孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ・イスラエル  「ガザ支援船拿捕事件」で交渉、難航の可能性も ICCが捜査要請受理

2013-05-18 23:03:21 | 中東情勢

(今年3月 トルコとの関係修復に向けて、イスラエル・ネタニヤフ首相(右)の背中を後押しするアメリカ・オバマ大統領 “flickr”より By Global News Pointer http://www.flickr.com/photos/58594229@N07/8585586364/)

欧州への「防波堤」】
過剰なイスラム主義を排して、世俗主義を前提としたイスラム民主主義のモデルケースとされるトルコは、国際関係においても、エルドアン首相のもとでイスラエルのガザ侵攻やシリア・アサド政権の反政府運動弾圧を厳しく批判するなど独自外交を展開し、地域大国としての存在感を高めていることは近年しばしば言及されるところです。

混迷するシリア情勢によって中東の不安定化が懸念される状況にあって、アメリカにとっても、この地域におけるトルコの重要性が増しているとのことです。

****シリア情勢:トルコ、米で増す存在感*****
オバマ米大統領は、訪米中のトルコのエルドアン首相と16日に開いた共同記者会見で、両国の連携強化を強調した。シリアの内戦状態が続くなか、「新たな戦争」や中東全体の不安定化を回避したい米国にとって、トルコはさらなる脅威の拡散を食い止める「防波堤」にもなりうる存在だ。
シリア情勢の悪化が、トルコの存在感を高める形となっている。

「今回の訪問は、米国にとってトルコがいかに重要な同盟国であるかを示すものだ」。オバマ大統領は会見でそう述べて、両国の「絆」をアピールした。エルドアン首相の訪米は15回目だが、米軍による正式なセレモニーで迎えられたのは今回が初めて。

背景には、両国の経済関係の急速な拡大がある。過去4年間で両国の貿易総額は75%増の200億ドル(約2兆円)近くに成長。軍事面でも、35億ドル(約3500億円)規模の最新鋭ヘリの共同開発を進めるなど、関係強化を図っている。

トルコ南部にはシリアからの難民約20万人が押し寄せ、国境付近でテロ事件が起きるなど治安が悪化。トルコにとって米国との連携が欠かせない状況だ。

トルコは昨年、米国などを通じ、北大西洋条約機構(NATO)にパトリオットミサイルの配備を要請。NATOは今年1月、シリアとの国境付近に配備した。欧州への「防波堤」ともなり、米欧の思惑とも一致した。

対イスラエル関係でも、トルコは優位な立場になりつつある。両国空軍がトルコ北部で行っていた合同演習は、パレスチナ自治区ガザ地区に対する空爆などをきっかけに、2009年から中断している。トルコでの演習はイランへの空爆を想定した訓練などが可能で、イスラエルにとってはメリットが大きい。
シリア情勢の影響で中東の不安定化が懸念されるなか、イスラエルは演習再開を希望しているとされる。【5月17日 毎日】
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オバマ大統領のとりなし
2010年5月末に起きた「ガザ支援船拿捕事件」(封鎖が続くパレスチナ自治区ガザへトルコから支援物資を届けるために航行していた船舶6隻をイスラエル軍が拿捕。強行突入の際に、トルコ人の人権活動家ら9人が死亡、数十人が負傷した事件)によって悪化していたトルコ・イスラエルとの関係は、今年3月にイスラエルを訪問したオバマ大統領の働きかけで、関係修復に動いています。

****イスラエル、ガザ支援船拿捕事件でトルコに謝罪 シリア対応優先 米大統領が働きかけ****

トルコ人活動家ら9人が死亡した2010年5月のガザ支援船拿捕(だほ)事件で、「正当防衛」を主張していたイスラエルが突如、トルコに謝罪した。
イスラエルを初訪問したオバマ米大統領の強い働きかけがあり、隣国シリアの内戦悪化に対処する中東最強の「軍事同盟」が復活した形だ。

ネタニヤフ首相は22日、トルコのエルドアン首相との電話会談の冒頭、「オバマ氏と、イスラエル・トルコ関係の重要性について協議した」と切り出し、公式に謝罪。犠牲者の遺族への補償やガザを含むパレスチナ自治区の状況改善など、トルコ側の要求を全面的にのむことを表明した。イスラエルを発つ直前のオバマ氏も会談に立ち会った。

イスラエル・トルコ両国はここ数カ月、水面下で和解交渉を続けてきた。背景には、シリア内戦の激化の余波が及んでいる事情がある。
19日にはシリア北部アレッポで初めて化学兵器が使われた疑いが浮上。イスラエルはトルコとの軍事協力を復活する必要に迫られていた。

一方、オバマ氏とネタニヤフ氏が会談でイランの核開発問題を外交努力で解決する方針を確認したことで、悪化していた両氏の関係が改善。「イスラエル・トルコ間の危機解決はオバマ氏の訪問の目的の一つだった」(ハアレツ紙)こともあり、さらなる協調姿勢を見せるためにも、オバマ氏の取りなしをネタニヤフ氏が受け入れたとみられる。【3月24日 朝日】
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イスラエル・ネタニヤフ首相の突然の謝罪には、オバマ大統領の働きかけ、シリア情勢の緊迫、さらには前出【毎日】にある、対イランを睨んだ思惑などがあるようです。
この、トルコ・イスラエル関係の修復はオバマ外交の数少ない成果のひとつでもあります。

その後もアメリカは、ケリー米国務長官のトルコ訪問などでこの関係修復を後押ししています。

****米国務長官:対イスラエル関係改善促す トルコ訪問で****
トルコを訪問したケリー米国務長官は7日、イスタンブールでエルドアン首相らと会談し、ダウトオール外相と共同記者会見を開いた。ケリー長官はトルコとイスラエルの関係改善が「中東の安定に重要」と指摘、2010年5月に起きたパレスチナ支援船拿捕(だほ)事件を機に悪化した両国の関係修復の必要性を強調し、双方の大使の復帰などを求めた。

非アラブ国のトルコとイスラエルは友好関係にあったが、イスラエル軍がトルコ人の活動家ら9人を殺害した拿捕事件をきっかけに、関係をほぼ断絶。先月下旬、イスラエルを訪問したオバマ米大統領の仲介で、イスラエル側が謝罪した。

オバマ政権は内戦状態の続くシリアが、中東の不安定化を加速させる事態を懸念。米国の同盟国であるトルコやイスラエルと共に、シリアからの難民や、アサド政権が保有する化学兵器の拡散の危険性などに連携して対応したい思惑がある。

エルドアン首相は5月中旬にワシントンでオバマ大統領と会談する予定で、米国はそれまでに両国が拿捕事件の遺族への補償金などについて合意し、関係修復するよう促している。【4月8日 毎日】
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トルコ側はイスラエルのガザ経済封鎖の解除を和解条件
こうした流れで始まったトルコ・イスラエルの関係修復ですが、交渉難航の可能性も指摘されています。

****和解協議、難航も=イスラエルとトルコ-ガザ支援船事件****
2010年5月のパレスチナ自治区ガザ支援船拿捕(だほ)事件で悪化したイスラエル・トルコ関係の正常化を目指す協議が22日、トルコの首都アンカラで行われた。AFP通信が伝えた。
両国は米国の仲介で、和解を進めることで合意している。しかし、トルコ側はイスラエルのガザ経済封鎖の解除を和解条件に掲げており、協議が難航する可能性も出てきた。【4月22日 時事】
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コモロ政府の捜査要請をICC受託
一方、「ガザ支援船拿捕事件」を巡っては、両国政府間の交渉とは別の動きも報じられています。

****国際刑事裁判所:イスラエルを調査へ ガザ支援船拿捕事件****
国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)のベンスダ主任検察官は14日、トルコ人活動家ら9人がイスラエル軍に殺された2010年5月のガザ支援船拿捕(だほ)事件について、船籍のあるコモロ連合の捜査要請を受け付けたと発表した。

検察官は調査を行い捜査開始を決める。イスラエルはICC非加盟国だが、非加盟国スーダンのバシル大統領に逮捕状が出た前例があり、イスラエルの責任者が国際法廷で裁かれる可能性も出てきた。

イスラエルのネタニヤフ首相は今年3月、オバマ米大統領の要請を受け事件についてトルコに謝罪。イスラエルとトルコは補償協議中で、ICCが捜査することになれば、外交関係に影響をもたらすこともありうる。
検察官によると、コモロ政府を代表してトルコの弁護士グループが14日、検察官と会い、コモロ政府の捜査要請の付託を行った。

ICCを規定するローマ条約によると、加盟国に登録する船の中で犯罪が行われた場合はICCが管轄権を行使できる。また加盟国は事件をICCに付託できることから、コモロ政府が弁護士グループの助力で付託した。

非加盟国のスーダンの場合、国連安全保障理事会が05年に事件をICCに付託。検察官が同年に捜査を開始し、ICCは人道に対する罪や戦争犯罪でバシル大統領に09年と10年に逮捕状を出した。
ただ、バシル大統領はICCを無視して他の非加盟国に渡航もしており、イスラエルも同様に捜査を無視することも想定される。

イスラエルは事件の被害者に補償することには同意しておりトルコと交渉中。トルコは、パレスチナ自治区ガザ地区の経済封鎖を解くことを和解の前提としており難航している。【5月15日 毎日】
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この記事を読んで、まず最初に思ったのは「コモロ連合?何それ?」
モザンビークとマダガスカルの間にある、東京都ほどの広さの小さな島国で、クーデターが頻発する世界最貧国のひとつのようです。

国民の多くがイスラム教徒ということで、イスラム国家トルコとの関係もあるのでしょう。
今回提訴はコモロ政府の独自の動きというよりは、トルコの弁護士グループの働きかけの結果のように思えます。
そのトルコの弁護士グループとトルコ政府の関係はわかりません。

パレスチナ自治政府のイスラエル提訴の可能性
国際刑事裁判所(ICC)の活動にはやや懸念があります。
統治権を有する世界政府的な枠組みが存在しない現実世界においては、利害が対立する国際的な問題を解決(もしくは丸く収める)するためには、ある程度の妥協が必要になります。
そうした世界に、悪事を裁き、逮捕する・・・というICCが乗り出すと、往々にして話がこじれ、まとまるものもまとまらなくなってしまいがちです。
ウガンダの「神の抵抗軍」ジョゼフ・コニーのように。

イスラエルもアメリカもICCの基になるローマ規定に一旦は署名したものの、その後署名撤回を申し立てています。
ただ、日本・欧州諸国など122か国が批准・締結していますので、もし、本当にICCが有罪として逮捕状を出すという話になれば、“捜査を無視する”とは言っても、スーダン・バシル大統領と違って広範囲な国際関係を有するイスラエル首相としては大きな影響がでます。

ICCの関連で言えば、イスラエルが懸念する問題は、昨年11月にパレスチナ自治政府が国連総会でオブザーバー国家として承認されたことでしょう。
パレスチナ側にはガザ地区におけるイスラエルの活動を戦争犯罪としてICCに提訴しようという動きがあります。

これまでICCは、「関連する国連機関もしくはICC加盟国がパレスチナ自治政府を国家と認めなければ、その紛争中の犯罪の申し立てを検討することはできない」という見解でしたが、パレスチナ自治政府はオブザーバー国家承認でICCを含めた様々な国際機関への加盟が可能となり、イスラエルの戦争犯罪を提訴ということも可能性が出てきます。

ただ、関係国の対応を硬直化させるICC提訴が問題解決にとって効果的かどうかは、疑問の余地があります。
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