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辺野古沖基地建設に係る埋立承認取消の代執行に関する裁判の争点について~3

2015年11月17日 12時49分29秒 | 法関係
補論 

代執行についての裁判には、直接影響しないが、今後に主張できる点を書いておく。

1)国が埋立の事業者の場合にも、法令上で区別せず同等基準とすべき

国は、沖縄防衛局が一民間事業者と同等の立場であるとの見解を認めている(防衛省、農林水産省、国土交通省の文書記載の見解により明らか)。そうであるなら、国の行う埋立事業についても、一般事業者と同じ基準や法令適用とすべきである。区分する合理的理由を欠く。公有水面埋立法を改正して、殆どを統一的にすべきである。例えば、免許と承認で分ける必要がない。

また、私人たる事業者と同等の立場に過ぎないと国が自ら主張している(那覇地裁における埋立承認取消訴訟の裁判においても同様)のであるから、環境影響評価についても、50haを超える埋立の場合には国土交通大臣の認可と、それに前置される環境大臣に意見を求めることも同じく行うべきである。これを手続上で行わないことの理由がない。実施しないことによる何らの利益も照明できない。

沖縄県の取消事由に挙げられていたのは、環境保全措置が不十分であることであったのだから、これについて専門的な吟味をするべき義務を国は負うはずである。何故なら、審査しないと裁決できないから、である。

環境影響評価法でいう第一種事業に該当し、また50haを大幅に超える埋立(本件では約160ha)を行う予定であるから、環境影響の程度が著しいものとなるおそれが十分にあり、絶滅危惧種であるジュゴンやトカゲハゼなど絶滅危惧種の保護、サンゴ礁その他海洋生物の保護や生物多様性保護の観点からも、詳細に検討されて当然である。

生物多様性基本法3条3項によれば『一度損なわれた生物の多様性を再生することが困難であること』、海洋基本法2条より『海洋の生物の多様性が確保されることその他の良好な海洋環境が保全されることが人類の存続の基盤であり、かつ、豊かで潤いのある国民生活に不可欠であること』から、ひとたび大規模埋立工事がなされてしまうと、事実上は原状回復が甚だ困難であり、失われた生物環境は戻せない。そして、長期に渡る争訴となっている諫早湾干拓事業を見れば、事後の解決・調整・損害の補償といったことが極めて困難であることも明らかとなったわけである。

よって、国には環境省の調査と環境大臣意見を照会するなどすべきであるし、審査請求のあった事案についての裁決を出すという点においても、これら注意義務を果たすべきであり、一民間事業者の立場であるなら本件埋立を除外するべき合理的理由はない。

那覇空港拡張事業(第2滑走路増設)の際、平成21年2月沖縄県に対し環境省意見が送付さえれたが、この事業においては「公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイドライン」に基づいて事業の推進が実施された。本件埋立より以前から、こうしたガイドラインの適用があったのであるから、本件でもこれに沿った事業実施が当然なのであって、意図的に国がこうした手続を回避したことは明らか(国が知らなったはずがない)であり、不当の謗りを免れない。私人同様と主張するなら、過失ともいうべき手続上の誤りがある。


2)国の不作為が明確化された

これまでの論点で何度も記述してきたが、防衛省、農林水産省、国土交通省の見解からすると、確実に言えることがある。
それは、執行停止をすべきことの正当性、である。

3省全てにおいて、執行停止するべきほどに緊急性や重大性がある、としているのは明らか。「重大な損害」の該当事由となっている、ということである。処分内容と性質からすると、単なる海上・海底作業をさせないようにするものであるので、処分自体には他事業と比べて特殊性はなく、これが執行停止理由の主要な根拠とはなりえない。
では、執行停止を満たすだけの理由とは何か?

回復が困難なほどの損害、ということである。これは、一つに日米政府間の外交・防衛上の損害、もう一つは普天間基地の存在による損害、とされている。

まず、日米政府間の外交・防衛上の損害については、国がその具体的な損害の性質や程度を明らかにしていないので、今後に立証されるだろう。沖縄県が裁判で国と争う場合には、必ずや具体的にどういうものが「重大な損害」に該当しているか、という点を国側に立証させるべきである。

これについて筆者なりの見解を述べるものとする。
基地建設の日米政府間の合意があって、これを遵守しない場合には、日本政府が米国政府の信頼を失い外交上の打撃を受ける、ということであろうか。

もしもこれが真実であるなら、今頃両国間は断絶していてもおかしくないのではないか。日米政府間合意の存在をもって、これが未達成だと二度と回復が困難な程に「重大な損害」を形成しているとは見えない。具体例を挙げよう。
普天間基地の返還については、96年12月のSACO勧告(最終報告)がSCCに承認されたものである。SACOによれば、『今後5乃至7年以内に十分な代替施設が完成し運用可能になった後、普天間飛行場を返還する』とされた。
SCCにおいては、『海上施設は、軍事施設として使用する間は固定施設として機能し得る一方、その必要性が失われたときには撤去可能なものである』との合意があった。

これらは、全て現実には起こっていないし、期日も工事方法も全くの別物である。政府間合意の重大性とは、この程度のものでしかない、ということの証左であるとも言える。
また、日米地位協定18条に基づく損害賠償金の米国政府に支払義務がある金額は推定120億円とされるが、債務不履行のままであることは確実である。同様に、日米政府間でのFMS調達では2012年度末時点で2282億7366万円が未精算となっており、これら法的義務を負うべき合意ですら履行されなくとも、日米政府間の外交は回復困難な程の損害を受けている様子は見られない。外交上の回復困難な重大な損害について、国はその存在を立証すべきである。

たとえ日本政府が米国政府との合意を約したとしても、日本国民には直ちにその履行の法的義務を負うものではない。あくまで国会が議決し立法措置のあったものだけである。或いは、国内法上で政府の裁量権の範囲内で行えるものである。日本国民は米軍に対し、本件基地を提供すべき法的義務を有していない。一般的に、日本国政府が外国政府との間で何らかの合意形成がなされたとしても、その効力はあくまで国内法上の法的根拠を有するものだけであり、例えば違法な合意である場合にはその履行はなされることがないのは明白である。合意事項の履行が実現できないことによって、たとえ政府間の信頼関係に何らかの影響を与えたとしても、それは国際政治の上では珍しいことではなく、これを回復不可能な「重大な損害」とするなら、いかなる合意事項であっても履行義務を負うことになってしまいかねず、それは立法府の権能を超越している。

(*つい数日前の13日、ジョエル・エレンライク駐沖縄米総領事は、共同通信社のインタビューに対し、普天間飛行場の辺野古移設問題について、『「非常に重要で深刻な問題だが、基地負担を軽減し、日米同盟を強化する在日米軍再編計画の中では小さな問題(one small part)にすぎない」との見解を示した』とされる。日米関係に甚大な影響を与えるようなことではない、という理解も可能であるということである。「重大な損害」事由とはなり得ない、ということの証明である)


それでは、防衛上の損害とは何か?

埋立工事が停止されることにより、日本の防衛に一体全体どのような二度と回復が困難な程度に重大な損害が発生したというのであろうか?これも国が立証できることだろう。もしもそれが本当ならば、過去20年余り埋立工事が停止状態であったので、工事の非常なる遅れから重大な損害が考えられない程に蓄積していることだろう。その存在について立証されたし。
これまでの行政訴訟においては、「重大な損害」というものが単に抽象的な損失が観念されるというだけでは足りず、より具体的かつ定量的な損害が現実にあることを証明できなければならなかったはずだろう。国(防衛省、農林水産省、国土交通省)の言う、「日米政府間の信頼関係」といった曖昧な説明しかできない外交上若しくは防衛上の損害など、「重大な損害」の要件を満たすものではないのである。


さて、残るは理由とは何か?普天間飛行場の存在そのもの、これによる周辺住民の被害、ということだ。埋立工事が遂行できなくなると、普天間飛行場が残り続けることになり、それが二度と回復困難な程に「重大な損害」を与え、しかもその損害は緊急性を満たすということである。3省が揃って、この損害の重大性かつ緊急性を満たす、と主張したのであるから、これを今更嘘でしたとは言うことはできない。
執行停止せず裁決を待っていたのでは、その間に受ける損害があまりにも甚大であり回復不可能なので、執行を停止するのだから。裁決を待って不利益処分が取り消される(本件の場合には停止していた埋立工事再開)と救済されるような損害では、「重大な損害」には該当しないのである。

すると、普天間飛行場は二度と回復困難な程の「重大な損害」があって、しかもそれは緊急性を要するもの、という条件を満たしているということだ。

加えて、代執行手続開始には、代替手段がないことの他、著しく公益を害することが明らかな場合という2つの要件を同時に満たす必要があるのだ。著しく「公益を害する」のだから、これも普天間飛行場のことが含まれるのは明らか。


これらにより、本当に大切なことが明らかにされたのである。
普天間飛行場は、直ちに運用を停止させるだけの「重大な損害」を与えており、しかも緊急性を有するということを、国自身が認めたのだ、ということだ!禁反言の法理により、国自身が「重大な損害」の存在を否定する主張や立論は今後一切できなくなった、ということだ。


しかもその損害程度は、二度と回復が困難な程の、行政事件訴訟法上で言うところの「重大な損害」要件を満たすものだ、ということ。今後、行政裁判を起こすと、国がこれら重大な損害を放置して何らの措置もとらないことは違法とすることができ、国にはこれを否定できる論拠を自ら失ったのだ。国の不作為を裁判で改めさせることが確定的となるだろう。

もしも米軍が普天間飛行場を返還しない、運用停止は同意できない、と言ったらどうするか?

日本政府は米軍に命令したりはできないが、政府間で「重大な損害を与えているので、改善するか運用停止して」と言うことはできる。しかも、それは日本の裁判所の管轄権であって、裁判所命令が運用停止命令だと、それに米軍が従わなくてもよいとする理由は、恐らく存在しない。
連邦最高裁は米国人に具体的被害が及ぶものは管轄権が米国にある、としており、日本でもその法理は類推適用できる。実際に「重大な損害」の立論を日本政府自らが行ったのだから、政府にはこれを否定する論拠はなく、裁判でも主張することは不可能。基地周辺の日本国民に具体的に回避すべき「被害」があるのであって、それは回復困難な程に重大性と緊急性を兼ね備えた「重大な損害」である。著しく公益を害することが明らかなものである。

たとえ合衆国軍隊が、指揮命令は合衆国政府の行政権のみであり、直接的には日本の法令が及ばずこれに拘束されないとしても、日本の施政権の及ぶ範囲において日本の法令を遵守することなく無制限な活動が許されると解することはできず、原則として日本の法令を遵守する義務を負うものというべきである。例外として、日本の法令を遵守することが合衆国憲法あるいは連邦法上で違法となってしまうことが明らかな場合か、日本の法令を遵守することにより合衆国を安全保障上の危機に至らしめるなどの著しく公益を害するおそれがあって、日本の法令違反を犯すことになったとしてもこの損害を回避せざるをえないという正当な事由が証明される場合を除いては、合衆国軍隊といえども日本政府の施政範囲において日本の法令を逸脱することは許されないと解するのが相当である。

同時に、合衆国政府には、日本国において日本国民に対し「重大な損害」を与えてもこれが許されるとする行政裁量権を有しているという根拠はない

故に、今回の代執行に関する訴訟で、万が一負けるようなことがあったとしても(もし国を勝たせる裁判官が存在するなら、法の信頼は果てしなく地に堕ちるだろう)、普天間飛行場を運用停止に追い込める可能性はかなり高いということになる。

米国は、常々「法の支配」と掲げてきたのだから、当然法に従うだろう。日本の裁判所が出した判決には、従うよりないのである。日本政府に不作為がある、という判決であるとしても、米軍が日本政府に「違法行為」を唆すことなど許されない。日本政府が違法を行っているのを承知で、その利益を享受するなら、米軍も同罪だということ。不当利得を得ているのも同然であり、日本政府と米軍の共謀関係というべきかもしれない。

これを回避する唯一の方法は、普天間飛行場の違法を止めることだけである。

辺野古沖基地建設に係る埋立承認取消の代執行に関する裁判の争点について~2

2015年11月17日 12時43分14秒 | 法関係
各論


1 代執行手続の開始以前の問題点

10月27日、政府は閣議にて沖縄県知事の本件取消処分に関し、代執行手続を開始することを口頭了承したとされる。29日には沖縄県に勧告書が送付された。これより以前の段階において、国の対応に問題点があったので、これについて指摘する。


1)論点5:聴聞の出頭拒否は不当

沖縄防衛局に対し、本件取消処分を行う前に聴聞の手続がとられたものであるが、国が合法であることの立証ができるのであれば「処分がなされる以前」に聴聞に応じて、あらゆる資料と正当性の根拠と、それに基づく「国が正しいと考える理由」を主張できたはずである。その証明が必要十分であって、知事にこれを覆せない場合には、必然的に取消処分は出されることがなかったはずである。この立証機会を、自らの不出頭により放棄する合理的理由はない。出頭せずに、わざわざ知事に取消処分をさせておきながら、事後的に国土交通大臣による執行停止をさせたのは、行政手続法・行政不服審査法の救済制度及び法令の悪用であって、少しでも早く工事を再開せんとする為である。

一般的に、免許や許認可の取消等不利益処分に際して、聴聞に不出頭となる者の多くは、反論するべき合理的根拠を有しないか、取消処分もやむを得ないという黙示の同意をする者(例えば違法な活動を行っていた貸金業者や金融商品取引事業者など)であって、自らの正当性を立論できる者がその貴重な機会を喪失したいと考えることは合理的とは言えず、不利益処分の前にこれを回避することを望むのが普通である。

(筆者推測:事業者が最初から出頭する意志を有しないことは処分前から事前に沖縄県に対し伝達されており、国土交通大臣が審査請求と執行停止を受理し、この主張が認められることを既に事業者が知っていたと考えるのが自然である。聴聞を省いた方が時間短縮になるから、である。国の法令の悪用であるとしか見えない)


2)論点6:岩礁破砕許可に係る審査請求に対し裁決がなされていないこと

事業者は、27年3月に行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止申立てを行っているが、審査庁たる農林水産省は未だ裁決を出していない。この申し立の際、事業者の主張と農林水産大臣の執行停止の決定通知においては、本件埋立工事の作業が停止することは、回復困難な重大な損害を与えるものであり、緊急性と重大性という点において、知事の作業停止指示(と、その後に想定される岩礁破砕許可取消処分)は執行停止されるべきとして、現にそうなっているものである。

岩礁破砕許可についての審査請求と執行停止は、実質的に本件基地建設に関する国と沖縄県との争いという点において本件と同一であって、国に正当性があり、知事の権限行使に違法があるというなら、見解の相違を解消するべく一刻も早く裁決を出すことが必要であったはずである。

事業者は防衛省と本質において同一であるから、執行停止を正当と考え申立てた防衛省のほか、農林水産省と国土交通省が揃って「執行停止」を決定する程に、緊急性と重大性を本件基地建設に認めているのであるから、徒に裁決時期を先延ばしすることは、事業遂行の妨げとなることは明らかである。もしも公水法の承認取消処分がされる前の時点において農林水産大臣の裁決があったならば、1号法定受託事務に係る沖縄県の執行等に違法があることを容易に指摘かつこれを是正することができたはずであり、それをしなかったことは国の落ち度である。審査庁の行う裁決は法的拘束力を有しており、取消の裁決が出されれば処分の取消について行政不服審査法43条により履行義務を負うものだからである。


3)論点7:手続上の違法や不当があっても処分の取消とは限らない

事業者は農林水産省及び国土交通省に対する審査請求において、知事の手続上の違法を指摘しているが、これをもって当該不利益処分が取消されることにはならない。例えば農林水産省への審査請求では、行政手続法上の不利益処分時に行われる13条1項の聴聞等(弁明機会の付与)や行政不服審査法上の教示義務のある事項の不備などを指摘している。そのような主張は認められるかもしれないが、これをもって知事の取消処分が無効となりこれを審査庁が取り消す裁決を出すことの根拠にはならない。

例えば、年金給付額aを行政庁が決定し給付していたところ、加給年金分が過大に給付されていることが判明した為、年金給付額bへの減額変更という処分をされたとする。この説明や手続過程に処分庁の違法(不当や義務違反など)があったとしても、年金給付額bが正しいならその処分は維持される。相手方から見れば、aが受益的処分であっても、これは取り消されるし、bへの減額変更は違法や不当が裁決で判明した後でも維持される。相手方には行政庁の違法に対して国家賠償法による賠償を求める権利は生ずるかもしれないが、その違法分は賠償で解決できるものであり、bへの減額変更の処分自体が無効や取消となるわけではない。そもそも受益的処分を行政庁が取消・撤回できないとする法理は存在しない。

別の例では、行政不服審査法55条では『審査請求を却下し又は棄却した裁決が違法又は不当である場合においても、当該裁決に係る処分が違法又は不当でないときは、再審査庁は、当該再審査請求を棄却する』とされており、手続過程の違法の存在が必ずしも処分に対する判断を決するものではない。


4)論点8:基地建設の民間業者との契約関係は処分の正否判断には影響しない

事業者の農林水産省に対する執行停止申立てによれば、工事作業に関する民間業者等の契約関係を重大な損害として挙げていたが、これは執行停止を正当化する事由にはならない。国家賠償法上の義務を負う可能性を生ずるに過ぎず、重大性や緊急性の要件を満たすものでない。知事のした不利益処分の取消を正当化できる理由にもならない。


5)論点9:国が最善の努力をした形跡は認められない

これまで述べたように、各省庁並びに政府は本件事業につき緊急性や重大性を認めているのであるから、農林水産省の裁決を早急に出すことはできたはずである。その参考となる行政制度は以前から存在している。
それは、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」による緊急裁決である。

同法19条により地方防衛局長の申立てがあった場合には権利取得裁決か明渡裁決を5月内に収用委員会が行うことができ、同法22条によりこの期間内に裁決がなされない場合には地方防衛局長より行政不服審査法の異議申立てがあれば(この法律から、地方防衛局長は行政不服審査法上の異議申立ての権利行使が可能であることは、自明となる。同様に異議申立てに限らず不服申立て一般、すなわち審査請求の権利行使もできることは類推される。異議申立てが可能で審査請求は不可能とする解釈は困難ではないか)、1月以内に収用委員会が裁決を出すか防衛大臣への事件送致となる。同法23条から、防衛大臣は防衛施設中央審議会の議を経て大臣自ら1月以内に裁決できる。

また、同法24条から防衛大臣が収用委員会に対し「自らが使用又は収用の指示」を行った場合にのみ、審査請求のなされた収用委員会の「却下の裁決」を大臣が取り消して「使用又は収用」の裁決を行うことができる。つまり、事前の指示がなければ、大臣が取消の裁決を自ら行うことはできない。収用委員会の行った却下の裁決を審査請求後に取り消す裁決を行う場合には、原則として実施主体は収用委員会であり、収用委員会に対して防衛大臣が「使用又は収用」の裁決に変更するよう指示することは可能となっている。大臣自身の裁決には、防衛施設審議会の議が前置されている。

このように、重要性の高い土地等の使用又は収用に関しては、緊急裁決や大臣による代行裁決等の制度が存在しており、これが可能であるというなら、他の審査請求についても同様の考え方をとることはできよう。すると、概ね6か月以内に裁決を出すことは、決して不可能な要請ではないはずだ、ということである。

国には、取り急ぎ裁決を出すべき義務があったにも関わらず、農林水産省に対し速やかに裁決を出すよう要請することもせず、内閣総理大臣が農林水産大臣に対して指示することもなく、審査に必要な追加の資料提出や意見徴収を沖縄県に対して行った形跡もない。国は義務を怠ったとしか見えない、ということである。



2 地方自治法に基づく代執行手続が不適法であることについて

知事が公有水面埋立法に基づく埋立承認について取消処分を行い、これに対し事業者から審査請求及び執行停止申立てを受理した国土交通大臣が執行停止の決定後に、代執行手続となった。これについて検討する。

地方自治法245条の八1項は、『各大臣は、その所管する法律若しくはこれに基づく政令に係る都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは当該大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、本項から第八項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが困難であり、かつそれを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときは、文書により、当該都道府県知事に対して、その旨を指摘し、期限を定めて、当該違反を是正し、又は当該怠る法定受託事務の管理若しくは執行を改めるべきことを勧告することができる。』と定める。

国の主張はまだ不明なので、執行が法令違反なのか、大臣処分に違反しているのか、取消処分を取り消さないという点について「怠る」(不作為)としているのか、分からない。現時点で、沖縄県側が主張できる論点について列挙することとする。


1)論点10:公有水面埋立法は取消処分があることを前提としている

国が法令違反を言うとしても、埋立承認の取消処分についての手続は形式的には違法性は立証できないだろう。たとえ前知事が承認したとしても、これを後任者が取り消すことができないという法理はないからである。

公水法32条1項各号において取消事由となり得ることが示されており、32条2項は取り消された場合に損害を補償する旨が定められている。事後的に取り消すことが必ずしも違法とはならない。同法35条では、原状回復に関して規定されている。ただし、国に対する埋立承認について、「取消処分」が違法であるとする見解はあり得る。公水法42条からすると、同法32条は準用されていないからである。この場合、埋立承認の取消処分ではなく、「承認の撤回」とすべきところかもしれない。実際上の効果としては同じではあるが、知事の処分としては、国が「免許を受けたる者」ではないので、同法32条1項は適用できないと解釈され、取消処分は違法とされる可能性がある(その場合には、取消処分は一旦取り下げて、改めて承認の撤回を宣言・通知するよりないと思われる)。

都道府県知事の錯誤により、誤って承認(免許)することはあり得るので、これを自らの職権にて取り下げることができないとするのは、事務の処理として実際的ではない。原則として、行政庁が自身の明らかな過誤、違法や不当に気付いた場合には、当然に自らが進んでこれを是正する義務を有するべきものであるから、取り消すことは認められるべきである。

知事がした不利益処分が公水法4条(1項ないし2項)に基づくものである場合には、やはり準用規定では該当しない可能性がある。事業者が「用途の変更」か「設計概要の変更」の申請を行っている場合にのみ公水法13条の2が準用されるが、事業者は変更申請を取り下げているので本件承認については公水法4条の規定は準用から除外される可能性がある(取消事由とはできない)。また、13条の2は「変更できる」という規定である為、承認(免許)取消権を規定しているものではないので、変更を取り下げられた(当初計画通りの)場合には承認は有効として残存し続けるものと考えられうる。

取消処分の根拠条文を4条や32条として挙げている場合には、一度取り下げてから撤回をする必要がある、ということである。


2)論点11:代執行以外に取り得る手段がある

地方自治法上の代執行は、これ以外の措置では是正を図ることが困難な場合であるという要件を満たしている場合にのみ、適用される。しかし、そのような立証が国によってなされているとはみえない。

第一に、論点5で指摘した聴聞において出頭せず、第二に、論点6の裁決を出さないことは、国が沖縄県に対し説明を尽くしたといえず、本件手続開始以前において、是正を図れたであろうこれら機会を無為に喪失したものと言わざるを得ない。

第三に、沖縄県から協議の申し出が幾度か行われたが、当初国はこれを拒否し続けたものである。8月になって、官房長官が知事と協議を実施したものの、問題となっていた埋立承認の事務を担任する主務大臣は国土交通大臣であるから、当然に国土交通大臣からの説明があってしかるべきであった。本件処分が違法であると国は主張するのであるから、本来ならば処分がなされる以前にこれを回避するよう努力する義務が国にはあった。地方自治法250条によれば、国は地方公共団体から協議の申し出があった場合にはこれに誠実に応じることとなっているのであるから、官房長官でなく国土交通大臣との協議を実施してしかるべきだった。

(16時頃追記:
11月7日に沖縄県が送付した質問状は、地方自治法245条の四3項に基づく技術的な助言若しくは勧告又は必要な情報提供を各大臣に求めることができるという権利行使であり、これに対して条文等を挙げて何らの具体的な説明や回答も行っていないことは、明らかな義務違反があるものと言わざるを得ない)


第四に、沖縄県は国地方係争処理委員会に審理の申し出を行っており、この裁決が出されていないにも関わらず、他に手段がないとして代執行手続を沖縄県の本申し出以前に開始することは不当である。

これらのことから、国には代執行以外の是正を図る手段がなかったとは言えず、本件代執行の適用は違法である。


3)論点12:国土交通大臣の代執行手続開始以前には、是正指示がなされてないこと

知事が埋立承認を取り消す意思を有していることは、官房長官との会談でも述べられ、報道からも知り得るので、国がこれを知らなかったと主張することは不適切である。本件埋立承認の取消処分がされる前の時点でも、また、処分後の審査請求があった後の時点においても、明らかな法令違反があることを知っていたのであるから、これを具体的に指摘しその理由を添えて国土交通大臣が助言ないし勧告(これを拒否なら指示)することは可能だった。また、本件において国土交通大臣による是正勧告は10月30日?に通知された文書であり、地方自治法245条の八第1項の勧告に続く同条第2項の指示は11月?日に通知された文書であって、この指示に従わないことをもって代執行の開始要件である大臣処分違反とすることは、不適法である。

第2項の大臣指示に従わないことをもって、第1項にいう「当該大臣の処分に違反するもの」とすることは循環論法的であり、そのような解釈を行うことはできない。245条の八第1項が適用されるには、これより事前に大臣の処分の存在が証明されることが必要であり、これに違反して従わない場合にのみ、代執行手続に基づく勧告・指示・第3項の裁判請求が可能となるものである。本件代執行手続開始以前に、国土交通大臣による知事のした不利益処分を取消す処分(指示)があったことは証明できていない。

地方自治法上では、同法245条の四による是正勧告、同法245条の七による措置の指示が可能なのであるから、例えば次のような指示を行ったにも関わらずこれに従わないのであれば、大臣処分違反を問うことは可能と考える。

『 地方自治法245条の七に基づき、公有水面埋立法の承認に係る1号法定受託事務について誤りがあるので、次のように(国土交通大臣が)是正するよう指示する

国が埋立の事業者である場合には、公有水面埋立法42条1項の知事承認を受けることとなっている。本承認を受けた国に対し、同法2条2項及び3項、3条、11条、13条の二、15条(加えて14条)、31条、37条、44条を準用することが同法42条3項に規定されている。従って、同法32条1項は準用すべき条文からは外れており、国には本条の効力は及ばず、これに基づく取消処分も誤りである。
よってこれを是正し、32条1項に基づき行った不利益処分を取消すよう指示する。   』

地方自治法249条により、こうした是正要求や指示は文書で行うこととなっており、交付した事実があるなら、その文書の存在を証明すべきである。
論点9で例示した防衛大臣が行う「代行裁決等」の場合においても、収用委員会の却下の裁決に先立って、防衛大臣の「使用又は収用の指示」がなされ、その指示があった場合に限り代行裁決等が可能なので、本件代執行においても、地方自治法245条の八1項に基づく勧告及び同条2項に基づく指示に先立つ国土交通大臣指示の存在があってはじめて、主務大臣の代執行が可能になると解釈すべきである。

行政代執行の場合においても、事前の改善指導等が一切なく代執行令書をもって着手することは、裁量権の濫用というべきであり、一般的には事前に助言や指導を複数回行ってもなお是正されない場合には、意見陳述機会を附与した上で命令を発し、それでも実施されない場合において行政代執行着手が許されるものである。原告国の本件代執行請求は、これら事前に実施すべき手続を行っておらず不当であって、違法な手続に基づくもので失当である。


4)論点13:大臣が執行停止した処分に対し、代執行は不適法

国土交通大臣は知事のした不利益処分について執行停止を決定しており、この処分に関する知事の権限は凍結された状態に等しい。国土交通大臣が自らその決定をしたのであるから、同じ大臣が代執行手続をとることは不当である。せめて、執行停止を取消し(行政不服審査法35条)、知事の処分の凍結を解除してから、代執行の手続をとるべきであろう。

まるで、建築物が違法であるか否かの争訴があって(行政と住民の間で)、違法建築物であることが確定すると確認申請が取り消されるような場合、建築工事が仮処分で停止している間に、同じ法廷・同じ裁判官が建築物の取り壊すよう判決で行政代執行を命じるようなものである。本来、建築確認の取消訴訟で争っているから、違法建築物であることが確定するなら必然的に取消処分になり、まずその審理をすべきなのである。ところが、行政代執行を直ちに実施することを命じる判決を出すのは取消訴訟を無意味に帰するものであって、行政代執行で取り壊しを認めることは違法確定で判決を出したのと同じである。

裁判例においても、産業廃棄物処分場に関する平成23年2月福岡高裁判決(平成24年7月最高裁不受理決定で確定)では知事による措置命令の義務付けは認容、行政代執行は棄却された(現在判決文を探し中)。不服申立ての審査庁たる国土交通省は、前記例示でいうところの裁判官(所)に相当する立場であり、裁決がされる以前に代執行を請求するというのは、取消訴訟の確定判決前に行政代執行を確定するのと同義であろう、ということである。

従って、国土交通大臣が審査請求を受理した上で執行停止を決定しているのであるから、裁決を出すことが果たすべき義務であり、裁決は必然に行政不服審査法43条から知事も法的拘束力から外れることは許されず、なした不利益処分が取り消され裁決に基づく処分(本件では国の埋立を承認)がされることは明白である。すなわち、自ら執行停止を決定した大臣が、代執行を請求する利益は存在しない、ということである。行政訴訟での言い回しを用いるなら、本案には理由がない。

代執行の請求以外でも手段はあり、審査請求に基づく裁決を出せば事足りる。審査請求の受理と執行停止決定から、極めて短時間で代執行手続開始の閣議了承が行われ、本来なら国土交通省が本件について緻密に吟味すべき義務を負うところ、そのような形跡は全く窺われず、受理以前から代執行を開始することが決まっていたも同然である。常に行政行為は法に基づき正しくなければならず、適正に執行するべき注意義務を負うはずの国が、法や審査制度の主旨を蔑ろにすることは、制度の形骸化を肯定するも同然であり、到底許されない。



以上、各論点の検討により、国の代執行は誤りであって違法がある。
本件代執行の請求は棄却されるべきである。


16時過ぎ追記:

違法の上に違法を積み重ねて実施されている本件埋立事業や手続を鑑みれば、国は違法を自ら是正すべきである。国は、知事の承認撤回を待つまでもなく、埋立承認申請を行った事業者に対し本件申請を取り下げさせるべき義務を負うのが相当である。
国は、違法を是正する合法的手段を有しているものであり、これを正当に実施させる権限として、審査請求に対する裁決があるのであって、これを行わない場合においては、裁判所命令をもってこれを実施させるよりないものといわざるをえない。



辺野古沖基地建設に係る埋立承認取消の代執行に関する裁判の争点について~1

2015年11月17日 12時36分01秒 | 法関係
(個人的感想について:半月も待つのは、かなり辛かった。この日、この瞬間を待っていたのだよ。当初、意表をつかれた代執行の手続きだったが、ひょっとすると千載一遇のチャンスかもしれない、と思えた。国が法廷闘争を選んでくれたことに感謝したい。もしも行政不服審査法上の裁決だけであったなら、裁判に持ち込めるまでは圧倒的に不利だったことは確実だった。しかし、今回のように裁判所の判断を仰ぐチャンスを得るなら、官邸の言いなりでしかない霞が関の審査庁から出る裁決を待つよりも、ずっとマシだからだ。負けが確定するまでは、諦めないぞ。卑怯な手を用いる者たちに、法の鉄槌を下されんことを!)


この検討内容は、あくまで当方個人の見解であり、どの程度の正当性・正確性があるかは当方には判断できない。過去に書いてきた記事とも違っている部分がある(以前には気付けなかったことも多々あった)ので、お詫びして本見解に変更をお許し願いたい。



文中の文言は、次のように記すものとする。
・公有水面埋立法 =公水法
・合衆国政府 =米国政府
・日本国政府 =国、政府
・合衆国軍隊 =米軍
・沖縄に関する特別行動委員会 =SACO
・日米安全保障協議委員会 =SCC
・普天間代替基地建設事業 =基地建設
・沖縄県知事 =知事
・沖縄防衛局 =事業者



総論


1 大規模埋立工事は不可逆的である

ひとたび埋立工事を実行してしまうと、自然環境、生態系や利害得失関係などは工事以前に戻せない。条文上では原状回復が存在しており規定されてもいるが、現実には不可能である。そしてその不可逆性によって、工事完了後でさえ長期に渡る利害対立が残る原因となる。従って、事前の評価が大切であり、事業計画について慎重な検討がなされなければならないことは言うまでもない。


1)諫早湾干拓事業における教訓

埋立行政の大失敗例である。事後救済や解決方法が未だに確立されていない。平成22年福岡高裁判決により開門義務が確定判決となったが、平成25年長崎地裁による開門禁止仮処分が決定された。更に、平成27年1月には最高裁が国の抗告を棄却し、現在においても福岡高裁や長崎地裁で係争が続いており、今後の解決の糸口は一向に見えない。
計画から約20年を経て昭和63年に埋立承認、平成9年には潮受堤防の締切となったものの、現在においても裁判が続いているということである。混乱と迷走の元凶は稚拙な事業計画や影響評価で実施を決定したことであり、明らかな失敗事業であった。これならやらない方がまだよかった(一方当事者だけの不満が残るだけだから)という声も聞こえよう。杜撰な埋立という政策によって、30年以上にも及ぶ争議を生み出したと言っても過言ではない。
同じ失敗を繰り返さない為にも、事前の評価、検討が重要ということである。


2)鞆の浦埋立問題

広島県知事に対し、公有水面埋立の免許をしてはならないとする旨の判決であった。

【平成21年10月1日 広島地裁判決】

『景観利益に関する損害については、処分の取消しの訴えを提起し、執行停止を受けることによっても、その救済を図ることが困難な損害であるといえる。以上の点や、景観利益は、生命・身体等といった権利とはその性質を異にするものの、日々の生活に密接に関連した利益といえること、景観利益は、一度損なわれたならば、金銭賠償によって回復することは困難な性質のものであることなどを総合考慮すれば、景観利益については、本件埋立免許がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあると認めるのが相当である。』と判示された。
沖縄県においても、自然環境及び景観保護の観点から免許することが適切ではないという判断の一因となっているのであるから、これについて十分な検討がなされるべきであり、現時点での知事の政策判断は尊重されるべきである。また、海とその周辺の自然環境の恵沢を享受する権利は不特定多数の一般個人にもあり、当然に保護されるべき法益である。最高裁判例によれば、次の通りである。

「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(最高裁平成16年(行ヒ)第114号,同17年12月7日大法廷判決・民集59(10)2645)。

代執行の提訴を行った国においては、この名文をしかと噛みしめるべきである。
『当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌すべし』、と最高裁が言っているのである。



2 現政権下における行政庁の行為は果たして法に基づいているのか

本来、行政の行為は法に則り正確に実行されなければならない。ところが、現政権への信頼は乏しく、本当に法に基づいて行政行為がなされているのか疑問である。


1)論点1:基地建設の根拠法は何か

本件のような大規模事業を一般法を根拠とし、行政の裁量権のみで実施することは、事業を円滑かつ安全に遂行する上で支障を来すことは当然に予想された。国の直轄事業として本件基地建設を行うのであるから、行政事務や手続の多くを沖縄県に押し付けるのではなく、国が大半を負うべき責務がある。公水法の承認は知事権限を尊重するのが当然としても、特別法での対応があってしかるべきである。
例えば、「公共用地の取得に関する特別措置法」や「新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法」では、重要な公共事業の位置づけがより明確化されている。本件基地建設が唯一の方法であって非常に重要であると政府が主張するのであるから、特別法の対象事業としての遂行が望ましく、重要であればこそ特別法の必要性が増すことはあっても減じることはなかろう。
本件基地建設が特別法の制定が必ずしも求められないとしても、政府の権限の基となっている根拠法を明示するとともに、これを説明すべきである。防衛省設置法4条12号及び各年度における予算関連法しかないのであれば、それでもよいが、あまりに無造作な根拠といえよう。


2)論点2:海上保安庁の強制排除の法的根拠は何か

海上保安庁は、作業範囲の海域に設置された浮標内に進入したカヌーや民間人を強制的に排除している。身体拘束を伴う行為が公然と行われており、これまで告発された例もある(不起訴処分となった)。海上保安庁が明確な法的根拠を提示しておらず、拘束時にも法的根拠について宣言・説明していることは皆無である。逆に問われても答えない。
海域の通航・進入制限は、どのような法的根拠があるのか不明のままであり、範囲が示された唯一の手掛かりは、防衛省告示123号(平成26年7月1日)のみである。この告示をもって海上保安庁が行っている身体拘束の根拠とすることは不可能である。海上保安庁法18条1項の適用と主張するとしても、その要件を満たしていることの立証が必要である。


3)論点3:政府の海域提供の法的根拠は何か

論点2と関連するが、政府が米軍に提供することとした海域について、前記防衛省告示123号をもって手続が完了していると考えることはできない。まるで私有地のような独占的領域として海を取扱うことは、不当である。最高裁の判例では、次のように述べられている。

【最判三小 昭61.12.16 民集40(7)1236)】
『海は、古来より自然の状態のままで一般公衆の共同使用に供されてきたところのいわゆる公共用物であつて、国の直接の公法的支配管理に服し、特定人による排他的支配の許されないものである(中略) 現行法をみるに、海の一定範囲を区画しこれを私人の所有に帰属させることを認めた法律はなく、かえつて、公有水面埋立法が、公有水面の埋立てをしようとする者に対しては埋立ての免許を与え、埋立工事の竣工認可によつて埋立地を右の者の所有に帰属させることとしていることに照らせば、現行法は、海について、海水に覆われたままの状態で一定範囲を区画しこれを私人の所有に帰属させるという制度は採用していないことが明らかである』

【最判二小 平17.12.16】
『海は,特定人による独占的排他的支配の許されないものであり,現行法上,海水に覆われたままの状態でその一定範囲を区画してこれを私人の所有に帰属させるという制度は採用されていない』

これらから当然に一定範囲を区画して私人所有に帰属させることは不可能であり、防衛省がたとえ告示によって米軍に対する提供を決定したとしても、国会による立法措置なく特定人(本件では防衛省及び米軍)による排他的支配が無条件に認められることはない。
従って、防衛省告示123号には法的根拠を欠いており、本件海域の提供は違法である。


4)論点4:公共用物である本件海域を利用する権利は一般公衆にあり、法益もある

防衛省告示123号の存在により、米国政府及び米軍が独占的排他的に本件海域を使用する権利を獲得できる、という説明は誤りである。理由は、前記最高裁判例で尽きているわけであるが、法律の条文からでもそれはうかがい知ることはできうる。国は本件埋立に伴い岩礁破砕許可申請を行っているが、申請書には漁業権者の免許番号と補償の措置について記載されていた。もしも防衛省告示123号をもって独占的排他的支配を必然的に確立するのであれば、海域の漁業権者への補償は不要であるはずである。米軍に提供する海域を区画し指定しても、それをもって海域への進入制限を加えたり、海の利用を一方的に制限できる根拠となるものではないということである。

提供海域の主要な利用権者として、漁業権を有する者に対して補償しているが、他の利害関係者が存在する場合には、同様に補償の対象としなければならないはずである。漁業権者については、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づき日本国にあるアメリカ合衆国の軍隊の水面の使用に伴う漁船の操業制限等に関する法律」に基づいて制限と補償がなされているものであろう。

また、土地収用法5条3項は、『土地、河川の敷地、海底又は流水、海水その他の水を第三条各号の一に規定する事業の用に供するため、これらのもの(当該土地が埋立て又は干拓により造成されるものであるときは、当該埋立て又は干拓に係る河川の敷地又は海底)に関係のある漁業権、入漁権その他河川の敷地、海底又は流水、海水その他の水を利用する権利を消滅させ、又は制限することが必要且つ相当である場合においては、この法律の定めるところにより、これらの権利を収用し、又は使用することができる』と規定している。「海水その他の水を利用する権利」は、漁業権以外の補償対象となるべき法益として存在し、その権利を消滅又は制限するには土地収用法の規定に基づく手続が必要なのである。

つまり、土地収用法という法律に則った手続が正当に行われた場合にのみ、制限が可能となるということである。本件においては、そうした手続が実施されていないことは明らかであって、国が違法でないという合理的説明があるなら、それを提示する義務がある。論点2、3と合わせて、整合的説明ができなければならない。

更に、「防衛省における自衛隊施設の取得等に関する訓令」では、4条(1)で『施設とは、自衛隊の用に供する土地、建物、立木、その他土地に定着する物件及び土地収用法第5条に掲げる権利をいう』とされ、(2)において、施設の取得等とは、『土地収用法第5条の権利の消滅又は制限』が含まれている。すなわち、土地収用法5条の権利は国民に存するものであり、この権利の消滅又は制限は、土地収用法による手続や本施設の取得等に関する訓令の手続によらねば許されないということである。この訓令4条の除外規定として、「自衛隊の訓練等に必要な制限水域の設定及びこれに伴う損失補償に関する訓令」があるが、これは制限水域が自衛隊の「施設の取得等」には該当せず、単に漁業権者への補償を行うに過ぎず、この場合土地収用法5条に掲げる権利の消滅又は制限を主張することはできない。本件での制限水域の正当性をこの訓練等に必要な制限水域と主張する場合であっても、漁船以外に制限を課すことは違法である。


海ではなく河川に関する重要判例では次のように判示される。

『公水使用権は、それが慣習によるものであると行政庁の許可によるものであるとを問わず、公共用物たる公水の上に存する権利であることにかんがみ、河川の全水量を独占排他的に利用しうる絶対不可侵の権利ではなく、使用目的を充たすに必要な限度の流水を使用しうるに過ぎないものと解するのを相当とする(大審院明治三〇年第四二二ないし第四二四号同三一年一一月一八日判決、民録四輯一〇巻二四頁、同院大正五年(オ)第六二号同年一二月二日判決、民録二二輯二三四頁参照)』

海の利用についても、独占排他的に利用しうる絶対不可侵の権利を約するものとは解されず、使用目的を充たすに必要な限度の使用を許容するに過ぎないと解するべきである。次の判決文も参照すべきである。

【昭和55年1月31日 東京地裁判決】

『そもそも海や海岸は、何人も他人の共同使用を妨げない範囲で自由に使用できる自然公物であり、海水浴もこの公物の自由使用として普通地方公共団体による海水浴場の開設を待つまでもなく、自由にできる行為である』
(注:当時には海岸法の規定がなかった為、海と海岸が併記されている)

海の独占排他的な利用の権利を証明できる法的根拠は、存在しない。
仮に防衛省告示第123号で使用を宣言したとしても絶対不可侵の権利ではありえず、海は何人も自由に使用できる自然公物であり、自由使用が当然に認められているものであって、遊泳や釣りなどは自由にできる行為である。


【昭和35(オ)676, 昭和39年1月16日判決(最判一小)】

『地方公共団体の開設している村道に対しては村民各自は他の村民がその道路に対して有する利益ないし自由を侵害しない程度において、自己の生活上必須の行動を自由に行い得べきところの使用の自由権(民法七一〇条参照)を有するものと解するを相当とする』
『通行の自由権は公法関係から由来するものであるけれども、各自が日常生活上諸般の権利を行使するについて欠くことのできない要具であるから、これに対しては民法の保護を与うべきは当然の筋合である。故に一村民がこの権利を妨害されたときは民法上不法行為の問題の生ずるのは当然であり、この妨害が継続するときは、これが排除を求める権利を有することは、また言を俟たない』

使用できる利益を有するに過ぎず固有の権利を有していない者、すなわち、反射的利益を享受し得るに過ぎない者てあっても、第三者の行為によって利益享受が妨害された場合には、第三者に妨害排除を請求する権利を有する、とされた。通航の自由権や海を使用する権利は、自然公物の自由使用として認められていたものであり、この権利を妨害する本件区域での海上保安庁の強制排除等の行為は明らかに不法行為である。


(つづく)