孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  経済悪化でいよいよ追い詰められたマドゥロ大統領 罷免を求める動きも

2016-05-02 22:36:30 | ラテンアメリカ

【4月28日 AFP】

昨年末総選挙で大敗 野党が3分の2獲得
南米ベネズエラ経済については、内的要因としてのチャベス前大統領時代からの低所得層を対象としたバラマキ政策や外国資本排除・国有化政策など市場経済を無視した経済政策と、近年の原油価格低迷という外的要因の両方で、物価上昇・商品不足に苦しむ行き詰まり状態にあり、デフォルトも近いのでは・・・という話は以前からとりあげてきました。

2014年12月5日ブログ「ベネズエラ 原油価格下落で経済悪化が加速 迫るデフォルト・社会不安の危機」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141205など

その後も状況は改善せず、経済状況悪化を糊塗するために、従来からの対米批判を強めたり、国内批判勢力への弾圧を強化したりしてきました。

2015年3月17日ブログ「ベネズエラ 対アメリカ関係悪化 国民の不満を国外に向け、支持者の結束強化を図る思惑も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150317
2015年9月11日ブログ「ベネズエラ  迫るデフォルトの足音 野党指導者逮捕で政府批判を圧殺 国内コロンビア人の難民化」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150911

しかし、経済状況の悪化・市民生活の困窮は隠しようもなく、昨年末総選挙では与党は大敗を喫しました。

****野党、議席3分の2獲得=大統領に打撃―ベネズエラ総選挙****
ベネズエラ選管は8日、総選挙(定数167、一院制)の最終結果を発表し、野党連合が112議席を確保した。与党は55議席だった。野党が議席の3分の2を占めたことで、マドゥロ大統領は苦しい立場に追い込まれた。
 
ベネズエラ議会は、3分の2の賛成で改憲に向けた制憲議会を招集できる。与党の影響力が強いとされてきた裁判官や選管委員の任命・罷免も可能になる。
 
野党指導者カプリレス氏は「この国を変える」と宣言。与党打倒を目標に掲げてきた野党連合は今後、具体的な政策協議を本格化する。
 
投票は6日に行われ、故チャベス前大統領が政権を発足させた1999年以来、与党は初めて過半数を失った。深刻な経済危機を背景に、日用品の不足、物価上昇、南米最悪レベルの治安悪化が進み、与党への不満が高まっていた。【2015年12月9日】 
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この結果、マドゥロ大統領罷免の是非を問う国民投票実施も現実味を帯びてきました。
なお、与党大敗を受けて、国会議事堂に多数飾られていた故チャベス前大統領の写真や肖像画がすべて撤去されたそうです。

今年のインフレ率は世界で一番高い700%に
上記のようにベネスエラの経済苦境は昨日・今日の話ではありませんので、ある意味、政権が未だに持ちこたえているのが不思議なくらいです。(制度的に、大統領罷免は任期前半はできないことになっています。マドゥロ大統領を罷免する国民投票が可能となるのは今年4月以降です)

ベネズエラの中央銀行は2015年のインフレ率が180.9%だったと発表していますが(実際はもっと高いのではないでしょうか)、今年は700%に達するとも予測されています。もはや経済崩壊の瀬戸際です。

****停電で真っ暗、食料や薬も払底、インフレ率「世界一」ベネズエラ 経済危機が反米政権を直撃****
南米ベネズエラの経済危機が深刻化している。輸出の大半を原油に依存してきたが、原油価格の下落で外貨収入は大幅に減った。経済はリセッション(景気後退)に陥り、食料や医療品が不足するなど市民生活を直撃している。

マドゥロ大統領は経済担当の副大統領を交代させる方針を固め難局をしのぎたいところだが、先行きは見通せない。
 
米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、首都カラカスでは停電が慢性化し、ショッピングセンターやスーパーは真っ暗だという。電気の使用時間が政府によって制限されているためだ。
 
停電は日常生活だけでなく、病院や医療施設の運営にも支障をきたす。医療品や人工呼吸器の不足が追い打ちをかけ、同国西部の病院では乳児6人が死亡したニュースが報じられた。
 
スーパーでは食料品が不足しており、市民が闇市で食料や飲料を調達する光景も目立つが、価格が高騰しているため、なかなか手が出せないでいる。
 
議会の過半数を占める野党は、政府による価格統制が背景にあると主張し、今月11日、食料危機を宣言。政権の責任を追及する構えをみせている。

これに対し、マドゥロ氏は経済担当副大統領を交代させることで、状況の悪化に歯止めをかけようとしている。ロイター通信によると、マドゥロ氏はサラス副大統領に代えて、財界との関係が深い穏健派を起用する方針。
 
ウォールストリート・ジャーナルが国際通貨基金(IMF)のデータを引用して報じたところによると、今年の同国のインフレ率は世界で一番高い700%に達する見通し。2015年の経済成長はマイナス10%だったが、今年はさらにマイナス8%となる可能性が指摘されており、このままでは市民生活はさらに悪化すると予想される。
 
マドゥロ氏やその周辺からは「米国を中心とする敵対勢力が経済戦争を仕掛けている」「民間企業が政権の不安定化を狙っている」といった声が聞かれるが、経済悪化の影響は、政権与党が大敗した昨年12月の総選挙にもはっきりと表れていた。

食料をはじめとする物資不足が、反米左派政権の勢力衰退に拍車をかける情勢になってきた。
石油輸出国機構(OPEC)加盟国のベネズエラは協調減産を訴えているが、各国の温度差もあり実現へのハードルは高い状況だ。【2月17日 産経】
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“ここ数年、食料品やトイレットペーパーなどの生活必需品の不足が続き、商店には夜明け前から長い行列ができる。商品は身分証明書の番号で購入が制限され、買えるのは週1度。レジでは買い占め防止の指紋認証が導入されている。”【2月4日 朝日】とも

タダ同然だったガソリン価格も引き上げられました。60倍に。

****ただ同然だったガソリン、60倍まで値上げ ベネズエラ****
ベネズエラのマドゥロ大統領は17日、世界で最も安く「ただ同然」とされてきた国内のガソリン価格を約60倍まで値上げすると発表した。外貨収入の96%を原油輸出に頼る同国は、原油の国際価格の下落で財政が急速に悪化。補助金による低価格の維持が難しくなった。1999年の故チャベス政権の誕生以降、値上げは初めて。
 
地元紙エルナシオナルなどによると、レギュラーガソリンは1リットル当たりの価格を0・07ボリバル(約1円)から1ボリバル(約17円)、ハイオクは0.097ボリバルから6ボリバルに引き上げる。(後略)【2月20日 朝日】
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ベネズエラに限らず、補助金で低く抑えられてきたガソリン等の燃料・食糧価格を財政難から引き上げると、国民の不満は一気に高まり、ときに暴動の形で噴出します。政権にとっては大きなリスクを伴う措置です。

干ばつによる電力不足も 公務員「週休5日」】
マドゥロ政権の苦境に追い打ちをかけるように、ベネズエラは深刻な干ばつにも見舞われており、水力発電所のダムの水位が極めて低くなっています。そこで政府は節電のため、4月8日から6月6日までの2か月間、金曜からの週末3日を休業日にすることを決めました。週休3日制です。

なお、一般世帯を対象とした電力配給制の導入や、電気代の引き上げは見送っています。

しかし、それでも追いつかなかったようで、ついに「週休5日」に。

****ベネズエラ、節電対策で公務員を週休5日に 議会は給与払えず****
経済危機に見舞われている南米ベネズエラの政府は、節電対策の一環として公務員を週休5日にすると発表した。
 
ベネズエラではこれに先立ち、金曜を休業日としたり、国内の大半の地域で1日4時間の計画停電を実施するなどの措置も講じられている。

これに加え、アリストブロ・イストゥリス副大統領は26日、テレビ放送で「公的部門では水曜と木曜、金曜、必要不可欠なものを除き業務を行わない」と明らかにした。
 
一方、野党が多数派を握る国会のヘンリー・ラモス・アラップ議長は27日、政府が予算を割り当てないため、議員や職員に給与を支払えなくなっていると訴えた。
 
野党リーダーの同議長は記者団に「今月は給料を支払う金がない。政府が金を回さないからだ」と憤りをあらわにし、リセッション(景気後退)にあえぐベネズエラの新たな犠牲者だとこぼした。
 
首都カラカスではこの日、ニコラス・マドゥロ大統領の罷免の是非を問う国民投票を求めて、野党の呼び掛けで大規模な署名活動が行われた。【4月28日 AFP】
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公務員の「週休5日制」は、少なくとも2週間の一時的な措置とされており、給与は通常通り払われるそうです。
「だったら、休めていいじゃないか・・・」とも思ってしまいますが、暑い中で1日4時間しか電気が使えないという生活ですから・・・。

国民生活に直結する部門を除き、月曜日と火曜日以外はすべて休みとなるとのことですが、もとからお役所仕事が効率的だったとは思えませんので、週2日だけでは殆ど公務がストップしてしまうのではないでしょうか。

更に、大胆な節電対策が続きます。

****<ベネズエラ>標準時を変更 日光有効利用で電力消費抑制****
ロイター通信などによると、南米ベネズエラの標準時が5月1日から30分早まり、グリニッジ標準時(GMT)マイナス4時間に変更される。日光を有効利用し、電力消費を減らすための措置。同国では干ばつの影響で発電の主力である水力発電量が減っている。
 
政府は2007年のチャベス前政権下で標準時をGMTマイナス4時間から、30分だけ遅らせた。表向きの理由は無駄な消費の抑制。だが実情は、反米姿勢をむきだしにしていたチャベス氏が、米国の首都ワシントン(夏時間)とベネズエラが同じ標準時だったのを嫌がったとの説が有力だ。
 
今回、無駄な電力消費の抑制という似た理由で時計の針を戻すことになった。産油国ベネズエラの財政は原油価格暴落のあおりで破綻寸前。電力不足は泣きっ面に蜂だ。野党はマドゥロ大統領の解職請求の準備を進めており、政治も経済も先行きは不透明である。(後略)【4月30日 毎日】
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一方、物価上昇と収入不足で、国民の12パーセントが一日3食食べていないとの調査結果も。【4月28日 ロイターより】

政府は最低賃金引上げで対応しようとしていますが、基本的に市場経済が機能せず供給が不足していますので、賃金だけ挙げても、さらなる物価上昇を招くだけでしょう。

****ベネズエラ、最低賃金を30%引き上げ マドゥロ政権下で12回目****
ベネズエラのマドゥロ大統領は30日夜、最低賃金を30%引き上げると発表した。同国ではインフレが高進し、消費者の購買力が低下している。

5月1日付でベネズエラの最低賃金は1カ月当たり1万5051ボリバルとなる。これは公式為替レートでは1505ドルに相当するが、ブラックマーケットのレートでは13.50ドルにすぎない。

大統領は同時に1カ月当たりの食券の額も1万8585ボリバル(ブラックマーケットのレートで17ドル)に増やすことを明らかにした。

大統領は1時間にわたる国営テレビでの演説で、自身が大統領になってからの最低賃金の引き上げがこれで12回目であることを強調し、「ウゴ・チャベス(前大統領)の息子であるニコラス・マドゥロのような大統領だけ(が達成できることだ)」と語った。

一方、野党などからは、相次ぐ最低賃金の引き上げは、政府がインフレと深刻な景気後退に歯止めをかけられないことを露呈していると批判する声も聞かれる。【4月30日 ロイター】
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“自身が大統領になってからの最低賃金の引き上げがこれで12回目であることを強調・・・・”というのも、感覚がずれています。
12回も引き上げを実施しないといけない状況、それでも満足に生活できない状況の責任を感じるべきでしょう。

困難に見えるマドゥロ大統領の難局乗り切り
当然のように、大統領罷免を求める動きも出ていますが、混乱も報じられています。

****ベネズエラ首都で与野党支持者が衝突、大統領罷免の国民投票めぐり****
南米ベネズエラの首都カラカスの選挙管理当局で8日、ニコラス・マドゥロ大統領罷免の是非を問う国民投票の実施を求める野党支持者らと大統領の支持者らが衝突した。【4月8日 AFP】
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ベネズエラの政治状況は知りませんが、大統領罷免の是非を問う国民投票が実際に行われると、故チャベス大統領のようなカリスマを持たたない“チャベスの息子であるマドゥロ”では乗り切るのは難しいのではないでしょうか。
原油価格が急速に上昇するようなことがない限り。

昨年末総選挙結果をみると、チャベス前大統領を支えてきた貧困層も離反し始めているようですから。
デフォルトが先か、リコールが先か・・・といったマドゥロ大統領です。

貧困層に手厚く所得再分配するということ自体は、それをバラマキと呼ぶかどうかは別にして、ひとつの政治選択です。また、原油価格低迷とか干ばつによる電力不足といったマドゥロ大統領にとって“不運”な要因もあります。

ただ、原油収入だけに依存し、国内産業の育成・効率化を行わず、インフラ投資も怠ってきた、チャベス前大統領以来のつけが回ってきたと言うべきでしょう。
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