孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドネシア  燃料費への補助金削減という難題に挑むジョコ新大統領

2014-11-19 21:18:14 | 東南アジア

(ジャカルタ ガソリン価格引き上げが発表された17日深夜、駆け込み給油に集まる人々 バイク・車が庶民の足になっていますので、その影響の大きさは想像できます。 【11月18日 日経】

【「クリーンさ」を前面に出した「働く内閣」】
インドネシアでは、これまでのインドネシア政治家にはなかった“庶民派”のジョコ大統領が10月20日に就任しました。

同月26日の新閣僚指名では、事前に司法当局に閣僚名簿を提出して汚職疑惑がないかを確認するなど“身体検査”を厳しく行い、一部を差し替えるなど「クリーンさ」を前面に出しています。

ただ、“組閣では、大統領選挙で対立候補を支援した野党6党のうち1党を連立与党に取り込むことに成功した。ただ与党は依然として国会では過半数に届かず、厳しい政権運営が続くとみられる。”【10月27日 毎日】とのことで、前途には課題も少なくありません。

野党との関係以外にも、与党内における実力者メガワティ党首の関係で独自色を出せるのか、軍に基盤のないジョコ氏が軍をコントロールできるのか・・・「ジョコ氏は組閣で妥協を強いられた」(現地紙ジャカルタ・ポスト)との声もあります。

****民間出身、国軍の協力が鍵 インドネシア、ジョコ内閣発足****
第7代インドネシア大統領に就任したジョコ・ウィドド氏(53)が指名した閣僚34人が27日、承認され、ジョコ内閣が発足した。

かつて日本で「さあ働こう内閣」とキャッチフレーズをつけたのは福田赳夫元首相だったが、ジョコ大統領も新内閣のキャッチフレーズを「働く内閣」とし、顔ぶれも実務家を多く配置した。

新内閣の目玉政策である海洋開発担当の海事担当調整相ポストを新設したほか、インドネシアでは初の女性外相を起用するなど民間出身の大統領として独自カラーを出すことに腐心した。

ただ、インドネシアの経済成長もここに来て足踏みしているだけに、これまでの既得権益を打破するとともに、大統領が掲げる「海洋国家インドネシア再興」に向け、国軍の支持を得られるかが課題だ。

 ■汚職撲滅に全力
「閣僚は慎重かつ細心の注意を払って選んだ。この内閣は今後5年間は続くからだ。裏情報を手に入れるため、汚職撲滅委員会(KPK)や金融取引・報告分析センター(PPATK)にも調査を依頼した」

ジョコ大統領は26日、大統領宮殿の中庭で行われた記者会見で、閣僚名簿を発表するにあたってこう説明。賄賂や不正支出など金の問題がないかどうかを、徹底的に調べあげたことを強調した。

日本での2閣僚の辞任を気にしたわけではなく、インドネシアはユドヨノ前政権からとくに汚職防止に力を入れてきた。

大統領のこだわりのおかげで、いったん固まっていた閣僚のうち数人が汚職撲滅委員会などの指摘で問題ありとされ、再検討した結果、閣僚名簿の発表が当初予定よりも遅れていた。

一方、ジョコ大統領が就任演説で宣言した「海洋国家インドネシア再興」を実現すべく、新設された海事担当調整相には、国連食糧農業機関(FAO)の漁業・養殖局の漁業・海洋資源部長を務めていたインドロヨノ・スシロ氏(59)が選ばれた。(中略)

経済関係閣僚の顔ぶれをみると、政治家を多く起用したユドヨノ前政権とは異なり、ソフヤン・ジャリル経済担当調整相(61)以下、ほとんどが実務家だ。

もっとも、彼ら経済閣僚にも、政党に所属していないがジョコ政権を支える闘争民主党のメガワティ党首に近い人が多い。

なかでもリニ・スマルノ国営企業相(56)はメガワティ氏の側近中の側近。アリフ・ヤフヤ観光相(53)、スディルマン・サイド・エネルギー・鉱物相(51)もメガワティ氏に近い経営者だ。

 ■軍隊経験なし
メガワティ氏に近いといえば、プアン・マハラニ人間・文化開発担当調整相(41)はメガワティ氏の長女だけに、会見では「私が娘だということばかり取り上げないでほしい」と強調した。

実際、政治家としての経験や人脈も豊富で、新内閣では強い影響力を持ちそうだ。ジョコ大統領が、メガワティ氏をはじめとする既成勢力の圧力に屈せず、どれだけ独自色を出せるかが改革実現の鍵でもある。

同様に国軍をいかにコントロールするかも重要だ。ユドヨノ前大統領は、自身が改革派の将校といわれつつ、軍での実績を背景に影響力を保持した。しかし、ジョコ大統領は軍隊経験、人脈がほとんどない。ユドヨノ前大統領が軍の支持を得られたのは、兵士の待遇改善を進めたこともある。(後略)【11月16日 産経】
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燃料補助金削減で成長軌道回復を目指す
政策的には、成長率に陰りが見える経済立て直しが急務ですが、そのための“突破口”として、燃料費への補助金削減による財政支出見直し・構造改革を狙っています。

****ジョコ大統領 経済立て直し最優先 不調の資源輸出/補助金圧縮カギ****
高い成長を維持してきたインドネシア経済に、資源輸出の不調などでブレーキがかかっている。

ジョコ・ウィドド大統領は、経済構造改革が今後の成長には不可欠だとして、燃料費への補助金削減による財政支出見直しなどを重要施策に掲げるが、前途は多難だ。

国際通貨基金(IMF)は今月、インドネシアの2014年の実質GDP(国内総生産)成長率を5・2%と、それまでの5・4%から下方修正した。成長率が6%を割り込めば昨年(5・8%)に続き2年連続となる。

下ぶれの主な原因は、近年の高成長を支えてきた外部経済環境の悪化だ。中国を筆頭にした新興国の減速で、石炭など輸出の6割を占める資源価格が低迷し貿易収支は悪化。米国の利上げ観測で資本が国外へ流出し始め、自国通貨下落や利上げが景気の重しとなっている。

購買力を増した中間層が成長のエンジンとなることが期待されるが、十分な雇用と賃金を生むには「6%以上の成長率が必要」(地元エコノミスト)ともされる。

自律的な成長へ、ジョコ氏が“突破口”に位置付けるのが、歳出の3割を占めるガソリンなどへの燃料補助金の圧縮だ。これにより、構造改革を促す狙いがある。

実質値上げで需要を抑えるとともに、浮いた予算の一部を貧困層への教育や医療支援に振り向ける。同時に渋滞緩和や洪水対策などへも財源を重点配分し、整備が遅れているインフラを改善する。公共工事などで外資を呼び込めば、新たな雇用も創出できる。

ジョコ氏は、大統領への就任が決まった後、ユドヨノ政権に対し、昨年6月に続く補助金付き燃料の再値上げを催促したが、拒否された経緯がある。

東南アジア研究所(シンガポール)のアリス・アナンタ上席研究員は「補助金削減は国民の反発が高い。ジョコ氏は支持率が高いうちに断行すべきだ」と主張。前政権幹部からは「11月にも大幅削減に踏み込むだろう」との声も漏れる。

もっとも、議会勢力で上回る野党連合を前に、補助金改革の審議は曲折が予想される。野党に屈して改革が先延ばしとなれば、失望した外資が逃げだし、成長が一層鈍化するという悪循環に陥りかねない。燃料補助金圧縮は、ジョコ新政権の今後を占う“試金石”ともなりそうだ。【10月21日 産経】
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国民の反発が強い政策は支持率が高いうちに・・・ということで、予想されていたように、ジョコ政権はガソリン価格の大幅引き上げを決定しました。

****インドネシア、燃料値上げ…インフレの懸念も****
インドネシア政府は18日、補助金で安く抑えていたガソリン価格を31%、軽油価格を36%引き上げた。

補助金削減で財政再建を目指すジョコ大統領が公約を実行したものだが、急激な値上げでインフレが進行する懸念が出ている。

先月就任したジョコ大統領は17日夜、値上げを発表し、「消耗的だった政府予算を生産的なものに変える」と語った。同国では補助金を支出し燃料価格を実勢価格よりも約4割安く抑えているが、燃料への補助金は歳出の約15%を占め、財政を圧迫していた。

政府は、価格見直しで100兆ルピア(約9500億円)以上の補助金を削減できるとしており、余った財源で社会保障や教育などを充実させる狙いだ。【11月18日 読売】
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社会不安にもつながる難題
理論上は、補助金を削減し、浮いた予算を社会福祉やインフラ整備に回すというのは極めてまっとうな施策です。
放置すれば膨張する財政負担で国家予算は食われ、低く抑えられた価格設定で資源配分は非効率化するだけです。

ただ、国民の生活に直接的に響くだけに、極めて対応が難しい施策でもあります。
補助金制度は依存症を伴う麻薬のような制度です。多くの新興国が同様の補助金制度に手を染めて、そこからなかなか抜け出せなくなっている現実もあります。(日本の補助金制度も同様でしょう)

補助金削減は、場合によっては、暴動や政権転覆に至る社会不安を呼び起こすこともあります。
エジプトも燃料費補助金制度からの脱却に苦慮しています。

****エジプト 財政へのしかかる補助金の負担****
・・・エジプトの電力は、90%が石油と天然ガスで占められている。この両方が不足し、さらに送電容量も追いつかない昨今、電力会社は定期的に停電を実施しなければならない状況に追い込まれている。

多くのエネルギー専門家は、50年間にも及ぶ政策決定の拙さが原因であると指摘する。中でも特に問題なのが、化石燃料の価格を人工的に低く抑えてきた政府からの補助金制度である。

例えばディーゼル燃料の価格は、補助金のおかげで1リットル1エジプトポンド(15.26円)に抑えられている。隣の国ヨルダンでは、同じ量が103.64円である。おかげで、両国を分ける狭い海峡では安い燃料を持ち込もうとする密輸入がはびこり問題となっている。

燃料への補助金制度が最初に導入されたのは、1960年代、ガマール・アブドゥル・ナーセル大統領による社会主義政権時代である。

当時エジプトの人口は3000万人前後を行ったり来たりしていたが、その後、国は急成長して人口も3倍近くに膨れ上がり、それと平行して補助金を受ける燃料の需要も増加した。

1日の石油の消費量だけを見ても、1995年から2013年の間に、45万8000バレルから73万8000バレルに増加している。

それと同時期に、国内の石油および天然ガスの生産量は減少している。1990年代半ばには1日に90万バレルの石油を生産していたのが、2013年には70万バレル以下に落ち込んだ。

また、地元産業が大きく依存していた天然ガスも、生産量は2009年をピークに減少を始め、今では国外から初めてガスを輸入する準備を進めている。

2011年初めに、長年政権に就いていたホスニ・ムバラク大統領が失脚し、後に続いた政権はどれも、せっかく手にした指導権を危険にさらすのを恐れて、補助金制度の削減に及び腰だった。

おかげで、エジプトは巨額の対外負債を抱えることとなり、2014年の第1四半期には450億ドル以上に膨れ上がっていた。外国のエネルギー企業へ負っている60億ドルの支払いも滞り、ほとんどの企業は未払い金を受け取るまではこれ以上の開発は進められないとしている。

エジプトのエネルギーモデルを調査した専門家は、劇的な改革が実施されない限り、この国の将来は危ないと懸念している。【10月8日 National Geographic News】
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産油国イランも、ガソリンなどに対する補助金削減に苦労しています。

****特派員メモ)補助金「ヤーラネー」 @テヘラン****
イランの国営テレビで最近、やたら「ヤーラネー」という言葉を耳にする。聞けば、ペルシャ語で補助金という意味だそうだ。

政府は補助金でパンやガソリン、電気や水道などの価格を抑えているが、国家予算の4分の1を占め、財政への圧迫が問題になっている。

もとはイラン・イラク戦争(1980~88)の緊急措置で、歴代政権がカットに取り組んだが、市民の反発が強い。07年には暴動にまでなった。

そこで政府は市民の自主性に委ねる手に出た。補助金を登録制にし、「十分豊かな人は登録しないで」と呼びかけたのだ。本当に必要な層にはちゃんと出し、浮いた金は社会整備に回すという。

うまくいけば理想的だが、やり方がなんとも露骨なのだ。人口7600万人超なのに登録期間はたった10日間。テレビでは、ニュースはもちろんバラエティー、料理番組までが「登録をやめよう」の大合唱。高位聖職者まで「富める者の補助金受給は宗教的に禁忌だ」と言い始めた。

いっそ「もう補助金はヤーラネー」とはっきり言っちゃった方がいいのでは。【4月17日 朝日】
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****補助金改革は第2段階、物価上昇懸念高まる (イラン)****
燃料などの生活物資への補助金投入の削減(価格引き上げ)と低所得者層への現金給付を柱とした補助金改革が4月25日に第2段階を迎えた。

この改革により、ガソリン小売価格は、1リットル4,000リアル(約16円、1リアル=約0.004円)から7,000リアル(約28円、75%増)に引き上げられた。

物価上昇は国民の最大の関心事であり、物価抑制は政府の最大の政策課題の1つだ。ガソリン価格の引き上げに伴い、今後、さまざまな財・サービスの値上げが見込まれる。【5月9日 JETRO】
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インドネシア中央銀行は燃料費高騰によるインフレに先手を打つ形で利上げを決定しました。ただ、テコ入れが必要とされていた景気を更に押し下げる懸念もあります。
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