孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  今年末でNATO主導の国際部隊撤退  中国・ロシアの思惑・関心は?

2014-11-14 22:06:49 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタンのケシ栽培農民(多分) このように公然とケシ栽培が行われていることが不思議ではりますが・・・・ “flickr”より By Phils Rusanganwa https://www.flickr.com/photos/116736269@N03/12951345215/in/photolist-kJt2Hr-hqJoyz-hqGXf2-hqHp9f-hmfmVM-pti89B-hqXkHS-pZo7qr-pH8dYR-pHbT8Z-hjcsbV-hjcs8i-hjdNye-hjcPDo-hjcP5h-hjdMDD-hjcPf7-hjcV3m-hjdNFi-hjcQ4b-hjdMA2-hjcVUm-hjcV7E-hjdND4-hjcQ6f-hjcPR7-hjcs14-hjcVv5-nZwsYx-hCZBDc-hBfCmr-hz4qQc-kfW4K4-hy45Fn-hz2Z5Q-huW9VK-pXspWY-pZFHxC-p3Lphb-pXsnLL-hjcPSu-hjdMFH-hjdNdp-hjcstt-hjcsua-hjdNqP-hjcPG9-hjcsvT-hjcsjk-hjdNur)

中国:タリバンとの交渉で、自国へのイスラム過激派流入を防止
アフガニスタンから北大西洋条約機構(NATO)が統括する国際治安支援部隊が撤退する今年末を控えて、今後のアフガニスタンの自立が模索されています。

10月31日には、中国・北京でアフガニスタン問題を討議するイスタンブール・プロセスの第4回外相会合が開催されました。

この会議で、中国はイスタンブール・プロセスへのタリバン招待を提案したと報じられています。

****中国がアフガン和平で「会議にタリバン代表を招待」提案か・・・報道官否定せず「アフガン人主導であるべきだ****
ロイター通信は11日付で、10月31日に北京市内で開催されたアフガニスタン問題を討議するイスタンブール・プロセスの第4回外相会合で中国は、関連する会合にタリバンとパキスタンの代表を招くことを提唱したと報道した。

中国政府・外交部の洪磊報道官は13日の記者会見で、同提唱の真偽を質問されたが否定せず、アフガンについて中国は「アフガン人の主導するアフガン人の持ち物」との考えを支持していると述べた。(中略)

(タリバンは)極端な政策を推進してきたことから、国際的には「タリバンは、まともに話し合える相手ではない」との見方も強い。

中国が、アフガン安定化のために14の域外加盟国、16の域外支援国、12の国際・地域組織が参加するイスタンブール・プロセスへのタリバン招待を提案したとすれば、相当に大胆な意見表明ということになる。

13日の記者会見で洪報道官が否定しなかったことから、「タリバン招待提案」は、正式なものではなかった可能性はあるが、言及そのものは事実と考えてよい。(中略)

ロイターは、中国が警戒するのは国際治安支援部隊撤退後、タリバン勢力が新疆ウイグル独立運動の支援を強化することと指摘。中国にとっては、タリバンを話し合いの席につかせることにで、自国にとって有利な「約束」をさせることを狙えることになる。

アフガニスタンは自国内でタリバン勢力を一掃できない原因について、パキスタンが自国内に逃げたタリバン勢力をかくまっているからだと非難している。

中国にはパキスタンに強い影響力を持つとの自負があり、パキスタンとタリバンの双方をイスタンブール・プロセスにおける議論のテーブルに就かせて、アフガニスタン地域の安定を実現し、自国への“問題波及”を抑えられるとの思惑があると考えられる。

ただし、西側諸国の多くが人道面で大きな問題があると認識するタリバンと交渉し、支配方法を容認することになれば、国際的に批判の声が高まる可能性がある。(後略)【11月14日 Searchina】
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中国は、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒の治安悪化に神経をとがらせており、東トルキスタンイスラム運動が新疆での“テロ活動”の背後にいると主張しています。

東トルキスタンイスラム運動は“アフガニスタンのアルカイダやタリバンと共闘関係にあるとみられ、中国国内のメディアによると、同組織はウイグル人青年をアフガニスタンのキャンプに送り込み、テロ活動の訓練を施しているという。”【日本大百科全書】ということで、アフガニスタンからの国際部隊撤退後の混乱、イスラム過激派の台頭を懸念しています。

パキスタンは、アフガニスタンでのインドの影響力拡大を排除するためかねてよりタリバンを支援していると見られていますが、中国はそのパキスタンへの影響力を有しており、パキスタンを通じてタリバンの新疆ウイグル自治区への関与を封じ込めようという狙いと思われます。

人権無視で悪評が高いタリバンを交渉相手にすることについては、“タリバンは国家ではないので、平和五原則の適用対象になるわけではないが、発想の根底としては、「中国は、タリバンが採用してきた極端なイスラム主義政策を問題にしない。タリバン内部の問題だからだ。逆に、中国の国内問題についても、タリバンは関与すべきでない。そうすれば、互いに共存できる」といった考え方があると理解できる。”【11月14日 Searchina】と指摘されています。

中国に手出ししなければ、アフガニスタンで何をやっても関知しない・・・ということでしょうか。

中国らしい考え方ではありますが、それはともかく、タリバン勢力を一掃できておらず、今後の勢力拡大が懸念されている現状において、タリバンを交渉の席に着かせること自体は有意義なことと思われます。

おそらく、アフガニスタン政府が自力でタリバン拡大を抑え込むのは困難でしょう。

上記のような事情で中国もアフガニスタンの混乱を望んでいませんので、パキスタンを通じて停戦に向けて影響力を行使してくれるなら、歓迎すべき話でしょう。

なお、“タリバンとパキスタンの代表を招くことを”とありますが、パキスタンは当然に出席メンバーになっているのではないでしょうか?
イスタンブール・プロセス外相会合の次回は、2015年にパキスタンで開催されることになっています。

ロシアが語るアフガニスタン侵攻の教訓
アメリカなどのNATO、中国、パキスタンのほかに、アフガニスタンに強い利害を有するのがロシアです。

****ロシア アフガンへのヘリコプターの供給を完了****
ロシアは10月中に、アフガニスタン軍用の多目的ヘリコプターMI-17B-5の供給を完了した。「ロシア・ヘリコプター」社報道部が伝えた。

アフガンへのヘリコプター供給契約は「ロスオボロンエクスポルト(ロシア防衛兵器輸出)」社と米軍の間で、2011年に結ばれたもので、それによればアフガン軍は、ロシア連邦タタールスタンのカザンで製造されたヘリコプター合計63機を受け取った。

シリアでの内戦やアサド体制に対するロシア当局の公式的な立場を背景に、一連の米国の政治家達は、米国と「ロスオボロンエクスポルト」との協力に反対してきた。

しかし米国防総省は、彼らに対し、アフガン軍はロシアの武器を熟知しており、米国はパイロット再訓練のため追加的な出費をしなくてもすむと説明し、アフガン軍装備に関する自らのプラン遂行をあくまで擁護した。【11月5日 ロシアの声】
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“アフガン軍はロシアの武器を熟知しており”・・・・1979年にアフガニスタンに侵攻したソ連は、25年前の1989年に撤退するまでナジブラ政権を通じてアフガニスタンを支配してきました。

結局アフガニスタンをコントロールすることができず撤退を余儀なくされたソ連ですが、今回アメリカなどがタリバンを完全に封じ込めるには至らないまま撤退することをロシアがどのように見ているかは興味深いところです。

****ソ連、アフガン侵攻の教訓****
四半世紀前、10年におよぶソ連軍のアフガン駐屯が終了した。最後のソ連兵士がアフガンを後にしたのは1989年の今日、2月15日であった。

1979年末、ソビエト軍はアフガンに侵攻した。モスクワの皮算用では、軍事侵攻は非常に早期に終結するはずであった。アフガニスタンに血みどろの恐怖政治を敷いていたハフィズラ・アミンが除かれてから1ヶ月後には、アフガン軍がアフガンの安定を取り戻すだろう、とささやかれていた。

アフガンの多くの政治家たちが、アミンの独裁的手法でアフガンは内戦寸前に来ており、それだけはいかなる対価を払ってでも回避しなければならない、とモスクワを説得していた。

だからこそソビエト指導部は、すべてのプラスとマイナスを勘案した結果、リスクをとることを決めたのだ。(中略)1979年、ソビエト連邦は、自国の国際的地位に傷をつけるリスクを承知の上で、隣人国家を内戦から救うために、行動に出た。

計画は、外れていた。モスクワのリスキーな行動は西側に利用され、戦争は深刻化していった。アフガンの左翼勢力だけでなく、ソビエト兵士にも犠牲が出た。結果、アフガン戦争は10年にも及ぶこととなった。

雑誌「国家防衛」のイーゴリ・コロチェンコ編集長は次のように語る。

「アフガン侵攻は、ロシアの国益の観点からは、不可避であった。それに、多くのアフガン人が、ノスタルジーをこめて往時を思い出している。元アフガン軍高官でさえ、ソビエト連邦とソビエト軍のことを、一義的でない態度で評しているのを聞く。

それもそのはずだ。ロシアは本当に、誠実に、アフガンを助け、アフガンにより幸せな未来を建設しようとしたのだから。ロシアはトンネルをうがち、水路を設け、学校・病院を開き、産業を興した。そして、ソビエト兵士を引き上げながら、アフガン軍を訓練した。

そのアフガン兵らが、1991年末には、自国の治安を管理できたのは、われわれの教育のおかげなのだ。ナジブラ政権が崩壊したのは、モスクワに一大転変があり、もはやソビエトが物質的・技術的支援を施すことが出来なくなったときに、はじめて起こった。

そして、ナジブラの後にカブールの実権を握った者らが、果たしてアフガン市民の生活を良くしただろうか?」

翻って今日、アフガンからの出口を模索しているのは、ソビエトではない、米国である。

アフガニスタン人はいま、あの時と同じような課題に直面している。状況は、むろん、異なる。ナジブラの敵たちが受けたような支援を、いまのカブール指導部の敵対者たちは受けていない。

しかし、どちらにせよ、アフガン人は再び、主に自らの力によって生き、自立して隣国たちと関係を打ち立てることを学ばなければならなくなった。25年前の教訓が生き、いま、アフガン人たちがより良いものだけを選べることを、祈るばかりである。【2月15日 ロシアの声】
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ソ連がアフガニスタン侵攻に至った経緯、アフガニスタンに残した功績への評価は、西側の見方・評価とは大きく異なります。

賛同するかどうかは別として、立場が違えば異なる見方・考え方があることを理解しておくのは大事なことでしょう。
それにしても、戦前の日本のアジア諸国侵略についても日本国内において、上記のソ連国内のアフガニスタン侵攻に関する評価と似たような見方があり、近年主流となりつつあることは興味深いところです。

ロシアの関心事はアフガニスタンからの麻薬流入
ロシアは北カフカス地方のイスラム過激派の問題も抱えていますが、アフガニスタンとの関係で一番の関心事はアヘンの問題ではないでしょうか。

アフガニスタンにおけるケシ栽培・アヘン生産の問題は、だいぶ以前になりますが、2010年6月23日ブログ「“麻薬大国”アフガニスタン 社会を蝕む麻薬の害」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100623)でも取り上げたことがあります。

そのときも触れたように、ロシアはアフガニスタンから麻薬流入によって社会を蝕まれており、NATOの国際部隊がアフガニスタンでのケシ栽培を抑えられない(黙認している)ことに苛立っています。

“麻薬統制局によると、同国ではソ連崩壊後の20年間で麻薬消費量が20倍となり、麻薬常用者は200万人を超え、毎年8万人が新たに麻薬に手を出しているという。消費される麻薬の9割は、アフガン産ヘロインとみられている。”【2010年6月12日 毎日】

一方、ケシ栽培がアフガニスタン農民の生活を支えている現状にあっては、むやみに摘発するだけでは農民の反感を高め、ひいてはタリバン対策にマイナスになることから、欧米はケシ栽培摘発には消極的な対応をとっていると言われています。

“米国が「タリバンの資金源」と指摘するケシだが、アフガン政府によると、米英軍は今回の軍事作戦でケシ畑に目をつぶった。オバマ米政権は米軍増派に合わせ、南部カンダハルで次の作戦を予定している。現地では反米感情の悪化が作戦の障害となるのを避けるためケシ栽培が黙認されたと解釈されている。”【2010年4月16日 毎日】

麻薬汚染に苦しむロシアはこうしたアメリカなどの“弱腰対応”を批判しており、アフガニスタンでのケシ栽培の根絶を要求しています。

また、農業活動への資金援助を装いケシ栽培に対する大量資金が流入していること、アヘン生産に必要な物資が西側企業によって持ち込まれていることなどを批判しています。

そして今年、アフガニスタンのケシ栽培は過去最高となっています。

****アヘン原料のケシ栽培面積、アフガニスタンで過去最高****
国連薬物犯罪事務所(UNODC)は12日、アヘンやヘロインの原料となるケシの作付面積が、アフガニスタンで今年過去最高に達したと発表した。

UNODCの報告書によると、2014年のアフガニスタンのケシ作付面積は前年比7%増の22万4000ヘクタールとなっている。ヘロインの主原料であるアヘンの生産量は、前年比17%増の6400トンに達すると見込まれている。

アフガニスタンの旧支配勢力タリバンによる反政府活動で政情不安が続く地域を含め、同国南部と西部では、米国が約10年にわたってけん引してきた国際的な麻薬追放作戦の効果もむなしくケシ栽培が活気づいている。

米軍主導の国際部隊による攻撃などでタリバン政権が崩壊した1年後の02年には、アフガニスタンのケシ作付面積はわずか7万4000ヘクタールだった。しかしその後の数万人規模の外国軍の駐留にもかかわらず、現在、世界のアヘンの80%はアフガニスタンで生産されている。(中略)

今年初め、米国のジョン・ソプコアフガニスタン復興担当特別監査官は、NATO軍の大半が撤退した後のアフガニスタンについて「麻薬犯罪国家になりかねない」と懸念を表明していた。【11月12日 AFP】
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ケシ栽培が増加している背景には、農民たちが国際部隊撤退によって混乱が生じることを見越して、不確かな未来に対する保険として蓄財を試み、作付面積を増やしたのかもしれない・・・とも言われています。

ロシアは、「とにかくケシ栽培農地を潰せ!」というところでしょうが、そのあとの農民の生活を保証すべきアフガニスタン政府の施策が機能していないため、潰すに潰せないというのがこれまでの経緯でしょう。

ケシ栽培を抑制できるかどうかは、アフガニスタン政府の施策にかかっています。

中国にせよ、ロシアにせよ、アフガニスタンの混乱を望んでいないという点では今後に期待できます。
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