孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

際限のない兵器開発競争の行き着く先は?

2016-05-26 22:19:29 | 国際情勢

(「IBMシリーズ/1」と8インチフロッピーディスク【IBM archives】 IBMにとっては過去の記録ですが、米軍の核兵器運用部門では現役のようです)

時代遅れとなった技術による核兵器運用
今日一番笑えたニュースが、アメリカの核兵器運用の実態に関する下記の記事でした。

****米軍、核兵器運用に今も8インチフロッピー使用****
米軍の核兵器運用部門が、いまだに1970年代に開発された8インチのフロッピーディスクを使用していることが、米政府監査院(GAO)が25日に発表した報告書で明らかになった。
 
報告書は、米政府機関の多くで既に時代遅れとなった「レガシーシステム」が使用されており、早急な新システムの導入が必要だと指摘している。
 
米国防総省では、大陸間弾道ミサイル、戦略爆撃機、空中給油・支援機などの核戦力の運用機能を調整する指揮統制系統で、1976年発売のコンピューター「IBMシリーズ/1(IBM Series/1)」や8インチフロッピーディスクが用いられているという。
 
国防総省報道官のバレリー・ヘンダーソン(Valerie Henderson)中佐はAFPの取材に対し、旧式システムを使っている理由を「簡単に言えば現在も機能しているため」と説明したうえで、「老朽化が懸念されていることから、2017年末までにフロッピードライブをSDメモリーリーダーに置き換える予定だ」と付け加えた。
 
GAOの報告書では、国防総省は2020年末までにシステム交換を完了させる計画だとしている。報告書はまた、連邦政府がコンピューターシステムの「開発、最新化、機能強化」よりも「運用と整備」に多大な経費を投入していると指摘。

例として、昨年には612億ドル(約6兆7000億円)が運用・整備に投じられたのに対し、その他の分野には192億ドル(約2兆1000億円)しか投じられなかったことを挙げている。【5月26日 AFP】
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8インチフロッピーディスク・・・・35年ほど昔、大型のコンピュータシステムにプログラムを読ませるために、プログラムを1行ずつパンチした紙カードをカードリーダーに流していた時代、職場にようやくパソコンも配備されるようになり、8インチフロッピーなんてものも目にするようになった記憶があります。(若い方でも記憶にある、一昔前のパソコンで使用されていたフロッピーディスクは3.5インチですから、その数倍ある大きなものです)

「簡単に言えば現在も機能しているため」・・・・確かに、「きちんと機能しているんだから、それを使ってどこが悪い」というのは間違っていませんが、全人類の生存にもかかわる核兵器運用システムにおいて時代遅れとなった「レガシーシステム」が未だに使われている実態は、その重大さに見合った関心をもってきちんとメンテナンスされているのだろうか?という不安も抱かせます。

ある意味では、「核」に関する軍事技術(現行の核兵器)にしても、平和利用(原発)にしても、最先端ハイテクではなく、次第に「ローテク」化している状況を示しているようにも思えます。

日本のミサイル防衛
現在の日本の防衛システムに関しては、以下のようにも。

****ノドンより中国のミサイル「東風21」が日本にとって脅威 「3本の矢」で迎撃強化可能****
オバマ米大統領が広島を訪問することになり、核軍縮や軍備管理に向けた機運が再び高まりつつある。しかし東アジアでは、北朝鮮が今年1月に4回目の核実験を強行したのに続き、弾道ミサイルを立て続けに発射するなど軍事的挑発を繰り返している。中国も核弾頭が搭載可能な中距離弾道ミサイル「東風(DF)21」を配備。日本がミサイル防衛を早期に強化することは、これまで以上に重要となっている。

 ■進化する中朝ミサイル
北朝鮮が開発中の弾道ミサイルの中で、日本にとって直接の脅威となっているのがノドンだ。射程は約1300キロで、東京や各地の在日米軍基地、原子力発電所など、日本のほぼ全域を標的におさめる。

北朝鮮は1980年代初頭にノドンの開発に着手。当初は北朝鮮南東部の発射場から日本海に向けて発射されていたが、2014年3月と今年3月の発射は移動式発射台(TEL)を使い、北朝鮮の西岸から行ったとされ、実用性能の向上をうかがわせる。
 
実は日本にとり、北朝鮮のミサイルよりも現実的な脅威となっているのが中国の東風21だ。複数の専門家は、中国が「仮想敵」と見なすインドと日本に照準を合わせて東風21を配備済みとみられると指摘する。
 
英国際戦略研究所(IISS)が世界の軍事情勢を分析した報告書「ミリタリー・バランス2015」によると、中国は東風21を116基保有。その中には1基に複数の核弾頭を搭載し、それぞれの核弾頭が別の攻撃目標に向かう多弾頭個別誘導式(MIRV)化されているものもある。

 ■2段構えで迎撃
これらのミサイルに対抗するのが、弾道ミサイル防衛(BMD)システムだ。
 
日本のBMDは、「2段構え」で迎撃するのが特徴だ。日本を狙ってノドンが発射された場合、発射の兆候を捉えた米国の衛星から早期警戒情報(SEW)がもたらされ、海上自衛隊のイージス艦や、地上配備レーダーがミサイルを追尾。

日本への着弾が予測されれば、イージス艦に搭載された海上配備型迎撃ミサイル(SM3)が大気圏外でミサイルを撃破する。仮に撃破し損ねた場合は、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が落下してくる弾頭を高度数十キロ上空で地上から迎撃し、着弾を阻止する。
 
PAC3は現在、東京・市谷の防衛省など全国15カ所に配備。正確な保有数は非公開だが、発射機は数十基、ミサイルは数百発を保有しているとみられる。

 ■3本目の矢
ただ、PAC3の射程は20キロ程度で、迎撃できるのは90度ほど扇形に広げた範囲に限定される。
軍事ジャーナリストの恵谷治氏は「配備中のPAC3では日本全土を守りきれない。守ろうと思ったら全国数百カ所への配備が必要だ」と指摘し、「真に日本の国土防衛に資するのは高高度防衛ミサイル(THAAD)だ」と強調する。
 
THAADとは、最高高度150キロで敵の弾道ミサイルを迎撃するもので、現在の「2段構え」のシステムに追加すれば迎撃態勢は一層強化される。中谷元・防衛相も昨年11月、THAADの自衛隊への導入を検討すると表明した。
 
ただ、THAADの導入には膨大な費用が必要で、限られた防衛予算の中で調達費用をどう捻出するのかといった課題も残る。
 
また、日本のBMDは敵のミサイル発射の兆候を確実に把握することが大前提だ。軍事アナリストの小都元氏によれば、「北朝鮮の弾道ミサイルは発射後、約7〜10分で日本本土に着弾する」とされ、イージス艦ならば兆候を捉えてから約5分以内に迎撃態勢に入らないと撃破できない。所在を知らなかったTELから突然発射された場合、迎撃は一層厳しくなる。

 ■敵基地に先制攻撃
そのため、敵にミサイルを撃たれる前にその発射基地を無力化させる「敵基地攻撃」もかねて議論されてきた。敵基地攻撃は、自衛の範囲内として憲法解釈上も認められている。航空自衛隊のF15戦闘機と空中給油機、空中警戒管制機(AWACS)を使えば、日本が独力で攻撃するのも理論上は可能だ。
 
ただ、小都氏は「日本では北朝鮮の防空能力が過小評価されている。北朝鮮が保有するSA2やSA5といったロシアの地対空ミサイルは侮れない。また北朝鮮には地下にミサイル基地が多数あるとされる。日本には地下基地をたたく能力はない。米軍の特殊貫通弾バンカーバスターや戦術核でしか破壊できないだろう」としている。【5月26日 産経】
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内向き「トランプ大統領」で高まる安全保障論議
パトリオット(PAC3)とSM3による現行防衛システムにしても、将来的な高高度防衛ミサイル(THAAD)あるいは「敵基地攻撃」にしても、アメリカの協力を前提としたものです。

一方、アメリカでは次期大統領の可能性が次第に大きくなりつつあるトランプ氏が、例によって「日本は駐留経費を全額負担しろ」と繰り返しています。

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一方、トランプ氏は、日本に駐留するアメリカ軍について「日本の防衛を続けたいが、そのためには公平な支払いが必要だ。アメリカは軍を撤退させ、日本が自分たちで防衛しなければならなくなるだろう」と述べました。

そして「『トランプ氏は間違っている、日本は駐留経費を支払っている』という人がいるが、なぜ日本が100%経費を負担しないのか」と述べ、アメリカ軍の駐留経費の全額を日本が負担すべきだと改めて主張しました。【5月26日 NHK】
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3月12日ブログ“アメリカ 「世界の警察官」に関心がない「トランプ大統領」になれば・・・対中国政策は? 日本は?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160312でも取り上げたように、トランプ氏は基本的に「世界の警察官」には興味はなく、それはアメリカに根強く存在する内向き・孤立主義的流れを反映したものでもあります。

「カネを払えば守ってやる」というのは、「警察官」ではなく「用心棒」です。
「用心棒」は「警察官」とは異なり使命感もありませんから、敵からより多額のカネをもらえば容易に寝返りますし、自分の身に危険が及ぶようなリスクがあれば、さっさと手を引きます。

トランプ氏からは日本核武装容認など、自分で自分の身を守ったら・・・という発言がでますし、カネ次第の「用心棒」に安全保障を頼るのもいかがなものか・・・ということで、「トランプ大統領」ともなれば、日本の安全保障をどうするのかという議論が国内で高まりそうです。

日本独自の安全保障システムを強化するとは言っても、「トランプ大統領」のもとで内向き傾向を強めるアメリカにどこまで期待できるかは疑問でもあります。

【「極超音速兵器」とハイテク近未来戦
そのときはおそらく核武装論みたいな話も出てくるのでしょうが、その現実性とは別に、冒頭エピソードにも見られるように、現在の「核」は最先端技術ではなく、世界は次世代の兵器を求めて走っている現実もあります。

****米露中がしのぎ削る新たな核開発****
4月16日付のニューヨーク・タイムズ紙で、同紙ワシントン支局長のデイヴィット・サンガーとウィリアム・ブロード同紙記者が、米露中の3カ国は、新世代の、より小型でより破壊的な核兵器を追求しており、冷戦時代の軍拡競争が再現され、半世紀以上続いた核の平和が脅かされる恐れがある、と述べています。解説記事の要旨は以下の通りです。

新兵器開発に力注ぐ米露中
ロシアは、小型核弾頭を搭載した大型ミサイルを配備し、またロシアの報道によれば、水中で爆発させ、放射能の汚染をまき散らかし、目標の都市に人が住めなくなるような水中ドローンを開発している。
 
中国は「超音速滑空飛行体(hypersonic glide vehicle)」と称する新しい弾頭の実験をした。それは従来の長距離ミサイルで宇宙に打ち上げられた後、大気圏で秒速1マイル以上で曲がり疾走する。ミサイル防衛が役に立たなくなり得る。
 
他方米国も超音速兵器を開発していて、2014年の実験は失敗したが、来年試験飛行が再開される。米政府は核兵器近代化の一環として、5種類の核兵器と運搬手段の改善を計画し、米国の兵力は小型、ステルス、精密の方向にある。
 
新兵器登場の一つの懸念は、冷戦時代の「相互確証破壊」による抑止理論が有効でなくなるかもしれないということである。精密で、破壊力の少ない新兵器は、使う誘惑にかられるのではないかとの懸念である。
 
ペリー元米国防長官は、ロシアが包括的核実験禁止条約から脱退するのではないかと心配している。ペリーはロシアが新しい爆弾を開発しているのは間違いなく、実験をするのはプーチン次第だと述べた。

偶発核戦争の危険性
米国は最新の巡航ミサイルを開発している。この巡航ミサイルは爆撃機から発射され、地上に沿って長距離飛行し、敵の防空網をかい潜って目標物を破壊する。

米国はまた、中国に先行して超音速弾頭を開発している。米国の超音速弾頭は非核で、その速さと正確さ、物理的衝撃でミサイル基地などを破壊するものである。非核なので核兵器依存を減らすというオバマの約束を満たすが、その技術にかなわない相手は、核兵器で対抗しようとするかもしれない。
 
ペリー元国防長官は、米国の小型核兵器の開発の結果、「考えられないこと」が起こり得る、すなわち核兵器がより使用可能と見られるようになると述べた。
 
米国の新兵器開発で最も脅威を感じているのは中国である。中国は太平洋の米艦隊の対ミサイル迎撃機を懸念し、新しい誘導爆弾、最新の巡航ミサイル、新しい運搬手段を含む米国の核の近代化に恐れおののいている。

中国はすでに長距離ミサイルの多弾頭化など、対応策を講じていて、今後10年間対応し続けるだろう。

中国軍部は昨年、核戦力のための戦略早期警戒を改善すると述べた。早期警戒は偶発核戦争の危険を増すとの批判が強い。
 
核兵器専門家のノースカロライナ大学Mark Gugrudは、超音速の兵器の開発が続けば、操作可能な弾頭は今後10年で世界中で現実のものになるだろう、「世界は核の精霊を瓶に戻すことに失敗した。今や新しい精霊が広まっている」と述べた。【5月26日 WEDGE】
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極超音速(マッハ5=時速6150キロメートル以上)で飛行して既存の弾道ミサイル防衛システムや防空ミサイルシステムなどを突破し、精密にピンポイント攻撃が可能な「極超音速兵器」が中心的役割を担うようです。

なお、日本もマッハ3以上の速度とステルス性がある空対艦ミサイル「XASM-3」を開発中で、予定では今年度中にも完成するとされています。

世界では、「極超音速兵器」以外にドローンやロボット兵器開発も進められています。

****米国のハイテクすぎる近未来戦の全容****
ワシントンポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、国防副長官と統合参謀本部議長を取材し、米国のハイテクにおける優位を最大限に活かす「第三の相殺戦略」についてのペンタゴンの見解を報告しています。要旨は次の通り。

先進的“超強力兵士”製作に奔走する米国
ほとんど注目されていないが、米国防総省は、ロシアや中国を抑止し得る、新奇な武器を追求している。国防総省の当局者は、ロボット兵器、ヒューマン・マシン・チーム、先進的「超強力兵士」を作るための、人工知能や機械学習の最新ツールの利用を公然と語り始めている。当局者たちは、こうしたハイテクシステムがロシア軍や中国軍の急速な発展に対抗する最善策であると言う。(中略)
 
ワークは「ハイテクは我々の戦闘ネットワークを強化する。ロシアと中国に十分な不確実性を与え、両国が米軍と戦うことになった場合に、核を使わずに打ち負かすことができるだろう」と言っている。

超ハイテク技術が対中露抑止力回復に資する
国防総省内では、このアプローチは、「第三の相殺戦略」として知られている。それは冷戦中にソ連の軍事的進歩に対抗した二つの相殺戦略(第一は戦術核、第二は精密誘導通常兵器)に倣うものである。

同省は、第三の相殺戦略は、高性能のロボット兵器が、ロシアと中国の技術発展により損なわれている抑止の回復に資する、としている。

国防総省の2017年度予算には、米海軍への中国の長距離攻撃に対抗する先進的兵器に30億ドル、潜水システムの向上に30億ドル、ヒューマン・マシン・チーム及びドローンの「群れ」による作戦に30億ドル、人工知能を用いるサイバー及び電子システムに17億ドル、ウォーゲームその他の新たなコンセプトに基づく実験に5000万ドルなどが含まれている。オバマ政権は、米国の最善の戦略は技術という最大の長所を用いることだと結論付けたようである。
 
ロシアと中国にメッセージを送る意味もある。ワークはロシアを「甦る大国」中国を「長い戦略的チャレンジとなり得る潜在的な技術力を持った台頭国」と表現している。(中略)
 
ウクライナとシリアの戦場で、ロシアの能力が明らかになっている。今回のインタビューやその他の公開の発言で、ワークは、自動化された戦闘ネットワーク、先進的センサー、ドローン、対人兵器、電波妨害機器を含む、ロシアの軍事的前進ぶりを挙げている。

ワークは「我々の敵は高度なヒューマン・オペレーションを追求しており、それは我々を大いに震いあがらせる」と警告している。【3月30日 WEDGE】
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際限のない兵器開発競争
何やらもうSF映画の世界のようですが、現実世界の話です。
新世代兵器の話を聞くと、PAC3やSM3も“爆撃機に対する竹槍”のようにも見えてきます。

アメリカがロシアに核削減を求められるのも、核以外での優位性に自信があるからでしょう。オバマ大統領の「核なき世界」の訴えの背景にも、そうしたものがあるのかも。

ただ、「どんな盾でも突き破れる矛」と「どんな矛でも突き破れない盾」を求める、どこまで行ってもきりがない兵器開発競争です。おまけに膨大なカネを必要とします。

どこかで際限のない兵器開発競争から抜け出す発想の転換が必要かと思いますが、残念ながら猜疑心にとらわれた人間はそこまで賢くないので、行けるところまで突き進むのでしょう。その先にあるものが何かは知りません。どうせ私はそのときは墓の下ですから。
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