孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ・マドゥロ大統領  米の画策を非難し、経済・政治危機へ緊急事態令 アメリカは関与否定

2016-05-16 22:47:01 | ラテンアメリカ

(ベネズエラの苦境に中国は…(右はマドゥロ大統領)【5月10日 日経】)

中国 ベネズエラの経済危機は同国内の問題と突き放す
昨日取り上げたブラジルに続き、同じ南米・左派政権が窮地に追い込まれているベネズエラの話。

ベネズエラの経済破綻、チャベス路線を継承するマドゥロ大統領の政治的危機については、5月2日ブログ「ベネズエラ 経済悪化でいよいよ追い詰められたマドゥロ大統領 罷免を求める動きも」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160502でも取り上げました。

5月2日ブログで触れたように、世界一高いインフレ率、日常生活や医療にも深刻な影響を及ぼしている電力不足、食料・日用品の供給不足など、ベネズエラ経済は崩壊の瀬戸際に追い詰められています。

****停電で真っ暗、食料や薬も払底、インフレ率「世界一」ベネズエラ 経済危機が反米政権を直撃****
南米ベネズエラの経済危機が深刻化している。輸出の大半を原油に依存してきたが、原油価格の下落で外貨収入は大幅に減った。経済はリセッション(景気後退)に陥り、食料や医療品が不足するなど市民生活を直撃している。

マドゥロ大統領は経済担当の副大統領を交代させる方針を固め難局をしのぎたいところだが、先行きは見通せない。
 
米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、首都カラカスでは停電が慢性化し、ショッピングセンターやスーパーは真っ暗だという。電気の使用時間が政府によって制限されているためだ。
 
停電は日常生活だけでなく、病院や医療施設の運営にも支障をきたす。医療品や人工呼吸器の不足が追い打ちをかけ、同国西部の病院では乳児6人が死亡したニュースが報じられた。
 
スーパーでは食料品が不足しており、市民が闇市で食料や飲料を調達する光景も目立つが、価格が高騰しているため、なかなか手が出せないでいる。
 
議会の過半数を占める野党は、政府による価格統制が背景にあると主張し、今月11日、食料危機を宣言。政権の責任を追及する構えをみせている。

これに対し、マドゥロ氏は経済担当副大統領を交代させることで、状況の悪化に歯止めをかけようとしている。ロイター通信によると、マドゥロ氏はサラス副大統領に代えて、財界との関係が深い穏健派を起用する方針。
 
ウォールストリート・ジャーナルが国際通貨基金(IMF)のデータを引用して報じたところによると、今年の同国のインフレ率は世界で一番高い700%に達する見通し。2015年の経済成長はマイナス10%だったが、今年はさらにマイナス8%となる可能性が指摘されており、このままでは市民生活はさらに悪化すると予想される。
 
マドゥロ氏やその周辺からは「米国を中心とする敵対勢力が経済戦争を仕掛けている」「民間企業が政権の不安定化を狙っている」といった声が聞かれるが、経済悪化の影響は、政権与党が大敗した昨年12月の総選挙にもはっきりと表れていた。

食料をはじめとする物資不足が、反米左派政権の勢力衰退に拍車をかける情勢になってきた。
石油輸出国機構(OPEC)加盟国のベネズエラは協調減産を訴えているが、各国の温度差もあり実現へのハードルは高い状況だ。【2月17日 産経】
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マドゥロ政権は債務国・中国の支援を求めていますが、経済状況が芳しくない中国としても、おいそれとは救済の手を出せない状況です。

****夢追う国の限界(1)「L字」停滞の恐怖 ****
「借り入れ条件を見直してほしい」。南米ベネズエラのデルピノ石油鉱業相は3月1日、中国・北京を訪れた。中国の国策銀行、中国国家開発銀行に対して借金の負担軽減を申し入れるためだ。
 
米国の「裏庭」に位置するベネズエラは、2000年代に反米左派へ走った。接近したのは米国と並ぶ大国になることを「夢」とうたう中国だ。

中国国家開発銀がベネズエラの国営石油会社などに融資し、豊富な埋蔵量を誇る同国の原油で返済する仕組みをつくった。中国経済の高成長と、それに伴う原油需要の急増という「右肩上がり」が筋書きの前提だった。

■狂った目算
ところが目算が狂う。米国のシェールガス革命に加え、中国の経済成長が鈍化。原油価格は下落し、ベネズエラが05年から受けた累計650億ドル(約7兆円)の融資は「年末までに債務不履行(デフォルト)に陥る可能性が高い」(米大手格付け会社)。
 
ベネズエラを含む主要産油国が4月17日に見込んでいた増産凍結の合意も流れ、苦境は続く。それでも中国は同国のSOSに応えられずにいる。
 
08年に米国発の金融危機が世界に広がるなか、中国は4兆元(当時の為替レートで50兆円超)の巨額対策で経済を「V字」回復させた。それがいまでは当局者も「今後は『L字』だ」と口をそろえる。

景気は失速せず安定に向かうと言いたいようだが、製造業の過剰設備や急速な高齢化などの重みで、長期停滞の「L字」となる恐れが漂う。

その衝撃は、すでに世界を揺さぶっている。(後略)【5月10日 日経】
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中国はベネズエラを見捨てる方針のようです。

****ベネズエラの危機は「国内の問題」=中国外務省****
中国外務省の報道官は16日、ベネズエラを支援する計画があるかとの質問に、ベネズエラの経済危機は同国内の問題との認識を示した。

ベネズエラは2007年以降、中国から約500億ドルの金融支援を受けているが、原油価格の急落で経済が危機的状況にある。(中略)

報道官は「ベネズエラが現下の国内状況に適切に対処し、国の安定と発展を守ることを希望する」と述べた。ただし、ベネズエラの状況について具体的なコメントは控えた。【5月16日 ロイター】
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ベネスエラが石油や経済支援で支えてきたキューバは、経済危機に陥ったベネズエラに見切りをつけて、アメリカとの関係改善に動いています。国際的な孤立も深まっています。

アメリカ 「ベネズエラの政権転覆を狙ってはおらず、危機を和らげたいだけだ」】
こうした危機的状況にあって、マドゥロ政権はガソリン価格の14倍~60倍引上げ、節電のための公務員週休5日制、標準時変更などの対応をとっていますが、昨年末の総選挙で野党勢力が3分の2を獲得したようにマドゥロ批判が高まっており、大統領罷免のための国民投票を求める動きも活発になっています。

昨日取り上げたブラジルでも、左派ルセフ大統領を引きずりおろした右派・保守旧勢力のクーデターとも見える動きの裏に、石油利権を狙うアメリカの思惑があるのでは・・・という指摘がありました。(単なる“陰謀論”にすぎないかもしれませんが)

ましてや、故チャベス大統領のもとで反米の急先鋒にあったベネズエラですから(産油国でもありますし)、当然のごとくマドゥロ政権打倒の動きにアメリカが関与しているのでは・・・という話も出てきます。

今回のベネズエラで実際にどのようにアメリカが関与しているかは知りませんが、これまでアメリカが中南米で数多くの“陰謀を画策”し、幾多の政権崩壊に関与してきたことは事実ですから、そうした話が出るのも“不徳の致すところ”でしょう。

ベネズエラに関してはアメリカは関与を否定し、「崩壊を憂慮している」とも。(ことさらに陰謀を画策せずとも、放置すれば反米左派政権が自壊すると思われますので)

****米、ベネズエラ経済・政治の崩壊を憂慮=高官****
5月13日、米諜報当局の高官2人は13日、ベネズエラが経済的・政治的に崩壊する可能性について、米国が懸念を強めていることを明らかにした。

高官らは少数の記者団を相手に状況説明を行い、債務不履行(デフォルト)、国民の抗議行動の広がり、石油産業の状況悪化などが崩壊の引き金になるとの見方を示した。

野党から罷免を求められているマドゥロ大統領については、大統領自身が年内の再選挙を認めないが、2019年までの任期を全うすることはできないとの見通しを示した。

実現性の高いシナリオとして、大統領自身の政党、あるいは有力政治家から更迭される可能性を挙げ、軍事クーデターが起こる恐れも排除できないとした。もっとも現在のところ具体的な陰謀が計画されている証拠は見当たらず、大統領が国民の支持を失った様子も見られないという。

ベネズエラ政府はこれまで債務を期日通りに返済し続けているが、今後はデフォルトを起こすリスクがあるとも指摘した。

米政府の対応については、米国が口出しするとベネズエラから陰謀と非難されるため、取れる手段は乏しいと説明。オバマ大統領は同国が混乱に陥らないよう、周辺地域で尽力したい考えだとした。

高官の1人は「氷の割れる音が聞こえる。危機は近づいている。われわれが圧力をかけても問題は解決しない」と語った。米国はベネズエラの政権転覆を狙ってはおらず、危機を和らげたいだけだ、とも強調した。

マドゥロ大統領は13日、国内の一部勢力と米国が仕組んだ政権転覆計画があるとの理由から、60日間の非常事態を宣言している。【5月16日 ロイター】
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国内反政府勢力へのアメリカからの資金・情報提供などがあっても不思議ではありませんが、現在の経済・政治危機はそうした“陰謀”によるものではなく、故チャベス大統領以来の経済無策のつけが回ってきたことが基本にあって、マドゥロ大統領の対応のまずさへの国民の怒りが主導して生じているものでしょう。

マドゥロ大統領 「米国などが政権転覆計画」と緊急事態令 困難さを増す危機乗り切り
マドゥロ大統領はいつものようにアメリカの画策のせいだとして責任転嫁しようとしていますが、もはやそのような話は通用しないでしょう。

***ベネズエラ大統領が非常事態宣言、「米国などが政権転覆計画****
5月13日、ベネズエラのマドゥロ大統領は、国内の一部勢力と米国が仕組んだ政権転覆計画があるとの理由から、60日間の非常事態を宣言した。

マドゥロ氏は非常事態宣言の詳しい内容を示さなかったが、昨年コロンビアとの国境近くの州で実施したケースでは、これらの地域で人権保障関連部分を除く憲法の適用を停止した。

これに先立ち、米国の情報機関当局者は記者団に対して、ベネズエラが経済的・政治的に崩壊する可能性への懸念を高めていると語った。

ベネズエラでは食料および医薬品不足や停電の頻発、物価高騰など経済危機が深刻化し、野党がマドゥロ氏の罷免を目指している。しかしマドゥロ氏は任期を全うする構えで、米国が水面下でのクーデターを扇動していると批判している。

マドゥロ氏は13日の国営テレビで、ブラジル上院でルセフ大統領の弾劾法廷設置が承認された動きを引き合いにして「米政府はベネズエラの右派の要請に基づいて具体的な手段を発動しつつある」と力説した。【5月16日 ロイター】
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マドゥロ政権は緊急事態令のもとで、力ずくででも工場に商品生産・出荷をさせようともしているようですが、市場原則を無視した対応では事態の好転は無理でしょう。

****ベネズエラ大統領、新たな緊急事態令 停止工場を一斉取り締まりへ****
深刻な経済危機に見舞われているベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は14日、新たな緊急事態令のもとで一斉取り締まりを実施し、操業を停止した工場の差し押さえやその経営者を逮捕すると述べた。

また軍事介入といった国外からの脅威など「あらゆる状況に備える」ため軍事演習を21日に実施すると発表した。
 
食料不足や物価高騰、暴動、略奪、自警団による裁きなどを引き起こし、ベネズエラを崩壊寸前に追い込んでいる深刻な経済危機への対応に追われているマドゥロ大統領は13日、「ベネズエラの極右派」の要請を受けて、同国を不安定化させているとして米国を非難するとともに、緊急事態令を宣言した。
 
新たな緊急事態令は、同大統領が1月に宣言した「経済緊急事態」を全面的な非常事態に拡大するかたちとなる。
 
首都カラカスで14日に行われた集会で同大統領は、緊急事態令のもと、いくつかの対策が取られると支持者らに述べたが、その内容はまだ正式には発表されていない。
 
マドゥロ大統領は、「資本家階級によってまひさせられているわれわれの生産能力を回復するため、あらゆる対策を取らなければならない」、「(生産を)停止し、国に対する妨害活動を行いたい者は全員出ていくべきだ。そして、実際に停止した者は逮捕され、刑務所に送られなければならない」と、声援を送る支持者らに語った。
 
ベネズエラでは先月30日、同国最大の飲食品会社ポーラー・グループが、政府の不手際により大麦をもはや輸入することができないとしてビールの生産を停止している。【5月15日 AFP】
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前回ブログでも書いたように、“デフォルトが先か、リコールが先か・・・”という選択が現実味を増しています。
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