孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  混乱に乗じて拡大するIS 欧米は統一政府への武器氏供与で対抗 火に油を注ぐ懸念も

2016-05-17 21:55:05 | 北アフリカ

【4月8日 AFP】(IS戦闘員が乗っている車は世界の武装勢力御用達のトヨタ・ハイラックスでしょうか)

シリア・イラクで劣勢になるも、リビアで勢力を拡大するIS
シリア・イラクでは「イスラム国(IS)」の劣勢が報じられています。

****IS支配地域「45%減」=米国防総省****
米国防総省のクック報道官は16日の記者会見で、イラクで過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下にあった地域のうち「約45%を奪還した」と語った。オバマ米大統領は今年2月、ISはイラクで制圧地域の約40%を失ったと表明していた。【5月17日 時事】
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IS崩壊に伴って発生する大量の捕虜をどうするか、現地勢力に任せると報復虐殺の恐れもある、さりとて・・・といった、IS崩壊後の扱いにも関心が向けられる段階ともなりつつあります。

****IS捕虜を待つ“報復処刑”の末路 収容所開設に逃げ腰の米政府****
米国が過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いで大きな厄介事に悩んでいる。今後のIS壊滅作戦で予想される捕虜の取り扱いの問題だ。生き残って捕まった戦闘員が増えるにつれ、報復のため手当たり次第に処刑される事態が憂慮されるからだ。かといって米政府には、捕虜収容所を開設するつもりは一切なく、新たな難題に頭を抱えている。

アフガンの悪夢再び
イラクとシリアでのISの劣勢は日増しに明らかになりつつある。IS側はこれまでに両国にまたがる占領地の30%以上を失い、幹部の半分以上が死亡し、戦闘員も米主導の有志連合の空爆などで2万5000人以上が殺害された。
 
幹部の死亡では、軍司令官のオマル・シシャニが3月の空爆で、またナンバー2のハジ・イマムが米特殊部隊によって殺害された。最近では5月6日、イラク西部のアンバル州で、ISの前身「イラクのアルカイダ」からの大物幹部であるシャキル・ワヒブが空爆で死亡した。
 
米国とイラク軍は近く、バグダッドから約80キロ西にあるファルージャの奪回作戦を開始し、来年にはIS最大の占領都市である北部のモスルを攻略する計画だ。このため、オバマ大統領は最近、前線近くに米軍顧問団を配置することを承認した他、新たにアパッチ型攻撃ヘリ部隊を増派しつつある。
 
イラク駐留軍は現在、4000人を超えているが、短期的な派遣部隊も含めると駐留軍の規模は5000人を軽く超えるまでに膨れ上がっている。特に北部のクルド人の主要都市アルビルには、IS幹部の暗殺や拘束を狙う特殊部隊グリーン・ベレー約400人が駐留している。
 
オバマ政権はシリアでも北部のトルコとの国境地帯のクルド人地域に特殊部隊約300人を投入し、ISの首都ラッカへの侵攻作戦を検討中だ。ラッカ侵攻作戦の主力はシリア人の反体制派武装勢力。これをクルド人の武装組織が側面支援する態勢だ。
 
こうした中で米国や欧米の同盟国の間で深刻になっているのが、今後数千人規模で予想されるISの捕虜の扱いだ。これまではISの捕虜は大きな問題にはなってこなかった。なぜなら彼らは戦闘で死ぬまで戦い、最後は自爆テロで自ら命を絶つことが多かったからだ。(後略)【5月17日 WEDGE】
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一方で、ISはその戦力を新たな拠点リビアに移動させているということは以前から指摘されています。

****リビアのISIS戦闘員が倍増、最多6千人に 米アフリカ軍****
米軍のアフリカ軍のデービッド・ロドリゲス司令官(陸軍大将)は9日までに、内戦状態にある北アフリカのリビアで活動する過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の戦闘員の規模は4000~6000人に達するとの推定数字を明らかにした。
米情報機関当局の数字を引用したもので、昨年比でほぼ倍増したとしている。

リビアは2011年のカダフィ長期独裁政権の崩壊後、イスラム勢力、世俗派、部族などが入り交じる権力争奪の戦いを続いている。ISISもこの混乱に乗じて勢力を伸張させている。

同司令官は記者団に、リビアには他の北アフリカ諸国などから様々な外国人戦闘員が多数流入していると指摘。これらの戦闘員はイラクやシリアへも転戦しているとした。リビアには既にISISへ忠誠を誓う戦闘員もいると述べた。

リビアでは首都トリポリと東部に拠点を置く勢力が自らの政権樹立を宣言。国連や欧米諸国は昨年12月、両勢力による統一政権樹立の合意を仲介し、ISIS掃討の共同戦線の構築を図っている。【4月9日 CNN】
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ロドリゲス司令官は、イラクやシリアと違ってISにはリビアに関する知識が豊富な同国出身の戦闘員がいないと指摘。よってISがリビアの広域を支配下に置く可能性について、現時点では懸念していないと述べていますが、すでにISはリビアにおいて、東西政府の抗争、統一政府樹立の遅れという混乱に乗じて、シルトを拠点としてその勢力を拡大しています。

リビアの統一政府はISが国土の3分の2を制圧しかねないと警告しています。ただ、これは「そうならないために欧米は統一政府をもっと支援してくれ」という話でもあるでしょうが。
いずれにしても、放置すれば“3分の2”まではいかなくても、シルトを拠点とした支配地域が確立される恐れがあります。

【「ボコ・ハラム」とも連携強化
更に、サハラ砂漠を挟んだナイジェリアなど西アフリカで活動しているイスラム過激派「ボコ・ハラム」との連携が強化されているとも。「ボコ・ハラム」もナイジェリアにおいては、その支配地域を失いつつあります。

シリア・イラクとナイジェリアという本拠地で劣勢に立った両勢力が混乱の地リビアに結集し、立て直しをはかるといった構図です。

****<リビア>ISとボコ・ハラムの連携強化、高まる懸念****
北アフリカのリビアで、過激派組織「イスラム国」(IS)と「ボコ・ハラム」の連携強化への懸念が高まっている。既にボコ・ハラムはISに忠誠を誓っており、戦闘員が本拠地のナイジェリアからサハラ砂漠を越え、リビアのIS拠点に続々と流入している可能性もある。
 
13〜14日にナイジェリアでこの地域の首脳やオランド仏大統領らが出席して安全保障関連の国際会議が開催され、米英高官がISとボコ・ハラムの関係について相次いで警告した。
 
英国のハモンド外相は「ダーイシュ(ISの別称)がリビアにより強固な基盤を築けば、ボコ・ハラムとの連携が強化されるだろう」との見方を提示。米国のブリンケン国務副長官も「ボコ・ハラムの戦闘員がリビア入りしているとの情報がある」と指摘した。
 
ISは2014年以降、内戦状態が続くリビアで拠点作りを進め、昨年6月に中部シルトを制圧した。本拠地のイラクやシリアで昨年来、実効支配地域の縮小が続いており、他国に拠点を確保して組織の存続を図る狙いがあるとみられる。
 
米CNNによると、米情報当局者はリビアのIS戦闘員数がシルトを中心に最大6500人に上ると推計する。
 
リビアでは11年に内戦でカダフィ政権が崩壊。その後、反カダフィ派の内紛が続いていたが、国連が和解を仲介し統一政府樹立を目指している。ISの勢力拡大や不法移民の流入を懸念するイタリアやフランスは、軍事支援を強化する意向を示している。
 
しかし、権力を失うことを恐れる東部の武装勢力などが反発し、統一政府樹立の見通しは立っていない。こうした状況の中で、ISは最近、西部ミスラタ付近で攻勢に出ており、石油関連施設もたびたび攻撃している。
 
一方、ボコ・ハラムは14年4月に女子生徒219人を拉致するなど、ナイジェリア北東部で支配地域を拡大させたが、最近は同国や周辺国の掃討作戦で弱体化。指導者シェカウ容疑者が今年3月、インターネット上で「私にとって終わりが来た」と、敗北宣言とも取れる声明を発表した。
 
両組織の具体的な協力関係は不明だが、ブリンケン氏は「ボコ・ハラムの広報戦略は以前より洗練されてきている。ISの特徴が出ている」と指摘する。
 
ISが拠点とするシルトと、ボコ・ハラムの活動基盤があるナイジェリア北東部は、サハラ砂漠を挟み約2000キロ離れている。しかし、リビア経由で欧州渡航を目指す不法移民の移動や麻薬、武器の密輸に使われるルートがあり、過激派戦闘員や武器の輸送にも利用されている可能性がある。
 
エジプトのシンクタンク・アハラム政治戦略研究所のアマニ・タウィール氏(アフリカ研究)は「欧州の情報当局関係者からボコ・ハラムの戦闘員がリビア入りしたと聞いた。リビアの政治的和解は難航し、ISが勢力を伸ばす好機が続いている」と指摘した。【5月16日 毎日】
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欧米 軍事介入は極力避けて、かわりに武器禁輸を解除し、リビア統一政府にIS対策を担わせる
これでは“もぐら叩き”で、世界全体のテロの脅威は残存します。
特に、欧州にとっては、ISの勢力拡大でリビアの混乱が長引く事態は、「バルカンルート」が封鎖されてもリビアからイタリアなどへの難民流失が止まらないということを意味します。また、難民に紛れた形でテロリストが流入する懸念も拡大します。

****欧州難民問題、新局面に=リビアからの流入阻止へ****
春を迎えた欧州で、難民問題が新しい局面を迎えつつある。昨年以降、シリア難民らが殺到したギリシャから西欧へのルートは、欧州連合(EU)と経由国トルコの対策合意などにより流入数が激減。一方、北アフリカのリビアから地中海を渡ってイタリアに入る例が目立ち始めた。欧州各国は危機の再燃回避へ躍起になっている。
 
イタリアへの流入は3月が前年同月の4倍以上の約9700人。4月には地中海で密航船が転覆し、500人が死亡したとも言われ、対策の必要性が叫ばれている。国連難民高等弁務官事務所の報道官は「冬が終わり、天候が良くなってきている」と述べ、危険を顧みない渡航の試みが再び増加に転じる事態を予測する。
 
リビアでは2011年のカダフィ政権崩壊後、国家が分裂状態に陥った。取り締まりが消えた港湾にアフリカ大陸を横断して難民らが集まり、密航あっせん業者も群がっている。ここに過激派組織「イスラム国」(IS)も混ざり込み、欧州諸国はテロリストの潜入を阻止する意味でも難民対策が急務とみる。
 
欧州主要国外相は4月、相次いでリビアを訪れ、統一政府樹立を後押ししていく立場を明確にした。ドイツのシュタインマイヤー外相は訪問時、「警察や軍の訓練が必要」と指摘。リビア国内体制を立て直し、難民・テロ対応で役割を担えるようにすることが不可欠と強調している。
 
即効性も求める伊政府は、北大西洋条約機構(NATO)がリビア沖に艦船を派遣し、密航船の監視を行うことを提案。7月のNATO首脳会議での合意を目指す。

一方、隣国オーストリアは対イタリア国境の管理を強化する構えで、旧ユーゴスラビア構成国経由で難民らが殺到した昨年と同じ混乱を防ごうと警戒を強めている。【4月30日 時事】
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上記記事にもあるように、イタリアのジェンティローニ外相は4月12日、フランスのエロー外相とドイツのシュタインマイヤー外相は4月16日、リビアの首都トリポリを訪れ、リビア統一政府のメンバーと会談し統一政府の後押しに力を入れています。

これまでリビアへの武器輸出は禁止されていましたが、とにかくリビアが統一政府のもとで安定してくれいと困る・・・ということで、欧米はリビア統一政府への武器供与を明らかにしています。

****関係国、リビア統一政府への武器供与に合意 対IS戦支援****
紛争で荒廃しているリビアについて、米国とイタリア、さらにリビアの同盟国と近隣諸国は16日、オーストリア・ウィーンで会合を行い、発足したばかりの統一政府がイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の脅威に立ち向かっていけるよう、武器を供与していくことで合意した。
 
ジョン・ケリー米国務長官によると、25のメンバーが出席したこの会合で、リビア内戦を終結させるために国連が発動している武器禁輸の対象から、国民合意政府(GNA)を外すことで一致したという。
 
ただケリー国務長官はイタリアのパオロ・ジェンティローニ外相と共に、新政府を支援するために国際部隊を派遣する計画はないと語った。
 
一方でケリー氏は、ウィーンを訪れたリビアのファイズ・シラージュ暫定首相から、装備と訓練の提供要請を受け、参加した閣僚らは支援する用意を示したと明かした。
 
ISはリビアの混乱に付け込み、地中海沿岸の都市シルト一帯に一大拠点を設け、周辺地域への攻撃の起点としている。
 
国際社会、特に欧州諸国は、リビアの不安定な沿岸部から地中海を渡って難民や移民が流入していることについても危惧している。
 
ジェンティローニ外相はウィーンでの記者会見で、「リビアの安定は、われわれが抱えているリスクへの鍵となる答えであり、リビアを安定させるためには一つの政府が必要だ」と述べた。
 
リビアでは、2011年に北大西洋条約機構(NATO)の支援を受けた反体制派がムアマル・カダフィ大佐の独裁政権を崩壊させ、カダフィ大佐を殺害。現在は対立する武装勢力同士が同国を支配しようと衝突し合っている。ISは昨年、カダフィ大佐の出身地だったシルトを掌握して戦闘員の訓練キャンプを設置した。
 
国連の仲介による何か月にも及ぶ交渉の末、3月末に統一政府GNAが発足。GNAは中央銀行や国営石油公社(NOC)といった主要な機関から支持を取り付けたものの、抵抗は依然根強い。
 
同国の東西で敵対する2つの政府に加え、武装勢力や凶暴な司令官の下で軍を結成しようとしている組織などが、GNAによる統治を拒否している。【5月17日 AFP】
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欧米はリビアへの軍事介入は極力避けて、かわりに武器禁輸を解除し、リビア統一政府にIS対策を担わせる考えのようです。

ただ、内戦が収まっていないリビアへの武器供給は「戦闘の火に油を注ぐ」との指摘もあり、欧米の描いた図式どおりに事が運ぶどうかは不透明です。

統一政府への統合が進むのか、「第2のシリア」と化すのか?】
肝心のリビアの情勢ですが、統一政府がどの程度機能しているのか、従来から対立してきた西のイスラム主義勢力のトリポリ政府、東の世俗主義勢力・カダフィ政権残存勢力などのトブルク政府との関係がどうなっているのか・・・・よくわかりません。

統一政府の権力掌握が進んでいないという話は、3月20日ブログ「リビア 混乱が続く中での統一政府づくりの現状は? 米欧の再度の軍事介入は?」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160320でも取り上げましたが、その後も情報はあまり多くありません。

西のトリポリ政府の方は、統一政府を受け入れたとされています。

****リビア統一政府に権限移譲、トリポリ支配勢力が表明***
リビアの首都トリポリを実効支配している武装勢力は5日、国連)が後押しする統一政府に権限を移譲する意向を表明した。内戦状態が続くリビアの政治的分裂の解消に向けた国際的取り組みにとって、大きな前進となった。
 
トリポリを支配する武装勢力は、AFPに送付した声明で、リビアの「国益を守り、流血と分裂を避ける」ために権限を移譲する決断を下したと述べている。声明は、同勢力の「法務省」ウェブサイトにも掲載されている。
 
リビアでは、2014年半ばに武装組織連合がトリポリを掌握して以来、2つの政権が併存し、国際社会から承認を受けた暫定政権は国内東部への退避を余儀なくされていた。
 
国際社会は、国内でのイスラム過激派組織の勢力拡大と密航の横行への対処に必要不可欠なものであるとして、統一政府の樹立に協力するよう、双方に呼び掛けていた。
 
先週には、国連の後押しを受けているファイズ・シラージュ暫定首相らがトリポリ入りしていた。【4月6日 AFP】
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しかし、国際的には従来「正統政府」と見なされていた東のトブルクの方は、議会が未だ統一政府への権限移譲を承認していません。

トブルク議会議長は、統一政府がシルトを支配するISとの戦いのために統合作戦本部を作ることを非難し、トブルク政府の承認を得ない軍事的決定は無効であり、統一政府はリビアを内戦に導こうとしていると非難したとのことですが、統一政府は国連・欧米の支援だけでなく、統一政府代表団が7日にはエジプト・カイロを訪問しシシ大統領と会談したとのことで、アラブ圏での認知も広げつつあるようです。【5月8日 野口雅昭氏 「中東の窓」より】

今後、統一政府のもとで、東西政府が統合する形で対ISの戦いが構築できるのか、あるいは現在のシリアのように、各勢力が各自の戦いをバラバラに進め、欧米諸国からの武器支援が火に油を注そぐ形で混乱が拡大するのか・・・まだよくわかりません。

統一政府への権限集中が進まず、業を煮やした欧米が直接介入し・・・となれば、完璧な「第2のシリア」の出来上がりです。
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