孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  東エルサレムでパレスチナ住民と治安部隊の衝突 高まる緊張

2014-11-07 22:38:22 | パレスチナ

(10月30日 東エルサレム旧市街でイスラエル武装警官に向かって怒鳴るパレスチナ人女性 【10月31日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/3030548?pid=)

イスラエルが実効支配する東エルサレム
ガザ地区をめぐって今年夏に起きたイスラエルとパレスチナ・ハマスの衝突は一応の停戦状態にありますが、先月末から、イスラエルが一方的に併合を宣言している東エルサレムなどで、パレスチナ住民とイスラエル治安部隊との衝突が相次ぎ、両者の緊張が再び高まっています。

エルサレムは、ユダヤ人が住む西エルサレムとアラブ人居住区である東エルサレムからなり、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教共通の聖地とされる旧市街は東エルサレムに属しています。

第三次中東戦争(1967年)以降、ヨルダンが統治していた東エルサレムはイスラエルの実効支配下にあります。

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第二次世界大戦後の1947年に国際連合のパレスチナ分割決議において、パレスチナの56.5%の土地をユダヤ国家、43.5%の土地をアラブ国家とし、エルサレムを永久信託統治とする案を決議した際に、この決議を元にイスラエルが独立宣言をするが、直後に第一次中東戦争が勃発。

1949年の休戦協定により西エルサレムはイスラエルが、旧市街を含め東エルサレムをヨルダンが統治することになり、エルサレムは東西に分断された。

1967年6月の第三次中東戦争(六日間戦争)を経て、ヨルダンが統治していた東エルサレムは現在イスラエルの実効支配にある。

イスラエルは東エルサレムの統合を主張しており、また、第三次中東戦争による「再統合」を祝う「エルサレムの日」を設けている。【ウィキペディア】
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1980年に国連総会はイスラエルの東エルサレムの占領を非難し、その決定の無効を143対1(反対はイスラエルのみ、棄権は米国など4)で決議しています。

現在、イスラエルは実効支配する東エルサレムを含むエルサレムを首都としていますが、国際的には認められていません。

一方、パレスチナ自治政府は東エルサレムを独立後の首都とみなしています。
“2009年、EU議長国のスウェーデンは、エルサレムをイスラエル、パレスチナ自治政府、両方の首都とするよう求める発議を行った。イスラエルはこれに反発し、EU加盟各国に抗議を行った。”【同上】といった経緯もあります。

両者が領有を主張する東エルサレムですが、イスラエルは実効支配する東エルサレムの支配権を固めるため、東エルサレムへの大規模ユダヤ人入植地建設を進めており、イスラエル・パレスチナ間の対立の火種ともなっています。

イスラエルの入植地建設には、イスラエルの後ろ盾であるアメリカ・オバマ政権も中東和平を阻害する動きとして苛立ちを隠していませんが、自身が保守強硬派でもあり、また、閣内に更に過激な保守派を抱えるイスラエル・ネタニヤフ首相は入植地建設を継続しています。

****入植住宅1000戸の建設推進=西岸でもインフラ計画―イスラエル****
イスラエルのメディアによると、ネタニヤフ首相は27日、東エルサレムの入植地ハルホマなどに住宅約1060戸の建設計画を進めることを承認した。パレスチナ側は「このような一方的な行動は(パレスチナ人の)爆発につながる」と強く反発した。

建設推進の方針が決まったのは、ユダヤ人入植地ハルホマの約400戸とラマトシュロモの約660戸。ネタニヤフ首相は国会の演説で、「イスラエルはエルサレムのユダヤ人地区をつくる権利があるという意見で国民は広く一致している」と主張した。

また、首相は、ヨルダン川西岸の入植地で、新しい道路の建設などのインフラ計画を進めることを認めたという。【10月28日 時事】 
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イスラエルが東エルサレムへの入植を進める背景としては、住宅問題の解消という側面もありますが、エルサレムのアラブ人の人口が増加しており、やがてはユダヤ人が呑み込まれてしまう・・・という懸念もあるように思われます。

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イスラエルは占領後旧ヨルダン領にあった28の地方自治体をエルサレムに統合したが、その地区にはユダヤ人の大規模入植地が建設され、多くのユダヤ人が流入した。

しかしエルサレムのアラブ人の出生率は高く、ユダヤ人入植地の大量建設をもってしても人口比率を増やすことはできなかった。

2007年には、エルサレムのアラブ人の割合は34%にまで伸び、ユダヤ人の比率は66%にまで落ちた。このままの人口推移が続けば、2035年にはエルサレムの人口比率はユダヤ人とアラブ人がほぼ同数になると考えられている。【ウィキペディア】
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なお、この人口比率の問題は、エルサレムだけの話に限らず、西岸地区をイスラエルに併合するのか・・・といったパレスチナ全体の問題を考える際にも、むやみに併合・拡大すればユダヤ人国家とするイスラエルにおいてユダヤ人が少数派になってしまいかねないという意味で、イスラエル側の選択を制約する条件ともなります。

相次ぐ衝突
かねてより緊張状態が続いていた東エルサレムの状況は、10月末より、危険な状況にまで高まっています。

****東エルサレムで警官がパレスチナ人を射殺、衝突激化****
イスラエルが実効支配する東エルサレムで、ラビ(ユダヤ教指導者)殺害を図ったとされるパレスチナ人容疑者がイスラエルの警官に射殺された事件を受けて、パレスチナ住民とイスラエルの治安部隊の衝突が激化している。

東エルサレムではこの数か月、パレスチナ住民とイスラエルの警官隊が緊張状態にあり、ほぼ連日衝突が起きている。だが29日夜の射殺事件を受け、緊張状態がさらに高まった。

イスラエルは30日、高まった緊張を緩和するためとしてユダヤ人とパレスチナ人がともに神聖視する「神殿の丘」に建つイスラム寺院「アルアクサ・モスク」を数十年ぶりに封鎖した。

これに対し、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長はイスラエルの「宣戦布告」だと非難し、米国もイスラム教徒のモスク立ち入りを許可するよう要請。イスラエルは31日、アルアクサ・モスクの封鎖を解除した。

これに先立ち、イスラエル警察当局のルバ・サムリ広報担当はAFPの取材に、「31日未明に明け方の礼拝者のために」モスクの封鎖を解除するが、暴動の恐れがあるため、イスラム教徒の男性については50人までに制限し、イスラム教徒以外の立ち入り禁止を続ける計画と語っていた。【10月31日 AFP】
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東エルサレムでの緊張の高まりを受けて、“お決まり”のガザ地区からのロケット弾攻撃、イスラエル側のガザ封鎖強化といった流れも出ています。

****イスラエル南部、ガザからのロケット弾が着弾****
イスラエル南部に10月31日夜、パレスチナ自治区ガザの武装組織から発射されたロケット弾が着弾した。

イスラエル軍広報が本紙に明らかにした。けが人などの被害は確認されておらず、軍は反撃していない。イスラエルがパレスチナ人などに対し、エルサレムの聖地への入場を制限していることに反発したとみられる。

イスラエル軍などによると、ガザからロケット弾が発射されたのは9月中旬以来。今年7~8月のガザ紛争の恒久的停戦に向けた協議が進まない中、イスラエルとパレスチナの間では、10月下旬以降、聖地の帰属を巡る緊張が再燃している。【11月1日 読売】
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****イスラエル、ガザ地区への全検問所を封鎖****
イスラエル政府は2日、パレスチナ自治区ガザに通じる全ての検問所を封鎖すると発表した。

緊急人道支援物資の搬入のみ認めるとし、封鎖解除のめどは示されていない。10月末にガザ地区からロケット弾が発射されたことへの対抗措置とみられる。(中略)ハマスとの停戦交渉が滞る中、封鎖が長期化すれば、緊張が再燃する恐れもある。【11月3日 読売】
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その後も、東エルサレムの問題となっているイスラム寺院「アルアクサ・モスク」をめぐるパレスチナ人住民と治安部隊の衝突、更には、エルサレム市街地で乗用車が歩行者に突っ込む事件などが起きて、状況は悪化しています。

****エルサレムで衝突など相次ぐ 緊張高まる****
中東のエルサレムにあるイスラム教の聖地で、パレスチナ人とイスラエルの治安部隊による衝突が起きたのに続き、市街地で乗用車が歩行者に突っ込み、運転していたパレスチナ人が治安部隊に射殺される事件があり、現地では緊張が高まっています。

エルサレムにあるイスラム教の聖地「ハラム・アッシャリフ」で5日、パレスチナ人とイスラエルの治安部隊が衝突し、治安部隊が催涙弾やゴム弾を使用してパレスチナ人2人が大けがをしました。

現場は、ユダヤ教徒にとっても「神殿の丘」と呼ばれる神聖な場所ですが、イスラエルが、イスラム教徒以外は祈りをささげたりモスクに入ったりすることを禁じています。

今回は、複数のユダヤ教徒がモスクに入ろうとしたことから、パレスチナ人が抗議のため石を投げ始め、駆けつけた治安部隊との間で衝突が起きたということです。

また、この数時間後、エルサレムの市街地で乗用車が歩行者に突っ込んで1人が死亡、13人がけがをしました。
現地のメディアによりますと、運転していたのはパレスチナ人の男で、金属の棒を持って車を降りたところをイスラエルの治安部隊に射殺されました。

エルサレムでは、先月も、車が路面電車の停留所に突っ込んで2人が死亡し、運転していたパレスチナ人が射殺されたほか、ユダヤ人の活動家が何者かに銃撃され大けがをする事件も起きていて、緊張が高まっています。【11月6日 NHK】
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第2次インティファーダのきっかけともなった「アルアクサ・モスク」】
なお、イスラム寺院「アルアクサ・モスク」の管理権は、以前東エルサレムを領有していたヨルダンが持っているそうで、ヨルダンもイスラエルの対応に抗議しています。

****<ヨルダン>イスラエル大使を召還 聖地対立激化で抗議示す****
ヨルダン政府は5日、駐イスラエル大使の召還を決めた。

エルサレム旧市街のイスラム教聖地「ハラム・アッシャリーフ(高貴なる聖域)」(ユダヤ教の呼称は「神殿の丘」)での礼拝などを巡るユダヤ教右派とパレスチナ人の対立が激化し、同聖地を管理するヨルダンがイスラエルの対応に抗議した形だ。大使召還は1994年の両国の平和条約締結以来初めてで、関係悪化が懸念されている。

旧市街はかつてヨルダン領で、現在もヨルダンはこの聖地の管理権などを持つ。召還理由については「聖域でのイスラエルによるかつてない(対応の)エスカレートに対する抗議」としている。

この聖地でのユダヤ教徒の礼拝は禁じられているが、権利を主張する一部ユダヤ教右派らが強行し、パレスチナ側が反発を強めている。

10月29日には右派の集会がエルサレムで開催され、出席した幹部が銃撃された。イスラエル治安当局は「容疑者」のパレスチナ人男性を射殺した。

5日にもパレスチナ人の男が運転する車が東エルサレムで通行人に突っ込むなどして警官1人が死亡し、混乱が拡大している。【11月6日 毎日】
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イスラム寺院「アルアクサ・モスク」に関しては、2000年9月、イスラエルのシャロン・リクード党首・外相(後に首相)が1,000名の武装した側近と共に「アルアクサ・モスク」に入場を強行し、その後の住民蜂起(第2次インティファーダ)を招いています。

今回の衝突については、以下のようにも報じられています。

****エルサレムで衝突、歩行者に車突っ込み14人死傷****
・・・・衝突はユダヤ教徒が「神殿の丘」、イスラム教徒が「ハラム・シャリフ」と呼ぶ聖地で発生。イスラエル警察によると、パレスチナの若者グループがイスラエルの警官に向かって石や花火を投げつけた。

パレスチナの若者は前夜から石や火炎瓶をもって同地のモスクに集まっていたとされる。警察は若者をモスクの中に押し戻し、同地を一時的に封鎖したと説明している。

これに対してイスラム教徒の目撃者は、警察がユダヤ教徒のために道を開けようと、モスクにスタン弾を投げ込んだと証言した。

警察はその後、ユダヤ教徒と観光客の入場は認めたが、イスラム教徒は入場を禁止され、別の入り口前で祈りをささげていたところ、警察がスタン弾やゴム弾を撃ち込んだ。

赤新月社によると、この衝突で15人が負傷した。イスラエル警察は警察官数人も負傷したとしている。(後略)【11月6日 CNN】
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パレスチナ国家を認める国際的流れ
パレスチナ問題全般については、これまでも比較的パレスチナ支持が強かった欧州において、より鮮明にパレスチナ国家を認める流れが表面化しています。

****英下院、非拘束採決でパレスチナ国家を承認****
英下院は13日、パレスチナ自治区を国家として承認する非拘束的な動議を圧倒的賛成多数で可決した。動議は象徴的なもので法的拘束力はなく、英政府の政策にも影響しないものとみられる。

「協議されている二国家共存による解決案を支持するために、イスラエル国家と並んで、パレスチナ国家を承認すること」に対する投票結果は、賛成274、反対12だった。

中東問題ではスウェーデン政府が、西欧の欧州連合(EU)加盟国として初めてパレスチナを国家として承認する方針と発表したばかりで、イスラエルが激怒した。

今回の動議を提案したのは野党・労働党の議員で、政府はこの採決の結果に基づいて何らかの行動を取る見込みはなく、パレスチナを国家として承認するのは適切な時期にのみとしている。【10月14日 AFP】
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上記記事にもあるスウェーデンは正式に国家承認しています。

****パレスチナを国家承認=EU主要国で初―スウェーデン****
スウェーデン政府は30日、パレスチナを正式に国家承認した。バルストローム外相が記者会見で明らかにした。欧州連合(EU)主要国でパレスチナを国家承認するのは初めてで、イスラエルとの和平交渉の行方や他の未承認国の動向に影響を及ぼす可能性がある。
 外相はパレスチナが国際法上、国家承認に必要な領土、国民、政府を備えていると指摘。承認の狙いとして「停滞した和平プロセスに新たな勢いを与える」ことや、パレスチナの立場をイスラエルに対しより対等に近づけ、交渉を促進することを挙げた。時期尚早との批判については「むしろ遅すぎることが危険だ」と反論した。【10月30日 時事】
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中間選挙で敗北してレームダック化も指摘されるアメリカ・オバマ政権のイスラエル牽制の動きは鈍るかもしれませんが、全体として国際的流れは、頑なな姿勢を続けるイスラエルから離れつつあるように見えます。

そこのところをイスラエル国民がどのように理解しているのか・・・・。
もし今回の問題が拡大してパレスチナ人犠牲者が多く出るようなことになれば、イスラエルの国際的評価にも大きく影響します。

そんなことには意に介さないところがイスラエルの問題でもあるのですが。
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