孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  深刻な環境汚染・・・大気、水、土壌

2014-11-06 22:41:56 | 中国

(マスクを着けて走る北京マラソンの参加者ら=10月19日、北京(AP)【10月19日 産経ニュース】
http://www.sankei.com/world/photos/141019/wor1410190017-p10.html
健康に良くないことは言うまでもありませんが、ここまでして走るというのは、本当に走りたい・・・ということでしょうか、それとも環境政策批判のためでしょうか?)

中国政府は「汚染に対する戦争」を宣言
先月開催された北京マラソンではマスクを着けて走るランナーが異様でしたが、中国政府はAPEC開催を控えて北京の大気汚染を期間中だけでも何とか糊塗しようと懸命のようです。

****APEC直前 北京は必死の青空作戦 車乗り入れ半減、暖房供給を制限****
北京で10、11日に行われるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議まで1週間を切り、中国政府は大気汚染対策に全力を挙げている。

北京市では3日、ナンバープレートにより市内を走る乗用車を半数に削減する規制が始まった。操業停止を命じられた工場も多いという。一部の地域では暖房供給も遅らせており、「政府のメンツのために生活を犠牲にするのか」といった不満の声が上がっている。

「中国の夢の実現」をスローガンとして掲げる習近平政権は、APEC首脳会議を国威発揚の場と位置づけている。外国首脳が北京を訪れる前に、何とか大気をきれいにしたい-と、張高麗筆頭副首相を総責任者にして6月から対策に取り組んできた。

老朽化した自動車約30万台を強制的に廃車にし、環境破壊と指摘されかねない活動を行っている企業計375社を引っ越しさせるなどの対策を取ってきた。

多くの外国人選手が参加した10月19日の北京マラソンは、APECの試金石と位置づけられたが、レース当日は体調不良を訴える棄権者が続出。マスクを着けたまま走る選手もおり、その姿は映像を通じて世界中に伝えられた。

こうした状況を踏まえ、共産党指導部は10月下旬に環境汚染対策の強化を各部署に厳命したという。中国メディアによると、APEC会場周辺の工場のうち、フォードの現地法人やアルミ缶を生産する「太平洋制罐有限公司」など、少なくとも十数社が一時操業停止の命令を受けた。

太平洋制罐有限公司の責任者は中国メディアに対し、「損失の約2千万元(3億7千万円)は北京市が補填(ほてん)してくれる」と語った。

中国メディア関係者によると、北京市と河北省の環境担当者は、10月末に会場周辺の市町村責任者を集め、APEC首脳会議終了まで、わらを燃やす野焼きや爆竹、バーベキューの禁止を市民に徹底するよう命じたという。

また、排出ガス削減のため、11月3~12日まで、乗用車のナンバーの末尾が偶数か奇数かによって北京市内への乗り入れを禁止する施策を始めた。

しかし、こうした努力が実るかは不明だ。ある北京市政府関係者は、「大気汚染の原因はよく分からない。当日の空気が改善されるかどうかは、風が吹くかどうかにかかっている」と話している。【11月4日 産経】
*********************

北京オリンピックでも同様の対策をとったような記憶がありますが、一時しのぎ過ぎないことは言うまでもありません。

WHOなどの報告によれば、中国では、120万人が大気汚染のため早死にしたとも言われています。
住民意識も大気汚染・環境汚染に敏感になりつつあります。

“PEW研究センターの世論調査では、2008年には「大気汚染は極めて大きな問題」と答えたのは31%であったが、2013年には47%がそう答えた。石炭火力発電、化学工場、石油精錬所、ごみ焼却炉などの建設に反対する運動が広まり、公害は、いまや中国の社会不安の主たる原因になっている。”【10月17日 WEDGE】

こうした変化を受けて、中国政府も環境対策に力を注ぐようになってきてはいます。

*****中国国民の間で高まる環境問題への関心 社会不安の主たる要因に****
・・・・このような結果、国民の間では、環境問題への自覚が高まり、中国政府は、より積極的な対策を取るようになった。

今年3月、中国政府は「汚染に対する戦争」を宣言した。1か月後、1989年以来初めて環境保護法が改正され、種々の規制が強化された。

主要経済地域での石炭火力発電所の新設が禁止され、2020年までに北京ですべての石炭の使用が禁止されることとなった。

政府は、大気汚染の「行動計画」に2770億ドルを、水質汚染の「行動計画」に3330億ドル支出することを決めた。

さらに走行する車の数を制限し、排出ガスの規制を強化し、電気自動車、ハイブリッド車の購入に大幅な払い戻しをすることを決めた。【10月17日 WEDGE】
******************

【「いずれ飲み水がなくなる」】
ただ、中国で深刻なのは大気汚染よりは、水不足・水質汚染の水の問題であるとも指摘されています。

北京ではすでに14年間もの間降水量の減少が続いた影響により、水の供給能力が目に見えて落ちていると言われていますが、そうした水不足が北京で感じられないのは、政府が強引な引水によって各地から水をかき集めてきている実態があるためです。

“引水”の代表例が、比較的水資源に恵まれている南部の長江から、水がひっ迫する北部に水路を引く大事業、「南水北調」です。ただ、これで問題が解決する訳ではありません。

北京に限らず、状況は地方でも深刻です。

*****空気汚染より深刻な中国の“水”問題******
・・・・それに増して悩ましいのが、農地が集中する北部で水のひっ迫が顕著だということだ。北部地域において重要な水源と考えられている4本の河(黄河、淮河、海河、遼河)の水量は、この数年で約17%も失われてしまっている。

これは各地方が競うように経済発展のための工場誘致や地場産業の育成に乗り出した結果として、工業用としての水の需要が高まったのに加え、生活水準の向上で1人あたりの水消費量が伸びたことが原因だと考えられている。(中略)

さらに深刻なのは、いまや水消費量全体の40%をまかなう地下水の問題である。99年から12年まで、地下水を汲み上げ過ぎた影響で、水位が毎年平均で90センチずつ落ちている。(後略)【2月18日 WEDGE】
********************

そしてこのような水不足は水質汚染を惹起しています。

****河川から地下水へ 広がる水質汚染****
・・・・騙し騙しなんとか水を手当てしてきた当局だが、もはや「最後の砦」ともいうべき地下水にまでその問題は及んできている。

そのことを象徴していると考えられているのが、いま中国全土に広がる水質汚染の問題である。中国の深刻な水質汚染は、表面を流れる河川から土壌に広がり、ついには地下水の汚染にまで広がってきている。(中略)

中国では、もう何年も前から「いずれ飲み水がなくなる」という懸念が語られてきているが、公表されるデータのどれもがそのことを裏付けるような内容だった。

いまや全国655都市のうち、400以上の都市で地下水が主な飲料水の資源であることを考えてもこの事実は衝撃だ。

事実、11年に国土資源部が全国200都市で行った地下水の調査によれば、「極度に汚染」と「やや汚染」の2つの項目に該当したのは全体の約55%で、前年に比べて15.2%も増えていたという。

しかも、全体の37%に当たる地下水が、「地下水品質標準」に照らした“汚染”にあたる「Ⅳ類」と”重度の汚染”にあたる「Ⅴ類」に相当し、すでに飲料水には適さないものだったのだ。(後略)【同上】
********************

中国が水不足に直面している最大の原因は、限りある資源である水の価格設定を意図的に極めて低くしていることから、需要抑制が働かないことにあると指摘されています。

****深刻な中国の水不足問題****
エコノミスト誌9月27日‐10月3日号は、中国の水不足について、現在実施中の世界最大の水移転プロジェクトによっても問題は解決しないだろう、と指摘しています。

すなわち、中国北部には中国全土の5分の1の淡水しかないのに、耕地の3分の2が集中している。さらに、ここ数十年、急激な都市化と河川の汚染が進んだ結果、同地域は、慢性的な水不足に悩まされている。

2002年に中国南部から北部に水を移す世界最大の用水プロジェクトが始動し、昨年、その第一段階が完了した。これは1400年前に造られた「大運河」を拡張・掘削し、揚子江流域から天津まで水を運ぶものである。この10月には、第二段階として、はるかに野心的でコストも要する、湖北省と北京を結ぶ新運河が開設される。

しかし、新運河の建設によっても、中国の水不足は解消されない。それは、人口増加、都市の拡大、工業化等で、水の需要が供給以上に拡大しているからである。

最大の問題点は、中国政府が、水の供給量を増やすばかりで、問題の根源である水の需要問題に向き合おうとしないことである。

2009年の世銀報告書によれば、中国は単位当たり工業生産に、先進国平均の10倍の水を使っている。これは、水が非常に安価なためである。2014年5月に政府は水道料金を多少引き上げたが、市場レベルには程遠い。

水の価格を引き上げれば、需要は抑えられ、効率的な消費が促されるが、役人はこうした解決策を嫌う。彼らは、水の価格を引き上げて工業が逃げ出すようなことはしたくない。住民の抗議にも直面したくない。

そこで、パイプや運河によって水をやりくりしようとする。水移転プロジェクトは「政治権力の物理的証し」である。

このままでは、いつか、チベット高原を横断して揚子江源流と黄河上流とをつなぐ大工事も始まるかもしれない。そうした巨大プロジェクトによって、問題は先送りされ、解決に至ることはないのであろう、とエコノミスト誌は述べています。【11月6日 WEDGE】
******************

食品問題でも見られるように、社会的モラルの欠如も問題を深刻化させています。

“地下水汚染がにわかに注目を浴びたきっかけは、山東省の1つの“盗排”事件だった。盗排とは汚染水をこっそり捨てることだが、企業自らが汚染水を捨てるのではなく、それを有料で引き取る非合法の企業が請け負い、夜中にこっそり川に捨てるというシステムだ。汚染水を排出する企業が自らの手を汚さないためさらに良心のハードルが下がり、問題を助長している。”【同上】

もしチベット高原にあるメコン川の源流に中国が手を付けるようなことになれば、メコンに依存する東南アジア各国にとって死活的な問題ともなります。

なお、問題の本質に迫る抜本的な対策が諸般の事情によりなかなかとられないのは中国に限った話ではありません。
日本の財政問題にしても、少子化・人口減少問題にしても同じようなものでしょう。

耕作地の40%以上で「土壌劣化」】
汚染・劣化は大気・水にとどまらず、土壌にも及んでいます。

****中国で食糧自給に「危機感」、専門家の指摘も相次ぐ****
中国政府・農業部が10月29日に江蘇省揚州市で開催した全国耕地質量建設現場会(耕地品質建設現場会)で、中国全国の耕作地の40%以上で、「土壌劣化」の現象が発生しているとの報告があったことが分かった。

鉱工業による汚染物質排出や過剰な化学肥料使用などが深刻な影響を与えているという。中国新聞社などが報じた。(中略)

中国では生産性にもとづいて耕地の等級を算定している。同省で30年前には60%以上あった「1等」または「2等」の耕地は28.14%にまで減少した。

中国の大穀倉地帯のひとつである東北地方黒土区では、土壌中の有機物が大幅に減少した。30年前から約30%減少して、土壌1キログラム当たり26.7グラムになった。

現地の黒土は、動植物の死骸に由来するミネラル分や有機物が豊富に含まれる土だ。有機物などが奪われれば、土の色は薄くなる。東北地方黒土区の多くは、近代以降に開墾された。

開墾初期には80-100センチメートルあった黒土層の厚さは現在20-30センチメートルになってしまった。地表に黄色い土が顔をのぞかせる地方も増えた。

中国工程院の陳福如院士は「国はすでに、耕作地面積について18億畝(約1億2000万ヘクタール)を最低線として、それ以上を確保する考えを明確にしているがが、面積の概念だけでは全く不足だ。われわれは耕作地面積を確保すると同時に、耕作地の質を高めねばならない。耕作地の質の『最低ライン』は(面積と)同様に重要な意義を持つ」と述べた。

過剰な化学肥料使用や鉱工業による汚染も、土地の質の劣化を大きく加速している。中国の耕作地面積は全世界の1割にも満たないのに、化学肥料は全世界の4割を使用している。農薬使用量は130万トンで、世界平均の2.5倍という。

中国農業科学院農業資源と農業区画研究所の周衛研究員は、「工業廃棄物、科学肥料と農薬、すでに汚染されている種子の利用などが土壌の劣化が深刻化している」と指摘。周研究員によると、黄淮海平原での塩害、西北地方での土地流、中部や南部の、もともとう痩せた土地における重金属汚染など、それぞれの地方で、土壌の劣化が進んでいる。

中国では「土地管理法」、「基本農田保護条例」などで、耕作地の確保を行っているが、「土壌の質の確保」を目的とする成文法は存在しない。そのため、土壌劣化をもたらす行為があっても、実効性のある処罰をすることが難しい状態という。【11月6日 Searchina】
*********************

高度経済成長期の日本では、工場の煙突から噴き出る煙は成長のシンボルでもありました。
結果、大気・水・土壌の深刻な汚染を全国にまき散らし、四大公害病のような深刻な被害も経験しました。

そうした日本の経験や環境対策技術は中国にとって有意義なものと思われます。
現在の冷え込んだ両国関係にあって、そうした経験・技術が生かされないのは残念なことです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする