孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  経済危機・汚職体質・政情混乱 東部情勢以上に厄介な国内問題

2016-05-04 23:10:22 | 欧州情勢


(ヤヌコヴィッチ政権崩壊後に釈放されたものの政変には参加できず、「過去の人」になった感もあったティモシェンコ元首相(写真左)ですが、昨年9月の情報では、ウクライナ経済のマイナス成長が続くなか市民の政権批判を吸収し、再びかつての人気を取り戻しつつあるとも。 写真は“flickr”より By  Paul Hofer 欧州評議会議員会議のアン・ブラッセル議長(右)と会談していますので、去年か一昨年の写真ではないでしょうか。)

東部での戦闘は続いているものの、一定に抑制された状態
最近、ウクライナ東部の政府軍と親ロシア派の戦闘に関するニュースは目にしていませんが、先日久しぶりに下記記事が。

****ウクライナ東部で戦闘、5人死亡=「イースター」停戦無視****
ウクライナ東部で政府軍と親ロシア派の戦闘が続き、1日のインタファクス通信によると、4月29、30両日で双方の少なくとも5人が死亡した。内訳は政府軍3人、親ロ派2人で、ドネツク州アウデエフカの戦闘が特に激しい。

東部では、戦闘停止や重火器撤去など停戦合意が順守されない状況が継続。双方は29日、ベラルーシの首都ミンスクで和平協議を行い、5月1日の東方正教の復活大祭(イースター)までに停戦を厳格化することで一致したが、事実上無視した格好だ。【5月2日 時事】
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戦闘が完全に収まっている訳ではありませんが、久しぶりに上記のような記事を目にしたということは、逆に言えば、一定に戦闘状況は抑制されているということでしょう。

ウクライナ政府とロシアの間で問題となっていた、ロシアが拘束中のウクライナのナディア・サフチェンコ空軍中尉の件も、伊勢志摩サミット前の政治解決の可能性が報じられています。

****ウクライナ中尉5月解放か=ロ軍人と交換、サミット前にも****
ロシア経済紙RBK(電子版)は22日、政府関係者の話として、ロシアで拘束中のウクライナのナディア・サフチェンコ空軍中尉=4月5日に禁錮22年確定=が5月中にも解放される見通しだと伝えた。
 
日本など先進7カ国(G7)は、ウクライナ東部の停戦合意や人道上の観点からロシアに解放を要求。プーチン政権は、ロシアに風当たりが強まる5月下旬の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)までに事態収拾を図る可能性がある。
 
ウクライナでは4月18日、東部で拘束されたロシア軍特殊部隊の2人が禁錮14年の実刑判決を受けた。30日後に確定するのを待ってサフチェンコ中尉と交換する仕組みで、ロシア、ウクライナ両政府が基本合意したという。【4月23日 時事】 
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オランダ国民投票はEU・ウクライナの連合協定に「反対」】
戦闘も抑制され、ロシアとの問題にも目途がつきそうで、ウクライナにとって順調に進んでいるのか・・・と言えば、そんなことはなく、オランダで4月6日、EUとウクライナの連合協定の是非を問う国民投票が行われ、反対が賛成を大きく上回る結果となっています。

****<オランダ国民投票>ウクライナ連合協定「反対****
オランダで6日、欧州連合(EU)とウクライナの連合協定の是非を問う国民投票が行われ、即日開票の結果、反対が賛成を大きく上回った。

国民投票はEU懐疑派のブログ運営者らが署名を集めて実施にこぎつけた経緯から、EU統合深化の是非が事実上の争点となり、懐疑派が狙い通りの結果に持ち込んだ形になった。
 
オランダANP通信が報じた開票速報によると、反対が61.1%、賛成38.1%だった。投票率は32.2%で、結果が有効となる30%をわずかに上回った。しかし2012年の総選挙の投票率は75%近く、今回の国民投票が国内で高い関心を呼んだとは言い難い。
 
連合協定は、EUとウクライナの自由貿易協定(FTA)を軸に政治・経済面での関係強化を図る内容だ。EUに加盟する28カ国のうちオランダ以外の27カ国が批准していた。今回の結果に拘束力はないが、オランダのルッテ首相は「このまま批准の手続きを進めることはできない」と述べており、厳しい対応を迫られそうだ。
 
今回の国民投票は、域内の反EU感情を測る目安の一つとしても注目されていた。6月下旬にEU離脱の是非を問う国民投票を控えた英国のメディアでは、今回の結果を自国の国民投票の「リトマス試験紙」とみる論評もある。(後略)【4月7日 毎日】
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記事からすると、ウクライナとの関係が問題とされたというよりは、EU統合深化の是非が問われた性格が強いようです。

丁度来日中だったウクライナのポロシェンコ大統領は「どのような状況でもEUとの手続きを進める」と述べていますが、ウクライナにとって好ましい事態ではありません。

EUとウクライナの連合協定は、一連のウクライナ混乱のきっかけとなった事案でもあり、ロシアからすれば「それみたことか」といったところでしょう。

****ほくそ笑む露、EU分断戦術を加速へ オランダ国民投票 ウクライナは危機深まる恐れも****
欧州連合(EU)とウクライナの連合協定に猛反発したロシアは、オランダの国民投票で反対が多数を占めたことに自信を深めている。

ロシアは2014年春、協定をめぐって政治危機に陥ったウクライナに介入し、欧米の対露経済制裁を招いた。制裁緩和と国際的孤立からの脱却を目指すプーチン露政権は、EU内の隊列を乱す戦術をさらに推し進める公算が大きい。
 
露政界やメディアでは国民投票について、「オランダは、EUが連合協定を急ぎすぎたことを理解した」「国民投票はウクライナに対するEUの態度をよく示している」などと解釈するコメントが相次いだ。
 
EUは14年7月、ロシアの軍事介入したウクライナ東部上空でマレーシア機が撃墜された事件を受け、金融や資源、軍事分野を標的にした対露制裁を発動。EUは、この制裁の期限が切れる今年7月までに延長の是非を決めることになっており、撃墜事件で最大の犠牲者を出したオランダの投票内容にロシアはほくそ笑んでいる形だ。
 
プーチン政権は、シリア問題をめぐる「協力」と引き換えに、欧米の制裁を緩和させようとしてきた。仏極右政党「国民戦線」(FN)など反EU勢力との親密な関係も指摘される。ロシアは、欧州向け天然ガスパイプライン「北ルート2」の計画なども通じ、親露的な国々を取り込んでEU内の分断を図る思惑だ。
 
一方、ウクライナのポロシェンコ大統領は、オランダの国民投票は欧州統合路線の「障害とはならない」と強調する声明を発表した。

ただ、国内では深刻な腐敗や経済低迷への不満が依然として強く、連立与党の形成も難航している。野党が今回の結果に乗じて政権批判を強めれば、いっそうの政治的混乱を招きかねない。【4月7日 産経】
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ロシア側のメディアSPUTNIKは以下のようにも。

****ウクライナについて分かり始めた欧州、日本は****
モスクワ国立国際関係大学国際研究所主任研究員アンドレイ・イワノフ氏の私見-

ウクライナ大統領 日本人の頭を惑わす
はじまりはウクライナにとって気分の良いものだった。ポロシェンコ大統領は日本で非常に丁重に迎えられた。安倍首相は会談終了後に、ポロシェンコ大統領がウクライナにおける迅速な改革の実施を約束したと述べ、ポロシェンコ大統領のこのような固い決意を心強く思っていると語った。

また安倍首相は、ドンバス(ウクライナ南部・東部)情勢解決の問題で、全体としてポロシェンコ大統領率いるウクライナ代表団を支持し、日本がミンスク合意の完全履行を呼びかけていることを強調した。

情勢によく通じている世界の主要大国の首脳である安倍首相が、まさにポロシェンコ大統領がミンスク合意の履行を頓挫させているのを知らないはずはない。

しかし経験豊かで礼儀正しい人物である安倍首相は、これを声に出して述べることができなかったのだ。だが安倍氏が今後、ウクライナの政治家たちの甘い言葉ではなく、現実に基づいてウクライナとの関係を構築しなければならくなるのは明らかだ。

次は不快なものについて触れる。現実は次のようなものだ。例えば、オランダで6日、EUとウクライナの連合協定の是非を問う国民投票が実施され、反対票が多数を占めた。

ウクライナに対するこのようなネガティブな反応は、他の欧州諸国でもさらに顕著になっている。なぜなら欧州の人たちはウクライナについて一般的な日本人よりもはるかに多くの事を知っているからだ。

EU加盟国や米国の政府の管理下にあるメディアの強化にもかかわらず、欧州の人たちは、2014年2月のキエフでのクーデターや、横領、汚職、民主主義侵害の疑いが持たれた当時のヤヌコヴィチ大統領が逃亡した後、ウクライナ政権が今も変わらず腐敗していることを理解し始めた。

ウクライナでは民主主義も高まらなかった。反対に数千人が刑務所に入れられ、ウクライナの新たな「民主的」政権を批判したとして数十人の野党活動家が殺害された。ウクライナ経済は崩壊した。

クリミアの住民は、クミア半島と一緒にロシアへ逃げ込んだ。ウクライナ東部ではポロシェンコ大統領が戦争を開始した。公式情報によると、この戦争では約1万人が殺された。

これらの現実は、果たしてウクライナとEUの連合協定がEUに恩恵をもたらすのだろうか?という疑いを欧州の人たちに抱かせている。

欧州の人々は、新政権によって破壊されたウクライナから、飢えて怒り狂った大勢のフーリガンが欧州へ流れてくるのを恐れている。しかもそれらのフーリガンの多くが、ナチス・ドイツの共謀者たちを崇拝し、ドンバスで殺害の経験を持つウクライナ国家親衛隊のメンバーだ。

さらにウクライナ領内にテロ組織「ダーイシュ(IS、イスラム国)」の戦闘員を訓練するキャンプがあったという最近伝えられたばかりの情報も、欧州の人たちに衝撃を与えた。

ロシアとの関係をさらに悪化させるという懸念も、ウクライナとEUの連合協定の支持を拒否する重要な原因だ。欧州の人々は、「尊厳の民主革命」と呼ばれるウクライナのこの全ての「ごたごた」を、ウクライナとロシアの経済関係を破壊し、かつての兄弟共和国ウクライナをクレムリンに圧力をかける拠点へと様変わりさせるために欧州が利用したことをすでに理解し始めている。

正常な欧州の人たちの中では、これらの汚く、危険なゲームをしたいという気持ちが薄れている。日本の人々が、政治家やマスコミによる「プーチンから身を守る為に欧州の庇護を求める不幸なウクライナ」、「ロシアの侵略」という催眠から解かれるのは、いつのことになるのだろうか?【4月7日 SPUTNIK】
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悪化する経済情勢 議会は膠着し首相交代
上記は、あくまでもロシア側の考えではありますが、ウクライナに政治腐敗という深刻な国内的問題が存在していることは指摘のとおりです。

東部での戦闘、経済危機の深刻化という状況に出口が見いだせず、政争で政情も混乱しています。

****ウクライナ首相が辞任表明 連立政権の運営行き詰まり****
ウクライナのヤツェニュク首相が10日、機能不全に陥った政権の立て直しを図るため、辞任する考えを明らかにした。後任にポロシェンコ大統領に近いグロイスマン議会議長を挙げ、自らの政党と大統領派との連立を維持する考えを示した。親欧州路線に変更はないが、一連の混乱で政権の支持率は大きく低下した。
 
ヤツェニュク氏は、親ロシア路線のヤヌコビッチ前大統領が2014年2月の政変で逃亡した直後に首相に就任。同年6月に大統領に就任したポロシェンコ氏とともに、欧州連合(EU)入りを目指す親欧州路線の政権の車の両輪だった。
 
だが、当初は議会の圧倒的多数を集めた連立政権の運営は与党間の争いで行き詰まり、経済危機が深刻化する一方だった。状況打開を目指すポロシェンコ大統領は2月にヤツェニュク氏に辞任を求めたものの、拒否された上、複数政党の離脱で連立与党が過半数を失う事態に陥っていた。【4月11日 朝日】
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後任首相には親欧米派のボロディミル・グロイスマン議長(38)が指名されています。
連立を離脱したティモシェンコ元首相ら野党勢力は総選挙を視野に動いているとも報じられています。
なお、ポロシェンコ大統領の支持率も17%にまで下落しています。

深刻な汚職体質にEU・IMFからも厳しい視線
新内閣で再出発したウクライナですが、「パナマ文書」問題もあって、ウクライナ政治の汚職体質に向けられる欧州・IMFの視線も厳しくなっています。

****パナマ文書の衝撃】ウクライナ、元来の汚職土壌にダブルパンチ 新財務相、大統領、与党幹部・・・国際社会が不信感、金融支援にも暗雲*****
汚職対策の遅れなどを理由に国際通貨基金(IMF)の支援が中断されているウクライナで、4月に発足した新内閣が閣僚の不祥事で早くもつまずいている。

内閣刷新を受けてIMFは支援再開に前向きな姿勢をみせているが、深刻な汚職体質を改善できなければ、ウクライナが統合を目指す欧州でも、拒否感がさらに広がりかねない。
 
ダニリュク新財務相は4月21日、タックスヘイブン(租税回避地)として知られる英領ケイマン諸島などで、複数の企業の役員を務めていた事実が発覚し、謝罪に追い込まれた。野党は辞任を要求している。ウクライナではポロシェンコ大統領も4月、「パナマ文書」で租税回避地の利用が指摘されたばかりだ。
 
ウクライナでは2月、リトアニア出身で改革派のアブロマビチュス前経済発展・貿易相が、与党幹部らによる改革の妨害工作や、複数の国営企業の乗っ取りの画策を公表するなど、中央政界での深刻な汚職の実態が明るみに出ている。
 
東部紛争やロシアとの対立を背景に、ウクライナは昨年の国内総生産(GDP)が前年比9・9%減、インフレ率が49%となるなど破綻状態にある。

そのためIMFは昨年、総額175億ドル(約1兆9000億円)の金融支援を決定したが、一部を実施した後、汚職対策など改革の遅れを理由に中断した。
 
新内閣の発足を受け、IMFは近く支援協議のためウクライナに代表団を送る見通しだが、一方で5月中旬に予定されていた欧州連合(EU)とウクライナの首脳会議は9月に延期された。欧州側がウクライナの改革の進捗(しんちょく)を見定める狙いとみられ、国際社会の不信感が浮き彫りになった。
 
キエフの政治専門家、フェセンコ氏はウクライナの汚職体質について、「(ソ連崩壊後の)1990年代に深刻化した政治とビジネスの癒着」が原因で、「欧州諸国よりもはるかに改革が困難だ」と指摘した。【5月3日 産経】
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なお、ウクライナ情勢に関して、独・仏・ロシア、そしてウクライナの4か国で11日に外相会談が予定されています。

****4カ国外相、11日に会合=ウクライナ情勢****
4月30日のドイツ紙ウェルト(電子版)によると、同国のシュタインマイヤー外相はウクライナ東部情勢をめぐり、ロシア、ウクライナ、フランスの外相を5月11日にベルリンに招き、会合を開くことを明らかにした。
 
シュタインマイヤー外相はウェルト日曜版の取材に、ウクライナ東部の地方選準備が議題になると述べ、「具体的な提案がある」と説明した。停戦の徹底策に関しても、監視に当たる欧州安保協力機構(OSCE)の「興味深い案」が議論されるという。ドイツは現在OSCE議長国。【5月1日 時事】 
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「興味深い案」・・・・なんでしょうか?情勢の安定化を実現できるものであるといいのですが。
ただ、東部情勢以上に、ウクライナ国内の汚職体質改善は困難なようにも思われ、そのことがウクライナの将来の足かせになりそうです。
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