孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スイス  ベーシック・インカム(最低所得保障)制度の導入を求める国民投票実施

2016-05-18 23:37:35 | 欧州情勢

【5月15日 AFP】

ベーシック・インカム 国民全員に最低28万円を保障
スイスで来月5日、すべての国民に月額2500フラン(28万円程度)を無条件に保障する「ベーシック・インカム」の導入に関する国民投票が行われるようです。

****毎月28万円の所得保障は是か非か、スイスで来月国民投票****
スイス・ジュネーブで14日、ベーシック・インカム(最低所得保障)制度の導入を求める団体の巨大ポスターが公開され、ギネスブックの世界記録に認定された。
 
ポスターの大きさは8115平方メートル。黒いシートに「所得が保証されたら、あなたはどうしますか?」という意味の英語が金色の文字で書かれている。
 
ジュネーブ中心部のプランパレ広場でこのポスターを公開した団体「ベーシック・インカム・スイス」は、財政が豊かな同国の全成人を対象に、毎月の最低所得を2500スイス・フラン(約28万円)にするよう求めている。
 
ギネス記録に挑戦したことについて質問されたベーシック・インカム・スイスの広報担当者は、最低所得保障の問題は「地球上で最大の問い」なのだから、物理的にも文字通り世界一大きな問いとして提示したかったと述べた。
 
ベーシック・インカム制度の賛成派は昨年10月、国民投票の実施要件である10万人を超える署名を政府に提出。これを受けて導入の可否をめぐる国民投票が来月5日に実施されることになった。
 
ベーシック・インカムは最低賃金とは別のもので、失業保険の受給資格がない人々や申請を希望しない人を含むスイスの全成人に、1か月につき少なくとも2500スイス・フランの所得を法律で保障するという内容。
 
賛成派は、ベーシック・インカムは所得と仕事とのつながりを切り離すセーフティーネットになると主張している。一方で専門家からは導入すれば増税が必要になるのはほぼ確実だとする意見のほか、勤労意欲が失われると不安視する声も上がっている。
 
ベーシック・インカム・スイスは、不本意な仕事を拒否し、基本的な生活費が保障された状態で関心のある事柄を追求する自由があるべきだと主張している。(後略)【5月15日 AFP】
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ベーシック・インカムは就労の有無にかかわらず、全国民に給付される制度です。

****最低生活保障」(ベーシック・インカム)の仕組み****
発起者の提案は次の通り。
非就業者にはベーシック・インカムを無条件で給付する。就業による収入がある人の場合、給与の中からベーシック・インカムに相当する金額が吸い上げられ、その代わりに、ベーシック・インカムが給付されるので、収入に変化はない。

具体的な例を示すと、月1500フラン(約17万円)の収入がある人は、ベーシック・インカムを仮に2500フランと設定すると、千フランの追加収入を得る。給与が2500フランの場合は、収入に変化はない。

6500フランの収入がある場合は、2500フランがベーシック・インカムの財源としてすい取られ、給与の金額は4000フランとなる。だが、ここにベーシック・インカムとして2500フランが支払われるため、最終的には合計6500フランの収入となる。

社会保障の給付金にもこれと同じ方法が適用される。上限の2500フランまではベーシック・インカムによって補償され、それ以上の分はこれまで通り社会保障制度から給付される。

この方法で、ベーシック・インカムに必要な財源の約88%をカバーできる。残りの12%については、新しい税金を導入するなどして別の財源を確保しなければならない。【4月28日 swissinfo.ch】
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スイスでは10万人の署名を集めればどんな案件(国際法に反していなければ)でも国民投票が可能で、これまでもしばしばそうした国民投票が行われています。

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・給与の上限、1:12まで(65%が反対) (最低賃金者が1なら最高が12まで)
・徴兵制の撤廃(73%が反対)
・最低賃金、時給22スイスフラン(約2600円)(76%が反対)
http://labaq.com/archives/51863874.html
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国際的に注目されたのは2014年2月に行われた移民規制に関する国民投票でした。欧州全体に反移民の風潮が高まるなかで、スイスもそうした傾向が近年強く、僅差で規制案が支持されました。

****スイス、移民規制を支持=国民投票で小差―EUと関係悪化も****
スイスで(2014年2月)9日、欧州連合(EU)加盟国などからの移民流入規制をめぐる国民投票が行われ、政府発表の即日開票結果によると、賛成が50.3%、反対が49.7%となった。

州を単位とする投票でも全26州のうち過半数の17州で支持された。賛否の票数の差はわずか約1万9000票だった。投票率は55.8%。
 
スイスはEU非加盟国だが、人の移動を双方で自由に認める協定をEUと結んでいる。投票結果を受け、EUは直ちに遺憾の意を表明。今後、スイスとEUの関係が悪化する恐れがある。【2014年2月10日 時事】 
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【「目先の生活の必要から少し離れて、自分が社会のために何ができるのかを見つめて、そのために生きていくことができる」】
今回の国民投票も、そうしたなかのひとつです。

提案者の意図は、単にカネが欲しいというものではなく、「ベーシックインカムの導入によって、人は目先の生活の必要から少し離れて、自分が社会のために何ができるのかを見つめて、そのために生きていくことができる」「資本主義が支配し、労働において自動化が進む社会が生み出す問題への解決策だ」という、生き方や労働の本来の意味を問うもののようです。

****スイス、世界で初めてのベーシックインカム導入国民投票へ****
昨年12月、フィンランドがベーシックインカムを導入するという記事が拡散したが(実際は誤報で計画が立てられ始めた段階)、スイスが世界初のベーシックインカム導入国になるかもしれない。

今年の夏、スイスでは「ベーシックインカム制度」の実現に向け国民投票が行われる予定だ。これが可決されれば、成人に対して毎月2,500スイスフラン(約30万円)、子供は625フラン(約7.5万円)が無条件で国から支給されることとなる。

年間の財源は2080億フラン(約25兆円)が必要だと予測されている(スイスのGDPは6428億フラン)。
この財源の出処は、1530億フランが税金によって、550億フランは社会保障費を削減するとしている。

また、ベーシックインカムをもらうことで、仕事を辞めてしまう人が増えるという懸念があり、1076人を対象にした調査では、約3分の1の人が「他の人は仕事をやめる」と答えている。

この動きを主導したのは市民団体で、国民投票に必要な10万人以上の署名を集めて議会に提出、国民投票を行うこととなった。

ベーシックインカムとは?
そもそもベーシックインカムとは、最低限の所得保障の一種で、政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で定期的に支給するというものである。

メリットは?
メリットとしては、貧困対策、少子化対策、社会保障制度の簡素化(による人員削減、利権の縮小、小さな政府の実現)、が主に挙げられる。

デメリットは?
一方、デメリットとしては、労働意欲の低下、財源の確保、また在住外国人に対しても同様に支給した場合移民が殺到し財政破綻する可能性がある。

スイスで署名活動を推進した中心人物は、「ベーシックインカムは貧困の削減だけのためのものではなく、むしろ生き方、働き方に関わる問題だ」と語る。

「現在の経済のしくみでは、一部の特権的な人びとはともかく、多くの人は食べるために働かなくてはならない。仕事とは、本来、共同体のため、他の人のため、社会のためであるはずなのに、それが自分と家族が何とか生きのびるためになってしまっている。ベーシックインカムの導入によって、人は目先の生活の必要から少し離れて、自分が社会のために何ができるのかを見つめて、そのために生きていくことができる」。

今後、ロボットによる無人化などによって、必要な労働量が減り、”失業率”が世界的に高まる可能性が高い。その時にセーフティネットをどう確保するのかというのは遅かれ早かれ重要な課題となるのは間違いない。

日本ではまだ議論が始まっていないが、そろそろ本格的に議論すべきかもしれない。その時、ベーシックインカムも一つの有力な選択肢となるだろう。【2月1日 BLOGOS】
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「ベーシックインカムの導入によって、人は目先の生活の必要から少し離れて、自分が社会のために何ができるのかを見つめて、そのために生きていくことができる」と言われると、「なるほど・・・」とも思えます。

ベーシック・インカムがあれば、国民は皆それぞれやりたい仕事に没頭でき、教育、創造性、ボランティア活動が促進されるほか、高齢や病気の家族の世話や育児にもより多くの時間を費やせると提案者側は主張しています。

働かなくなってしまうのでは?】
しかし、働かなくても約28万円もらえるなら、多くの人が働かなくなってしまうのでは・・・という素朴な疑問があります。

提案者側は、「そんなことにはならない」と考えているようです。

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最低生活保障額として国が月々2500フランを無条件に給付することになったら仕事を辞めるという人はわずか2%。状況によっては辞めるかもしれないという人は8%。

これは、発起者の依頼により世論調査機関デモスコープが行ったアンケート調査の結果で、昨年11月末にドイツ語圏とフランス語圏の有権者1076人が回答した。【4月28日 swissinfo.ch】
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ただ、自分は辞めないけど、他の人は辞めるかも・・・とのことようです。
“約3分の1の人が「(導入されたら)他の人は仕事をやめる」と答えている”(おそらく上記調査と同じものでしょう)という状況では、制度の財政的破たん、何よりも「勤労」という社会価値の崩壊の危険が強く懸念されます。

嫌な仕事を生活のために無理に続ける必要はない・・・というのが、そもそもこのベーシック・インカム導入の思想ですから、仕事を辞める人が一定に出ることは当然とも言えます。それがどの程度かが問題になります。

今回提案は、政党ではなく一般市民によるものです。

****政党ではなく、一般市民によるイニシアチブ****
これは独立した一般市民からなるグループから生まれたアイデアだ。政党はまったく関心を示していない。

連邦議会でも右派や中道派の政治家は全員拒否の姿勢を示し、わずかな支持が左派や環境派で見られたのみ。

下院では反対157、賛成19、白票16で否決され、上院では唯一バーゼル選出のアニータ・フェッツ社会民主党議員が賛成票を投じた。【4月28日 swissinfo.ch】
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“2500スイス・フラン(約28万円)”という金額については、日本的感覚では、「そんなにもらえるの!」とも思えますが、スイスは物価が非常に高い国で、その金額でも都市部ではやっと暮らせる程度だとの指摘もあるようです。

【「無関心のグローバル化」】
この話を聞いた最初の印象は、ベーシック・インカムの是非とは全く違う話ですが、全国民に28万円を保障するカネがあるぐらいに豊かであるなら、その一部でいいから、世界の飢えや貧困で苦しむ人々、住む場所を奪われた難民に与えることで、スイス国民だけでなく、全世界の人々の「幸せ」が向上するのではないか・・・という思いでした。

もっと言えば、一方で飢えや貧困で苦しむ国が多数あるなかで、28万円を一律保障しようという国もある。世の中というのは不公平なものだ・・・という感じです。先述のように、スイスでは移民規制の国民投票が支持されたということもあっての感想です。

生まれた国の違いで、なぜこんなに差があるのか?国家の枠組みは、そうした格差を「仕方ない」と切り捨てるものなのか?

****<ローマ法王>ペットより隣人を愛せよ…警鐘鳴らす****
ペットよりも苦しむ隣人を愛して−−。フランシスコ・ローマ法王は14日、現代人が猫や犬などのペットを偏愛するあまり、人間同士の連帯が時にないがしろにされていると嘆いた。
 
イタリアのANSA通信によると、法王はバチカンのサンピエトロ広場で開かれた謁見で、カトリック信徒らを前に「猫や犬には大きな愛情を感じているのに、隣人の飢えは手助けをせずに放っておく人をしばしば目にする」と述べた。
 
法王は、難民・移民やホームレスなどの弱者を助ける「貧者の教会」路線を掲げており、他人の苦しみを実感できない現代の「無関心のグローバル化」に警鐘を鳴らしている。【5月15日 毎日】
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別に、私はクリスチャンでもバチカンの回し者でもありませんが、法王の宗教者としての指摘には賛同できるものが多々あります。

多くを分かち合うほど寛容ではありませんが、少しぐらいなら・・・それで多くの人が救われるなら・・・という思いはあります。

もちろん“その一部でいいから、世界の飢えや貧困で苦しむ人々、住む場所を奪われた難民に・・・・”云々は、非常に単純な発想ではありますが、そういう思いを現実政治に反映させる道筋をつくるのが政治の役割ではないかとも思っています。

「ベーシック・インカム」以上に非現実的理想論と嗤われるのでしょうが。
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