孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コロンビア  左翼ゲリラとの和平交渉を進めるサントス大統領が再選  紛争終結を求める国民

2014-06-16 22:12:10 | ラテンアメリカ

(奥さん、お嬢さんと再選を祝うサントス大統領 【6月16日 時事】)

【「紛争の終結か、終わりなき紛争か」】
南米コロンビアは、政治の腐敗もあって以前から左翼反政府ゲリラの活動が盛んな地域でした。

その中心的存在のコロンビア革命軍(FARC)は麻薬組織とも協力関係を結び、コカイン原料のコカ栽培地やコカイン精製工場、コカイン密輸ルートを保護することで多額の軍資金を獲得。

更に誘拐による身代金も大きな資金源で、誘拐が多発するコロンビアでは、誘拐組織と被害者の間で交渉にあたる“誘拐ビジネス”が成立していたほどです。

FARCは2000年頃には国土の3分の1を実効支配下に治め、“首都ボゴタ南部のサン・ビセンテ・デル・カグアンに事実上の首都を置き、一時は武力で政権を奪取するのではないかという話も現実味を帯びるほど勢力は強大で活動は活発だった”【ウィキペディア】とのことです。

しかし、“2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件以降は国際社会がテロに対して非常に厳しい姿勢を示すようになり、コロンビア政府も米国に同調する形でFARCに対し強硬な態度で臨むようになった。”【同上】という情勢のなかで、中南米唯一の親米右派政権であったウリベ前大統領がアメリカの協力で強硬なゲリラ掃討作戦を実施し、次第に左翼ゲリラは追い詰められてきています。

ウリベ前大統領から政権を引き継いだサントス大統領は、弱体化した左翼ゲリラとの和平交渉を進めてきました。

そのコロンビア大統領選挙の決選投票が15日行われ、和平交渉路線をとってきたサントス大統領が再選されました。
対立候補のスルアガ氏は左翼ゲリラへのより強い対応を訴えており、サントス大統領と袂を分かったウリベ前大統領の後押しもあったようです。

スルアガ氏は5月25日の第1回投票ではサントス大統領を抑え首位にたちましたが、決選投票では和平交渉推進派の候補の票がサントス大統領に流れる形で、サントス大統領の逆転勝利となりました。

****コロンビア大統領選、FARC和平交渉推進の現職サントス氏が再選****
南米コロンビアで15日、任期満了に伴う大統領選挙の決選投票が行われ、現職のフアン・マヌエル・サントス大統領(62)が接戦を制して再選を果たした。

選挙管理委員会の発表によると、中道右派のサントス大統領の得票率は50.95%で、より保守色の濃いオスカル・イバン・スルアガ元財務相(55)の45%を上回った。

サントス大統領は1期目の任期中、半世紀にわたる左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」との「内戦終結」を公約に掲げ、和平交渉を率いてきた。

一方のスルアガ氏は長く和平交渉に反対の立場を取ってきた人物で、今回の選挙でも「刑事免責なし」を掲げ、もっと厳しい条件での対応を主張していた。

対FARC和平交渉の是非を国民に問う形となった今回の大統領選だが、「紛争の終結か、終わりなき紛争か」の選択を迫ったサントス大統領が、より多くの国民の支持を集めた。

アンデス大学の政治アナリスト、フェリペ・ボテロ氏は、「国民は和平交渉の継続を望んでサントス氏に投票した。必ずしも1期目の政策全般を支持したわけではない」と述べている。

コロンビアでは過去50年に及ぶ紛争で22万人以上が死亡し、500万人が住む家を追われている。【6月16日 AFP】
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【「平和な普通の国」になる日が近づいている
第1次サントス政権で進められたFARCとの和平交渉に関しては、農地改革と農村開発の取り組みに引き続き、昨年11月にはFARCの政治復帰について合意しています。

****コロンビア政府、和平の主要問題で左翼ゲリラと合意****
南米のコロンビア政府と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」が6日、FARCがほぼ50年続けているゲリラ戦の終結後に政治に参加することで合意に達したと発表した。

キューバの外交官ロドルフォ・ベニテス氏が、「われわれは(和平交渉)議題の第2項について基本的合意に達した」との共同声明をキューバの首都ハバナで読み上げた。

同ゲリラ軍の政治復帰は、コロンビア政府とFARCの1年間の和平対話の交渉議題5項目のうちの1つだ。

ラテンアメリカで最も長く続いている武力紛争を終結する包括的協定をまとめるには、双方はさらに麻薬取引、犠牲者への補償、武装解除の3項目で合意に達しなければならない。

双方がこれまでに合意に達していたのは交渉議題の第1項である農地改革と農村開発の取り組み方で、これは紛争の根源でもあった。

ノルウェーの外交官ダグ・ミランダー氏は、合意には「野党勢力に対する保証と政治への市民参加を促進する措置が含まれており、最終的な和平協定調印後にコロンビア選挙制度の改正を予定している」と語った。ノルウェーとキューバは昨年11月にハバナで始まった和平対話の保証人だ。

ハバナでの合意発表の直前にコロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領は、コロンビアが「平和な普通の国」になる日が近づいていると語った。「われわれは、50年もの流血を強いられてきた紛争を終わらせるため、粘り強くやり遂げなければならない」【2013年11月7日 AFP】
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また、大統領選挙直前の5月16日には、3つ目の項目である麻薬問題でも合意が成立しました。  

****麻薬問題解決で左翼ゲリラと合意=和平へ前進―コロンビア****
キューバの首都ハバナで和平交渉を続けるコロンビア政府と左翼武装組織コロンビア革命軍(FARC)は16日、麻薬問題の解決に向けて協力することで合意した。

2012年に始まった和平交渉の五つの議題のうち、両者が合意したのは三つ目。

合意内容にはコカインの原料となるコカの葉の撲滅などが含まれているが、詳細は明らかにされていない。麻薬密売はFARCの重要な資金源で、合意が着実に実行されるかは不透明だ。

大統領選が25日に迫ったコロンビアでは、和平交渉を主導するサントス大統領が再選を目指している。政府とFARCの抗争終結を望む国民は多く、交渉の前進はサントス氏の支持率上昇につながるとみられている。【5月17日 時事】 
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更に、決選投票前の6月11日には、コロンビア第2の左翼ゲリラ組織、民族解放軍(ELN)と和平に向けた予備協議を開始したことが発表されています。

****左翼ゲリラと和平協議=治安回復に一歩前進―コロンビア****
南米コロンビア政府は10日、同国第2の左翼ゲリラ組織、民族解放軍(ELN)と和平に向けた予備協議を開始したと声明を発表した。

政府は既に、最大の左翼ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)との和平交渉も進めており、治安改善に向けて一歩前進した。

ただ、左翼ゲリラは麻薬取引や誘拐を繰り返し、20万人以上の犠牲者を出しており、話し合いには、野党を中心に批判の声が根強い。

15日の大統領選決選投票で再選を目指すサントス大統領の追い風となるかは不透明だ。野党候補のスルアガ氏は、ゲリラとの対決姿勢を強めており、支持率はサントス氏と伯仲している。【6月11日 時事】 
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このようなサントス政権の和平交渉への取り組みが評価された今回決選投票結果でしたが、左翼ゲリラ組織との和平交渉が実効あるもとなり、治安回復が実現できるかは今後の取り組み次第です。

今も多くの難民が国外生活
コロンビア関連のニュースを紹介しているサイト「音の谷ラテンアメリカニュース」によれば、

“FARC書記局員イバン・リオスの後継者でFARC第18戦線の最大ボスであったアルフレド・アラルコン・マチャド別名ロマン・ルイスがコロンビア陸軍との戦闘で死亡”
“警察と軍はテレビでサッカーワールドカップの試合を見るためにアンテナを設置していたELNゲリラボス1人を逮捕”(以上、http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/8415486.html

“トリマ県で陸軍が実行した軍事作戦によりFARCゲリラ2人が死亡し1人が逮捕”
“メデジン市で犯罪組織の縄張り争いが勃発 これまでに5人が死亡し12人が怪我”(以上、http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/8410458.html)といった状況のようです。

そのなかで、“エクアドルに逃げたコロンビア難民の多くがエクアドルに留まることを希望 エクアドルで避難生活を続けるコロンビア難民の80%近くが、コロンビアの自宅に戻るよりエクアドルに留まることを希望していると月曜日国際連合難民高等弁務官事務所(Acnur)の責任者ジョン・フレドリクソンがエクアドルの首都キト市で明らかにしています。ラテンアメリカには6万人から7万人の国外難民がいますが、5万5000人がエクアドルに存在しその内の98.4%がコロンビア人です。”といったニュースも。

なお、在コロンビア日本国大使館が出している「在留邦人向け安全の手引き」(http://www.anzen.mofa.go.jp/manual/clombia.html)によれば、“コロンビアの人口は、日本の概ね3分の1です。一方、年間の殺人発生件数は、日本が約1,100件であるのに対し、コロンビアでは約16,000件発生しています。・・・・コロンビアでは、政府による治安対策の効果により、主要犯罪(特に殺人・テロ・誘拐)の発生が減少傾向にあります。しかしながら最近では、一般的な強盗・窃盗等が増加傾向にありますのでご注意下さい”とのことです。

「手引き」には、アパートは基本的には4階以上の階を選択、身辺警護員(エスコルタ)等は将来的に裏切る場合があることを常に想定する、車がパンクしてもすぐに止めて修理しない、可能であれば自宅に直接郵便物が届かないように措置する、(銀行から預金を引き出した場合)自宅に到着し安心した瞬間を狙うケースもあるので最後まで警戒を怠らない・・・・等々の注意事項が並んでいます。

なんだか人間不信に陥りそうな生活です。
ただ、国連が2013年9月に発表した「世界幸福度報告書2013」によれば、2010-2012の間の国別幸福度ランキングで日本は43位に対し、コロンビアは35位でした。人生は考え方次第・・・ということでしょうか。
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