孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカから“見知らぬ国”メキシコに強制退去処分となった不法移民の状況

2014-11-28 21:15:00 | ラテンアメリカ

(メキシコ・ティファナの街角で “flickr”より By Daniel H. Flores https://www.flickr.com/photos/dhflores/14799960340/in/photolist-8Ko8SZ-5ieNdm-dLx9P5-8KxvW4-oxQpin-diNW4X-7Bs9xQ-3e5QTD-5jzgxD-4TQn3n-4WstGx-4rz8vn-oxPEA1-oxPLUH-oxPXxC-oxQgy5-eDozCK-eDozCT-kRkzha-eDoz8k-eDoz5a-8NXNGF-JgzGE-oxPyK2-eDozDk-oQ3zzt-oQhVGL-oxPJtF-oxQ8sq-7TmJF4-2Vcjx2-jJX6je-jJX6mi-bkGdZc-5jncJY-62PoBz-35MZJW-7mLwJu-Gp33n-7WiWW7-5hASpS-jLt5cZ-jLt6dr-brRGdJ-brRG8G-aJizk8-iVmRA-3vG35c-ctC35-GxwUP/)

オバマ大統領の決断を中南米国は高く評価
アメリカ・オバマ大統領が共和党下院の反対でたなざらし状態になっていた移民制度改正について大統領令で実施することにした件については、11月21日ブログ「アメリカ・オバマ大統領 移民制度改革を大統領令で強行 批判を強める共和党 深まる対立」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141121)でも取り上げました。

上下両院で野党・共和党が過半数を占める結果となった中間選挙を受けて、これ以上共和党と協議しても前進は見込めないと業を煮やしたオバマ大統領が強硬手段で突破をはかった形となっています。

オバマ大統領としては、これ以上時間をかけることは、進展しない事態にすでに失望感を強めているヒスパニック住民の支持を失うことにもなりますし、共和党の反対で何もできないという政治的にレームダックと化してしまう・・・という気持ちもあるのでしょう。

また、アメリカ経済が不法移民の労働力に依存しているという現実を踏まえ、現在の不法移民の置かれている状況を座視できないという想いもあるでしょう。

オバマ大統領は、メキシコのペニャニエト大統領にも協力を求めています。

****移民問題への取り組み確認=米墨大統領****
オバマ米大統領は26日、メキシコのペニャニエト大統領と電話会談し、不法移民を含む域内問題の解決に取り組むことを確認した。ホワイトハウスが発表した。

オバマ氏は電話会談で、20日に表明した米国の移民制度改革を目指す大統領権限などについて説明。両大統領はハイレベル経済対話の継続の重要性についても話し合ったほか、組織犯罪への対応や治安・司法の改革を進めることで一致した。【11月27日 時事】
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不法移民の大多数を占め中南米諸国は、メキシコを含めて、今回のオバマ大統領の決断を強く支持しています。

****米移民改革、中米から喜びの声=メキシコ大統領「正義の決断****
オバマ米大統領が500万人前後の不法移民を強制送還の対象から外すと表明したことを受け、隣国メキシコのペニャニエト大統領は21日、「多くの移民が米国の発展に貢献していると認めた正義の決断だ」と称賛した。

米国には1100万人超の不法移民がいるとされる。半数近くがメキシコや、1970年代に始まった内戦中に米国に逃れた中米諸国からの移民とみられ、母国への送金は残された家族の生活や経済の一部を支えている。

グアテマラのペレス大統領は20日夜、「オバマ大統領に感謝したい」と表明した。このほか「移民問題の解決に向けた大きな一歩だ」(ホンジュラス政府)、「多くの同胞の救済につながる」(エルサルバドル外相)との声も相次いだ。【11月22日 時事】 
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強制退去者:メキシコ人であることを証明する書類もなく、仕事を見つけるのはほぼ不可能に近い
従来、不法移民の最大供給国であった隣国メキシコについて言えば、近年はメキシコの経済成長もあって、メキシコからアメリカに向かう流れよりも、アメリカからメキシコに戻る人々の方が多いような状況となっていると言われています。

その一方で、クローズアップされているのは、グアテマラ、ホンジュラスやエルサルバドルといった国からの未成年者の不法移民の急増です。

ただ、そうは言っても、アメリカに現存する1100万人以上とも言われる不法移民の相当部分をメキシコからの人々が占めているのは間違いないでしょう。

アメリカ・オバマ政権は過去5年間で、記録的な数の不法滞在者を国外へ強制退去させています。
そのうち、メキシコへ送還された数は年間およそ25万~30万人に上ります。

メキシコには15カ所の国境検問所がりますが、強制退去者のうち3分の1がバハカリフォルニアへ送られ、その半分ほどの1日100~300人がアメリカ国境の街ティファナへやってくるそうです。

今回オバマ大統領は、400万人以上の不法滞在者へ救済措置を与える計画を発表した訳ですが、既にティファナへ追放されてしまった多くの移民にとっては、その決定は遅すぎるものだったと言えます。

アメリカ国内での不法移民の状況などについては時折レポートを目にしますが、強制送還された移民がその後どうなるのか?という話については、あまり目にしたことがありませんでした。

アメリカのTVドラマには、必ずといっていいほど不法移民の存在があります。強制退去を恐れて毎日を暮らす人々、突然の摘発で家族から切り離される人々・・・ただ、強制退去後にどうなるのか?という話はあまり観ません。

下記記事は、そうした強制退去処分となったメキシコ人に関するもので、非常に興味深く思えましたので、やや長い記事ですが、引用紹介します。

一言で言えば、それまでの人生で築いてきたものすべてをアメリカに残し、20~30年ぶりに“故国”へ送り返されても、メキシコでは生活のつてが何もなく、メキシコ人であることを証明する書類すらないという状況で“見知らぬ国”に放り出される・・・・ということのようです。

****強制退去で行き場を失うメキシコ人****
オバマ大統領は、強制退去者の数を低減させる目的で大統領権限を発動したが、国境の町に住む多くの帰国者にとって、その決定は遅すぎるものだった。

(中略)アントニオ・ゴメス氏は子どもの頃に祖国を逃げ出して以来、実に34年ぶりにメキシコへ足を踏み入れた。

「頭がくらくらするような気分だ」。後にゴメス氏は、山がちなティファナの丘の頂上に建つカトリック教会系のホームレスシェルター「カサ・デル・ミグランテ」でそう語った。「まさか、自分にこんなことが起こるなんて」。

ゴメス氏がたった1人で国境を違法に越えたのは1980年、9歳の時だった。12歳の時には、高架下で寝泊りもした。その後数十年の間苦労を重ねてきたが、43歳になった頃には夫となり父親となり、小さな建設会社の共同経営者となっていた。

昨年のある土曜日、カリフォルニア州オンタリオにあるアパートで家族と一緒にテレビを見ていると、アメリカ移民関税執行局(ICE)の職員がやってきた。職員は別の男性を探していたのだが、かわりにゴメス氏が連行されてしまった。

いくつかの法廷審問を重ねた結果、1年後に移民局職員はゴメス氏と他の20人の不法滞在者をフォードの白いバンに詰め込み、国境まで連れて行ったという。(中略)

これまで、より良い生活を手に入れようと夢見るメキシコの貧困層の多くが、ここティファナを通過してアメリカへと渡っていった。長年の間ティファナの町は、彼らのもたらす希望とエネルギーによって栄えてきた。

カサ・デル・ミグランテの代表ジルベルト・マルティネス氏は、「人々はアメリカンドリームを胸に抱き、希望と働く意欲に満ち溢れていた。枯葉のように道に落ちている金をかき集めに行くつもりだった」と語る。

しかし最近では、ゴメス氏をはじめ多くの人々が、「落胆し、疲れ果て、傷心を抱え、まるで葬式帰りかと思わせるような顔をして送り返されてくる」という。

メキシコ政府の職員たちは、ここで彼らに健康診断を行い、食事、健康保険、電話代を支給し、携帯電話を充電させるが、その後帰国者たちは自力で生きていかなければならない。

政府から支給される無料の飛行機やバスの切符を使って故郷の町へ戻っていく人々もいるが、およそ3分の1はここにとどまるという。特にティファナは、国境沿いの町の中でも最も多く強制退去者が集まる地域となっている。

◆ほとんど見知らぬ国への帰還
強制退去者の90%は男性である。そのほとんどが、宙に浮いた状態で生活している。アメリカに長年住んでいたため、メキシコとのつながりがなくなっている場合が多い。

彼らはアメリカに残した家族に少しでも近い場所にいて、いつか再びアメリカへ戻れることを期待し、ティファナにとどまっている。

あるいは、故郷に戻っても誰も知り合いがいないからここにいるという者もいる。その多くが、メキシコ人であることを証明する書類もなく、仕事を見つけるのはほぼ不可能に近い。

彼らのアメリカの家族は、初めのうちは生活費を送ってくれるが、それもいつしか途絶え、否が応でも自立を迫られる時がやって来る。

ティファナの下町にあるカトリック教会系列の炊き出し所「パドレ・チャヴァ・ブレックファスト・ホール」の前には、毎朝数百人の男性があたかも大恐慌時代のパン配給時のように列をなしている。

建物の中に入ると、手を洗ってスタッフの渡す紙タオルで手を拭く。テーブルの前に立って祝福の祈りを受け、素早く食事をかき込む。そのすぐ後ろでは、ボランティアたちが次の6人を入れるためにテーブルが空くのを待ち構えている。

ここではおよそ1200人の帰国者ホームレスに毎朝食事を出しているというが、その数は町全体のホームレスのほんの一部でしかない。

「彼らの多くは、またアメリカへ戻れる可能性が高まったと信じてここにとどまっている」と、炊き出し所の共同創立者であるマルガリータ・アンドナーギ氏は言う。

◆アメリカの取り締まりによる影響
彼らがそう期待してしまうのには、ここ30年の間にコロコロ態度を変えてきたアメリカの不法移民対策に原因がある。(中略)

オバマ政権は、強制退去となった者のほとんどに犯罪歴があったと主張しているが、ニューヨークタイムズ紙が今年入手したICEの統計によると、その3分の2は軽い違反歴しかなく、ゴメス氏のように不法で滞在していたということ以外何の犯罪歴も持たない人も多かった。

この影響をまともに受けてしまったのが、ティファナの町である。他の多くのメキシコの自治体同様、公共の予算は少なく、にわかに押し寄せた帰国ホームレスの受け入れに大わらわの状態となっている。

地元の商店経営者たちは、窃盗事件や路上生活者の増加に何の対応も取られていないことに不満を感じ、困窮する帰国者たちが町を徘徊する姿を不安を抱えて見守っている。

また、カリフォルニア南部でギャングに属していた若者も、数多く送還されてティファナに集まってきている。その腕には、ギャングメンバーであることを示す不穏な入れ墨が彫られている。

警察では、その一部が麻薬カルテルの手先として活動していると見ている。ゴメス氏と一緒に強制送還された中の、少なくとも3人がロサンゼルスで有名なギャングの入れ墨をしていたという。

◆裸同然で戻ってくる人々
恐らく、ティファナに最も重くのしかかっている問題は、夢破れて戻ってきた数千もの帰国者が、生まれ故郷で身分を証明する手段を持たないため、合法に働くことができないことだろう。

そこで自治体は、メキシコで仕事を見つけるためにまず必要な出生証明書を各出生地から取り寄せるための窓口を開設する予定だ。

また選挙管理局では、帰国者が有権者登録証の交付を受けられるよう支援サービスを拡大する。メキシコでは、有権者登録証が身分証明書として一般に用いられている。

ティファナに流されてきた人の多くは、アメリカで仕事のスキルを磨こうとしてこなかった。アメリカなら工事現場の作業員でも十分に食べて行けたので、職業訓練校へ通う必要性を感じなかったのだ。

英語は少し話せるものの、長年アメリカに住んでいたわりにはそれほど流暢でもない。しかしメキシコに戻ってみたら、工事現場の作業員は最も競争率の高い仕事の一つで、給料は少ないという現実を突きつけられる。【11月27日 ナショナルジオグラフィック】
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