孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

性的少数者LGBTをめぐる話題 アメリカの“トイレ論争” エジプト、カナダそして中国では

2016-05-21 21:29:41 | アメリカ

(同性愛者の結婚式をしたとして告訴され、エジプトの首都カイロの裁判所で開廷を待つ被告たち【4月26日 AFP】)

ノースカロライナ州の“トイレ法”をめぐり 連邦政府と州が訴訟合戦
****LGBT*****
LGBT(エル・ジー・ビー・ティー)または GLBT(ジー・エル・ビー・ティー)とは、女性同性愛者(レズビアン、Lesbian)、男性同性愛者(ゲイ、Gay)、両性愛者(バイセクシュアル、Bisexual)、そして性同一性障害含む性別越境者など(トランスジェンダー、Transgender)の人々を意味する頭字語である【ウィキペディア】
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アメリカにおける同性婚など、LGBTに関する話題については、2015年9月13日ブログ“アメリカにおける「性的少数者」「LGBT」に関する動き”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150913 でも取り上げたことがあります。

最近よく目にするのは、LGBTに関する“トイレ論争”の話です。アメリカでは連邦政府と州との訴訟合戦ともなっています。

ことの発端は、南部ノースカロライナ州がLGBTに出生証明書と同じ性別のトイレ・更衣室を使うよう求める州法(いわゆる“トイレ法”)を制定したことで、これに対し連邦政府は、“トイレ法”はLGBTに対する差別であり、公民権の侵害にあたるとしています。

****米で「政府VS州」のトイレ・バトル泥沼化 LGBTを性差別? 法廷闘争に発展****
同性愛者や性転換者ら性的少数者(LGBT)に出生証明書と同じ性別のトイレを使うよう求める米南部ノースカロライナ州の州法「HB2」(通称・トイレ法)をめぐる論争が、連邦政府と州が互いを相手取り提訴する事態に発展している。州の判断が性別による差別を禁じた公民権法に反するかが争点となる。
 
ノースカロライナ州のマックロリー知事(共和党)はトイレ法について「基本的なプライバシーとエチケットを守るために必要」と主張してきた。一方、民主党のオバマ米大統領はLGBTに対する差別であるとして批判している。
 
米司法省はマックロリー氏に書簡を送り、トイレ法が公民権の侵害に当たるとして、9日を期限にトイレ法の施行を拒否する意思があるかを照会。同知事は連邦政府による介入は州に対する越権行為であるとして、ノースカロライナ州の連邦地裁に提訴した。
 
マックロリー氏は9日の記者会見で、連邦政府が公民権法について「過激な新解釈」をしていると指摘。米議会に同法の規定を明確化するよう求めた上で「オバマ政権は(実質的に)法律を書き換えることを試み、米議会を迂回(うかい)しようとしている」と非難した。
 
これに対し、司法省は9日、トイレ法が公民権法に違反しているとして同州を相手取って提訴。リンチ司法長官は9日、記者会見し、「ノースカロライナ州は性転換者に対し、州によって支援される差別を作り出した」と批判した。
 
トイレ法は今年3月に成立。ロック歌手のブルース・スプリングスティーンさんらが同法に抗議するため州内でのコンサートを中止したり、大手企業がノースカロライナ州内での事業計画を見直したりするなどの影響が出ている。【5月12日 産経】
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ノースカロライナ州が“トイレ法”を制定した経緯については、“同州のシャーロット市が「心の性にあったトイレなどを使えるようにすべきだ」という条例を作ったのをきっかけにできた。マクローリー州知事は「悪用する人がいれば危険が生じる」と市条例を批判。州議会も、公立学校や公共施設のトイレ、更衣室について「体の性にあわせるべきだ」という法律案をすぐに可決した。連邦政府は5月、「公民権法に違反する」と同州に通告したが、州が法律を変えなかったため、提訴に至った。”【5月10日 朝日】とのことです。

“トイレ法”支持者は、性犯罪者から女性を守ることを意図したものだと主張し、州側は「常識的な、プライバシー保護の方針だ」と、州法の有効確認を求めています。

また、トランスジェンダーは公民権法で保護された区分ではないとして、公民権法違反だというなら、連邦議会が同法を改正すべきだとも主張しています。

一方、連邦政府は「州法はトランスジェンダーの人を差別して社会的な孤立や疎外を進め、平等でないという考え方を広める」として、無効確認を求めています。【5月10日 朝日より】

アメリカには、LGBTの権利保護などに敏感なリベラルな流れと、中絶に徹底して反対するような宗教保守の流れの両方がありますが、“トイレ論争”は両者の激突する場ともなっています。

ノースカロライナ州は大統領選で接戦が予想される州の一つということで、この問題が争点となることでの大統領選挙への影響もあるようです。

連邦政府・オバマ政権側はこの問題に絡んで、公立学校に「心の性」に応じて施設の使用を認めるとの指針を通達しています。

****トイレや更衣室「心の性で選んで」 米政府が指針****
体と心の性が一致しないトランスジェンダーの人がどちらの性のトイレや更衣室を使うべきかをめぐり、米オバマ政権が13日、公立学校に「心の性」に応じて施設の使用を認めるとの指針を通達した。

この問題ではノースカロライナ州と米連邦政府が互いを提訴。共和党の指名が確実となったトランプ氏も巻き込み、論争となっている。
 
司法省と教育省は13日、「トランスジェンダーの人も含め、全ての学生は性別に基づく差別のない環境で学校に通えるようにする必要がある」と「心の性」を尊重するよう指針を公立学校に通達した。
 
トランスジェンダーの人がどちらの性のトイレや更衣室を使うかをめぐっては、ノースカロライナ州が3月、「生まれた時の体の性にあわせるべきだ」との法律を制定。連邦政府は「法律は差別にあたる」とし、5月に互いに提訴した。【5月14日 朝日】
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身近にLGBTの方がいないので、正直なところピンとこない感もありますが、当事者としてはどっちのトイレを使えるのかというのは深刻な問題でしょう。

「心の性」と異なるトイレ使用を強要されるというのは、当事者にとってはその存在自体を否定されるような屈辱・負担ともなります。

性犯罪者から女性を守る云々はわからないではないですが、敢えてLGBTを狙い撃ちにしたかのような法律規制というのは、性的少数者の存在に否定的な“嫌悪感”みたいなものがその背後に見え隠れしているようで、馴染めないものも感じます。

性犯罪者ということで言えば、別にLGBTの話はなくとも、普段に女子トイレに忍び込むような輩は存在しますし・・・。

おりしも、米下院は連邦政府の契約企業で働くLGBTの従業員の権利を守る法案を僅差で否決しました。
当初は成立が予想されていましたが、反対する共和党指導部の巻き返しがあったようです。

****米下院、LGBTの権利を守る法案を僅差で否決****
米下院は19日、連邦政府の契約企業で働くLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の従業員の権利を守る法案を僅差で否決した。

共和党の議員の多くが反対に回ったためで、議場では「恥だ、恥だ、恥だ」との叫び声が沸き起こった。

この法案は、米民主党のショーン・マロニー議員(NY州選出)が提案したもので、軍事建設・退役軍人歳出法の修正案となっている。下院本会議場での表示によれば、当初は十分な賛成票を得て、成立するとみられていた。

しかし、下院共和党の幹部たちが採決に許された時間を引き伸ばし、党所属議員に立場を変えるように促したことで、法案は結局、213対212で否決された。

民主党所属の183人が修正案に賛成し、共和党の29人も賛成に回った。213の反対票すべてが共和党議員によるものだった。共和党3人と民主党5人の合わせて8議員が棄権した。

議員たちは、投票時と、結果が公表されるまでの数分間に賛否の立場を変えることが認められている。

LGBTへの平等な権利保障は2016年の選挙戦で熱いテーマとなっている。同性婚カップルのウエディングケーキを焼くことは菓子店の「宗教上の自由」を侵害するのか、あるいは、トランスジェンダーがどの公共トイレを使うかを政府が決めるべきか、といった議論が国政レベルで巻き起こっている。【5月20日 ロイター】
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LGBTであるというだけで、死刑になる国も その背景には宗教的理由と“非生産的”との考えが
ただ、なんだかんだ言っても、LGBTにとってアメリカはまだいい方で、国によっては犯罪行為として死刑の対象になるところもあります。

LGBTを認めない考えの背景には、宗教的理由や子供を作れず非生産的(と言うか、自然の摂理、あるいは生物的な道理に反したもの・・・・といったイメージでしょうか)といった理由があると指摘されています。

****理解が進む一方で・・・・LGBTであるというだけで、死刑になる国も****
現在、「LGBTの権利」については世界的な問題となっており、今後どのようになっていくのか、まだまだ議論がなされています。

現時点においてLGBTに対して否定的な国を挙げよと言われた場合、おそらくイエメン、イラン、サウジアラビア、スーダン、ソマリアの5カ国が挙げられるのではないでしょうか。

どうしてこれらを真っ先に挙げたのかというと、これらの国はLGBTであるというだけで、死刑になることもあり得るからです。

例えばイランでは同性婚が認められていないのはもちろん、同性間の性交渉が発覚した時点で死刑になり、サウジアラビアも同様に同性間の性交渉が発覚した場合は死刑、または懲役、罰金、鞭打ちのいずれかが処罰としてくだされます。

そのほかの3つも似たような状況なので、これらの国は、世界的に見ると、LGBTに否定的な5カ国として挙げられるのではと思います。

これら以外にも、例えばアフリカでは数多くの地域でLGBTが違法とされていたり、アジア地域だと北朝鮮やマレーシアなどが違法と定めています。

欧米などを中心に、世界的にはLGBTの肯定をするべきという流れがありますが、一方でまだまだLGBTに否定的な地域が存在しているのも事実です。

なぜLGBTに対して否定的なのか
LGBTに対して否定的な考えを持つ理由は様々ですが、その中でも特に強いものとして存在しているのが「宗教上の理由」です。

世界には様々な宗教がありますが、その中でもイスラム教とキリスト教には、同性愛という概念そのものを否定する要素が含まれています。

イスラム教においては聖典であるコーランの中に同性愛を禁止する記述があり、キリスト教ではヨハネパウロ2世がLGBTを認める発言をしたものの、旧約聖書内に同性愛を否定する箇所があるため、本質主義者からは批判の的となりました。

宗教というのは、それが伝統的なものであるほど人の生活を左右するものです。よってそれらの宗教が根強い地域の人々にとって、同性愛者は認めてはならない存在になってしまっているのです。

さらに、否定されるシンプルな理由となっているのが「非生産的だから」ということです。人間は男性と女性が性行為を行うことで子を成して繁殖していきます。しかし同性では、繁殖のための性行為を行うことがそもそもできないので、非生産的であると批判をされることも少なくないとか。

近頃は、最新医学などで同性間でも子供を作ることができるような研究も進んでいるので、「非生産的だ」という批判は正しいものではなくなりつつありますが、それでもこうした意見は根強く残っています。

LGBTに否定的な国や地域には、まだまだ根強い問題が存在しているのです。【2015年8月16日 HUFFPOST Anna Shimizu氏】
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エジプトでは同性愛で実刑12年 カナダはトランスジェンダー差別禁止法を導入へ
中東のイスラム国、エジプトの裁判所は4月24日、同性愛で罪を問われた男性11人に禁錮3~12年の実刑判決を下しています。

****同性愛で11人に最長12年の実刑 エジプト****
エジプトの裁判所は24日、同性愛で罪を問われた男性11人に禁錮3~12年の実刑判決を下した。司法筋が明かした。
 
11人は昨年9月にカイロ郊外のアゴウザにある共同住宅で逮捕された。23日に下された量刑は、3人が12年、3人が9年、1人が6年、4人が3年の実刑だった。
 
エジプトでは同性愛関係を正式に禁じる法律はないが、同性愛者を逮捕・起訴する際に使われることの多い「淫蕩(いんとう)行為、およびその扇動の罪」で被告たちは有罪とされた。同性愛者を起訴・投獄するためにエジプト当局が淫蕩罪を適用していることは、人権団体などから非難を浴びている。【4月26日 AFP】
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一方、アメリカの隣国カナダではトルドー首相が、トランスジェンダーをヘイトスピーチ(憎悪表現)や差別から守る法律の導入を目指す意向を表明しています。

****カナダ、トランスジェンダー差別禁止法を導入へ トルドー首相表明****
カナダのジャスティン・トルドー首相は16日、トランスジェンダー(性別越境者)をヘイトスピーチ(憎悪表現)や差別から守る法律の導入を目指す意向を表明した。
 
LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)など性的少数者の権利擁護団体「ファンデーション・エマージェンス」がモントリオールで主催したイベントで演説したトルドー首相は、「私たちはあらゆる障害を克服し、さまざまな闘いに勝ち、その勝利を祝ってきたにもかかわらず、いまだに不当な扱いの目撃者となり、時には犠牲者にもなっている」と指摘。「私たちは、真の平等を要求し続けなければならない」と訴えた。
 
ジョディー・ウィルソンレイボールド法相に宛てたトルドー首相の委任状によれば、新法は、人種、宗教、年齢、性別、性的指向に基づいた差別を禁止するカナダ人権法に「性自認」の項目を追加し、刑法が定めるヘイトスピーチの保護対象にトランスジェンダーの人々を加える内容。(後略)【5月17日 AFP】
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中国の厳しい状況 徐々に変化も?】
人権に関する一般的認識が低い中国では、LGBTはまだまだ厳しい状況に置かれているようです。

****トランスジェンダーを理由に不当解雇、訴え認められず 中国****
中国の労働紛争仲裁委員会は、トランスジェンダー(性別越境者)であることを理由に不当に解雇されたとする男性からの申し立てを退けた。男性の弁護士が11日、述べた。こういった申し立ては中国では初めてという。
 
報道によると、仲裁申請者は女性として生まれたものの、自らを男性として認識し、普段から男性用の衣服を着用している。中国南西部・貴州省の保健センターに就職してから8日後に解雇されたという。
 
男性を解雇した理由はトランスジェンダーだと雇用主が話しているとみられる様子が録音されていたものの、弁護士によると、貴州省の労働紛争仲裁委員会はこの録音を取り上げなかったという。(中略)
 
複数の報道によると、トランスジェンダーが不当解雇の申し立てを行ったのは中国では今回が初めてだったという。【5月11日 AFP】
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****中国のセクシャル・マイノリティ、カミングアウトはわずか5%****
2016年5月17日、財新網によると、中国のセクシャル・マイノリティ(性的少数者。同性愛者や性同一性障害を持った人)の5%しかカミングアウトできない状況だという。

中国では2001年まで、「同性愛は精神異常」とされていて、現在でもオープンにしづらい状況が続いている。国連開発計画(UNDP)が17日に発表した中国のセクシャル・マイノリティに関する報告書では、学校や職場などで自分の性の認識をカミングアウトする人は5%前後とされ、家庭内でも15%ほどだった。

また、彼らに対する差別の状況も浮き彫りとなった。「家庭内」で差別を受けた人は56.1%で、「学校」は39.6%だった。「職場」は比較的低く約20%となっている。(中略)

しかし、報告書は「中国人の考え方に徐々に変化が起きている」とも指摘している。被調査者の70%が同性愛を病気であると考えることに否定的な回答をしており、およそ85%(セクシャル・マイノリティに限ると95%)が同性婚の合法化を支持している。

このほか、80%(同90%)以上の人がセクシャル・マイノリティの権利を保護する法整備に支持を示している。

一方で、大学でセクシャル・マイノリティについて学んだことがある人は10%程度であるなど、今後の国民全体の意識の改革や法整備への道のりは依然として険しいのが現状だ。【5月18日 Searchina】
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一昨日取り上げた“難民を自宅に受け入れても良いとの回答が最も多かったのは、中国が46%で1位”という国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが報告している調査同様、“およそ85%(セクシャル・マイノリティに限ると95%)が同性婚の合法化を支持している。”というのも「本当だろうか?」という感がありますが、まあ、そういう形で個人の権利を認める方向にあるのなら結構な話です。
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