに、思わず美奈の溜息が漏れた。
「蘭さん、かっこいい・・・」
「そう? 何故か自然に出来ちゃったんだけど、って、今美奈ちゃんなんて言った?」
「だから、かっこいいって・・・」
「じゃなくて、今、私の名前呼んだでしょ?」
 美奈は、あ、と軽く驚いて手を口にやった。
 蘭はうれしそうに頷くと、にっこり笑って美奈に言った。
「それでいいのよ。私達、仲間だもんね。いつまでも他人行儀じゃ一緒に戦えないわ」
「私ノ武器ハ、コレノヨウデス」
 しゅっと風切り音を奏でて、ハンスが手にした得物を軽く振り、まっすぐ自分の顔の前に立てた。フェンシングの剣のような細身の刀身に、コウモリの羽を模した装飾が施されている。
「格好はそのままなのね」
「でざいんハ御先祖様ト同ジデス」
 ハンスは照れくさそうにはにかんだ。
「みんな! 無事だったのね!」
 麗夢は喜びを爆発させて、美奈達の元に駆け寄った。
「麗夢さん! 来てくれたのね!」
 蘭と美奈の目が大きく見開かれ、その顔が喜びにはじけた。
「それにしても、その格好どうしたの?」
 驚く麗夢に、蘭が胸を張って答えた。
「今日から私も、ドリームガーディアンの一員よ」
「美奈ちゃんも?」
「は、はい。高原さんの薬を吸ったら、急に力が湧いてきて・・・」
「自分ノ一番強イト思ウ姿ヲ思イ浮カベタラ、コウナッタンデス」
 ハンスもまだ照れくさそうだ。麗夢もくすっと笑って言った。
「みんな、よく似合っているわよ」
「麗夢さんも早く変身して! みんなであの死神をやっつけよう!」
 蘭の言葉に、美奈とハンスも期待の目で麗夢を見た。高原の言葉が正しいのなら出来るはずだ。麗夢は意を決して頷いた。途端に体の中で、力の源が音を立ててあふれ出てくるのを麗夢は感じた。今までずっと忘れていた、夢の世界に自分がぴたりとフィットする感覚が戻ってきたのだ。麗夢は自然に両手を前に突き出した。手の平に物体の感触を覚え、そのまま軽く握って上下に重ねる。一段とリアルになったその感触を更にぎゅっと握りしめ、麗夢は両手をまっすぐ天に向かって突き上げた。


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