孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州難民問題  難民滞留がギリシャに大きな負担を ドイツでは「1ユーロジョブ」制度

2016-05-19 22:42:07 | 難民・移民

(「1ユーロジョブ」で働く難民男性【5月19日 AFP】)

【「収益性の高い」難民ビジネス
欧州を目指す難民・移民については。いわゆる「バルカンルート」が事実上閉鎖されたことにともなって、より危険なリビアからイタリアなどを目指す「地中海ルート」にシフトしつつあります。

「バルカンルート」にしても、「地中海ルート」にしても、そのルートそのものの困難さ以外に、こうした難民を「商品」としてしか見ない、しかも安全に「商品」を送り届けるつもりもない密航業者によってもたらされる危険もあります。粗末で危険な船に難民らを詰め込んで海に放り出すようなことが行われています。

そうした難民斡旋はいまや一大ビジネスとなっています。

****<難民>あっせん収入7400億円・・・欧州警察機構など推計****
欧州刑事警察機構(ユーロポール)と国際刑事警察機構(インターポール)は17日、欧州を目指す難民・移民の密入国をあっせんする犯罪組織についての報告書をまとめた。
 
欧州に入った難民・移民の9割近くがこうした組織を利用しており、その「売り上げ」は昨年だけで50億〜60億ユーロ(6180億〜7415億円)に上ったと推計している。
 
報告書によると、あっせん組織の拠点は欧州連合(EU)内外の空港や駅などがある地域を中心に250カ所近くあり、国境警備の買収なども手口となっている。

経費がさほどかからない「収益性の高いビジネス」と分析しており、シリアなどに渡った戦闘員が欧州に戻るためにあっせん組織を利用したりし、売り上げは、テロリストのネットワークの資金源になっている可能性もある。
 
報告書によると、EU内部からの移民も含めたあっせん組織への平均支払額は3000〜6000ユーロ。支払い方法は約半数が現金で手渡し、2割はイスラム社会で広く使用される送金システム「ハワラ」などを使用したという。

支払いが困難な場合は、返済のために強制労働や性的搾取の対象となりやすいと指摘している。【5月18日 毎日】
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【「新たなギリシャ危機」に追い打ちをかける難民滞留「人間の倉庫」】
ギリシャにおいては、ギリシャを目指す難民らが激減した一方で、「バルカンルート」閉鎖によってギリシャ国内に留まることを余儀なくされた大勢の難民らが発生するという問題が生じています。いくら難民らが多くても、素通りするだけならそんなに大きな問題にもなりませんが・・・。(素通りすら拒否する国は多々ありますが)

ギリシャは、この夏、100億ユーロを超す債務の返済期限がやって来ます。ツィプラス首相が新たな融資を取り付けられない限り、デフォルト(債務不履行)に陥りかねない「新たなギリシャ危機」に直面しています。

そうした財政危機状態にあっての難民滞留は、ギリシャにとって大きな負担となりつつあります。

****ギリシャを襲う理不尽な現実****
「通過国」から「人間の倉庫」へ
・・・・ギリシヤは過去1年間ほど、ヨーロッパに押し寄せる難民問題の最前線にあったものの、その実感は薄かった。
ヨーロッパには昨年、シリアやアフガニスタン、イラクなどから100万人を超える難民・移民が流人。その大半が最初に到着するギリシヤ南部の島々は押し寄せる人の波に圧倒されていた。とはいえ難民・移民はドイツをはじめとする国々を目指して北へと移動したため、問題の大きさを肌で感じるギリシヤ国民は少なかった。
 
ギリシヤの調査会社パブリック・イシューが行った世論調査によれば、今年1月の時点で、膨大な数の難民・移民がギリシヤを通過している事実を認識していたのはわずか5人に1人。そのせいもあってか、回答者の3分の2は難民・移民に好意的で、国境を閉ざすべきではないと考えていた。

ギリシヤが単なる「通過国」でなくなったのは2月後半だ。2月22日、マケドニア当局はギリシヤ北部の村イド
メニ近くに位置する国境でアフガニスタン人の通過禁止措置、およびシリア人とイラク人の検問強化を開始した。
イドメニ周辺で足止めされた人の数は2~3週間のうちに数百人から1万4000人に増大。今では5万3000人以上がギリシャから出られず、ツィプラスが「人間の倉庫」と呼ぶ悲惨な状況に置かれている。(中略)

そんななか、EUはドイツを中心に難民の流入をせき止めようとしていた。3月18日、EUはトルコと新たな対策
で合意。3月20日以降、ギリシャに非正規に入国した移民はトルコヘ送り返すことが決まった。(中略)

EUとトルコの合意には、迫害などの恐れがある場所への追放・送還を禁じる国際法上の原則に違反しているとの批判がある。もっとも合意によれば、非正規入国者は難民申請の権利を持ち、審査期間中は施設に収容される。ト
コヘ送還されるのは申請が正式に却下されてから。おかげでギリシャで難民申請を行う人の数は、当局の処理能力を大幅に上回る規模に急増している。

よそ者を温かくもてなす心
財政危機と難民危機は一見、互いに無関係のように思える。前者は長年の放漫財政のツケだし、後者は地理的な要因がもたらしたものだからだ。だが難民をめぐる状況が急激に変化したせいで、2つの危機が互いの深刻化を招いている印象が強まっている。

経済大国ドイツでさえ難民流入に苦労しているならば、ギリシャが何万もの難民を人道的に処遇することはさらに困難だし、難民と当局の衝突が起きるリスクも高まっていく。また、当局が外国人のためになけなしの金を使っていることをギリシャの人々が知れば外国人への憎悪が高まりかねない。

ギリシャ人の間では2つの危機を結び付けて考える傾向が強まっており「EUは再びギリシャに背を向け、その理念を忘れ去ろうとしている」という見方も広がっている。「EUの仲間にまたも裏切られたという印象を与えたら、ギリシャがEUや難民、移民と手を携えていく可能性は低くなる。誰の得にもならない」と、移民政策研究所(ワシントン)のデミトリウスーパパデミトリュウ名誉所長はけつ。

だが今のところ、大半のギリシヤ人は難民に対し、驚くほどの同情を示し続けている。私か3月上旬に初めてコザニのスポーツ施設を訪ねたとき、そこには440人の難民が滞在していた。
 
毎日、30~40人のボランティアがコザニとその周辺の村々からやって来て、1日に5回の炊き出しや簡単な医療措置や歯科検診を行っていた。難民の半数を占める子供たちのために、ボランティアグループが毎日、お絵描きや劇といった楽しみを提供していた。
 
これはコザニだけの話ではない。パブリック・イシューの1月の世論調査では、回答者の58%が難民への同情心
を行動にして示していた。つまり3分のI強の人々が食料を、31%が衣類を提供し、募金した人も10%いた。600万人を超えるギリシヤ人が何らかの形で難民への援助を行った計算だ。

外国人を温かくもてなす伝統は古代から続いている。(中略)
 
難民が感じている未来に対する無力感にも、ギリシヤ人は敏感に反応する。背景にあるのはつらい歴史的体験だ。
 
4世紀にわたったオスマン帝国の支配に、20世紀に入ってからのバルカン戦争と第一次大戦。1923年にはトルコと「住民交換」が行われ、トルコのギリシヤ系住民130万人とギリシヤ国内のイスラム教徒40万人が故郷を追われた。ナチスードイツによる占領では人目の約10%が命を落とした。内戦や軍事独裁も経験した。シリア人に同情する理由として、祖先が難民だったことを挙げるギリシヤ人は多い。

ギリシヤ人はまた、文化的な色眼鏡で見られることにも慣れている。これは難民たち(イスラム教徒が多い)が、
欧州で直面する現実でもある。
 
ギリシヤ人はぐうたらで効率的な社会を維持できないというのが、多くの北ヨーロッパの人々の見方だ。だがO
ECD(経済協力開発機構)の統計によれば、ギリシヤ人の平均労働時間が年2000時間を超えているのに対し、ドイツ人は1371時間、イギリス人は1677時間だった(2014年)。

問題は難民に同情的な感情がいつまでもつかだ。ギリシヤは人目の95%をギリシヤ正教徒が占める民族・宗教的同一性が極めて高い国で、しかもこれまで移民を受け入れた経験がほとんどない。「今の状態が永続的なもので、何万何十万もの難民を受け入れなければならないとなったら、人々はどう反応するだろう」と、英シンクタンク・王立国際問題研究所の研究員アングロス・クリソゲロソは問い掛ける。

もっとも大半の難民はギリシヤにとどまる気はない。「私たちはただ待っているだけ。巨大な監獄に閉じ込めら
れている気分だ」と、クルド系シリア人のラミアーハイル(35)はこぼす。イドメニではしびれを切らした難民が
強引な国境越えを試みるようになり、今年4月にはマケドニアの警官隊と激しい衝突を繰り返した。
 
昨夏には想像もできなかった事態だが、今やドイツのアングラーメルケル首相がギリシヤの希望の星になっている。寛大な難民受け入れ策を取ってきたドイツとギリシャは行き掛かり上、共通の利害で結ばれることになった。
「わが国をはじめ昨年ギリシャをユーロ圏にとどめるために全力を尽くしたユーロ加盟国は、ギリシャが大混乱に
陥るのを放って置くわけがない」と、メルケルは2月末に国内メディアに語っている。(後略)【5月24日号 Newsweek
日本版】
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かつては激しく敵対した(債務問題では今でも同じですが)ドイツ・メルケル首相とギリシャの利害が一致するというのも奇妙な成り行きです。

中国は難民歓迎? 日本はシリア難民を5年で150人受け入れ
“難民らへの同情的な感情”については、東欧諸国で厳しいものがあり、難民受け入れの割り振りに反発していることは周知のところです。

そんななか、“難民らへの同情的な感情”に関する理解に迷う調査結果も報じられています。

****難民受け入れに寛容な国、1位は中国 アムネスティ発表****
難民受け入れに最も寛容な国は中国、ドイツ、英国であるとした調査結果を、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが19日、公表した。
 
調査はアムネスティが27か国を対象に「難民歓迎指標」を用いてそれぞれの国民の難民受け入れに対する許容度を測定したもので、難民を受け入れることに国民が最も不寛容だったのはロシア、インドネシア、タイだった。
 
指標では難民の受け入れ意志を、自宅、近所、市町村、国の各段階で数値化した。これによると、難民を自宅に引き受けてもよいとの回答は世界全体で10人に1人の割合だった。
 
国別では、難民を自宅に受け入れても良いとの回答が最も多かったのは、中国が46%で1位。続いて英国が29%で2位だった。3位のドイツは10%だったが、自国で受け入れても良いとの回答は96%だった。
 
一方、最も難民受け入れを歓迎していないのはロシアの国民で、61%が自国では難民を受け入れたくないと答えた。
 
この調査はアムネスティの委託を受けて民間調査会社グローブスキャン(GlobeScan)が27か国の2万7000人超を対象に実施した。【5月19日 AFP】
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“難民を自宅に受け入れても良いとの回答が最も多かったのは、中国が46%で1位”・・・・額面どおりに受け取っていい数字なのでしょうか?

それとも、国外の情報に疎く、難民に関するイメージがつかめていないとか、政府・党に目を付けられないように当たり障りのない回答をしている・・・といった裏の事情があっての数字でしょうか。

一方、調査対象27か国に日本が含まれているのかどうかは知りませんが、もし含まれていれば純血を貴ぶ国ですから、おそらくかなり低位にあるのでは・・・と推察されます。

****シリア難民、留学生で受け入れ 5年で150人、日本政府方針****
政府は中東の難民支援策の一環として、内戦が続くシリアの難民のうち、留学生として2017年から5年間で最大150人の若者を受け入れることを決めた。20日に安倍晋三首相が正式表明する。
 
日本政府関係者によると、受け入れ対象は内戦や過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭により、就学機会を奪われたシリアの若者たち。将来のシリア復興を担う人材を育成する狙いがある。(後略)【5月19日 朝日】
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“5年で150人”・・・・人口1億2千万人で世界第3位の経済大国として応分の責任を果たしているのか・・・安倍政権の問題というより、政治にそういう選択をさせる日本国民の意識の問題でしょう。

ドイツ 長期化する難民申請手続き 時給1ユーロで雇用の場を提供
首尾よく目指すドイツにたどりついた難民らにも困難は待ち受けています。

****<漂う民>アリさん一家 独に半年 難民審査「2度も****
 ◇アフガン人に厳しく
新緑がまぶしい独南部チュービンゲン。アリさん一家は今月8日、きれいに片付けられた仮住まいの部屋にいつもの笑顔で迎え入れてくれた。
 
政治的な迫害の有無を調べる独政府の面接調査が、3月30日にあったはずだ。気になって結果を聞いてみると、表情がさえない。「面接は1回でなく、2回あるそうなんです」
 
チュービンゲン市によると、シリア難民の面接は1回だが、アフガン難民には2回ある。1回目は国籍や出身地、これまでの道程など事実関係を聞き、2回目で難民申請した理由などを問う。「個別の事情を詳細に把握するため」だが、難民申請が殺到し、処理が追いつかなくなったので面接を分割し、効率化を図るという事情もある。
 
市は審査担当者を増やして迅速な対応を目指しているが、最大で2年間審査を待っている難民も出ているという。
 
昨年、約110万人の難民・移民が入国したドイツ。治安悪化などを受けて反難民感情が高まり、メルケル首相も「難民流入の大幅減少」を公言。審査の厳格化は避けられない情勢だ。

今年1〜3月もアフガン人だけで約2万人が難民申請し、審査が追いつかない。1〜3月のアフガン難民認定率は約48%だ。
 
アリさんの友人のアフガン難民モマンド・ナジールさん(28)は「面接もシリア人、イラク人、アフガン人の順。こっちは不安になるよ」と顔をしかめた。アリさんより1カ月早い昨年10月に兄とドイツに来たが、1回目の面接すら受けられずにいるのだ。【5月17日 毎日】
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難民申請手続きの長期化によって、それまでの間どうやって暮らすのかという問題が生じます。

****ドイツ、難民雇用の「1ユーロジョブ」制度・・・・時給は130円****
ドイツの首都ベルリン(Berlin)で、イラク難民のザイドさん(23)はスプーンとしゃもじを手に、グヤーシュ(ハンガリー風シチュー)とジャガイモがいっぱい入った大鍋のふたを持ち上げた。仕事のシフトの始まりだ。(中略)

自転車の修理や植木の剪定(せんてい)、歩道の清掃といった業務をわずか1ユーロ(約120円)余りの時給で請け負っているザイドさんのような難民は数千人に上る。

このいわゆる「1ユーロジョブ」制度は、ドイツの労働市場に新たに加わろうとする人々の足掛かりとなるとうたわれているが、識者らは以前からその有効性を疑問視している。
 
食卓を整え、パンを切り、料理を皿に盛り、そして片付ける。ザイドさんの時給は1.05ユーロ(約130円)だ。就労が許されているのは週20時間までと制限されており、月給は頑張っても84ユーロ(約1万300円)にしかならない。難民申請の審査結果が出るのを待つ間、当座の生活費として支給される143ユーロ(約1万7600円)のわずかな足しになる程度だ。
 
イラクの首都バグダッドから南へおよそ100キロに位置するヒッラから、父親と妹と共に半年前に逃れてきたというザイドさん。月収はドイツ人の平均賃金に比べればごく少額だが「ドイツ人の配膳ボランティアと触れ合えるので、ドイツ語を話す機会にもなる」と、喜んで取り組んでいる。

■ベルリン市は約3900人を雇用
難民申請の審査には、数か月とはいわずとも、数週間はかかるケースが多い。その間、普通の就業は認められていないため、難民申請者らの多くは待ち時間にうんざりしている。この問題を回避しようと、当局が活用を決めたのが、この1ユーロジョブ制度だ。
 
元は10年前、長期失業者の再就職を後押しする目的で発案されたもので、昨年110万人という記録的な数に上った難民の受け入れにつながればと活用されている。
 
ベルリン市は現在、75か所のセンターで生活する3925人の難民を雇用している。今後はホームレス支援団体やアルコール依存症のリハビリ施設など、公共サービスを提供する機関での雇用にも適用を広げたい考えだ。
 
一方、中部ハノーバー市では新たに同市に来た人々に対し、自転車の修理や寄付された服の仕分け、幼稚園児の送迎補助といった仕事と引き換えに、ドイツ語教室を受講できる制度を導入している。
 
アンドレア・ナーレス)労働社会相は、難民向けにこうした雇用10万件分を創出すると約束。こういった仕事が、労働市場に参入していくための「トランポリン」の役目を果たすと説明している。
 
同国RWI経済研究所の経済学者、ロナルド・バッハマン氏はAFPに対し「難民がこういう形でなければ働けないことを鑑みれば、短期的には理にかなっている」と述べた。記録的な数の難民が流入していることに伴い、反移民のポピュリズムが台頭する中、「彼らに仕事をさせれば、良い政治的シグナルにもなる」と述べている。
 
とはいえバッハマン氏は、この1ユーロジョブ制度が本来の狙いである長期失業者の再就職支援で功を奏してきたとは言えない点を指摘し「こういう仕事から学べることはほとんどなく、労働市場へ戻る一助になることはごくごくまれだった」と述べている。【5月19日 AFP】
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金額的には不十分でも雇用機会が得られ、社会との接触の機会が得られることは難民らにとっては良いことでしょう。ドイツ社会にとっても。

ただ、雇用機会を難民らに奪われている・・・・といった不満が自国民の中から出てこないのか・・・そのあたりが危惧されます。ドイツ人はやりたがらない仕事なので競合の心配はないということでしょうか。
別の見方をすれば、そうした自国民がやりたがらない仕事を破格の低賃金で難民らにやらせている・・・とも。

まあ、そうは言っても、難民らを収容施設などに閉じ込めておくよりは賢明な対応でしょう。
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