かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

堂々完結! 最後は簡単に解説など書いてみます。

2008-03-12 21:25:48 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 今日は窓から外を見たら朦朦とけぶるように景色がかすんでいますし、多分大半は黄砂なのでしょうけれど、あれが花粉だと想像するだけで鼻がムズムズするような一日でした。そのせいか朝から目が痒くて、通勤するのも一苦労です。しっかりマスクをしていたおかげか、くしゃみとか鼻水とかからは免れておりましたが、バイザーに眼鏡とそれなりにプロテクトしているつもりでも、やっぱりフィルターがない目には少々厳しいものがあるようです。

 さて、名実ともに「ドリームジェノミクス」完結いたしました。最後はほのぼのとした幕間劇的な〆めになりましたが、私は悲劇とかシリアス調子に最後を終えるのはあんまり好きではないので、大抵何らかの形で明るく終わるような描き方をしてしまいます。それが私自身の特徴でもありますし、多分弱点の一つにもなるのでしょう。とはいえ、今更変えようもない性格的な問題ですし、まったり同人小説やる分にはなんら支障にもならないでしょうから、これ以上どうこうするつもりも全然なかったりします。
 さて、本作品は、私のもう一つの弱点である「理屈っぽさ」をある意味突き詰めようとしたようなところのあるお話で、そもそも「夢」というあやふやなものに「遺伝子」という確固たるものを当てはめようとしたところがいかにもな感じだと自分では思っていたりするのですが、本当に描きたかったのは敵役高原博士の生き様だったりするのでした。もともと高原博士というのは、私の初期短編の一つで設定し、その姿が短編一つで使い切るのはあまりにもったいないと思ったのがきっかけで、装いも新たに登場させた人物でした。私は基本的に、実力あふれる完全主義者の自信家が大好きで、その自信家がちょっとしたことでつまづいて、失地を回復しようともがきつつも周囲の状況がどんどん悪化していき、ついに自滅への坂を転げ落ちるという物語に、言い知れぬ快感を覚えるのです。自分でもどうにも救いがたい嗜好だな、と思わないでもないのですが、山崎豊子の「白い巨塔」とか、貴志祐介の「青い炎」などには背筋に震えを覚えるほどの感動を覚えたりします。多分私が元祖死神博士ことショッカー幹部に惹かれるのも、同じような理屈なのではないかと思います。高原博士もそういう倣岸不遜な実力者が成功の一歩手前でたくらみを阻止される話、として構築することを目指したのですが、個人的にはまず満足のいく人物になってくれた、と思っています。でも、テーマとしては好きな人物像ですので、いずれまた何らかの形でこういった敵役を描いてみたいと思います。

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17.後日譚

2008-03-12 19:02:42 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
  数日後の午後三時。
  鬼童超心理物理学研究所にて---。
 
 「えーっ! もう変身できないの?」
 蘭の素っ頓狂な叫びが、鬼童の鼓膜を乱打して研究室全体にこだました。声こそ出さなかったが、同席する麗夢、アルファ、ベータに美奈とハンス、それに円光も、一様に驚きを禁じ得ない顔で鬼童を見た。鬼童は、まあまあ落ち着いて、とイスを蹴り飛ばして立ち上がった蘭をなだめた。
「高原先生の残されたデータと今の君達のDNAデータを総合すると、君達が再び麗夢さんと同等レベルの力を発揮する可能性は極めて少ないんだ」
「でも、もう一度あの薬を吸ったらどうなの?」
 蘭が諦めきれずに鬼童を問いつめた。すると鬼童は、難しい顔で答えた。
「君達が吸った薬品の残りを分析してみたんだが、あれは君達のDGgeneを活性化させる受容体に直接的な影響を与える薬品のようでね、今後も使用するのはお勧めできないな」
「それ、どういう意味?」
「まあ単純に言うと、あれは一種の麻薬なんだ。モルヒネがオピオイドレセプターに結合して強烈な快感を生み出すのと同じ様な形で、君達のドリームガーディアン遺伝子のレセプターと結合し、脳を活性化させるんだ。その副作用で麻薬と同じようにニューロン細胞その物、つまり脳全体に悪影響を及ぼす危険性が高い。廃人になりたくなければ、使うのはやめた方がいいと思う」
「そんな・・・」
 絶句する蘭を避けて、美奈が鬼童におずおずと問いかけた。
「今までの力も駄目なんですか?」
 美奈のもともと持っていた能力、それも駄目となると、これからは麗夢やアルファ、ベータと夢の中でお話しすることもできなくなってしまう。美奈の心配はそれであった。すると鬼童は、今度は明るく断言した。
「いや、ほぼ間違いなくそれは安心していいと思う。今の君達の遺伝子発現は、高原先生が最初に取ったデータと比べ、ほぼ同じ値を示している。このことから考えても、まず大丈夫だろう」
「よかった。あの力が無くなったりしてたら、商売上がったりだったわ」
 蘭がどさりと腰を下ろした。その様子に、榊警部がいなくて良かった、と麗夢と美奈は苦笑した。
「それにしても、高原博士は本当に夢を無くす積もりだったのかしら?」
 麗夢は最後の高原の様子に、そんな疑問が拭いきれなかった。確かに高原は、夢魔の究極的退治方法として夢そのものを消滅させようと考え、ほぼその筋書きにのって全てを企てた。死夢羅の邪魔で水泡に帰したとはいえ、それがなければ、今頃世界には次々と夢を見なくなった人が量産されているはずだったのだ。だが一方で、高原は美奈、蘭、ハンスの三人に「英才教育」を施し、ドリームガーディアン能力を一時的ながら開花させた。おかげで死夢羅の企みも最終的に粉砕することが出来たのである。一方で夢の破壊を試みながら、一方で夢を守る力を育てる。この矛盾した高原の行動に、麗夢は釈然としない思いが拭えなかった。
「今となっては先生の意図は分かりませんね。三人への待遇も、実験材料として確保しておきたかっただけなのかも知れませんし」
「いえ、きっと高原さんは、心のどこかでこの力の未来に希望を捨ててなかったんだと思います」
 鬼童の言葉を、美奈はきっぱりと否定した。
「あんなに幸せそうに手を取り合っていたんですもの・・・」
 手を組んで宙を見つめる美奈に、麗夢、蘭、ハンスも頷いた。最後の最後で見せたあの表情こそ、本来の高原なのかも知れない。鬼童はその顔を見てなかったが、今は亡き先達のそんな最後に、何故か何の理由もないまま納得した気分を味わっていた。
「それにしても、今回遺伝子には随分振り回されちゃったけど、夢の問題がここまで解明されたんだとしたら、鬼童さんの研究はこれで終わっちゃうの?」
 すると鬼童は、とんでもないとかぶりを振った。
「寧ろこれからですよ、麗夢さん。ようやく心と脳、そして遺伝子を一つのフィールドで論じることが出来るようになってきたんです。百年前にはどう足掻いても叶わなかったフロイトの夢が、もう少しで実現するところまでこぎ着けたんですよ。僕の仕事も、いわばこれからが本番ですよ」
 鬼童は手元のリモコンスイッチを押して、先ほど撮影した三人の夢見中の状況と、その最中に脳で起こっている血流変化を向かいの大型モニターに映し出した。他にも膨大なデータが、今、鬼童の解析を待ってコンピューター上にスタンバイしている。
「これを調べるだけでも、年単位の時間が必要でしょうね・・・」
 鬼童は巻き戻しボタンを押して映像の流れを逆方向に加速した。画面には様々なノイズが盛大に現れ、記録をした鬼童でさえ何が映っているのか良く判らない。が、一人だけこのモザイク模様の中に、尋常ならざる光景を見分けた人間が一人居た。
「ちょっと待て! 今の映像は?」
 それまで黙ってお茶を飲んでいた円光が、お茶を吹き出しながら鬼童に映像を止めるよう要求した。鬼童がそれに従って止めると、それは、大分前に麗夢が鬼童の夢を借り、美奈達の捜索に訪れたときの映像だった。
「コレガ、ドウカシタンデスカ?」
 麗夢と鬼童が別々のリクライニングシートに納まって、昏々と眠り続ける絵を前に、ハンスが問いかけた。
「もっと先だ、鬼童殿!」
 円光が珍しく興奮も露わにせき立てた。鬼童は、何を見たんだ? と当惑げに軽く早送りしていたが、やがて円光が何を目撃したのか、その場の全員が承知することになった。
「さあ、この破廉恥な映像について、しかと説明いただこうか、鬼童殿!」
 円光がまっすぐ指さした先で、寝ている鬼童に覆い被さっている麗夢の姿が映っていた。映像は更に進んで、麗夢が抱きつくところまで流れている。
「な、何この映像、麗夢ちゃん何してるの?」
 蘭が意地悪そうに目を細めながら、隣の麗夢をこづいた。
「まさか、き、キスしているんじゃ・・・」
 美奈が思わず口走ると、鬼童と麗夢が慌てて首を横に振った。
「ち、違うわよ美奈ちゃん! これは、その鬼童さんが死夢羅に殺されたと思って!」
「そ、そうです! 本当にそうだったらうれしいんですけどね」
「鬼童さんそんなこと言ったらみんな誤解するじゃない!」
「じゃあ何してたのよ」
「だから違うんだって! 鬼童さんどうして映像消しとかないのよ!」
「だってもったいないじゃないですか・・・」
 やれやれ、とアルファとベータは器用に腕組みをしながら後足を前に投げ出した。その瞳に、蘭に混ぜ返されて顔を真っ赤にした麗夢と、同じく頬を赤く染めてうつむきながらも、上目遣いに映像へちらちらと視線を向ける美奈、それにじっと画面に吸い付けられているハンスの姿が映っている。鬼童と円光はと言えば、麗夢を挟んで執拗に弁明と問責を繰り返している。これがついこの間、死ぬか生きるかの瀬戸際を綱渡りした人達とは思えない。これをあの高原が見たら何と言うだろうか。情けないと頭を抱えるか、ほほえましいと苦笑いするか・・・。
「もう! アルファとベータも誤解だって言ってやってよ!」
 麗夢の一言に、二匹は互いに目配せして苦笑すると、その騒動に参加するべく腰を上げた。のどかな午後のひと時であった。



                       終
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