孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  混沌とした内戦が続く中で、アレッポ限定停戦案、市民生活を描くコメディー、男女同権法

2014-11-13 22:36:42 | 中東情勢

(砲弾で破壊された瓦礫が散乱するアレッポの反政府派支配地区で撮影される、市民生活を描いた子供だけによるコメディー「ウム・アブド・ハラビヤ」で主婦役を主演する9歳のラシャちゃん http://www.ecuavisa.com/articulo/noticias/internacionales/88454-video-satira-nina-sobre-guerra-siria

難民には厳しい冬が
シリア・イラクでは、政府軍、反政府「自由シリア軍」、アルカイダ系「ヌスラ戦線」、イスラム過激派「イスラム国」、その他イスラム過激派勢力、クルド人勢力、アメリカなど有志連合・・・・等々、様々な勢力が戦っており、誰が味方で、誰が敵かも判然としない混沌状態にあります。

避難民にとっては更に新たな強敵がこれから参戦してきます・・・冬の寒さです。

****シリア、イラク避難民の悲劇****
国連難民高等弁務官事務所は11日、シリア及びイラクの避難民の数(難民及び国内避難民)の数が1360万人に達したと発表した。

そのうちシリア国内避難民が720万人(前回の数字の650万人から大幅に増加した由)で国外難民が190万人。
一方イラクに関ししては、190万人が国内避難民で、国外難民が19万人の由。

同事務所では、これから冬に向かう季節で、これらの避難民は住む場所、食糧、水等の欠乏に悩んでおり、すくなくとも99万人が冬を過ごせるためには5850万ドルの資金が必要とされているとしている。(後略)【11月11日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のこの発表に関するYouTube動画はhttp://www.youtube.com/watch?v=6U1RTQrRWucにあります。
1360万人・・・ほぼ東京都人口に匹敵します。
資金不足に加えて難民支援を難しくしているのは、難民が難民キャンプや滞在先を転々と移動していることだとUNHCR関係者は指摘しています。

部分停戦を呼びかける国連特使案にアサド大統領「検討に値する」】
そうしたなかにあって、デミストゥラ国連シリア担当特使が停戦案を提示し、アサド大統領が検討する用意があると表明しています。
もっとも、停戦案といっても、激戦が続く北部の大都市アレッポに限定した部分的なものです。

****シリア停戦、実現不透明 対「イスラム国」で国連提案****
シリアのアサド大統領は10日、デミストゥラ国連シリア担当特使と会談し、内戦の激戦地・北部アレッポに限定した特使提案の停戦案について、「治安回復の試みとして検討に値する」と述べた。

アレッポは首都ダマスカスに次ぐ大都市で交通の要衝。アサド政権軍は同地掌握へ攻勢をかけており、実現は不透明だ。

国連やトルコのメディアなどによると、過激派組織「イスラム国」は、侵攻を続けるシリア北部アインアルアラブ(クルド名コバニ)からアレッポに重点を移しつつある。デミストゥラ氏は、政権軍と反体制派が停戦して「イスラム国」への防戦を優先すべきだと呼びかけた形だ。

アレッポでは政権軍、反体制派、アルカイダ系武装組織「ヌスラ戦線」が三つどもえで戦闘を続けており、「イスラム国」の侵攻で戦闘激化は不可避だ。

英国を拠点とする反体制派NGO「シリア人権監視団」などによると、政権軍は8日夜から9日朝にかけて、アレッポ近郊の「イスラム国」支配地域を狙って殺傷力が高い「たる爆弾」を投下。子どもを含む21人が死亡したという。7日にはアレッポの反体制派が補給路とする地域をミサイルで攻撃したという。

米軍主導で進む「イスラム国」空爆は、アサド政権にとっては「渡りに船」。政権側は余裕ができた兵力を投入し、アレッポを包囲攻撃している。

一方、反体制派の中核となる「自由シリア軍」は、「戦闘経験に乏しい市民も多く、政権軍や『イスラム国』に比べると戦闘力は格段に劣る」(元政権軍中尉)状態だ。統一した指揮命令系統もない。

反体制派にとっては、アレッポで停戦すれば優勢な政権軍に敗北するおそれもあり、停戦案を受け入れることはできない。【11月12日 朝日】
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たとえアレッポに限定したものであっても停戦が実現すれば、今後の他地域への拡大も含めて、喜ばしいことですが、実現は難しいように思われます。

アサド大統領が直ちにのってきたということは、反政府勢力側はおそらくのってこないだろう・・・という話にもなります。

【「(FSAは)最初から米政府が望みを託せるような相手ではなかった」】
アレッポでの戦闘は、政府軍の“たる爆弾”空爆など、ここのところむしろ激化しており、“これまでも中東紛争等で停戦の可能性が出てくると、それまでに自軍の優勢を強化したいとして、戦闘が激化するのが常でした”【11月12日 野口雅昭氏 「中東の窓」】との指摘もあります。

シリアでの戦闘状態全般については、かねてより「イスラム国」とクルド人勢力の間で攻防戦が続いていたトルコ国境に近いシリア北部アインアルアラブ(クルド名コバニ)では、クルド自治政府の治安部隊ペシュメルガの支援も受けるクルド人勢力が態勢を持ち直しつつあるようですが、未だ「イスラム国」を駆逐するには至っていないようです。

上記【朝日】によれば、その「イスラム国」はコバニからアレッポに拠点を移しているとか。

ヨルダン国境付近では「ヌスラ戦線」が勢力を拡大しており、イスラム過激派の台頭を警戒するヨルダンが神経をとがらせています。

アメリカは「イスラム国」だけでなく、アルカイダ系「ヌスラ戦線」、更には、欧米へのテロを計画しているとされるイスラム過激派組織「ホラサン」などへの空爆を行っています。

混沌とした戦局のなかで一つ言えるのは、穏健派とされ欧米から支持される「自由シリア軍」が劣勢にあることです。(今に始まった話でもありませんが)

****アメリカが頼みにする自由シリア軍は死に体****
内戦が続くシリアでは、イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)やアルカイダ系のアルヌスラ戦線の勢力拡大により、欧米が支援する穏健な反体制派組織が急激に弱体化している。

アルヌスラ戦線は今月に入り、穏健な反体制派「自由シリア軍(FSA)」に組織的な攻撃を仕掛け、彼らの支配地域や武器の多くを奪った。

「FSAが死んだかって? FSAが生きていたことなんてなかった。最初から米政府が望みを託せるような相手ではなかった」と、イスラム過激派組織に詳しいノースイースタン大学のマックス・エイブラムズ助教は言う。

アメリカはFSAに資金援助や兵士の訓練などを提供してきた。だがFSAの兵士の中には、そうしたカネや武器を持ってアルヌスラなどの過激派にくら替えする者も少なくない。

さらにFSAはかつて、アサド政権に批判的な国民から最も支持された組織だったが、今では米軍との協力関係のせいで支持を失いつつある。米軍がISISのシリアの拠点を空爆したことが、図らずもアサド政権を助けたことになるからだ。

シリアではもう誰が敵で誰が味方か分からなくなっている。【11月18日号 Newsweek日本版】
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アメリカはいつまで「自由シリア軍(FSA)」によるアサド政権打倒という虚構にしがみついているつもりでしょうか?

アサド政権に影響力を行使できる形でこれと和し、政府軍が優位な地域での戦闘を鎮め、将来的に「イスラム国」や「ヌスラ戦線」といったイスラム過激派勢力を駆逐していく・・・というのが、シリアに平穏を取り戻す唯一の道だと思います。

もっとも、ただでさえアメリカ国内で批判の強いオバマ政権の中東戦略ですから、今さらアサド政権と手を結ぶというのは、政治的にはとれない選択でしょう。
「自由シリア軍」もアサド退陣がなければ、アメリカが何と言おうと絶対に政権側と停戦しないでしょう。

ただ、そのためにいつまでも内戦が続き、難民が溢れ、イスラム過激派が勢力を拡大していきます。

「自由シリア軍」への支援を減らして衰退するのを待ち、「イスラム国」等への空爆で結果的にアサド政権を支援するというのが現実的選択なのでしょうか。

18万人以上の犠牲を出した内戦の中で敢えてコメディー
激戦が続くアレッポでの市民生活を描いたコメディー、それも9歳少女主演のドラマが評判を呼んでいるそうです。

****9歳少女主演のシリア内戦コメディー、動画サイトで大ヒット****
9歳の少女が主演する、内戦下のシリア・アレッポの反体制派地区での日常生活をほろ苦いユーモアをこめて描いたコメディードラマが、動画共有サイトのユーチューブで話題だ。

一躍ネットのスターとなったラシャちゃん(9)は、コメディーショー『ウム・アブド・ハラビヤ』で、3年以上に及ぶ内戦によって荒廃したアレッポを舞台に連日の空爆や物資不足のなか家庭を切り盛りする主婦を演じている。

全30話のシリーズに出演するのは子どもだけ。ラシャちゃん演じる主婦ウム・アブドをはじめ、内戦下に暮らす近所の住民たちや戦闘員たちも全員、子どもが演じている。撮影は、かつてシリア経済の中心地として栄えたアレッポ市内で行われた。

 ■9歳が風刺するシリアの日常
主役の主婦ウム・アブドは、バッシャール・アサド大統領に対する不満をぶちまけるかと思えば、アサド政権打倒を掲げる反体制派の戦闘員らも容赦なく批判する。また、往々にして威圧的なシリアの社会規範を冷笑もする。

わずか9歳にしてラシャちゃんは、シリアコメディーの特徴である風刺精神を醸し出しており、ゴシップに明け暮れる典型的なシリア女性を完璧に演じきっている。

脚本は反体制を貫いており、アレッポの反体制派地区における日々の現実をうかがい知ることのできる初の番組となっている。

たとえば、あるエピソードでは、アレッポ市内のアサド政権側が掌握する地区に住む妹と電話中のウム・アブドが、政府の支配地域でも断水が日常的になりつつあると聞き「あんたも手で洗濯しているの?あんたたちみたいなアサド支持者は、甘やかされているんだとばかり思っていたわ」と皮肉を言う。

別のエピソードでは、反体制派戦闘員である息子の嫁を探している女性がウム・アブドの家を訪ねてくる。ウム・アブドは近隣住民の間では娘を反体制派にしか嫁がせないことで有名で、「娘婿たちは全員、自由シリア軍のメンバーなんですの」と自慢する。

嫁探し中の女性は「理想的だわ!うちの息子は狙撃の名手なんですのよ」と応じ、縁談はまとまるかに見えた。だが、ウム・アブドが持参金は米ドルか金塊でと言い出したことから、破談となってしまう。(後略)【11月11日 AFP】
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戦闘状態にあるアレッポでの暮らしがどんなものか想像できませんが、戦闘の一方で、ごく日常的な市民生活もあるようです。

クルド人エリアで男女同権法
文脈からはそれますが、もうひとつシリアでの興味深い話題が。
クルド人地域で「イスラム国」に対抗して、女性に男性と同等の権利を付与する法令が可決されたそうです。

****シリアのクルド人地域、男女平等法を可決 イスラム国に対抗****
住民の多数をクルド人が占めるシリアのハサカの自治体で、女性に男性と同等の権利を付与する法令が可決された。英国に拠点を置く非政府組織シリア人権監視団」によれば、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国(IS)」が成立させた女性に差別的な法律に対抗する動きだという。

クルド人が多数派を占めるシリアの周辺3地域は昨年、ジャジーラ地区として自治政府の樹立を宣言した。同政府は前週5日、交流サイトのフェイスブック上の公式ページで、男女が「公的・私的生活のすべての場面で」平等を享受することを定めた法令を発表した。また法令は女性に対するいわゆる「名誉殺人」や「暴力や差別」を禁じている。

労働の場でも給与を含め男女同権が打ち出された。また女性の結婚は18歳以上とされ、本人の同意なく嫁がせることを禁じている。

この他、一夫多妻制の禁止、裁判の際の証言者としての権利の男女平等、全面的な相続権の付与などが含まれている。自治政府内にはアラブ系住民もいるが、男女平等は同自治内のすべての民族に適用されるとしている。

イスラム教では、男性に扶養能力がある場合には妻を4人まで持つことができるとされている他、相続権や裁判の際の権利について女性には制限が課されている。シリア人権監視団によれば、シリアのクルド人女性にはこれまで一切相続権がなかった。【11月10日 AFP】
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もともと、クルド人の戦闘部隊には多くの女性が参加し、男性兵士を指揮したりもしていました。
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