孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  首相辞任でエルドアン大統領の強権姿勢が更に強化される懸念 親族の不正蓄財疑惑も

2016-05-09 22:50:25 | 中東情勢

(息子のBilal氏(中央)、娘のSumeyye氏(右)と共にAKP支持者に応えるエルドアン大統領 【5月8日 RT】)

大統領に忠実な人物だとみなされてきたダウトオール首相の辞任 EUとの難民問題合意は?】
トルコのエルドアン大統領が“極めて自己主張の強い”人物であることは今更の話ではありますが、彼が大統領に就任するにあたって“エルドアン氏の政策方針に忠実な人物”ということで首相に起用されたダウトオール氏をもってしても、エルドアン大統領の権力欲を満足させることは難しかったのでしょうか?

****トルコ首相が退任表明 ダウトオール氏、エルドアン大統領と確執か****
トルコのダウトオール首相は5日、首相とイスラム系与党「公正発展党」(AKP)党首の座から退く考えを示した。AKPは22日に臨時党大会を開いて後任党首を選出し、新党首はその後、国会で首相指名を受ける見通しだ。

退任理由は不明だが、AKPの実質的な指導者であるエルドアン大統領と確執があったためとの見方も浮上。新党首指名にはエルドアン氏の意向が強く反映されるとみられ、これにより同氏の権威がいっそう高まる可能性がある。
 
AKP幹事会後に会見したダウトオール氏は「大統領に対して批判的な意見を口にしたことはないし、今後もしない」と述べ、エルドアン氏との対立が退任の原因だとの見方を否定した。ダウトオール氏は、首相退陣後も国会議員としてAKPにとどまるとも述べた。
 
ダウトオール氏は、首相職にあったエルドアン氏が2014年に大統領に就任したのに伴い、後継の首相に就任。憲法上は名目的な元首で強い行政権限は持たないエルドアン氏の政策方針に忠実な人物だとみなされてきた。
 
野党勢力からは、ダウトオール氏の突然の退任は、よりエルドアン氏が影響力を行使しやすい人物を首相に据えるためのものだとして、「ダウトオール氏は退任すべきではない」との批判が噴出している。
 
エルドアン氏は、最初に首相に就任した2003年以降、一貫してAKP政権のトップに君臨し、大統領就任後は現在の議院内閣制から大統領中心制への憲法改正を目指している。
 
都市部などを中心に、エルドアン氏への権力集中への批判も根強いが、政府は近年、エルドアン氏に批判的なメディアへの締め付けを強めるなど、強権色を強めている。【5月6日 産経】
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ダウトオール首相は、欧州難民問題に関し、ドイツ・メルケル首相との間で難民のトルコへの送還等に関する合意を取りまとめた主導者であり、エルドアン大統領はこの合意に不満を抱いているとも報じられています。

ドイツは、ダウトオール首相辞任で合意が白紙に戻るような事態を憂慮しています。

****トルコ、首相辞任でも難民流入抑制めぐる合意順守を=独報道官****
ドイツ政府のストライター報道官はトルコに対し、欧州連合(EU)への難民・移民の流入抑制について双方が合意した内容を守るよう期待していると述べた。

トルコではエルドアン大統領と対立していたダウトオール首相が5日、辞任を表明。EUとの合意はダウトオール首相の下で決定したもので、その継続性に対する懸念が広がっている。

報道官は「メルケル首相とダウトオール首相との協力は非常に上手くいっていた。この良好で建設的な協力関係がトルコの新首相との間でも維持されることを期待している」と言明。

「トルコ側がコミットメントを履行するよう求める。この合意はEUとダウトオール首相の間のものではなく、EUとトルコの間の合意だ」と強調した。【5月6日 ロイター】
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もっとも、今回合意のような重要案件で、ダウトオール首相がエルドアン大統領の了承なしに話を進めたというのは、ちょっと考えにくいことではありますが・・・・。

もし、ダウトオール首相がエルドアン大統領の不満を押し切って合意したということであるのなら、ダウトオール首相も相当にしたたかな政治家だったということでしょうか。それが命取りにはなりましたが。

その程度はよくわかりませんが、エルドアン大統領とダウトオール首相の間で、合意に関する温度差があったのは事実でしょう。

エルドアン大統領のEU批判
エルドアン大統領は、難民問題やシリア問題でのEU側の“欺瞞に満ちた無責任で利己的”姿勢を痛烈に批判しています。下記は、トルコメディアTRT(トルコ・ラジオ・テレビ協会)の記事です。

****エルドアン大統領 「トルコはテロとの戦いで孤立している****
レジェプ・ターイプ・エルドアン大統領は、シリアでテロ組織DEASH(ISIL)と戦っているという者たちが、まったくトルコほど死傷者を出していないとし、組織との戦いでトルコが孤立化していると話した。

エルドアン大統領は、イスタンブールチェキメキョイ市役所で行なわれた「正義と慈悲」のタイトルで行なわれた国際短編映画コンテストの授賞式に出席し、映画愛好家の若者たちを称賛し、入賞した作品の制作者たちを祝福した。

エルドアン大統領はここで行なったスピーチで、世界のある地で罪なき人々が虐殺される中、世界のその他の地では何十億もの人々が心を痛める無関心さの中、自身の快適さを高めることを追求していると指摘し、「残虐な独裁者や残忍なテロ組織の脅威から逃れた無力な子供や女性たちは、思いやりを持って開かれた腕ではなく、閉ざされたゲートや壁で覆われた国境を目の当たりにしている。」と評価した。

シリアで6年にわたる動向に対し、人類は悪い点数を取ったとしたエルドアン大統領は、「トルコが心と国境を抑圧されたり被害を受けたりした人々に開く中、三猿の振りをする者たちは、問題が自分たちに降りかかるとまず国境ゲートを閉鎖した。だから彼らには慈悲はなく、正義もない。彼らには独裁があり、残忍さがある。我々が問題を根源から解決し、シリアで安全地帯を構築し、人々が移住を余儀なくされている原因を排除しようと提案したにもかかわらず、問題を執拗にその他の方向へ向かわせようとした。」と述べた。

エルドアン大統領は、「シリアでDEASHと戦っているという者たちは、まったくトルコほど犠牲を払っていない。一方では自爆によって、また一方ではキリスに対する攻撃によって我々を苦しませているこの組織に対する戦いで、我々は孤立している。アンカラやイスタンブールで爆発した爆弾に対する反応と、パリやブリュッセルで行なわれた行為に対する反応の違いは、不公平さが具体化した状態以外の何物でもない。」と述べた。

国際連合で、キリスト教徒のみによって構成された理事会があることにも注意を促したエルドアン大統領は、「1700万人のムスリムが暮らすこの世界で、国連でムスリム諸国の裁量権や勇決がない。我々はこれを訴え続けていく。話しながら、対話しながら、説きながら、遅かれ早かれ5大国以外の190か国にも国連での代表を確立する、確立する必要がある。」と話した。

シリアでの戦争解決に関し、常任理事国5か国中1か国が「ノー」と言えば、国連でいかなる取り組みも行なわれないと述べたエルドアン大統領は、「このような正義がありうるだろうか。このような安全保障理事会からどのような正義が期待できるか。なぜ自分たちを欺いているのか。」と反発した。【5月9日 TRT】
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強権姿勢を強めるエルドアン大統領
上記記事にあるエルドアン大統領の欧州批判・国連安保理批判のかなりの部分はもっともな指摘です。

ただ、そのことは、トルコ・エルドアン大統領の行ってきたことが、善意に満ちて博愛的なことだったということを意味するものではありません。

国内でのテロ激化にしても、シリアにおける「安全地帯」構築の主張にしても、トルコはトルコの都合で、クルド系勢力への攻撃などを行ってきていることに関連しているとも言えます。

また、エルドアン大統領が近年、国内において批判的勢力・メディアへの強権的な弾圧を強めていることへの正当化にもなりません。

****左派系紙2人に禁錮刑=国家機密暴露の罪―トルコ****
トルコのアナトリア通信などによると、イスタンブールの裁判所は6日、同国の情報機関によるシリアへの武器輸送疑惑を報じた左派系紙ジュムフリエットのジャン・デュンダル編集長と同紙アンカラ支局のエルデム・ギュル支局長に対し、国家機密を暴露した罪で、それぞれ禁錮5年10月と同5年を言い渡した。政府転覆を図った罪については無罪となった。
 
AFP通信によると、デュンダル編集長は判決後、「私たちを黙らせようと試みても、記者としての仕事を続ける」と宣言した。
 
判決前には、裁判所の外で男がデュンダル編集長に「裏切り者」と叫びながら銃を発砲。編集長にけがはなく、男はその場で取り押さえられた。【5月7日 時事】 
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親族の不正蓄財疑惑も
更に言えば、エルドアン大統領の親族に関して、不正蓄財の疑惑も報じられています。
下記は、ドイツ大衆紙であるBild紙の報道を、トルコと対立関係にあるロシアのメディアが取り上げた記事です。

なお、下記は私が適当に訳したものですから、正確なところを知りたい方は、ロシア・トゥデイhttps://www.rt.com/news/342240-bild-erdogan-children-money/、あるいはBild紙のhttp://www.bild.de/politik/ausland/recep-tayyip-erdogan/wer-gehoert-zu-den-vertrauten-des-tuerkischen-praesidenten-45692482.bild.htmlをあたってください。

****エルドアンの子供の巨額の富はどこから? 独ビルド紙の報道****
彼らの父親が国家元首として1年につき約5万ユーロを得るだけであるのに、レジェプ・タイップ・エルドアン ・トルコ大統領の子供たちがどのように莫大な富(数千万ユーロ の価値がある資産を含む )を蓄えることができたのかということについて、ドイツの新聞Bild紙は問題を提起した。

「彼らの父(エルドアン大統領)は1年につき約5万ユーロ得ているが、彼の子供たちは贅沢三昧に暮らしている。その富はどこから来たのか? その件に関する公式データはない 」と、Bild紙 は述べている。

記事 はトルコの反政府的新聞Cumhuriyetによって発表されたデータ を引用している 。それによれば、エルドアンの家族 (娘を含めて)の皆が化粧品、インスタント食品、海運業や宝石のような分野に関するビジネスを行っているようだ。

Bild紙は、エルドアンの息子の1人であるAhmetの資産が、どうやってそれを得たかに関していろんな噂があるところではあるが、約8000万ドルに達することを指摘している。

「トルコ政府からの支援を得ているのではないか?」という疑問は当然のことであると、Bild紙 は述べている。

Bild紙はまた、大統領の次男Bilalが「不法で犯罪的な取引への関与」といったメディア見出しでしばしば登場すると付け加えている。

実際のところ、Bilal は彼の資産が、トルコ与党AKP党を巻き込んでトルコの既成政治勢力を揺り動かしている2013年に発覚した大規模な政治的な汚職スキャンダルに関係しているのではないかとの訴えで、最近イタリアで審理されている。(中略)

彼には、彼の姉妹とともに、贈収賄の疑いがかけられている。

Bild紙はまた、昨年イギリスのガーディアン紙が公表した件に注目している。ガーディアン紙は、トルコのビジネスマンが、「イスラム国(IS)」との間で、違法な石油密輸のような、いろいろな取引に活発に関与していることを明らかにした。

「ガーディアン紙が明らかにした関係者うちの1人がBilal Erdogan である 」と、Bild 紙は指摘している。

一方、エルドアンの家族の1人が、近々トルコ政府の指導的地位につくことになるかもしれない。(中略)

エルドアンは、まだ辞任したダウトオール首相の後継者を任命していない。
しかし、エルドアン大統領は間違いなく後任首相が大統領により柔順なことを望んでおり、エルドアンの義理の息子であるエネルギー大臣 Berat Albayrakがその条件をみたすのではないかとも目されている。【5月8日 ロシア・トゥデイ】
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記事の最後に指摘されている義理の息子の首相指名については、他の情報は得ていません。
もし、そういうことになれば、エルドアン大統領の独善的な姿勢が更に強化されることが憂慮されます。
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