孤帆の遠影碧空に尽き

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パキスタン  イスラム武装勢力との和平交渉を放棄、全面的な掃討作戦へ 懸念される治安悪化

2014-06-22 22:24:58 | アフガン・パキスタン

(「パキスタンのタリバン運動(TTP)」【6月16日 WSJ】)

TTP「これはまだ始まりにすぎない」】
パキスタンのシャリフ首相はイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」との和平交渉を行ってきましたが、今月8日夜、南部の商業都市カラチの国際空港が武装勢力によって襲撃されたことで、対決へと方針転換を余儀なくされています。

空港襲撃については、昨年11月に米軍の無人機によって最高司令官を殺害されたことに対する報復であるとのTTP犯行声明が出ています。

****パキスタン空港の戦闘終結、死者は28人****
パキスタン軍は9日、南部カラチのジンナー国際空港で前夜から続いていた武装勢力との戦闘が終結したと発表した。(中略)

この襲撃による最終的な死者の数は、武装勢力側の10人を含め28人となった。(中略)

今回の攻撃については、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)が、昨年11月に最高指導者だったハキムラ・メスード司令官が米軍の無人機に殺害されたことに対する報復だと声明を発表している。

また「これはまだ始まりにすぎない。パキスタン軍の空爆に倒れた何百という無実の女性や子どもたちの死に対する復讐もしなければならない」と述べている。【6月9日 AFP】
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これを受けて10日、パキスタン軍がパキスタン北西部にあるTTPの拠点を爆撃。
それに対し、TTPも10日、再び国際空港近くの空港警備隊関連施設を襲撃し、治安部隊との間で銃撃戦が展開されました。

また、隣国ウズベキスタンの武装勢力「ウズベキスタン・イスラム運動」がTTPと共同してカラチ空港襲撃に関与したことを明らかにしています。

シャリフ政権との和平交渉が行われてなかで、今になって昨年11月の司令官殺害への報復というのは、TTP内部で路線対立があることを窺わせます。

****分裂するタリバン―パキスタン=統率失い、混乱も****
・・・・襲撃した「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は徹底抗戦を主張する強硬派と、政府との和平交渉を進めたい穏健派が分裂。司令部が統率を失いつつあることで、治安のさらなる混乱を招くとの懸念もある。

TTPは約30の武装組織の連合体で、主要派閥の代表者が司令部を構成する。
昨年11月、絶対的指導者だった最高司令官ハキムラ・メスード容疑者が米国の無人機攻撃で死亡。後任には強硬派ファズルラ師が就いたが、強盗などの犯罪行為をいとわない姿勢に反発が強まった。

そうした中、シャリフ首相がTTPとの和平を推進する意向を表明したことで、組織内の亀裂が顕在化した。

穏健派は政治参加を通じてイスラム思想を国政に反映させることを目指したが、強硬派はテロを継続して和平交渉を妨害。両派の対立は武力衝突に発展していった。【6月9日 時事】
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シャリフ首相「作戦は平和がもたらされるまで続く」】
イスラム法の厳格な適用を求めるイスラム武装勢力との妥協はそもそも難しく、和平交渉は弱体化した武装勢力に組織再編の時間を与えるだけとの指摘があり、軍は交渉には懐疑的でした。
個人的にも、「シャリフ首相はTTPとどんな交渉をするのだろうか?」との疑念がありました。

治安回復を目指すシャリフ首相は今年2月には初のTTPとの協議開催にこぎつけましたが、軍は断続的にTTPの基盤である北西部部族地域を空爆、TTPは報復としてテロ攻撃を繰り返すという状況でした。

今回のカラチ国際空港襲撃に軍はすぐに報復で反応、両者の抗争は一気に全面展開する形となっています。

****パキスタン:地上軍派遣 武装勢力掃討、和平路線を放棄****
パキスタン軍は15日、北西部の部族地帯にある北ワジリスタン管区に地上部隊を投入し、国内最大の武装勢力パキスタン・タリバン運動(TTP)などに対する「包括的軍事作戦」を始めたと発表した。

武装勢力との和平を主張してきたシャリフ政権下で、大規模な掃討作戦が行われるのは初めて。
南部カラチで8日発生した国際空港襲撃事件を受け、シャリフ政権は和平路線を放棄し、強硬路線へかじを切った形だ。

軍の声明によると、作戦は「国全体の支持」を得ているとし、政権も容認していることを明らかにした。従来の空爆中心の作戦に地上部隊を加えた「陸・空両軍による包括的な作戦」は、「敵が降伏するか排除されるまで続く」としている。

地上部隊の規模は不明だが、軍当局者はロイター通信に計8万人が展開すると述べた。

部族地帯は中央政府の統治が及ばず、武装勢力が隣国アフガニスタンとの国境を自由に行き来しているとされ、「テロリストの聖域」と呼ばれている。軍は地上部隊の投入で国境を封鎖し、武装勢力の壊滅を図るとみられる。

シャリフ政権は昨年6月の発足以来、武装勢力との和平交渉を追求してきた。一方、軍は和平に懐疑的とされ、アフガンで駐留外国軍の撤退期限を迎える今年中に大規模な掃討作戦に踏み切るとの観測もあった。

カラチの空港襲撃事件を受け、政府も武力解決に方針転換せざるを得なかったとみられる。

空港襲撃事件では武装勢力10人を含む36人が死亡し、TTPとウズベキスタン・イスラム運動(IMU)が犯行声明を出した。

軍は事件後、北ワジリスタン管区を数回にわたり空爆し、15日未明には武装勢力のメンバーら少なくとも80人を殺害。11〜12日には米国の無人機攻撃もあった。【6月16日 毎日】
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和平に懐疑的だった軍にとっては、今回襲撃は政府に方針転換を認めさせる絶好の好機ともなったようです。
パキスタン軍だけでなく、アメリカも中断していた無人機攻撃を再開しています。

****米軍の無人機復活で消えるパキスタン和平****
民間人への誤爆が相次ぎ、国際的な非難が高まっていたパキスタンでの無人機使用を米軍が封印したのは昨年12月のこと。

だが先週、半年近くに及んだ「自粛」は終わりを告げ、米軍の無人機が再びパキスタン領空を飛び始めた。

引き金となったのは先週、パキスタン南部カラチの国際空港付近で発生した2件の襲撃事件だ。犯行声明を出した国内最大の武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」は、昨年11月に最高指導者ハキムラ・メフスードが米軍の無人機に殺害されたことへの報復だとして、「全面戦争」を仕掛けると予告している。

これを受けて、米軍の無人機がパキスタン北西部の北ワジリスタンで車両や住宅を2度にわたって攻撃。武装勢力のメンバーとみられる計16人を殺害した。

無人機攻撃の復活は、かすかに残っていた和平への希望がついえたことを意味している。昨年発足したパキスタンのシャリフ政権は、アメリカに無人機の使用中止を強く要請し、TTPとの和平交渉に取り組んできた。

だが協議は膠着状態に陥っており、今回の衝突で完全に暗礁に乗り上げてしまった。【6月24日号 Newsweek日本版】
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シャリフ首相も和平交渉を放棄したこと明確にしています。

****パキスタン:「平和になるまで」武装勢力の掃討作戦開始****
・・・・シャリフ首相は16日、下院で「作戦は平和がもたらされるまで続く」と演説した。だが、作戦が長引けば大量の国内避難民が発生し、政情不安を招く恐れもある。

シャリフ首相は演説で、南部カラチで8日に起きた国際空港襲撃事件を受け、作戦を決断したと明らかにした。
その上で「作戦により平和と安全がもたらされると確信している」と述べ、就任以来追求してきたTTPとの和平路線を完全に放棄する考えを示した。

ロイター通信などによると、軍は地上部隊で北ワジリスタン管区と隣接地域の境界を封鎖。隣国アフガニスタンにも国境を封鎖するよう要求した。
管区内では終日外出禁止令を出したほか、携帯電話のネットワークを遮断したという。

ただ、一部の武装勢力はすでにアフガン側に逃れたとみられ、今後アフガンのタリバンと連携を深める可能性もある。

一方、TTPは16日、首都イスラマバードやシャリフ氏の故郷である東部ラホールでの報復攻撃を予告する声明を出し、海外企業などにパキスタンを離れるよう警告した。【6月17日 毎日】
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外国からの避難民支援を拒否 目立つ支援の遅れ
上記記事にもあるように、TTPは16日、「全ての外国企業は即刻操業を中止し、国外に撤退するよう警告する。従わない場合は安全を保証しない」との声明を発表しています。
“日本貿易振興機構(JETRO)によると、国内には南部カラチを中心に、スズキやトヨタなど日系企業67社が進出している。”【6月16日 時事】 

これまでのところ、外国企業の被害は報じられていませんが、掃討作戦が本格化するにつれ難民の大量発生がすでに起きています。

****パキスタン:武装勢力掃討1週間 住民25万人が避難****
パキスタン北西部・部族地帯の北ワジリスタン管区で、パキスタン・タリバン運動(TTP)などの武装勢力に対する掃討作戦が始まってから22日で1週間。

パキスタン軍は地上部隊で同管区を封鎖し、断続的に空爆を実施。20日までに武装勢力の拠点20カ所を壊滅させ、252人を殺害したとしている。

一方、同管区からは約25万人の住民が脱出。早急な対応が求められている。

「深刻な人道問題が発生している。政府の支援は不十分でペースも遅い」。北西部ペシャワルで国内避難民の支援に携わるNGO職員、カディム・フセイン氏は訴えた。

同管区の人口は推定約60万人。18日に外出禁止令が一部解除となり、住民の多くは徒歩で脱出。避難民は約25万人に上った。

大半は女性と子供で、食料や住居も足りていない。だが、政府はテロ組織とつながりがある支援団体が入り込む恐れがあるとして、外国からの支援を拒否。作戦終了の見通しが立たない中、支援の遅れが目立っている。

軍は21日も管区で空爆を実施したほか、地上部隊も徐々に進軍しているとみられ、これまでに8人が路上爆弾などで死亡した。

軍によると、掃討作戦は地元部族の有力者の支持を得ているとされる。だが、避難民の支援が遅れれば、住民の間に反発が生まれる恐れもある。

治安問題を扱うシンクタンクに所属するイリアス・オラクザイ氏は「部族地帯の住民は福祉政策などで恩恵が少なく、国家から差別されてきた。今後の安定は政府や軍の政策にかかっている」と指摘する。

一方、首都イスラマバードでは20日夜、イスラム教の聖廟(せいびょう)で爆発があり1人が死亡、30人以上が負傷するなど、政府の掃討作戦に対する報復とみられるテロ事件も発生。各地で治安悪化が懸念されている。【6月22日 毎日】
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・・・・地元住民の話では、北ワジリスタンでは15日を含め過去2日間にわたり夜間外出禁止令が出されており、市民が戦闘から避難できる機会はなくなっているという。

ミルアリのある住民は「断水し、食料も底を尽き始めている。住民の80%がまだミルアリに残っている」と話した。軍の作戦の重点はウズベキスタン人など外国人武装勢力のハブとなっているミルアリに置かれているとみられている。

ウズベキスタン人武装勢力の「ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)」はカラチの空港襲撃事件で犯行への関与を主張している。IMUは、TTPやアルカイダと密接に連携しており、北西部の部族地域に拠点を置く。

国際援助機関によれば、今回の作戦で北ワジリスタンから40万人もの避難民が出ると予想されている。【6月16日 WSJ】
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北西部部族地域の掃討作戦は、パキスタンだけでなく部族地域が隣接するアフガニスタンと共同して行わないと、あまり有効にはなりません。

しかし、アフガニスタンのタリバンをパキスタンの情報機関が支援している・・・・とも言われる状況で、両国関係はあまり良好とは言い難い状況です。

****テロ事件:パキスタンとアフガン、互いに批判****
スタンとアフガニスタンで相次ぐテロ事件を巡り、両国が互いに武装勢力の「越境攻撃」を非難している。
パキスタン北西部の国境付近に広がる「部族地帯」は中央政府の統治がほとんど及ばず、武装勢力が自由に行き来しているとみられるためだ。

パキスタンのシャリフ政権は武装勢力との和平を模索するものの、交渉再開の糸口は見えず、対策は容易ではない。

アフガンの地元メディアによると、パキスタン政府は南部カラチの国際空港で8日に発生した襲撃事件を受け、アフガン大使に「武装勢力がアフガンから越境している」と抗議した。事件ではパキスタン・タリバン運動(TTP)が犯行声明を出したが「アフガン側から出撃している」との主張だ。

一方、アフガンのカルザイ大統領は5月、西部ヘラートでインド領事館が砲撃された事件について、パキスタンを拠点とする武装勢力ラシュカレ・タイバが関与したと指摘する。

両国境界は「デュランド・ライン」と呼ばれ、英領インド時代の1893年に画定された。
境界をまたいでパシュトゥン人居住区が広がり、パキスタン側では強い自治権がある。

パキスタンの軍事アナリスト、ハッサン・アスカリ・リズビ氏は「TTPの指導者はアフガン【6月11日 毎日】
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もともと「テロ地獄」とも言われてきたパキスタンですが、更に治安が悪化するということになると市民生活がどうなるのだろうか?とも懸念されます。

ただ、4月にパキスタンを観光しましたが、確かに街中では警備がものものしい光景も見られますが、普段の暮らしのなかではあまりテロの危険は意識されていないようにも見えました。
私自身も、人混みや市場を歩く際にはテロのことなど忘れていました。

人間の危険に対する感覚というのは、そんなものでしょう。外部から眺めるのと、内部で生活するのでは異なります。

しかし、それもすぐ近くで爆弾がさく裂したり、銃弾が飛んできたりするまでの話でしょう。
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