孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  「クリーン・インド運動」を展開するモディ首相 社会意識の変革は?

2014-11-09 23:14:29 | 南アジア(インド)

(ニューデリーのゴミ捨て場で再生可能なゴミを探して拾う女性や子供たち オフィスや家庭から出るコンピューターやプリンター、携帯電話などの電子廃棄物が、インドの貧困地域でごみ拾いをして生計をたてる人びとの健康を脅かしていることが指摘されています。【2010年7月9日 AFP】)

衰えぬモディ人気
インド人民党のモディ首相には、州首相時代に成し遂げたインフラ整備・経済成長への期待と、ヒンズー至上主義の側面が社会にもたらす不安の両面があることは、これまでも取り上げてきたところです。
(10月5日ブログ「インド ヒンズー至上主義者モディ首相の危険な側面  高まるイスラム教徒との緊張」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141005 など)

これまでのところ、10月15日に行われたインド経済の中心都市ムンバイを抱える西部マハラシュトラ州と、日系企業の進出が著しい、首都ニューデリーに隣接する北部ハリヤナ州の地方選挙でインド人民党(BJP)が圧勝するなど、その国民的人気は衰えていません。

****インド 地方議会選挙でモディ政権与党が躍進****
インドでは、モディ政権が発足してから初めて行われた地方議会選挙で政権与党が大きく議席を伸ばし、地方の権限が強いインドで経済改革を全土に広げたい政権にとって追い風になりそうです。

インドでは、今月15日に投票が行われた北部ハリヤナ州と西部マハラシュトラ州の議会選挙の開票が19日、行われました。インドでは、ことし5月のモディ政権発足以降、初めての本格的な選挙です。

このうち日本企業が数多く進出するハリヤナ州では先の総選挙で圧勝したモディ首相の政権与党、インド人民党が、5年前の選挙から議席を10倍以上に伸ばして初めて過半数を獲得し、最大の商業都市ムンバイがあるマハラシュトラ州でも第一党となって、モディ首相の経済政策に対する国民の期待の高さが改めて示されました。

また、インドでは、州政府の権限が強くモディ政権が掲げる規制緩和などの政策を全土に広めるには、州議会でも与党の座をおさえることが重要視されていることから、今回の選挙結果は経済改革を全土で推進したいモディ政権にとって追い風になりそうです。【10月20日 NHK】
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【「クリーン・インド(インドをきれいにしよう)運動」】
期待される経済政策だけでなく、モディ首相はインドの“汚い”というネガティブイメージの一掃にも取り組んでおり、自らほうきを持って街頭で掃除するパフォーマンスなどを行っています。

****ほうき片手にクリーン・インド運動「すべての学校と家庭にトイレを!」****
日本人のインドの印象としてよく、「汚い」というマイナスイメージが挙げられる。

確かに町のあちこちにはゴミが散乱し、路上は公衆便所となり、牛や犬のふん尿を至る所でみかける。外食の際は、気をつけていても腹を壊すことがある。食材が傷んでいる場合もあれば、自分の手が汚れていることが原因ということもある。

こうした汚名を返上しようとモディ首相が始めたのが、「クリーン・インド(インドをきれいにしよう)運動」だ。

独立の父、マハトマ・ガンジーの誕生日に当たる祝日の10月2日、モディ氏自らほうきを持ち、警察署でゴミ掃除をするパフォーマンスを繰り広げた。閣僚や官僚もこの日の清掃に加わった。

インド政府はガンジー生誕150年を迎える5年後まで、自治体に予算を与え、町をきれいする運動を推進していくという。

モディ氏はこのほか、学校に男女別のトイレを整備することも推進している。12億人以上の国民の半分は家庭にトイレがないとされており、「5年後には、すべての学校と家庭にトイレを」と訴えているが、6200億ルピー(約1兆1千億円)の予算が必要という。

また、仏教とヒンズー教の聖地バラナシと京都の都市提携にも乗り出し、バラナシを流れ水質汚染の激しいガンジス川の浄化に日本の政府開発援助(ODA)が活用されることになる。

モディ氏はこの運動を単なる政策ではなく「愛国心に喚起されたものだ」と国民に訴えている。経済再生や汚職対策など大きな期待を背負って今年5月に誕生したモディ政権は、まだ大きな実績は残していないものの、こうしたわかりやすいイメージ戦略を打ち出すのはうまいようだ。

ただ、一部には痛烈な批判もある。12日付のインド紙ステーツマンに寄稿したロンドン在住の政治学者シマンティニ・クリシュマン氏は「カースト制度や差別に関連した根深い問題に立ち向かうまでは、こうした運動はメディアなどを越えて人々に重く響くことはないだろう」と皮肉を込めて論評した。

そのうえで、「カースト制度はよく、インドの多くの問題の根源になっている。公衆衛生の問題ももちろん、その一つだ」と指摘している。【10月26日 産経】
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「クリーン・インド運動」の先頭に立ち、他の閣僚・官僚にも行動で示すことを求めているモディ首相ですが、なかには「やらせ清掃」がやり玉にあがる政治家も出ているようです。

****政治家の「やらせ清掃」に批判集中、インド****
インドで街中に捨てられているごみをなくすことなどをめざす「クリーン・インディア」キャンペーンがナレンドラ・モディ首相の肝煎りで実施されている。しかし、このキャンペーンのために運の悪いある政治家が思わぬ面倒に巻き込まれてしまった。

モディ首相は先月2日、キャンペーンの開始に当たり自らほうきを手に道路を清掃してみせた。それ以降、国内では著名人がこぞって道路の掃き掃除をする自身の姿を撮影させて公開している。

だが、モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)のニューデリー地区支部長、サティシュ・ウパディヤイ氏が道路を掃除する前に作業員が落ち葉をまいている様子が写真に撮られてしまった。

この出来事をインド紙メール・トゥデーが伝え、写真はソーシャルメディア上で瞬く間に拡散した。インド国内では7日朝までにツイッターで最も多く使われているハッシュタグが「#CheatingCleanIndia」(#チーティング・クリーン・インディア、「クリーン・インディアでの不正行為」の意味)になった。

ツイッターには「VIP向けのごみとして乾いた落ち葉(臭くないもの)の需要が急増」、「新政権が発足してようやく国が良い方向に進み始めたと思ったのに、また偽善のリーダーだ」などの批判が投稿された。

ウパディヤイ氏は、清掃イベントに招かれてその場に出向いたと弁明。同国のテレビ局CNN-IBNに対し、「誰がやったにせよ、あれは正しい行為ではなかった。首相が始めたキャンペーンは単に写真撮影の機会を提供するためのものではない」と述べた。

インドでは身分にこだわる人が多いが、首相は閣僚や公務員らに対しても政府庁舎の清掃イベントに参加するよう強く訴えた。これを受け、政治家や映画スター、実業家など数十人が実際に清掃活動に参加している。【11月9日 AFP】
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まあ。インドに限らず、ありがちな話ではあります。
ありがちではありますが、“やらせ”は別にしても、政治家のパフォーマンス自体は悪いことではないでしょう。

それまで具体的な改善策が示されてこなかった分野に人々の関心をひきつけ、その後の具体策実施に弾みをつけるものであれば。

しかし、具体策実施が伴わないのであれば、単に人々の目をごまかすためだけののものと批判されるべきものです。

****聖なるガンジスをどう救うのか****
巨大な汚水槽と化してしまった聖なる川 モディ首相は浄化計画をぶち上げているが、政府のやり方ではきれいな川は戻らない

聖なる川をめぐり最高裁から首相への手厳しい一撃だ。

政府はガンジス川の浄化計画を進めているが、インド最高裁判所は9月初め、「200年たっても川はきれいにならない」だろうと指摘。段階別の計画と、達成期限を具体的に示すよう政府に求めた。

ガンジス川の浄化は、当時野党のリーダーだったナレンドラ・モディ首相が春の総選挙の選挙演説で約束した重要政策。モディ率いるインド人民党(BJP)の政策綱領にも盛り込まれた。

5月に発足したモディ新政権は早速、水資源・河川開発・ガンジス川再生省という新しい官庁を設置。7月には、予算3億3400万ドル規模のガンジス川総合開発計画を打ち出し、3年以内に浄化を成し遂げると約束た。

しかし、肝心のプロジェクトの内容がはっきりしない。「断片的な内容が伝わってくるだけで、それぞれの細かい中身と相互の関係はよく分からない」と、水・エネルギー関連の活動に取り組むNGO「マンタン・アディヤヤン・ケンドラ」の創設者であるシリパッド・ダルマディカリは言う。

モディのガンジス川浄化計画は、派手な言葉が躍る半面、細部はとうてい意欲的なものには見えないのだ。最高裁がいら立ちを表明したのも無理はないかもしれない。(後略)【10月28日号 Newsweek日本版】
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今も人々の意識を縛るカースト制・差別意識
街の清掃にしても、トイレにしても、掛け声、パフォーマンスだけに終わらないことを期待しますが、突き詰めていくとインド社会に根深い問題にも関わってきます。

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ゴミをポイ捨てするインド人は日常的に見られます。
ゴミを捨てたインド人に注意すると、
ゴミ拾いで生計を立てる人がいるので、彼らの生活を保障しているのだという答え。【もっこす野郎 3分Hacking】http://ameblo.jp/mokkosuyaro/entry-10948899889.html
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日本的にはありえない話ですが、カースト制のなかでジャーティと呼ばれる職業別の身分差別制度が存在するインドにあっては、一面の真実でもあります。

今朝のTVニュースでは、インドにはゴミ拾いで生計を立てる人々が200万人おり、その内12万人が14歳以下の子供で、当然学校などには通っていないそうです。
そうした子供のゴミ拾いの稼ぎは1日で100ルピー(186円)ぐらいだとか。

おそらく、これらの人々、子供たちは、インド社会にあってはゴミ拾いでしか生計を立てることが許されていない、基本的カーストの枠外に置かれた不可触民に属するジャーティ(カースト制度の基礎となる職業・地縁・血縁的社会集団)の人々でなないでしょうか。

インドの街をきれいする・・・と言うのであれば、こうしたゴミ拾いでしか生計を立てられない人々をどうするのか・・・という問題にまで話は及びます。

すぐに思いつくのは、政府が直接に、あるいはNGOなどを通じて間接に資金を出して、こうした人々を清掃員として雇用していくことです。
でも、子供はどうするのか?

あるいは、そもそもこうした身分制度の実質的撤廃を目指した社会運動を展開するのか?(法的には、1950年に制定されたインド憲法17条により、不可触民を意味する差別用語は禁止、カースト全体についてもカーストによる差別の禁止も明記されています)

しかし、カースト制はヒンズー教と密接に結びついており、不可触民(ダリット)を“神の子”と呼んで手を差し伸べたガンジーも、カースト制自体を否定するものではなかったそうです。

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「インド独立の父」と讃えられるマハトマ・ガンディーは、ヴァイシャ(平民)出身。
ヒンズー教徒の彼は、最下層のダリットには同情的であったが、カースト制度自体をなくそうとはしなかった。

なぜなら、カースト制度は、ヒンズー教の根底となる制度。ヒンズー教では、輪廻転生の概念があり、今の人生を一生懸命頑張れば来世で上の階層に行けるという教えがあるのだ。なので、カースト制度をなくすことは、ヒンズー教の信仰そのものを否定することになってしまうのだ。【2013年3月1日 白神じゅりこ氏 livedoor’s News】
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そうなると、ヒンズー至上主義のモディ政権がそうした部分に手をつけることはないでしょう。

どんな社会の仕組みもそうですが、“カーストは親から受け継がれるだけで、生まれたあとにカーストを変えることはできない。だたし、現在の人生の 結果によって次の生など未来の生で高いカーストに上がることができる。現在のカーストは過去の生の結果であるから、受け入れて人生のテーマを生きるべきだ”というインドのカースト制も部外者にはなかなか理解しがたいものです。

インド社会についてそれなりに見識がある方からは、インド社会の根底にあるカーストをよく理解せずに、あれこれ言うことにお叱りを受けるでしょうが、ゴミ拾いのジャーティに生まれた子供はゴミ拾いでしか生きていけず、周囲の人々から穢れた存在として差別を受ける社会というのは、日本的価値観からすれば受け入れがたいものがあります。

また、近年インドにおいてはレイプなどの性犯罪が問題となっていますが、不可触民(ダリット)の女性が性犯罪の被害者となることが多いようです。

ただ、カースト制にかかわるものだけでなく、より広範な女性蔑視の社会的風潮も存在しています。

****レイプ大国インドの実態 顔に硫酸、素手で腸を出す・・・信仰とカーストが生んだ獣たち****
・・・・2012年11月には、小さな村に住む最下層のダリットの16歳の少女が3時間近くにわたり7人の男にレイプされた。男たちの1人がレイプの様子を携帯で撮影。その映像を村中に流され、それを見た被害者の父親は絶望し殺虫剤を飲んで自殺した。

また、別の村の16歳のダリットの少女が、昼食を取ろうと畑から自宅に向かっていたところ、2人の男たちに別の家屋に連れ込まれ、レイプされた。叫び声を聞いた父親が現場に駆けつけたときには、男たちの姿はなかった。少女はその後、灯油をかぶり焼身自殺した。

そのほかにも、ダリットの女性はレイプされたうえに、手足を切断されたり、火あぶりにされたり、人糞を食べさせられることを余儀なくされたり、悲惨な事件が後を絶たない。

低カーストやダリットの女性に対するレイプは上位カースト男性の力を示すものであり、彼女らは常にレイプの危険にさらされているのだ。

しかし、このカースト制度がもたらした影響だけが、レイプ犯罪を誘発しているわけではない。昨年12月にバス車内で起きた集団レイプ事件の被害者女性は中流階級のカーストだったといわれている。

インドには、カースト制度がもたらすレイプ事件誘発以外に、強烈な男尊女卑が残っているのだ。

未亡人殉死の恐るべき因習「サティ」。夫が死んで火葬されるとき、妻も火に身を投げて自殺することを強要させるというもの。これは近年まで続いてきた。

さらに、女性が結婚する時に持参金を持ってくる「ダウリー」という制度。法的には禁止されているものの、まだまだ健在である。嫁から持参金を搾り取るために、虐待したり、充分でないと火をつけて焼き殺したりする場合もある。ダウリー殺人と言われる。

こうした女性に対する暴力はインドで繰り返され、犠牲になる女性たちがどんなに多いことか。女性が危害を加えられたところで警察が動くこともなければ、裁かれることもない。

女性に対して罪を犯しても罰せられないことがまかり通っているインド社会では、「女性に対していくらでも酷い虐待をしてもいい」という認識に繋がっている。【同上】
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「性犯罪の最高刑を死刑とする刑法」など若干の動きは見られます。

モディ首相でも誰でもいいですから、こうしたインド社会に根付く差別意識を変革していくリーダーとなってもらいたいのですが・・・・モディ首相にそういうことを期待するのはお門違いでしょう。

まあ、産業が活性化し、新たな工場が作られ、あらたな産業が生まれるなかで、ジャーティに縛られない雇用形態も広がっていく・・・ということはあるでしょう。
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