孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

無国籍者、世界に1000万人以上  クウェートはカネで他国の市民権を買って付与する方針

2014-11-24 21:55:26 | 中東情勢

(空しい抗議 クウェート治安警察に連行される砂漠の民ベドウィンの子孫たち Hani Abdullah-Reuters 【11月20日 Newsweek】)

無国籍をなくすという政治的な強い意志によってこの問題は解決される
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、無国籍者をなくすためのキャンペーンを、今月から10年間にわたって行うとしています。

****無国籍をなくすためのキャンペーンを開始****
UNHCRは今後10年間で無国籍をなくすためのキャンペーン “I Belong”を開始しました。無国籍者は国籍を持たず、そのために人権を基盤とした保護を受けられない人々のことを指します。

無国籍者は世界中に1000万人以上いると見られており、10分に1人無国籍の子どもが生まれています。無国籍者は本来国家が国民に付与する権利やサービスへのアクセスを持たない場合が多く、様々な問題に直面します。

「無国籍であることは、教育や医療サービスを受けられず、正規雇用の機会も与えられないことを意味する。移動の自由も、将来の見通しも立たたない状況は、人間らしい生き方が否定されていると言える。」

アントニオ・グテーレス高等弁務官は、アンジェリーナ・ジョリーUNHCR特使をはじめとした20人以上の著名人とともに書簡を発表し、無国籍をなくす意義を訴えました。

無国籍状態に陥る理由の多くは、民族、宗教、ジェンダーに基づく差別です。ここ3年間で無国籍に関する2つの国際条約(1954年「無国籍者の地位に関する条約」と 1961年「無国籍削減に関する条約」)への加入国が増えた一方で、紛争を逃れた難民が避難中に出産し、出生証明書を得られずに子どもが無国籍者になるケースが増えています。

無国籍をなくすという政治的な強い意志によってこの問題は解決されるという思いを込め、UNHCRはこのキャンペーンを2024年まで10年間継続して行ないます。【11月 4日 UNHCR】
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通常は親の国籍、あるいは生まれた国のいずれかの国籍が得られますが、民族や宗教、差別、それに親の事情などによって生まれたときに国籍を得られなかったり、国家の消滅や政変などによって国籍を失ったりした人は無国籍者となります。

1000万人以上と言われる無国籍者ですが、ミャンマーが81万人、アフリカのコートジボワールが70万人、タイが51万人と言われています。

ミャンマーにいるのは、このブログでもしばしば取り上げるロヒンギャです。
(10月29日ブログ「ミャンマー “恒久的隔離と無国籍化”に向かう政府のロヒンギャ対応」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141029など)

他にも、シリア・イラクにはクルド人の一部など国籍を認められていない人が大勢います。
また、ソビエト連邦の崩壊によって、多くの人が国籍を失い、今も60万人が国籍をもてないままです。【11月19日 NHKより】

日本「無国籍だからといって問題が起きているわけではない」】
日本に関しては、“法務省の発表では、ことし6月現在で599人に上っています。日本人の親が離婚などの理由から出生届を出さなかったため戸籍を得られなかった人たちの問題がニュースでも取り上げられましたが、戸籍はなくても国籍は日本ですので、この場合は無国籍者ではないということです。
日本で暮らす無国籍者は、日本で生まれた難民や難民認定を待っている人たちの子ども、母国が消滅してしまった人たちなどですが、在留資格がないために出生届を出さず子どもが無国籍になったケースもあり、実際にはもっと多いと見られています。”【11月19日 NHK】とのことです。

無国籍に関する1954年「無国籍者の地位に関する条約」(82か国が加入)と 1961年「無国籍削減に関する条約」(60か国が加入)には日本は加入していません。

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外務省や法務省の見解では、日本では無国籍だからといって問題が起きているわけではなく、条約に加入する必要性がとくにないというのがその理由だそうです。

日本では無国籍であっても在留資格があれば通常の行政サービスが受けられるということです。

ただ、現実には差別に苦しむ人、結婚をあきらめざるを得なかった人などもおり、国籍がなく困っている人がいるのも事実です。

これまでそうした声がどこにも届かなかったために社会が動かなかっただけです。【同上】
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日本は難民に関して閉鎖的な政策をとっていますが、その一環でしょう。
実質的単一民族社会を維持しようという選択は理由があってのことですし、それなりのメリットもあります。

ただ、困難な状況にある人々が現に存在するなかで、人間としての品格にも関わる「それでいいのか?」という問いを忘れるべきではないでしょう。

二級市民としての地位が固定化 国外追放も可能に
無国籍者に関して、“奇妙”なニュースがクウェートから。

中東の金満国クウェートには10万人余りの無国籍者“ビドゥン”が存在しますが、クウェート政府は彼らに国籍を付与するのではなく、遠く離れた東アフリカの島国“コモロ連合”の市民権をカネで買って与える・・・とのことです。

****無国籍住民に大量の外国籍を買うクウェートの真意****
古くからこの土地にいた遊牧民ベドウィンの子孫を他国に追放しようとする措置に人権団体が反発

オバマ政権の移民制度改革でアメリカに滞在する不法移民のうち最大500万人が国外追放を免れる見通しになった。だが大量の「不法滞在者」を抱える国はアメリカだけではない。

クウェート政府も先日、無国籍住民に対する新たな施策を発表した。その内容はあきれるほど「斬新」なものだ。

クウェートには「ビドゥン」と呼ばれる無国籍者が10万人余りいる。彼らは主に遊牧民のベドウィン族の子孫で、1961年のクウェート独立後、様々な事情で市民権取得の手続きができないまま今に至っている。

ビドゥンの多くはクウェートで生まれ育った人たちだが、クウェート政府は彼らを不法移民として扱い、市民権要求をたびたび撥ねつけてきた。

市民権がないために、ビドゥンはクウェートでは大半の職に就けず、医療や教育ばかりか、法的な保護すらまともに受けられない。

クウェート内務省は11月、無国籍住民の扱いに関する新方針を発表。ビドゥンに市民権が与えられることになった。
ただし、クウェートの市民権ではない。クウェート政府はビドゥンのために東アフリカの島国コモロ連合の「経済的市民権」、つまりカネで買える市民権を大量に購入する計画だ。

コモロはアラブ連盟の加盟国で、すでにアラブ首長国連邦の要請に応じ、同国の無国籍住民にパスポートを発行している。クウェート政府の要請に応じるには、まずクウェートに大使館を開設する必要がある。

ビドゥンはコモロ諸島に送り込まれるわけではない。人口80万人のコモロ連合は外国人に市民権を売っている。近年、オフショアの事業活動をする人などに市民権を売る国が増えているが、クウェート政府が計画しているような大量購入はこれまで行われたことがない。

コモロの市民権を取得すれば、ビドゥンは公式に地位を保証され、クウェート国内でも職に就きやすくなり、福祉サービスを受けやすくなると、表向きクウェート政府は説明している。

国際法の下ではこの措置は合法と言えるだろう。しかし人権擁護団体は評価していないと、アルジャジーラは伝えている。

この措置では、ビドゥンが求めてきたクウェート国籍は与えられず、むしろ二級市民としての地位が固定化されることになりかねないからだ。実際、コモロ国籍になることで、ビドゥンは今まで以上に不安定な立場に追い込まれる可能性がある。

世界各国には推定1000万人の無国籍者がいる。国連の「無国籍者の地位に関する条約」はこうした人々の人権を保障し、各国政府に対し無国籍者の国外追放を禁じている。
ビドゥンがコモロ国籍を取得すれば、この規定に当てはまらなくなり、クウェート政府は彼らを追放できることになる。

施策の詳細は発表されていないが、自分たちをよその国の市民にしようとする政府のやり方に、ビドゥンは納得していない。

ビドゥンの活動家はツイッターでこう訴えている。「寝るときには西アジア人だったのに、目が覚めたら東アフリカ人になっている――アラブ世界ではこんな『奇跡』が起きるのだ」【11月20日 Newsweek】
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コモロ連合はモザンビークとマダガスカルの間にある、東京都ほどの広さの小さな島国で、イスラエルによるガザ支援船拿捕事件の国際刑事裁判所(ICC)への捜査要請でも登場した国です。(2013年5月18日ブログhttp://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130518

“ビドゥン”が無国籍状態に置かれている経緯については、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によれば、以下のよう報告されています。

****クウェート:無国籍住民「ビドゥン」 無権利状態のまま****
クウェート独立までの間に取られた国籍取得プロセスにおいて、クウェートの周辺部で暮らしていた多数の人びと、とりわけ遊牧民ベドウィンの人びとは申請手続きを行わなかった。

識字能力がないため、クウェート国籍法の下、申し立てを裏付ける文書を作成できなかったり、国籍の重要性を理解していなかったりしたことが背景にある。

1960年代、70年代、クウェート政府はビドゥンに、投票する権利を除き国民と同じ社会公共サービスを受ける権利を与えた。

しかし一連のテロ攻撃を受けるなど1980年代になって政治が不安定になった際、ビドゥン政策は大きく変化。政府はビドゥンから、公立学校での教育や無料医療を受ける権利、特定の国家公務員として就職する権利などをはく奪。

政府当局は、「大多数のビドゥンは、クウェート国民が有する権利を自分も欲しいと思って、本来の身分証明文書を破棄した周辺国の国籍保有者であり、『不法滞在者』である。」と断言し始めた。


1991年のイラクによる侵攻とそれからの解放の後、ビドゥンは自分たちへの風当たりと疑念が急増していることに気づかされた。ビドゥンがイラクからの潜入者であるという疑念が強まり、もはやクウェート社会の一員として見られなくなり、多くのビドゥンはクウェート軍や警察での職を失ったのである。

2010年11月、クウェート政府当局は5年以内に問題を解決するため新たな取り組みを始めると約束し、今年(2011年)2月と3月に起きたビドゥンによる抗議運動を受けて、全ての登録済ビドゥンに対して、無料医療と子どもが無償教育を受ける権利を与えるとともに、雇用の機会を増大するという更なる約束をした。

しかしながらこれらの約束は、未だに強制力を有する法的権利とはされていない。【2011年6月13日 HRW】
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ビドゥンが公的証明書を申請すると、“(クウェート政府の不法滞在者問題執行)委員会は、申請者が他に「本当の国籍」を持つ証拠(ビドゥンは、その証拠を見る事も反論する事も認められなかった)があるとして、出生証明書・婚姻証明書・死亡証明書などの公文書交付の申請を却下。ビドゥンたちは、家族との法律上の関係を証明する手段さえない状態におかれている。”【同上】とのことです。

“一部の(登録済みの)ビドゥンはセキュリティーIDを使ってサービスを受けているが、未登録ビドゥンはそうした証明書さえ持っておらず、逮捕され強制送還されるのを恐れて外出もままならない。クウェート政府は、支援金給付(この春に約束した改革の一部を含む)の対象から未登録ビドゥンを除外。未登録ビドゥンは、教育・医療・就職において非常に大きな障壁に直面している。”【同上】とも。

こうした状況の解決方法としてクウェート政府が提示したのが、コモロ連合の「経済的市民権」を買い与えるという施策のようです。

“お金持ち”クウェートらしい施策ではありますが、表向きのクウェート政府の説明にもかかわらず、ビドゥンを自国民として認めないという基本的認識がある以上、おそらく差別的対応は続くでしょう。
場合によっては、国外追放も可能になる・・・ということのようです。

最後に、ミャンマーのテイン・セイン大統領のロヒンギャに関する最近の発言。
ひところは市民権付与も検討するとのことでしたが、随分後退したようです。

****ミャンマー大統領、改憲に消極姿勢=ロヒンギャ族脱出「作り話****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は20日、国民民主連盟(NLD)党首アウン・サン・スー・チー氏ら野党陣営が要求している憲法改正について、「改憲は第一に国会、第二に国民の責任だ」とし、「政府がこうしろああしろと指示はできない。国軍もできない」と述べ、改憲に消極的な姿勢を示した。米政府系放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)のインタビューに答えた。

VOAによると、大統領はまた、イスラム系少数民族ロヒンギャ族が当局の迫害を恐れて西部ラカイン州から船で大量に脱出していると伝えられていることに対して、「ボートピープルが拷問から逃げ出しているというのはメディアのストーリーにすぎない」と主張。「一部の人間が悪意を持って否定的なことを書いている」とも語り、メディアの作り話との見方を示した。【11月21日 時事】 
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