孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  労働法改正で政治・社会が混乱 若者らの一部は暴徒化

2016-05-30 22:55:00 | 欧州情勢

(パリ市内でデモ参加者と警察の暴徒鎮圧部隊の衝突  Francois Mori/AP Photo  【http://ameblo.jp/wake-up-japan/entry-12164706270.html】)

パリ 世界で最も労働時間が短い都市
都市別にみて、「週間平均労働時間が最も短い都市」はフランス・パリで30.84時間、第2位も同じくフランスのリヨンだった・・・・との調査結果が報じられています。

****世界で最も労働時間が長い都市は?1位はアジアから****
世界のどの都市の会社員が最もハードに働いているのだろう?世界最大級の金融グループ・スイスUBSの調査によると、香港の週間平均労働時間は50時間を上回り、世界トップに立った。台北も41.17時間で第8位だった。中国台湾網が報じた。

UBSは、世界71都市で15業種の仕事に就く会社員を対象に、労働時間に関する調査を実施した。調査の結果、「週間平均労働時間が最も長い都市」トップ10のうち7都市はアジアの都市だった。ヨーロッパの会社員はアジアよりはるかに恵まれており、「週間平均労働時間が最も短い都市」トップ10は全てヨーロッパの都市で占められていた。

調査によると、世界71都市の週間平均労働時間は36.23時間、香港は50時間を上回り、世界で労働時間が最も長い都市となった。2位から5位は順に、ボンベイ(インド)、メキシコシティ(メキシコ)、ニューデリー(インド)、バンコク(タイ)。

世界で労働時間が最も短い都市ランキングでは、フランスのパリが週間平均労働時間30.84時間で首位。2位は同じくフランスの都市リヨン(31.36時間)だった。3位から5位は順に、ロシアの首都モスクワ(31.67時間)、フィンランドの首都ヘルシンキ(31.90時間)、オーストリアの首都ウィーン(32.26時間)となっている。

パリの会社員は、毎週5日出勤、1日あたり労働時間はわずか6.17時間と、地球の全会社員の憧れの的となるような結果となった。【5月29日 Record China】
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労働時間に関しては多くの調査があり、その調査方法等によって結果も異なります。

経済協力開発機構(OECD)加盟国など世界35の国と地域を対象とした平均年間労働時間についてのランキングでみると、最も少ないオランダが1384時間、その次がドイツで、フランスは5番目に少なく1479時間となっています。
なお、日本は真ん中あたりで1745時間ですが、最も多いのはメキシコ2226時間、韓国2163時間、ギリシャ2034時間となっています。【http://top10.sakura.ne.jp/OECD-HOURSWKD-T1.html

西欧諸国が少ないのはわかりますが、「働かない」とドイツなど批判されているギリシャは、少なくとも労働時間で見る限りはドイツなどより遥かに長い労働時間となっています。

日本では、「働きすぎ」が問題視されていた昭和50~60年代は年間で2100時間前後でしたが、1800時間を国際公約とする1987年の新前川レポート、その後の労働基準法改正で「時短」が進んできました。

ただ、不況による時短、パトタイマー比率増加による全体平均低下、サービス残業の存在などもありますので、「労働時間」の実態把握・評価には注意が必要です。

いろいろと注意すべき点はありますが、フランスなど西欧諸国では一般に労働時間が他の地域に比べると短い・・・というのは間違いないところでしょう。働く側からすれば、少ない労働時間で暮らしていけるのは、喜ばしいことです。

【仏政府は労働法改正で下院「強制通過」 不信任動議は否決するも与党内に亀裂】
そのフランスで、硬直的な労働市場が高い失業率の原因ともなっているとして、社会党オランド政権による労働法改正の動きがあり、それに抵抗する労働者の激しい抗議行動が起きているという話は、4月1日ブログ「フランス  労働法改正問題で続く抗議デモ」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160401で取り上げました。

“労働法の改正案を巡っては、失業率が10%台で高止まりし、若者の失業率にいたっては25%を超えるなか、大統領選挙を来年に控えて、オランド政権が、最重要課題とする雇用対策の切り札にしたい考えですが、最新の世論調査では58%が改正案に反対しています。”【4月1日 NHK】

“日本でも正規の従業員を解雇するのは難しいが、フランスの場合、「1人を解雇するのに、労働法の専門家3人が弁護士とともに3年がかりでやっと成功する」といわれるくらい難行だ。その結果、正規の従業員の雇用には慎重にならざるをえず、従って失業率が改善されないというわけだ。

現行の労働法では、解雇するためにはまず文書にてどういう理由で解雇するかなどを事前に通告し、それから種々のやり取りが始まる。しかも仮に解雇が決まっても、従業員が解雇を不服として労働裁判所(prud'homme)に訴えれば、まず100%、従業員が勝訴し、企業は多額の賠償金を支払うことになる。”【3月17日 France News Digest】

当然ながら、労働者側には権利が奪われるとの認識があり、しかも左派・社会党政権による改正に対し、“裏切り”といった思いもあります。

与党・社会党内でも左派は改正に反対しているため、オランド大統領は憲法規定にのっとり、下院において議会の議決なしに「採択」するという「強制通過」による強硬突破を行っています。

この措置に対する不信任決議は否決され、法案は上院にまわされていますが、与党内の亀裂が深刻化しています。

****労働法改正案が下院を通過****
議場採決なしの強行突破で与党に分裂危機か
3日、フランス各地で激しい反対運動を引き起こしていた労働法改正案が国民議会(下院)本会議で審議入りし、12日、憲法49条3項の適用により、議決なしで「採択」された。

与党内左派が法案に反対の態度を崩さず、多数派の賛成を得られる見通しがなかったために、政府が強行突破をはかった形だ。

フランス憲法は、政府の決定により、議決なしで法案を「採択されたもの」とみなすことを認めており、これを覆すためには、24時間以内の内閣不信任決議の提出が必要となる。

「反抗者(Frondeurs)」と呼ばれる与党内左派は同法案に反対しており、独自の不信任決議案の提出を模索していたが、提出に必要な人数の署名を集められず失敗。
野党提出の不信任決議案も否決され、法案は「採択」された。

憲法に認められた手続きを取ったとはいえ、与党内の分裂は誰の目にも明らかになった。不信任決議に加担しようとした与党議員には、何らかの処分が検討されているほか、与党内の保守派が、反抗議員に離党を促すなど緊張が高まっている。(後略)【5月19日 France News Digest】
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中道右派の野党・共和党が提出した内閣不信任動議は、賛成246票を得たものの、内閣を退陣させるのに必要となる288票には届かなかったとのことですが、この不信任動議を主導したのがサルコジ氏で、TVで久しぶりにその姿を見ました。次期大統領への復権を目指して頑張っているようですが・・・。(法案内容より、議会無視の「強制通過」を問題視していたようです)

抗議行動が拡大 市民生活への影響拡大
労働者の抗議行動は拡大しており、一部は暴徒化して混乱を引き起こしています。

****フランス労働法改正で抗議デモ激化、暴徒には「厳罰」と首相****
フランスで、政府が議会での採決を経ずに強行成立させた労働法改正法案に抗議する大規模デモやストライキが激化し、3日連続で公共交通機関に支障が出ている。19日には首都パリで1万4000人がデモ行進し、一部が治安部隊と衝突した。
 
抗議行動が2か月に及ぶ中、強硬姿勢を強めるエマニュエル・バルス(Manuel Valls)首相は、港や製油所、空港などでのデモの強制排除に乗り出す可能性に言及。18日に暴徒化したデモ隊が警察車両を襲撃し放火した一件について、「厳しく処罰する」と言明した。
 
労働法改正についてフランソワ・オランド政権は、硬直したフランスの労働市場の柔軟性を高め雇用を創出すると説明しているが、反対派は雇用の安定を脅かすだけだとして反発を強めている。【5月20日 AFP】
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拡大するストライキによってガソリン不足も生じており、政府は戦略備蓄の放出を余儀なくされています。

****仏で労働法改革スト拡大 市民生活に影響、各地で衝突も****
フランスで、労働法改革に反対するストライキが広がり、全土に影響を及ぼしている。首都パリでは26日、覆面姿の若者らが警察と衝突。各地の製油所や原子力発電所でもストが行われ、運転の停止や遅延が生じている。
 
AFP記者によると、パリで行われた労働法改革法案に反対するデモでは、行進の列を離れた約100人の参加者らが、店舗や駐車中の車の窓を割るなどの行為におよび、警察が催涙ガスを使用し対応した。
 
サッカー欧州選手権2016(UEFA Euro 2016)の開幕が2週間後に迫る中、労働組合の活動家らは道路や橋を封鎖し、電車運転士や航空管制官らもストに加わっている。組合は、大会が始まる来月10日から、パリの地下鉄で断続的なストを開始するよう呼び掛けている。
 
この日、国内各地の街頭で抗議行動に出た人の数について、当局は15万3000人、組合側は30万人と発表した。仏当局によると、身柄を拘束されたデモ参加者の数はパリの32人を含め62人に上り、また各地での衝突で警官15人が負傷。パリではデモ参加者1人が重傷を負い入院した。
 
同国北部にある油槽所や製油所でのストは一部中止されたものの、各地のガソリンスタンドではこの日も給油を待つドライバーが長い列を作っていた。
 
労働組合の活動家らによって製油所が数日間封鎖されたことにより、ガソリンスタンドの3分の1で、給油が全くあるいはごくわずかしかできない状態になっている。スト終了で1か所の製油所は運転を再開したものの、国内に8か所ある製油所のうち5か所で引き続き運転が中止されたり生産量が減らされたりしている。
 
南部トリカスタン原子力発電所では、職員らが積み上げたタイヤに火をつけ、黒煙が上がった。同国最大の労働組合連合「フランス労働総同盟(CGT)」によると、国内の電力の4分の3を供給している原発19か所のうち、3か所を除く全てがスト実施を決めた。
 
労働組合は、支持率が極めて低い社会党(PS)が議会を強行通過させた労働法改革法案に激しく反発している。この法案には、企業による人材の解雇・採用を現在よりも容易にすることによって、流動性の低いことで知られる同国の労働市場を改革しようという狙いがある。【5月27日 AFP】
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大型トラック組合の一部が、改定法案に盛り込まれている「時間外手当の大幅カット」に反対してストに突入したため、パリでも他の大都市でも、食料品をはじめとする物資の不足が目立っているようです。

【「反警官デモ」で荒れる若者ら 破壊専門の暴力グループも
労働者の抗議行動だけでなく、極左グループや学生らと警官隊の衝突が生じており、破壊専門の暴力グループが暴れることで混乱を大きくしています。

****デモ隊襲撃でパトカー炎上、パリはもはや戦争状態だ 「労働改定法案」を巡る対立がますます過激に****
炎上するパトカーから危機一髪で脱

デモ隊はパトカーも襲撃し、炎上したパトカーから男女の警官が危機一髪で脱出。そのシーンを現場から中継したテレビ記者は「これは戦争です!」と思わず口走った。

5月18日、パリの共和国広場で極左グループや学生らが警官隊の「過剰」なデモ警備に抗議して「反警官デモ」を繰り広げた。

そのスローガンがすさまじい。「みんなが警官を憎悪している」「フリック野郎(警官の俗称)、ブタ、殺人者」「ペタン(ナチ占領下の対独政府の首相、フィリップ・ペタン)の再来」など。

警官隊が催涙弾で応酬すると、周辺の通りに四散したデモ隊の十数人が、ちょうど通りがかったパトカーを襲撃。ガラス窓を金属棒でたたき割ると同時に、車の下や車内に火炎瓶を投げ込んだ。車内にいた男女の警官2人のうち男性警官が出てきて、金属棒で殴りかかるデモ隊の1人と対峙。警官は素手で応戦し、その間に女性警官は炎上し始めたパトカーから脱出した。

男は駆けつけた警官らに取り押さえられたが、パトカーは全焼した。もし、警官2人が車内に閉じ込められていたら、焼死していたか重度の火傷を負ったのは間違いない。パトカーを襲撃した18歳から32歳までの極左グループ4人は「意図的殺人行為」で逮捕された。

「労働改定法」への反対デモには、毎回100人前後の「カシャー(破壊屋)」と呼ばれる破壊専門の暴力グループが参加し、店舗のショーウインドーやレジの破壊などを繰り返し、市民からも顰蹙を買っている。

デモ隊に負傷者が出る一方、警官隊にも100人を超える負傷者が出ている。仏中西部ナントでは部隊から離れて1人でいたところを襲撃されて重体に陥った警官もいる。警官を襲ったのは18歳の高校生だ。倒れた警官の頭部を狙って執拗に殴る蹴るの暴力を加えたという。(後略)【5月30日 JB Press山口 昌子氏】
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単に労働法改正の是非にとどまらず、若者らの既成政治への不満が一部暴力を伴う形で噴出している状況のようです。

もちろん「パリはもはや戦争状態だ」とは言っても、別にパリ全体が炎上している訳でなく、混乱しているのは一部だけなのでしょうが。

上記の山口 昌子氏リポートによれば、政府は7月下旬には上下両院合同の最終採決によって法案を成立させることを目指しているそうです。

****撤回したらヴァルス首相の辞任は必至****
上院での審議(6月13~24日)を経て、政府は7月下旬には上下両院合同の最終採決によって法案を成立させることを目指している。だが、7大労組のうち共産党系の労働総同盟(CGT)ら4労組は「断固、法案撤回」を叫んで、デモやストを強化中だ。

与党・社会党内にも「法案は撤回すべきだ」との意見がある。だが、撤回したらヴァルス首相の辞任は避けられない。その場合、1年後に迫った2017年春の大統領選への悪影響は必至である。首相辞任を何としても避けるために、法案成立を目指す以外ないというのが政府の立場だ。

フランスでは2006年にも、「初回雇用契約」を盛り込んだ「機会均等法案」が学生らの猛反発に会った(法案を提出したのはシラク右派政権)。若年層の失業率を低下させるのが目的だったが、かえって「若年層を恒久的な仮契約者にする」として学生や労組などが100万人規模のデモを繰り広げた。

法律は公布されたもののデモやストがやまず、結局、撤回に追い込まれたという過去がある(ただし、1年後の大統領選では与党のサルコジ氏が新法案を約束するなどして勝利した)。

今回は、弱者の見方を標榜する社会党が法案を通そうとしていることに、左派支持者は「裏切られた」との思いが強い。

社会党左派は公然と法案に反対しており、オランド大統領の支持率は最新の各種世論調査では13~16%と低下。ヴァルス首相も25%前後と急激に支持率を下げている。

ヴァルス首相は「撤回はありえない」と強硬姿勢を崩していないが、政府と法案反対派の“戦闘状態”はまったく収束する気配を見せない。【同上】
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世界的に見れば、恵まれた国の恵まれた条件をめぐる争いにも見えますが、当分の間パリは荒れ模様が続きそうです。
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