goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イランとアメリカ イラク情勢で異例の協調姿勢

2014-06-18 23:12:34 | イラン

(イランの首都テヘランで、大統領当選1年の節目に記者会見し、イラク支援などについて語るロウハニ大統領=2014年6月14、田中龍士撮影 【6月14日 毎日】)

【「イラクの安定は共通の利益であり、ISILへの懸念も共通だ」】
“安倍晋三首相が並々ならぬ意欲を示す集団的自衛権の行使としての戦闘下でのシーレーン(海上交通路)の機雷掃海。中東情勢が悪化するたびに不安定化するペルシャ湾・ホルムズ海峡での活動は日本にとって欠かすことができないと首相は判断している。”【6月18日 産経】

その“不安定化”の当事者であり、34年前に国交を断ったアメリカとイランが、イラクでのイスラム武装組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」への対応を巡り急接近する異例の状況となっています。

イランのロウハニ大統領は14日、「米国がイラク国内のテロリスト集団に対して行動を起こすなら、検討できる」と述べ、支援申し入れを検討する用意があることを明らかにしていました。

****イラク情勢:米国とイラン 異例の2国間協議****
米国務省高官は16日、イスラム過激派の侵攻で治安が悪化しているイラク情勢について、米国とイランが協議したことを明らかにした。
治安悪化の背景とされる宗派・民族間対立を軽減させる方策について話し合ったとみられる。

長年、敵対的関係にありイラクでも影響力を競い合ってきた両国が協調姿勢を見せるのは異例で、事態の深刻さを反映する動きと言える。

米国はイランで起きたイスラム革命(1979年)以降、国交を断絶している。イランで昨年、穏健派のロウハニ大統領が誕生して以降、決裂していた米欧との核開発を巡る交渉が再開するなど、米国との関係改善の兆しが見えている。

両国はイラン核問題交渉が行われているウィーンで協議した。
同高官によると、2国間協議は今後も継続され、イラクに侵攻する「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」がイランを含む周辺地域にもたらす脅威の度合いや、イラクの宗派間の対立を防ぎ安定化させる方策などが議題になるという。軍事面での連携は除外する。

イランとの協議について、国務省のサキ報道官は16日の定例会見で「イラクの安定は共通の利益であり、ISILへの懸念も共通だ」と述べ、両国に連携の余地があることを強調した。

イスラム教シーア派国のイランは、シーア派が主導するマリキ政権を支援しており、影響力を持っている。
一方、米国もマリキ政権を支援しており、シーア派政権を攻撃するスンニ派主体のISILは両国にとって共通の懸念材料となっている。

また、イラク危機への対応についてオバマ米大統領は16日夕に国家安全保障会議を開催。最新情勢の報告と選択肢の提示を受けた模様だ。ISILの前進を止めるための空爆など軍事行動も検討されている。

また、オバマ氏は同日、約275人を上限とする米軍兵士をイラクに派遣することを米議会に書簡で通知した。バグダッドの米国民や米国大使館の安全確保などを図る目的だが、「戦闘のための装備をさせている」という。

国防総省によると、既に中東全域などを担当する米軍兵士約170人がバグダッドに到着し始めている。さらに約100人の兵士が、飛行場管理や安全確保、兵たん支援などのため移動中で、計約270人の兵士が大使館の警備隊とともに配備される。【6月17日 毎日】
******************

イラン・ロハニ大統領は14日、「イラクへの介入を考えたことはない。イラクから支援の要請があれば国際法の範囲で応えるが、いまは要請はない。イラクは独力で危機を解決できる」と会見し、軍事介入を否定していましたが、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル電子版は12日、イラン安全保障関係筋の情報として、イランが革命防衛隊を派遣したと報じています。

“同紙によると、派遣されたのはイランの革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ」。ISILが制圧したイラク北部の要衝ティクリート奪還に向け、イラク・マリキ政権の政府軍支援を開始。これまでにティクリートの約85%の地域を奪還。首都バグダッドなど主要都市でも守備についている。”【6月13日 毎日】

また、イラン国内ではシーア派聖地防衛を掲げての民兵募集に多くの若者が応じており、すでに2000人規模の民兵組織バシジがイラクに入っているとも報じられています。

****イラン:4200人が派遣を志願…イラク中部聖地を防衛****
イランのニュースサイト「ヤング・ジャーナリスト・クラブ」は14日、イスラム教スンニ派の過激派組織「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」からイラク中部のシーア派聖地を守るため、イランの若者4200人が派遣を志願したと報じた。革命防衛隊傘下の民兵組織バシジが含まれるとみられる。

報道によると、テヘランに本部を置くイスラム教活動団体が、イラン革命(1979年)や最高指導者ハメネイ師に忠誠を誓う若者から聖地保護の要求を受けて募集したところ、4200人が登録した。
イラク中部の聖地ナジャフとカルバラに派遣する予定という。

ナジャフにはシーア派初代イマーム(宗教指導者)アリの、カルバラには3代目イマーム・ホセインの聖廟(せいびょう)があり、フセイン政権崩壊(2003年)後、イランなどから巡礼者が頻繁に訪れている。イランは、ナジャフの宗教施設や発電所の建設工事に巨額の投資をしている。

一方、英紙ガーディアン電子版は14日、イラク当局者の話として、イランのバシジ部隊2000人がイラク東部に到着したと報じた。イラン国境に近いハナキンに1500人、バドラに500人が入り、革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ」のスレイマニ司令官はバグダッドにいるという。【6月15日 毎日】
*****************

こうしたイランの介入について、アメリカは否定していません。
“ハーフ米国務省副報道官は13日の定例会見で、イラン軍部隊のイラク介入について聞かれると「確認できない」と述べた上で、「イラクは主権国家だ」とも語り、受け入れ判断はイラク側によるとの姿勢を示唆していた。”【6月16日 毎日】

イランはマリキ政権のほか、シリアのアサド政権やレバノンのシーア派組織ヒズボラと同盟関係にあり、その影響範囲は「シーア派三日月地帯」とも呼ばれています。

シーア派の盟主を自任するイランは、シーア派のマリキ政権をなんとしても支えるつもりでしょうが、それについてアメリカの“お墨付き”が得られて、今後の関係も改善するとあれば一挙両得でしょう。

****イランがイラク関与深める 米の“お墨付き”得るチャンス****
 ■ISIL対策、精鋭部隊幹部を派遣
ISILの攻勢が続くイラクに対し、隣接するシーア派大国イランが関与を深めている。イランは今回の危機を、イラクでの影響力保持に向けて米国から“お墨付き”を引き出す好機ととらえているようだ。

AP通信は16日、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官がバグダッド入りし、作戦司令室を設置したと伝えた。

司令官は、ISILが攻撃対象に宣言しているシーア派の聖地カルバラやナジャフも訪問。作戦司令室では、反攻作戦の洗い直しや、イラク政府軍やシーア派民兵との連携が検討されているという。

コッズ部隊は主にイラン国外での工作を担っており、内戦下のシリアでは同盟関係にあるアサド政権を支援しているとされる。

イランは2003年のフセイン政権崩壊後、イラク政治の主導権を握ったシーア派勢力を後押しし、影響力を強めてきた。盟主を自任するシーア派勢力圏にイラクを組み込む狙いがある。

11年末の米軍のイラク撤退後はマリキ政権がスンニ派排除を進め、シーア派優位が強まった。

こうした中、米国がイラク情勢でイラン側と協議したことは、イランにとって自国抜きではイラク安定が達成できないと米国が認知したことを意味する。

ただ、ISILが急速に勢力を伸ばした背景には、シーア派を優遇するマリキ政権に対するスンニ派の不満の高まりがある。

ISILに制圧されたスンニ派地域では、政府軍が早々に撤退したのは、政権にスンニ派を守る意思がないからだ-との反発も強いという。

イランが今後も介入を強めれば、スンニ派のさらなる反政府感情を招いて宗派対立が激化しかねない。【6月18日 産経】
******************

ISILはスンニ派の多い地域で勢力を拡大し、一方で、シーア派最高権威シスタニ師の呼び掛けに応じISILに対抗すべくシーア派民兵が動員されており、また、マリキ首相はスンニ派主体のISILをスンニ派の盟主サウジアラビアが支援していると非難するなど、シーア派偏重の姿勢を崩しておらず、すでにイラクの内紛は宗派間紛争の様相を呈しています。

イランが本格支援に乗り出せば更にその傾向が強まることが懸念されています。

また、イランの介入は、イランの影響力拡大を嫌うサウジアラビアなどスンニ派湾岸諸国の反発を招き、事態が複雑化する危険もあります。

効果的な選択肢が少ないアメリカ
隣国のシーア派同盟国支援に素早く反応しているイランに対し、アメリカは国内の厭戦気分から地上軍派遣などはできません。

アメリカ国防総省は14日、ヘーゲル国防長官がアラビア海北部に展開する米海軍の原子力空母「ジョージ・H・W・ブッシュ」をペルシャ湾に派遣するよう命じたことを明らかにしていますが、空爆についても難しい状況です。

****米大統領、イラク空爆当面見送り=包括戦略に焦点―WSJ****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は17日、オバマ大統領がイラクで攻勢を強めるイスラム過激派への空爆を当面見送ることを決めたと報じた。ホワイトハウスで18日に行われる民主、共和両党の議会指導者との会談で、こうした方針を伝える。

同紙によると、大統領が現時点で空爆を控えるのは、過激派の攻勢を阻止するための標的に関する十分な情報の欠如などが理由。イラク軍への情報提供や同国内の宗派対立解消へのてこ入れを継続し、域内の同盟国の支援を模索する。

米政府高官は、同紙に対し「大統領が焦点を合わせているのは、単に素早い軍事行動ではなく、包括的な戦略だ」と指摘。イラク支援の幅広い取り組みの中で、軍事的な要素も含まれる可能性があると説明した。【6月18日 時事】 
*****************

“域内の同盟国の支援”の中、あるいは延長に、かつての宿敵イランとの協調行動もあるということでしょうか。
効果的な選択肢が少ないオバマ政権としては、「状況の悪化を座視するより、たとえ敵視するイランでもISILに対抗する点においては許容できる」(元米情報機関分析官)というところでしょう。

ただ、イランとの協調については、アメリカ国内にもいろんな反応があるようです。

“イランへの強硬姿勢で知られる共和党のグラハム上院議員は15日の政治討論番組で、「イランが衛星国家をイラクにつくることは受け入れない」としつつ、「バグダッドを守るためにはイランの助けが必要かもしれない。対話をし、協力を呼びかけるべきだ」と話した。”【6月17日 朝日】という容認意見の一方で、「イランがイラク情勢でパートナーになりうると信じるなら愚の骨頂だ」(共和党のマケイン上院議員)という批判も多くあります。

アメリカがイランのイラク支援をどこまで容認して、どのように協調するのかは曖昧です。

****情報入手、深入り牽制…イラク情勢でイランと協議の米政府****
米国が1979年の米大使館占拠事件以来、国交を断絶しているイランとの間でイラク情勢をめぐる協議を始めたのは、米軍がスンニ派過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」への空爆に踏み切る場合に備え、イラク国内の実情を把握する必要があるからだ。同時にイラクへの過度の介入を牽(けん)制(せい)する思惑もある。

国務省ナンバー2のバーンズ副長官は16日、イラン核協議のためジュネーブに滞在。協議にはイランのザリフ外相が出席しており、ロイター通信によると、オバマ米大統領が協議を命じた場合に備えてバーンズ氏が派遣されたという。

2011年の米軍のイラク撤退後、米国は過激派組織の動きなど地上の動向に関する情報が得にくくなっており、協議ではイラクのマリキ政権と関係が深いイランに情報提供を求めた可能性がある。

イランに対し、シーア派主導のマリキ政権に宗派的な事情から肩入れすることのないよう自制を促す狙いもあった。

ただ、米政府はイランとの接触は認めたが、バーンズ、ザリフ両氏によるものかは明らかにしていない。ケリー国務長官がイランとの軍事協力を「排除しない」と述べたことも、米政府はただちに否定した。(後略)【6月17日 産経】
****************

“イラクへの(イランの)過度の介入を牽制する”・・・とは言っても、すでにイランはマリキ政権支援で動き出しています。イラクの現状も何らかの支援を必要としています。
アドバイザーの派遣や民兵・義勇兵程度の参戦は黙認するけど、革命防衛隊の本格参戦は認めない・・・といった類の線引きでしょうか。

アメリカ大統領の憂鬱
それにしても、アメリカ大統領とはつらい職務です。
遠く離れた海の向こうの国での出来事について、動かないと「何もしない」と批判されますし、動けば、それはそれで国内外の批判を浴びます。

****イラク情勢 「何もしない大統領」米、オバマ氏への批判噴出****
緊迫するイラク情勢をめぐるオバマ米大統領の対応の遅さと曖昧さに、米国内で批判が高まっており、11月の中間選挙をにらみ野党・共和党は攻撃を強めている。

大統領は13日、ホワイトハウスで、地上部隊を派遣しないこと以外、具体策を何ら示さず、決定まで「数日を要する」と言い残し、ヘリコプターで遊説先のノースダコタ州へ向かった。

共和党のベイナー下院議長は「下院と国防総省は、イラクの情勢悪化をホワイトハウスに警告してきた。だが、何もせず、イスラム過激組織が首都バグダッドへと迫っているときに、大統領は昼寝をしている」と痛烈に批判した。

マケオン下院議員(共和党)は大統領の言葉をとらえ「ホワイトハウスには、何も決められずに、『あらゆる選択肢を検討している』と言う歴史がある」と皮肉った。

マケイン上院議員(同)に至っては「大統領は国家安全保障チームを一新すべきだ」とし、ライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)や、デンプシー統合参謀本部議長らの辞任を要求。過激派組織の脅威増大は「イラクから米軍が撤退した代償であり、大統領はアフガニスタンでも同じ破滅的な過ちを犯そうとしている」と非難した。

一方、ウォールストリート・ジャーナル紙は「(就任から)5年以上がたち、われわれはこの大統領に指導力、戦略的な望みを期待すべきではないということを知るようになった」と批判している。【6月15日 産経】
******************

アメリカではすでに次期大統領を目指す熱い戦いが、ヒラリー・クリントン氏を先頭に始まっていますが、こういう人たちは自分ならもっとうまくやれると思っているのでしょう。しかし・・・・。

****オバマの遺産:ホワイトハウスの主には絶対なるな****
まともな考え方をする人で、米国の大統領になりたい人などいるのだろうか。

非常に大きな期待を背負って就任したバラク・オバマ大統領のこれまでの姿を見ていると、こんな警句が頭をよぎる――何かを手に入れたいと望む時はくれぐれも注意せよ、本当に手に入れてしまうかもしれないのだから。(中略)

理屈の上では、米国の最高司令官たる大統領は世界で最も強い力を持っている。しかし実際は、大統領が何かを変える力は弱まりつつあり、その一方で大統領が責任を取る能力には制限が設けられていない。(中略)

同氏がゴルフコースで過ごした日数は、昨年は46日間に上り、自身の過去最高値(30日間)を上回った。これではまるで、もう力を抜き始めているように見える。

「ちょうど昨夜は人生と芸術というとても大きな、興味深いことについて話をした。今から政治に関するささいな仕事に戻る」。オバマ氏は先月、イタリアの知識人たちとローマで夕食をともにした翌日にそんな愚痴をこぼしている。

同氏がキャビン熱(狭い空間に長期間押し込まれて精神的に不安定になること)にかかっていることは明らかだ。良い面があるとすれば、それは同氏の任期が2年半しか残っていないことだ。【6月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
*****************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする