孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ・オバマ大統領、「広島」を前にベトナムを訪問 今も残る枯葉剤問題

2016-05-22 22:13:18 | アメリカ

(枯葉剤の影響については、痛ましい写真ばかりです。“枯れ葉剤の影響で、脳や体に障害を負った子どもたちに寄り添うマイさん(左)=ダナン、佐々木学撮影”【5月22日 朝日】)

歴史を無視するのではなく、それを理解し、認識し、よりよい未来をともに目指す
オバマ大統領は広島訪問について次のように語っています。

*****オバマ大統領インタビュー*****
Q)広島訪問という大統領の歴史的な決断を歓迎します。なぜ今回、広島に行こうと決めたのですか?訪問の目的は何ですか?

A)(中略)私の目的は、単に過去を振り返るのではなく、罪のない人々が戦争の犠牲になったこと、世界中で平和と対話を進めるために、できるかぎりのことをすべきだということ、われわれは引き続き、『核兵器のない世界』を追い求めて努力すべきだということを訴えることです。

それは、私が大統領に就任して以来、ずっと取り組んできたことです。そしてこれは、かつての敵どうしが、いかにして世界で最も緊密な関係を築き、最も緊密な同盟国になったかを示す、すばらしい物語です。

そして、そのことは、われわれが互いの違いを乗り越え、われわれの子どもや孫たちのために、よりよい未来を作れることを教えてくれています。それは、歴史を無視するのではなく、それを理解し、認識し、よりよい未来をともに目指すことで実現できるのです。

Q)被爆者の方たちは大統領との面会を強く望んでいます。広島で被爆者の方たちと会いますか?

A)日程はまだ最終的に決まっていません。まだ、はっきり分かりません。しかし、私の目的は日本の人々に語りかけることであり、この地域の人々、アジアの人々、アメリカの人々、世界中の人々に語りかけることです。

こうしている間にも、多くの人が、今なお戦争で苦しんでいます。私の目的の1つは、戦争では罪のない人たちが巻き込まれ、とてつもない苦難に見舞われると認識することです。

それは単なる過去の話ではなく、今も世界の多くの場所で起きていることなのです。私たちは、それぞれ自分の国を守るために、できるかぎりのことをすると同時に、人類という観点から考えなくてはならないのです。(後略)【5月22日 NHK】
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“歴史を無視するのではなく、それを理解し、認識し、よりよい未来をともに目指す”・・・・もっともなことです。

日本に対しても中国や韓国を中心に、歴史の理解・認識の不十分さへの批判があり、それへの日本国内の反発も強く、“よりよい未来をともに目指す”関係の構築に至っていません。

歴史・過去と向き合うことは、さまざまな問題を伴う困難な作業です。
立場が異なると、どうしても認識の相違もでてきます。重要なのは、被害を受けた相手の気持ちに配慮して誠実に過去に向き合うことではなかと思うのですが。

ベトナムで大勢が苦しむ枯葉剤後遺症
アメリカも、第2次大戦後も世界各地で絶え間なく戦争を続けてきた国ですから、そのあたりの過去・歴史の清算が十分になされているとは言い難いところがあります。

オバマ大統領は日本訪問に先立って、かつてのベトナム戦争の敵対国ベトナムを訪れます。
激しく長い戦争を戦った両国ですが、ベトナム戦争終結から20年後の1995年にはクリントン大統領(当時)のもとで国交正常化がなされ、クリントン大統領は2000年には米大統領として、ベトナム戦後初めてベトナムを訪問しています。

近年では、中国の南シナ海における勢力拡大をけん制すべく、対中国で利害が一致するベトナムとアメリカの関係が強化されつつあります。

****米大統領、ベトナム訪問=関係発展へ武器禁輸解除焦点****
オバマ米大統領は23〜25日の日程でベトナムを初訪問する。チャン・ダイ・クアン国家主席ら政府首脳と会談し、ベトナムが求めている米国の武器禁輸全面解除の可能性や国防面での交流、経済関係の強化をめぐり意見交換する。中国が進出する南シナ海情勢への対応についても協議する。
 
ベトナムを訪問する米大統領は1995年7月の国交回復後、3人目。
 
オバマ大統領は過去20年以上にわたる国交正常化のプロセスを踏まえ、かつて戦火を交えた両国の包括的な関係進展の道筋を示す歴史的訪問にしたい考え。域内の新興国ベトナムとの関係発展は、アジア太平洋へのリバランス(再均衡)政策の重要な要素となる。【5月22日 時事】
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政府間では関係修復が進んでいる両国ですがベトナムにはいまだ戦争の残した苦しみを背負い続ける人々が多数存在します。

そのひとつが「枯葉剤」の問題です。日本に原爆症が存在するように、枯葉剤も戦争終結後も長く後遺症を残しています。

****枯れ葉剤の被害者「実情見て」 オバマ氏、あすベトナム訪問****
米国のオバマ大統領は日本訪問に先立ち、23日からベトナムを訪れる。ベトナム戦争終結から41年。両国は近年、南シナ海問題での対中国「共闘」や貿易で急接近している。だが、戦争中に米軍が散布した枯れ葉剤の影響は今も深刻だ。「実情を見て」と涙で訴える被害者がいる。
 
ベトナム中部ダナン。米軍が枯れ葉剤散布の拠点としたダナン空港から約10キロの山間部の村で、グエン・ティ・マイさん(50)はオバマ大統領の訪問を知り、「ほんの少しでいい。枯れ葉剤で苦しんでいる私たちの村に来て、この子らの現実を見て欲しい」と涙を流した。
 
ベトナム戦争中、米軍が密林に潜む敵を見つけやすくして掃討するため、大量の枯れ葉剤をまいていた1966年に生まれた。同郷の2歳上の夫と結婚、3人の子は全員、脳や手足に先天的な障害を負っていた。土地が枯れ葉剤に含まれる有毒のダイオキシンで汚染され、夫妻がそこで採れた野菜などを食べて育った影響とみられている。
 
子の1人は寝たきりで、食事も移動も排泄(はいせつ)も一人ではできない。体調が急変し、病院に運び込むことも多い。夫が日雇いで稼ぐ750円ほどの日給と、政府からの補助(月約2千円)で生計を立てている。
 
数キロ離れた地区のボー・ティ・ニャムさん(50)も、下肢と脳に障害がある26歳と16歳の息子の介護に明け暮れる。「私が老いたら誰がこの子の世話をしてくれるの。米国はなぜ、手を差し伸べてくれないの」
 
米政府は4年前から、ダナン空港脇の汚染土壌の除染を始め、今月3日に最初の区画の土(約4万5千立方メートル)の除染を終えた。ダナンで来年開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)に向け、空港を拡張するためというが、被害者の暮らしとは無縁の話だ。
 
米国は枯れ葉剤とベトナム人の健康被害との疫学的因果関係を認めておらず、ベトナム人への補償はしていない。オバマ氏は訪問中、枯れ葉剤被害者との面会は予定していない。
 
ダナンで被害者支援に取り組む団体「DAVA」のファン・タイン・ティエン副代表は「戦後41年がたち、反米感情はほぼなくなった。さらなる友好のため、米国は汚した土だけでなく、人の体にも目を向けて欲しい」と話している。【5月22日 朝日】
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アメリカ側は枯葉剤と奇形・疾病との因果関係を認めていませんが、枯れ葉剤の使用が増えた1960年代後半から現地で死産や先天異常が増加しています。

約300万人が枯れ葉剤の後遺症に苦しみ、うち約100万人は子供と言われています。
下半身がつながった結合双生児「ベトちゃんドクちゃん」の映像は衝撃的でした。

ベトナム政府の対応も充分なものとは言い難いのが実情です。

****奇形や病気の被害、現在も続く****
・・・・ベトナム戦争中の1961~71年の間、米軍はジャングルに逃げ込んでゲリラ戦を展開する北ベトナム軍の戦法に業を煮やし、猛毒ダイオキシンを含んだ枯れ葉剤「エージェント・オレンジ」を4400万リットルを散布した。

最低でも480万人のベトナム人が直接的に被害を受け、多くが死んだ。さらに、生き残った被害者の何百万人もの子孫が奇形や病気に苦しみ、その被害は現在も続いている。

ダイオキシン汚染が激しいビエンホア飛行場のすぐ近くには住宅が密集し、新住民が増えている

ドンナイ省ダイオキシン被害者の会によると、同省の被害者は現在9114人。腕や足の欠損、脳障害、小児がんなど17種類の被害に苦しんでいる。同会のダオ・グエン会長は「政府は土壌浄化に何度も取り組もうとしているが、うまくいかない。新しい技術と費用を出してくれるスポンサーを探さないといけない」と話す。
 
グエンさんによると、ベトナム政府は枯れ葉剤の被害者に月180万ドン(約9900円)の支援金を支給している。ただ、被害者に認定されず、月20万ドン(約1100円)の身体障害者支援金などしかもらえない人も多い。

その判断は病状の重さでなく、父母がベトナム戦争に従軍したかどうかに大きく左右されるという。ベトナムでは入試や就職でも、元兵士の子息を優遇する傾向があり、それを妥当とみなす雰囲気が根付いている。

土壌汚染の浄化とともに、枯れ葉剤被害者を平等に支援する仕組み作りも欠かせない。【2015年11月13日 日経】
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土壌汚染の除去作業は一定に進展
2012年8月10日ブログ「ベトナム 米越合同の枯葉剤汚染除去作業始まる 深まるアメリカとの経済関係」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120810でも取り上げたように、枯葉剤による土壌汚染に関しては、アメリカもその除去作業をベトナムと共同で行っています。

****枯れ葉剤汚染 除染作業の一部が完了 ベトナム****
ベトナム戦争中にアメリカ軍が使用した枯れ葉剤による汚染が深刻なベトナム中部で、アメリカ政府による除染作業の一部が完了し、両国の関係者が出席して式典が開かれました。

ベトナム中部のダナン空港では、ベトナム戦争中、アメリカ軍が大量の枯れ葉剤を保管していたことから、戦後40年以上がたった今も、一部で枯れ葉剤の成分のダイオキシンが高濃度で検出されています。

このため、アメリカ政府は、4年前からおよそ8000万ドル(日本円で85億円余り)を出してダイオキシンを取り除く作業を始め、一部の区画で作業が完了しました。

3日は両国の関係者が出席して式典が開かれ、アメリカのオシウス大使は「われわれは互いに協力し、学び合うことで、歴史的な偉業をやり遂げた」と述べ、意義を強調しました。

除染作業は、汚染された土を鉄のコンテナに集め、300度以上の熱で二酸化炭素や塩化物などに分解するもので、作業が終わった土地は駐機場などとして利用されるということです。

ベトナムでは、高濃度のダイオキシンが検出される場所が30か所近くあるほか、枯れ葉剤の影響とみられる障害や病気に今も大勢の人々が苦しめられており、大きな課題となっています。【5月4日 NHK】
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土壌汚染の除去作業に関しては、日本企業の参画の話も報じられていました。(現在、そのように進展しているのかしりません。)

****枯れ葉剤処理に日本の技術、清水建設参画へ ベトナム****
ベトナム戦争中に米軍が大量に散布した枯れ葉剤。戦後40年たった今も処理は終わらず、高濃度の汚染地帯が残る。その処理に日本の技術を活用しようというプロジェクトが進んでいる。

ゼネコンの清水建設は10月下旬、ベトナムの汚染土壌を浄化実験のために日本に運んだ。福島原発事故関連の土壌浄化でも活躍した技術の高さに、ベトナム政府も注目している。ベトナム戦争の「最大の負の遺産」の一掃につながるかもしれない。(後略)【2015年11月13日 日経】
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枯葉剤の影響は沖縄にも
枯葉剤の問題はベトナムだけでなく、ベトナム戦争当時米軍が沖縄に秘密裏に持ち込み、貯蔵・使用・廃棄したとも指摘されています。

****フタされた米軍戦争犯罪 「沖縄の枯葉剤****
・・・・13年6月、沖縄市のサッカー場改修工事現場から、米軍が埋めたとみられるドラム缶が掘り出された。ドラム缶から漏れ出た液体からは除草剤エージェント・オレンジ(枯葉剤の一種)と同種の成分が検出された。それ以降、発見されたドラム缶は100本を超える。

この地は87年に米軍嘉手納空軍基地から返還された場所。ドラム缶の一部に枯葉剤を製造した大手メーカー「ダウ・ケミカル」の社名が記されていた。(中略)

ベトナム戦争中、米軍は出撃基地である沖縄に枯葉剤を秘密裏に持ち込み、貯蔵・使用・廃棄した。その方法はドラム缶に詰めて、地中に埋めるか海に投棄した。

(『追跡・沖縄の枯れ葉剤 埋もれた戦争犯罪を掘り起こす』(2014年11月・高文研)の著者である英国人ジャーナリスト)ミッチェルさんは10年9月、環境調査のため、水源地の役割を担うやんばるの森に囲まれた沖縄本島北部の東村高江を初めて訪問した。住民から「高江近くの米軍北部訓練場でベトナム戦争中に枯葉剤が使われたのではないか」と疑いの声を聞いた。

これを機に世界を取材して歩いた。米国に行き、退役米軍人のインタビューを敢行し、ベトナムでは毒物の有害性を告発した医師に面会した。その結果、退役米軍人と沖縄住民らが、ガンや白血病、先天性障害児の出生など、枯葉剤が原因と見られる病魔と後遺症に苦しんでいる事実をつかむ。

そして12年10月、ついに沖縄の枯葉剤を証明する米軍の内部資料を入手した。ある退役米軍人が「フォート・デトリック報告書」(71年9月)の一部をミッチェルさんに送り届けた。フォート・デトリックは、米国メリーランド州の米陸軍生物兵器研究施設を指す。

同報告書にはエージェント・オレンジの備蓄地域として「Okinawa」(沖縄)と明記されていた。裏付ける関連文書はこの他にも次々に発見された。

しかし、米国は証拠をいくら突きつけられても沖縄の枯葉剤の存在を認めようとしない。もし認めたら巨額の損害賠償が発生するだけでなく、安保の背後でフタされた米軍の「戦争犯罪」が姿を現すからだ。【2015年9月号 POLITICS】
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真偽のほどはわかりませんが、ネット検索すると、沖縄の枯葉剤問題についてもいろいろ出てきます。

過去の蓋を開くと、いろいろと見たくないもの、認めたくないものが出てきます。
先述のように、立場が異なるとどうしても認識の相違もでてきます。時間が経過して曖昧な部分も多々あります。

重要なのは、被害を受けた相手の気持ちに配慮して誠実に過去に向き合うことでしょう。
そのなかで、謝罪すべきものがあれば謝罪することは、いささかも国家の威信を傷つけるものではないでしょう。

なお蛇足ながら、沖縄の米軍基地に関しては、ここ数日軍属による女性殺害が大きく報じられています。ただ、個人の犯罪行為については、日本人でも米軍関係者でも一定に起こるものであり、米軍関係者という属性だけをとりあげて、その全体を批判することには違和感を感じます。もし、米軍関係者の犯罪率が際立って高いというなら別ですが。

もちろん、基地の存在の是非は、また別問題です。
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