孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア・イラク  「イスラム国」との戦闘を難しくしている反「イスラム国」勢力内部の対立・不信

2014-11-03 21:02:35 | 中東情勢

【11月3日 Al-Alam News Network】http://en.alalam.ir/news/1645338

トルコとクルド人勢力の確執
エボラ出血熱とともに世界を悩ましているイスラム過激派「イスラム国」の勢いは、米軍などの空爆にも拘わらず未だ止められていません。

“米紙ワシントン・ポスト(電子版)は、毎月1000人以上の外国人が、イスラム国の戦闘員としてシリアに流入していると伝えた。
シリア国内の外国人戦闘員は1万6000人を超えたとみられるのに対し、米軍などの空爆による戦闘員らの死者は約460人にとどまっている。同紙は「空爆は歯止めになっていない」と指摘している。”【10月31日 産経】

現在注目されているエリアは、シリア北部のトルコ国境、クルド人居住地域であるアイン・アラブ(クルド名:コバニ)と、イラク西部のスンニ派居住地域であるアンバル州。

アイン・アラブ(コバニ)での戦闘が重視されているのは、人道上の問題と戦略上の問題があります。

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コバニが陥落すれば、市内に残った人々はどうなるか。ISISは大量処刑やレイプ・拷問など、今までに行ってきた以上に残虐な扱いをするだろう。そうした事態を予測して、国連幹部ですらコバニ防衛のための武力行使を呼び掛けているほどだ。

人道的な理由のほかにも、アメリカがコバニを守るべき客観的な戦略上の理由がある。ISISがコバニを押さえれば、シリアとトルコの国境付近の広大な一帯を支配下に置くことになる。北部のラッカから各地の拠点を結んで、シリア最大の都市アレッポに至るまでのルートを確保できる。

それ以上に重要なのは、国境地帯を支配すれば外国人の戦闘員を集めやすくなる上に、石油などの物資を国際的な闇市場に流しやすくなることだ。コバニの掌握で、ISISには今まで以上に多くの武器と人員と資金が流入する。【10月24日 Newsweek】
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アイン・アラブ(コバニ)をめぐる状況、特にクルド人問題を抱えて複雑な立場にあるトルコの対応については、10月20日ブログ「トルコ  対「イスラム国」で動けない?動かない?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141020)でも取り上げました。

その後、アイン・アラブ(コバニ)を死守したいアメリカの圧力もあって、トルコはイラク・クルド自治政府の治安部隊「ペシュメルガ」が「イスラム国」との戦闘に加わるためにトルコ領内を通過してシリア側に入ることを認め、一部動きが出ています。

アイン・アラブ(コバニ)は「イスラム国」の攻勢で陥落も懸念されていました。現在の戦況は詳しくは報じられていませんが、アメリカの空爆やクルド人勢力への武器支援などもあって、今のところは持ちこたえているようにも思えます。今後、上記のような「ペシュメルガ」、更には「自由シリア軍」の参戦もあれば、戦闘が好転することも期待されます。

しかし、「イスラム国」の圧力にさらされているイラク・クルド自治政府がどれだけの兵員をシリア側に投入できるかはわかりませんし、「イスラム国」に対峙するクルド人勢力、シリア自由軍、トルコ、シリア・アサド政権の立場・思惑はそれぞれ異なり、今後すんなり進む保証もありません。

****対「イスラム国」 イラクからクルド兵がシリア入り 反体制派と摩擦も****
イラク北部クルド人自治区のペシュメルガ(クルド兵)部隊が10月31日夜、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の攻勢を受けるシリアのクルド人勢力を救援するため、トルコ南部からシリア北部のクルド人の町アイン・アラブ(クルド名コバニ)に入った。

対イスラム国で外国の地上部隊がシリア入りしたのは初めて。だが作戦規模は限定的で先に入ったアラブ人主体のシリア反体制派との摩擦も考えられ、今後のイスラム国対策が順調に進むかは不透明だ。
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(中略)ペシュメルガはロケット砲などの重火器で武装してシリアに入った。米軍などによる空爆支援も続いていることから、ひとまずはイスラム国の撃退が可能になると期待される。

ただ、ペシュメルガの当面の目的はあくまでもアイン・アラブ防衛で、イスラム国との戦い全体への影響は限定的だとの見方が一般的だ。

一方、トルコ政府は10月下旬、庇護(ひご)下に置くシリア反体制派「自由シリア軍」のトルコ領からの出撃を容認した。すでに約400人の戦闘員が、アイン・アラブ入りしているとされる。

シリアのクルド勢力は、「対イスラム国」という目的は反体制派と共有しているもののシリア内戦では中立的な立場だ。スンニ派アラブ人主体の反体制派との間には感情的な溝もある。

今後、反体制派がアイン・アラブに拠点を持つなどすれば、クルド勢力との間で新たな火種となる可能性もある。

今回、トルコがペシュメルガや反体制派部隊にアイン・アラブでの戦闘を認めたのは、自らはイスラム国との直接対峙(たいじ)を回避しつつ、地上部隊によるシリア介入という既成事実を積み上げることで、イスラム国との戦いをアサド政権の打倒に誘導したいとの思惑があるためだ。

このためアサド政権はトルコの動きを「陰謀」だと牽制(けんせい)し、警戒心をあらわにしている。【11月2日 産経】
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「自由シリア軍」の出撃を認めたトルコは、クルド人勢力がこの地域で拠点を築くことはどうしても避けたいという思惑でしょう。本音で言えば、「イスラム国」がクルド人勢力を駆逐してくれた方が望ましい・・といったところでは。

こうした複雑な関係をコントロールして「イスラム国」へ向かわせるのはアメリカの指導力ですが、どうでしょうか・・・。

スンニ派部族勢力のイラク政府軍への不信感
イラク領内の戦闘については、アメリカのヘーゲル国防長官は10月30日、過去1週間の戦闘で政府軍とクルド人部隊が攻勢に転じ、首都バグダッド近郊などでの戦況に優勢な状況が見られると評価しています。

一方で、イラク西部アンバル州で「イスラム国」による凄惨な殺戮が報じられています。

****イスラム国、イラク部族民200人超を殺害****
イスラム教スンニ派(Sunn)の過激派組織「イスラム国(IS)が、イラク西部アンバル州で最近、同組織に敵対するスンニ派のアルブ・ニムル部族民200人以上を「処刑」したことが分かった。当局者らが2日、明らかにした。ここ10日間ほどで殺害された部族民の中には、女性と子どもも含まれている。

イスラム国はアンバル州の大部分を制圧しており、一連の「処刑」は、アルブ・ニムル部族がイスラム国に対する武装蜂起を開始した後に起きた。アンバル州内の強力な部族の抵抗を抑える狙いがあるとみられている。

殺害された人数とその時期については情報源によって食違いがあるが、いずれの情報源も死者数は200人以上としている。AFPの取材に対し、地元警察幹部は200人以上が殺害されたと表明。一方、アンバル州の議会幹部は死者数を258人としている。【11月3日 AFP】
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アンバル州では米軍駐留中の2006~07年ごろ、アルカイダ系の「イスラム国」前身組織が活発に活動していましたが、米軍はスンニ派部族の協力でこれを抑え込んだ経緯があります。

「イスラム国」が急拡大した背景には、シーア派に偏重したマリキ前政権を嫌った一部スンニ派部族が「イスラム国」に協力したことがあります。

従って、今後「イスラム国」との戦闘については、スンニ派部族との協力関係を再構築できるかどうかがカギとなります。

「イスラム国」には、大規模な処刑により、支配に従わない勢力に対する見せしめにしたいとの狙いがあるとみられています。

それだけの話であれば、「イスラム国」の虐殺行為に怒ったスン二派部族が「イスラム国」との戦闘を拡大する・・・ということにもなりそうですが、ここでも内部関係が問題になります。

TVニュースで虐殺されたスン二派部族関係者の話を聞いていると、怒りの矛先は「イスラム国」ではなく、イラク政府軍に向いているようです。

シーア派中心のイラク政府軍はスンニ派部族に「イスラム国」との戦闘に参加するように要請しておきながら、「イスラム国」に包囲された自分たちに武器を支援することも、救援することもなく、自分たちをを見捨てた・・・と語っていました。

これでは、協力関係の再構築どころか、スンニ派部族の間では、政府軍に協力しても虐殺されるだけだ・・・と、「イスラム国」側の狙いどおりの効果になるでしょう。

シリア側でも、イラク側でも、「イスラム国」との戦闘を優位に転換できるかどうかは、「イスラム国」に立ち向かう側内部の対立・不信をいかに克服・コントロールできるかにかかっているようです。
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