孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  腐敗摘発で粛清の「嵐」 党・国家への批判を許さない“体制引き締め”

2014-11-18 22:38:46 | 中国

(文化大革命時代 教師を“反革命分子”として吊し上げる学生たち・・・でしょうか。 集団の狂気の恐ろしさは右で左でも同じです。 “flickr”より By China in "1984" https://www.flickr.com/photos/china_in_1984/1024145471/)

自殺者続出 「反腐敗の名を借りた“粛清”だ」】
中国・習近平政権の汚職撲滅キャンペーンの最大の獲物である周永康氏に関する処分は時間を要しているようです。
単に慎重に事を運んでいるのか、あるいは、背後でさまざまな権力が暗闘を繰り広げているのか・・・そのあたりは部外者にはわかりません。

もとより、習近平氏の“トラ叩き”は、反汚職・反腐敗闘争というだけでなく、自身の権力闘争の一環として行われていると見られています。

****周永康事件の調査長期化へ=中国高官****
中国司法省の張蘇軍次官は5日、北京で記者会見し、最高指導部メンバーだった周永康・前党中央政法委員会書記に対する汚職容疑での異例の調査について「党中央規律検査委員会による調査が行われており、比較的長いプロセス(が必要)になるだろう」と述べ、党籍剥奪処分や刑事責任追及決定までに時間がかかるとの見通しを示した。

張次官はその上で、「調査が一定の段階に達すれば、適当な方法で公表する」と述べ、党規や法律に触れれば追及する方針を示した。

周氏の事件をめぐっては最高人民法院(最高裁)の江必新副院長も1日の記者会見で「司法手続きにまだ入っていない」と述べていた。【11月5日 時事】 
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ただ、いずれにしても、徐才厚・前中央軍事委員会副主席及び周永康・前党中央政法委員会書記という大物を手にかけた習近平国家主席の“本気度”に、軍部・官僚・国有企業関係者などは震え上がっているようです。

あまり“人権”とか“法的な公正さ”への配慮が期待できないお国柄ですから、過酷な取り調べは“粛清”の様相も呈し、自殺者が続発しているようです。

****中国高官、相次ぐ自殺40人超 事実上「粛清」の声****
 ■習政権「反腐敗」 過酷な取り調べ
中国の習近平国家主席が主導する汚職撲滅キャンペーンで、共産党幹部の自殺や不審死が頻発している。
今年になってから「不自然に死亡した」と認定された党、政府、国有企業の幹部らはすでに40人を超えた。

党の規律部門のずさんな捜査と過酷な取り調べが官僚たちを追い詰めたとの指摘は多い。捜査対象に習主席が所属する派閥、太子党の関係者がほとんどいないことから「反腐敗の名を借りた“粛清”だ」との声もある。

遼寧省高級人民法院(高裁)のナンバー2だった女性副裁判長、徐安生氏(55)が10月29日未明、同省内のホテルで、バスローブの帯で首をつり、遺体は同日朝に発見された。

同日正午頃には、同省の身体障害者協会のトップ、任志偉・共産党書記(55)が勤務先のビル7階の窓から飛び降りて自殺した。

同じ省の局長級幹部2人が同じ日に自殺を図ったことはインターネットなどで話題を集めた。
地元紙記者によると、徐氏は汚職問題で党の規律部門の調査対象になっており、自殺した日の午前には、規律委員会との面談を控えていたという。任氏にも汚職の噂があった。

ネットには「2人は死ぬことで上にいる大幹部を守ろうとしたのでは」といった書き込みもあった。

中国メディアの統計によれば、2003年から12年まで、中国で自殺した官僚は毎年10人以内だった。ところが12年11月に習近平指導部が発足して以降に急増し、13年は23人を記録した。今年は昨年からさらに倍増する勢いだ。

自殺する官僚の多くは、地方指導者や国有企業の幹部で、病死と発表されたケースもあるといい、すでに50人を超えたとの見方もある。

党の規律部門は、今年になってから1日2人の速いペースで汚職官僚の摘発を進めている。証拠調べはずさんで「調査対象になったら、無罪になることはまずない」(共産党幹部)という。

汚職官僚に認定されると財産が没収されてメディアで宣伝され、子供の進学や就職にも影響が出る。こうした事情が、取り調べ前の自殺を選ぶ原因になっていると指摘されている。

一連の汚職撲滅キャンペーンで、摘発され自殺した共産党幹部は、胡錦濤前主席や江沢民元主席の派閥の関係者が多く、習派の太子党につながる人脈はほとんどいないといわれている。【11月5日 産経】
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****中国海軍高官、自殺続出か・・・腐敗摘発で取り締まり・粛清の「嵐」、陸軍でも対象者続々****
香港メディアや中国の簡易投稿サイト「微博」(ウェイボー、中国版ツイッター)は、中国海軍の馬発祥副政治委員(中将)が17日までに、当局の調査を受けた後、飛び降り自殺をしたとする情報を次々に流した。

「微博」では同日までに、中国海軍南海艦隊装備部の姜中華部長(少将)が9月2日に飛び降り自殺をしたとする情報も流れた。陸軍関係でも、取り調べを受ける高官が続出している。

馬副政治委員、姜装備部部長ともに、汚職などいわゆる「腐敗」の疑いで、調べを受けていたとみられる。
馬副政治委員は、「当局による調査」の後、北京市内の海軍大院のビル15階から飛び降りたとされる。(中略)

中国人民解放軍については、総後勤部の劉〓副部長、苑世軍・湖北軍区の元司令員(司令官)寇鉄・黒龍江省軍区の元司令官も、王愛国・瀋陽軍区聯勤部元部長も軍紀律委員会により身柄を拘束され、取り調べを受けているとの情報がある。(〓はさんずいに「爭」)【11月18日 Searchina】
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腐敗幹部を「もはや人の姿をしていない」と叱咤する檄文のようなものも出されているようです。

****一部幹部はもはや「人」ではない、問題の根本は「徳の欠如だ!」・・・・中国共産党が論語も引用して激烈批判****
中国共産党中央紀律委員会監察部は17日、「徳と法は互いに補ってこそうまくいく」と題する文章を発表した。中国ではこのところ、「法治主義」を改めて強調していたが、同文章は「一部幹部はもはや『人』の姿をしていない。問題の根本は『徳』の文字にある。徳が欠けている!」などと、腐敗幹部を強烈に批判した。(後略)【11月17日 Searchina】
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改革には抵抗も
当然ながら、汚職撲滅キャンペーンを推し進める習近平氏への反感・怨嗟も広がっており、不穏なうわさもあるようで、習近平氏の改革路線を危ぶむ声も出ています。

****中国で高まる「反習近平」気運*****
経済失速と改革強行に翻る「反旗」
公費の無駄遣い禁止から汚職腐敗の摘発、国有企業や人民解放軍の既得権打破まで容赦ない改革を進める習近平政権の足元が揺らぎ始めた。

過去二十年にわたる高成長の恩恵を最も受けてきた大手国有企業と中流層が反旗を翻し、汚職摘発に喝采していた農民・労働者も景気の急激な悪化で離反し始めたからだ。

苦い薬を国民に飲ませることで中国の長期的な安定成長を目指した習改革は漂流し、中国経済はハードランディングのリスクが高まってきた。

「まるで文化大革命の再来だ」。北京の政府機関に勤める高級官僚の一人がこう説明してくれた。今春、職場に一通の通達が届いた。同僚や他部門で汚職を見つけたらすみやかに報告するよう求める内容で、規律検査部門へのホットラインの電話番号も各人に渡された。しかも率先して密告した本人は、企業の談合事件と同様に自らの汚職は情状酌量される、と耳打ちされた。

一九六六年から十年間続いた文化大革命は毛沢東主席の政策に疑問を呈する人々を資本主義に走る「走資派」や「右派」と呼び、次々に処分していった。その時使われた手法が同僚、親戚、兄弟までをも陥れる密告だった。文革中の悪夢が再び中国の政府機関、国有企業を覆っている。【2014年11月号  選択】
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“「習総書記が今晩、どこで床に就いているかは彭麗媛も知らない」。北京で流行している小話だ。彭は言うまでもなく、習総書記夫人で、中国のファーストレディだ。(中略)小話の真意は総書記が安全のために寝所を頻繁に変えているということだ。”【同上】

しかしながら、追い込まれた中流層が政治的に意味のある“反乱”をおこせるか?
習政権が独占の牙城を崩しにかかっている石油、通信、電力、銀行など強大な国有企業の反乱は?
粛清が進む軍内部の反乱は?

習総書記が視察中におきたウルムチ駅前で爆弾テロは、周永康関連の石油閥や、徐才厚関連の軍部による犯行だったと可能性がある・・・・といった話になると、いささか現実性には疑問を感じます。

社会全体で進む“体制引き締め”】
ただし、改革に抵抗勢力が立ちはだかるのは、中国でもどこでも同じであり、習近平政権は汚職撲滅キャンペーン・国有企業改革などの改革で不利益を受ける既得権益層の強い抵抗を打ち破る必要があります。

そうした抵抗を押しのけて独自路線をすすめるためもあってか、ここのところ、政治・経済以外の社会全体においても、“体制引き締め”的な動きが目立ちます。

****習主席、「文芸」統制=毛路線回帰より鮮明に―西側価値観と対峙・中国****
中国の習近平共産党総書記(国家主席)はこのほど、文芸工作座談会を北京で開き、「文芸は市場経済のうねりの中で方向を見失ってはならず、市場の奴隷になってもいけない」と述べ、文学・芸術界に対して社会主義価値観を盛り上げる役割を果たすよう指示、統制を強化している。

党刊行物も最近、「階級闘争」や「人民民主独裁」を強調した文章を相次ぎ公表。「毛沢東時代に回帰したようだ」(中国人研究者)との批判や懸念が指摘される中、民主主義や自由など西側の価値観への徹底した対峙(たいじ)路線を鮮明にしている。(中略)

今回の文芸座談会は日中戦争中の1942年、毛沢東が主宰した「延安文芸座談会」以来のものとされる。中国紙・北京青年報は「わが党は終始、思想宣伝と文芸工作を非常に重視している」と伝えており、習氏は、庶民に思想面で大きな影響を与える文芸界を利用することでイデオロギー統制を図った毛沢東の手法をまねているとみられる。

特に西側価値観の影響を強く受けるネットについて習氏は「世論闘争の主戦場」とみなしている。

座談会での習氏の発言に対し、ネット上では早速、「文芸は権力の奴隷になるな」との反発が出ているが、習氏は(共産党体制の擁護者として知られるブロガーである)周氏らの重用でネット空間での「愛党勢力」の増長を狙っている。【10月22日 時事】 
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習近平主席が賞賛した体制擁護派ブロガーの周氏は、かなり怪しげな情報をばらまいているようですが、人民解放軍出身で特段の教育も受けていない経歴などから、大衆を代表する反インテリの存在として重用されているようです。(参考:“反米ブロガーは習近平「公認」” 11月11日号 Newsweek日本版)

宗教に関しては、「無神論」を唱える中国共産党は宗教を迷信と位置づけて禁止しました。
毛沢東が始めた文化大革命(66~76年)の際には、仏像や教会が破壊されるなど厳しく弾圧された時期もありましたが、一般民衆の宗教信仰は70年代末からの改革開放に伴い、容認へと向かっていました。

しかし、ここにきて、再び宗教禁止の原則論が前面に出てきているようです。

****中国共産党、党員の宗教禁止徹底 民族対立の深刻化恐れ****
中国の習近平指導部は、「共産党員は宗教を信仰してはならない」という原則を改めて徹底する方針を固めたもようだ。
党の規律部門を動員し、宗教を信仰する党員を全国で精査する見通しだ。

キリスト教やイスラム教などの信者が増え、党中央の求心力が弱まっていることが背景にあるが、宗教を信仰する党員は少数民族や貧困層が圧倒的に多く、こうした“組織浄化”措置は民族対立などの社会矛盾を深刻化させる可能性をはらんでいる。(後略)【11月16日 産経】
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****人権派弁護士らへ引き締め強化=香港問題、外部の干渉警戒―中国****
中国国営新華社通信は28日夜、20~23日に開かれた共産党第18期中央委員会第4回総会(4中総会)で採択された「法治全面推進の重大問題決定」全文を配信した。

「決定」は弁護士に対して「共産党の指導と社会主義に基づく法治」の堅持を強く要求するなど、政治思想面の引き締めをより強化する方針を示した。

中国では市民の権利が侵害される社会矛盾が深刻化する中、法律を武器に立場の弱い市民を支援する人権派弁護士の影響力が増し、こうした弁護士と共産党権力が対峙(たいじ)する場面が増えている。

決定は「弁護士は社会主義法治を歩む自覚と堅実性を増強する」とも求め、人権派をけん制した。

一方、選挙制度民主化をめぐり民主派学生らのデモが続く香港問題に関しても決定は「法に基づき高度の自治を保障する」としながらも、「法に基づき中央の権力を行使し、行政長官・政府の施政を支持する」と強調。「外部勢力による香港問題への干渉を防止・反対する」と警戒感を示した。

さらに大学での人材育成に関して「マルクス主義法学思想と社会主義法治理論」を重視し、「同理論が教材となり、教室で教えられ、頭脳に入る」よう指示。また、「中国で活動する海外NGOの管理を強化する」として、西側諸国の価値観流入に危機感を示した。
こうした点から習近平総書記(国家主席)が進める「法治」は、人権派弁護士や民主派、改革派知識人など共産党支配体制を揺るがしかねない勢力に対する統制を強化する側面が強いことが浮き彫りになったと言える。【10月28日 時事】
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実際、講義中に中国政府を批判した大学教師を糾弾する「公開書簡」が新聞に掲載される・・・・という状況になっているようです。

****中国紙記者が大学20校に潜入調査 政府批判の教師を糾弾「罵ったりするな****
中国遼寧省の地方紙「遼寧日報」が17日までに、講義中に中国政府を批判した大学教師を糾弾する「公開書簡」を掲載し、波紋が広がっている。

当局は10月、教師の思想に関する指針を発布。香港で学生団体による民主化要求デモが続く中、共産党員の宗教禁止に続き、「学問の自由」にも規制が加えられようとしている。

同紙によると、10月下旬、ある学生から「教師の間で中国を悪く言ったり、社会批判がはやっている」との情報が寄せられた。教師は公然と政府の政策に異議を唱えているという。いわゆる「西側」の制度を追求すべきとの意見や、腐敗や格差社会を「政治システムの欠陥」と誇張する言葉も聞いたとしている。

同紙は約半月かけて、北京、上海、広州、武漢、瀋陽の大学20校の講義に記者を潜入させて調査。公開書簡の中で「教授らの広範な知識や研究態度、責任意識には感動したが、中国批判も存在し、度を超したものさえあった」と伝えた。

さらに、学生の価値観や思想に対する教師の影響力を指摘した上で、「中国の問題点を論じるのはかまわないが、明確かつ客観的でなければならない。ただ好き勝手に批判したり、罵(ののし)ったりするな」と訴えた。

中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報(英語版)によると、10月に出された「指針」には、「教師は価値観を正し、社会主義の核となる思想を学生にもたらすべきだ」と記されており、当局が大学での民主化思想の拡散に神経をとがらせていることをうかがわせる。

教師らは「教室は自由に意見交換できる場だ」と反発しているが、中国メディアは「中国や国家の名誉を傷つけるのは違法だ」などと、公開書簡を支持する意見を強調している。【11月17日 産経】
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反汚職・反腐敗という大衆受けするキャンペーンと併せて、党や国家への批判を許さない風潮を芸術や教育など社会全般で推し進める習近平政権の姿は、やはり毛沢東の権力奪取闘争として行われたかつての文化大革命を思い起こさせるところもあります。

ただ、中国にも権利を主張し、ネットなどでものをいう市民社会が一定に育っていますので、文化大革命のような極端な社会運動とはならないでしょう。
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