
(シリア難民キャンプの少女 “flickr”より By UNHCR UN Refugee https://www.flickr.com/photos/unhcr/11219260643/in/photolist-eGVnnE-ggdn9z-eGVnDE-i6pDjk-jYCh1E-f5ZyHD-eGVnNC-eGVnGU-eGVniE-eGVnyb-eGVn8E-nAxnmu-fDvBBk-kMzegB-eGVnKh-eGVnbU-eGPg9M-eGPgtR-fZtQZi-fZtSct-dWF56m-hUUK4e-m2r3pg-gW5gp9-74g825-j2Lq1k-fPUJjC-nq9nyk-boBfbN-irBrCa-eQK8oq-i2oXx3-ipbkcg-i2oriV-7QAEWh-i2oPsA-mHG3c3-7QAEBj-boBBNj-7QxkMX-i2pdau-dakvLT-k1stiP-i2oURk-dgC8ER-i2puqo-fZtbkq-fZtyDq-fZthja-fZteni)
【膠着した内戦の構図】
内戦が続くシリアの大統領選挙は、“選挙にはアサド氏のほか、人民議会(国会)のハジャル議員と市民団体代表のヌリ氏が出馬した。しかし、2人は選挙戦を演出するための「見せかけの候補者」(シリア専門家)との見方が強く、アサド氏の勝利が約束された選挙となった”【6月3日 時事】という状況で、欧米が認めないアサド大統領が予定通り圧勝で3選を果たしています。任期は7年です。
****シリア大統領選、アサド氏が3選…得票率88%****
シリア国営通信は4日、内戦下のシリアで行われた任期満了(1期7年)に伴う大統領選(3日)で、3選を目指すアサド大統領(48)が得票率88・7%で当選したと報じた。
国会議長がアサド氏勝利を宣言した。アサド氏退陣を対話の前提条件としていた反体制派との和平交渉は一段と困難になった。【6月5日 読売】
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シリアの大統領選はこれまで、支配政党のバース党が選出した候補を国民の信任投票で承認する方式がとられていましたが、内戦発生後の2012年に政権による「政治改革」の一環として行われた憲法改正で、複数候補の出馬が可能となっており、今回が改革後の初めての選挙です。
しかし、投票が政権側の支配地域でのみ行われ、反体制派を支持する市民は事実上閉め出されています。
また、300万人超とされるシリア難民の大部分は有権者リストに登録されていません。在外の反体制派指導者らにも出馬資格が与えられていません。
この選挙を“茶番”(米国務省のサキ報道官)と批判する反政府側とこれを支援する欧米ですが、戦局はアサド政権側に有利に進んでおり、一方で反政府側はイスラム過激派が勢力を強めて分裂状態となっている・・・・という状況で、“アサド抜き”を目指してはいるものの、出口を見いだせないのが実情です。
****シリア情勢:米、アサド氏なしの移行政権目指す****
米国はシリア大統領選挙について「民主主義の見せかけ」(サキ国務省報道官)と受け入れない立場をすでに表明。国連の仲介によるジュネーブ合意に基づきアサド氏なしの「移行政権」実現を目指す。
アサド氏は選挙結果を受けて「民意」を盾に正統性を強調するとみられる。米国を中心に支援国会合などで対応を協議しているが、出口は全く見えないのが現状だ。
シリアへの軍事関与に極めて消極的だったオバマ政権が、訓練実施など間接的ながら軍事分野での支援拡大に向かいつつある。
オバマ大統領も先月28日の演説でシリア反体制派への支援拡大を明言。今後、米当局が身元を確認した反体制派要員に対し、米軍が訓練や装備の提供を行う計画だ。すでに米中央情報局(CIA)が第三国で実施しているとされるプログラムの拡大版と言われる。
支援拡大の背景には、内戦での反体制派の退潮がある。装備・実戦経験に勝る外国から流入したイスラム過激派勢力が勢力を拡大し、反体制穏健派と「仲間割れ」するなど混乱が起きている。
現状は反体制派にとって「極めて悪い」(米議会に近い中東専門家)状況で、軍事的に優勢なアサド政権側を「政治的な選択」に向かわせることが困難だとの判断があると見られる。
ただ、オバマ政権としては移行政府樹立など最終的な「政治的解決」を求める姿勢に変化は無い。イラク、アフガン戦争を経て海外での軍事作戦への米軍関与に後ろ向きの米世論もあり、装備供与が雪だるま式に拡大したり、米軍の大規模派遣が行われたりする可能性も極めて考えにくい。
「シリアの危機は投票箱を通じてこそ、解決される」。イランのザリフ外相は1日、首都テヘランで開かれたアサド政権の友好国による国際会議で、3選が濃厚なアサド大統領への支援を続ける考えを示した。
イランの影響下にある武装組織ヒズボラの拠点レバノンや、最大の敵国イスラエルと隣接するシリアは戦略上の要衝で、アサド政権とも友好関係を保ってきた。
ヒズボラ参戦の見返りに、アサド政権が保有する弾道ミサイルがヒズボラに提供されるとの密約もささやかれ、移送中のミサイルを狙ったとみられるイスラエルの攻撃もたびたび起きている。
ただイランは、経済制裁の解除を狙って、核協議などで米欧との協調路線を模索している。専門家の中には少数意見だが「米欧との関係改善の障壁になるようであれば、イランがアサド政権を見捨てる可能性も否定できない」と指摘する声も出ている。
一方、反体制派支援国には温度差が出てきている。サウジアラビアやカタールなどイスラム教スンニ派王家が統治する湾岸諸国は、シーア派国家イランの影響力拡大を懸念し、反体制派への支援を続けている。【6月5日 毎日】
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軍事的に有利に立っていることで自信を深めるアサド政権、分裂する反政府勢力、穏健派を支援するアメリカなど欧米、アサド政権を支援するシーア派のイラン・ヒズボラ、これに対抗して反政府勢力を支援するスンニ派のサウジアラビアなどの湾岸諸国という構図が膠着しています。
シリア北部では最近、軍事的に劣勢になっている反体制派が地下にトンネルを掘って爆弾を仕掛ける「トンネル爆弾」による攻撃が相次いでいます。
****シリア 大統領選前に大規模爆発****
内戦が続くなか、今週、大統領選挙の投票が行われるシリアで、政府軍の拠点を狙った大規模な爆発があり、選挙を前に抵抗を続ける反政府勢力と政府軍の攻防が激しさを増しています。
シリア北部の主要都市アレッポで31日、旧市街にある政府軍の拠点を狙った大規模な爆発がありました。反政府勢力側が撮影し、インターネット上に掲載した爆発の瞬間とされる映像では、大きな爆発音と共に数十メートルの高さまで煙などが立ち上る様子が確認できます。
この爆発について、反政府勢力側のイスラム武装組織は、政府軍の拠点まで地下にトンネルを掘って近づき爆弾を仕掛けたと表明し、政府軍の兵士少なくとも40人を殺害したと主張しています。
政府側はアサド大統領が再選されることで政権の正統性を内外に誇示するものとみられます。
これに対し、選挙の実施を認めない反政府勢力側は、地下道を使った爆弾攻撃や迫撃砲による都市部の爆撃などで抵抗を試みていて、選挙を前に双方の攻防が激しさを増しています。【6月1日 NHK】
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政権側も地下トンネルに爆弾付の監視カメラを設置して反政府派の攻撃に対抗するなど、地上が廃墟と化した街の地下トンネルでの攻防が行われています。
地下トンネルによる攻撃は、政権側の支配がいまだ十分でないことを示す効果がありますが、ただ、それによって戦局が大きく変わることもないようにも思えます。
アレッポなどで、そうした“地下トンネル”を使った抵抗しかできない状況に追い込まれつつある反政府側の苦境を示すもののようにも思えます。
【売られるシリア難民少女 売春を強いられる難民女性】
内戦が続くなかで、大勢の難民が国内外で発生していることは周知のところですが、生活基盤のない難民の暮らしが厳しいものであろうことは、ちょっと考えだけでも容易に想像できます。
そして、厳しい生活のしわ寄せは、弱い立場の女性に回ってきます。
****花嫁として売られるシリアの少女たち****
難民キャンプでもトルコの都市部でも、シリア内戦の窮状に付け込む悪党が暗躍している
他人の不幸でカネを稼ぐ卑劣な人間はいつの世にもいる。ヨルダン北部にあるザータリ難民キャンプで責任者を務めるキリアン・クラインシュミットは、それを目の当たりにしている。
12年のキャンプ設立以来、無法状態に付け込んで、このキャンプでは人身売買が行われている。狙われるのは、立場の弱い難民の若い女性だ。
サウジアラビアなど湾岸諸国の50~70代の男たちが、難民生活を送る10代のシリア人少女たちを妻として安い値段で買っていく。仲介役は数千ドルで取引をまとめているという。
難民の中には、結婚すれば娘は安全に暮らせると考える家族もいる。キャンプでは性暴力が頻発し、女性たちはトイレや共同キッチンに行くことさえ怖がっている。(中略)
クラインシュミットによれば、今では外部の者がキャンプに入ることは制限され、キャンプ内はかなり安全になった。
だが結婚後たった数週間で夫に捨てられる少女たちも増えている。出戻った少女たちはキャンプに帰っても居場所はない。「もう処女ではないという理由だ。古い考え方の人たちだから」と、クラインシュミットは言う。
シリア人難民の80%は難民キャンプではなく都市部に暮らしている。そこでは低年齢の結婚率はもっと高いとみられている。ただキャンプの外の状況を把握するのは難しいと、ユニセフ(国連児童基金)のヨルダン支部副代表のミッシェル・セルバディは言う。(後略)【6月10日号 Newsweek日本版】
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このような話は以前からあります。
****シリア難民の少女は“安上がりな花嫁”でいいのか? 買い漁るアラブ人男性たち ****
ヨルダンやレバノン、イラク、トルコなどにあるシリア人難民キャンプを、湾岸諸国から来たアラブ人男性らが訪れ、“花嫁候補”を物色している。お目当ては、シリアの内戦から逃れてきた女性の難民だ。ジューイッシュプレスやアルバワバ、アラクバールなど、中東地域のメディアが断続的に報じている。
アラブ男性を惹きつけるのは、シリア女性の高い身長、大きな瞳、輝くような素肌、そして「安い値段」だ。シリア女性は「アラブ随一の美女」といわれるが、難民となったシリアの少女はわずかなお金で手に入るという。
シリア難民の親の多くは、16歳の娘を1000ユーロ(約10万円)で売るという。アラブの富豪にとってみれば、1000ユーロははした金。だが難民にしてみれば大金だ。
また、娘を早く結婚させることで、不安定な状況から抜け出し、大事な娘を守ってくれる男性が現れたのだと夢を見る。
アラブ富豪との結婚を自ら進んで決意する14~15歳の少女もいる。靴や毛布さえない難民キャンプでは選択の余地がないという問題が背景にある。少女らは、苦しい家計を助けるために親元を離れることで親の負担を軽くしようと考える。
ただ少女の早すぎる結婚は、早すぎる妊娠を招き、初産で子どももろとも命を落とすリスクも低くない。(中略)
とはいえ、多くの親にとってみれば、家計に大きな不安を抱えているなかで、1000ユーロを払ってくれる男性が現れれば、娘の結婚に同意せざるを得ないのが現実だ。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、特にヨルダンにある難民キャンプが一番狙われているという。
「一度両親の元を連れ去られてしまえば、結婚後は買春業に従事させられ、用済みになったら路上に捨てられる」と国連関係者は危惧する。(今井ゆき)【2012年12月7日 開発メディアganas】
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キャンプの中に残っても、女性の置かれた状況は過酷です。
****家族を助ける「サバイバル・セックス」、売春婦と化すシリア難民たち ****
売春婦となるシリア難民が増えている。ボイス・オブ・アメリカ(VOA)などが7月29日付で報じたもので、家族のためにお金や食料を確保するというのが理由だ。こうした行為を援助従事者たちは「サバイバル・セックス」と呼んでいる。
■難民キャンプに売春宿
この問題の背景にあるのは、難民のおよそ7割が女性と子どもであり、生活力が乏しいという現実がある。
シリア難民を最も多く受け入れるレバノンのアイン・ヘルワやサダヤなどの難民キャンプの中には「売春宿が多い」とレバノンの難民支援団体「結束と開発」で働くリマ・ザーザー氏は明かす。
シリア第3の都市ホムスからレバノンに逃れてきたイシュタさん(16歳)も売春婦になったひとりだ。2012年12月、イシュタさんの父は空爆を受けて死亡。これをきっかけに、母、姉とともにシリアを脱出した。
当初は、姉と一緒に、ベイルート、ベルダンで、生活していくために物乞いを始めた。だがすぐに性的虐待を受けるようになった。数週間後、自暴自棄に陥ったイシュタさんは売春婦になった。
「男たちは、車や廃墟ビルの中、荒地に私を連れて行き、動物のように扱う。ほとんどの男性はコンドームを使わない」とイシュタさん。報酬は1人につき20~30ドル(2000~3000円)。1週間におよそ6人の相手をするという。
援助従事者らの話では、客をとる値段は、ベイルート郊外や南部レバノン、ベッカー高原では7ドル(約700円)程度だという。
■援助従事者も顧客
ショッキングなのは、シリア難民の女性を買春する顧客に援助従事者も少なくないこと。また売春婦でなくても、女性の難民という弱みに付け込んで、セックスを求めてくることはざらだ。
シリア難民で、二児の母でもあるアフナさん(26歳)は「援助従事者から、セックスを要求されることは珍しくない」と暴露する。NGOの男性スタッフからある日、「男性と性的な関係をもてば、男性が何か援助物資を手に入れたとき、それを分け与える」と言われた。アフナさんは泣いて、このNGOを離れた。
レバノン政府の発表によると、同国が受け入れたシリア難民の数は100万人以上。13年末には200万人に達する見通しだ。
受け入れ先となる難民キャンプは不十分で、女性難民の多くは、難民キャンプの外の廃墟ビルや安い家などを借りて、生活している。だが、家主やレバノン政府の役人から「セックスさせろ」と求められるケースは後を絶たない。
■おじからも性的虐待
女性を性の対象とみるのは、援助従事者や家主、レバノン政府の役人だけではない。「多くの女性は家の中で、特におじやきょうだいからの性的虐待に苦しんでいる」と、レバノンの難民支援団体「国境なき開発活動」のカッセム・サードさんは指摘する。
多くのシリア難民は、過度に人数の多い環境や古い建物、廃墟ビルや雑にできた避難所などで生活している。そのため男性は、強い憤りや怒りがたまる。そうしたストレスが、近くにいる女性への虐待につながるというわけだ。
女性たちを保護しようと、国境なき開発活動は、技術を身に付ける訓練を女性に提供し始めた。内容は、家庭内での性的虐待から自分自身をどう守るのか、どう対処するのかというもの。
また、法律の力を活用することを視野にレバノンの司法当局と連絡をとっているが、同国の法律は「夫婦間のレイプ」を認めておらず、事態の改善は簡単ではないのが現状だ。(有松沙綾香)【2013年8月31日 開発メディアganas】
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【アサド排除よりも優先すべき停戦】
反政府勢力を支援して“アサド抜き”を模索する欧米ですが、結果的にこのような現状を固定化するのであれば、アサドであろうがなかろうが、とにかく内戦を終結させて国民の安全と暮らしを確保することの方が優先されるべきではないか・・・そのために必要なら、シリアにおいて統治能力を有する唯一の存在であるアサド政権を存続させたままの停戦もやむを得ないのではないか・・・と考えます。
銃を手にして己の大義のために戦う男たちにとっては、その背後での女性の苦しみなど考慮に値するものではないのでしょう。もともと、女性の権利が軽んじられている風土がありますから、なおさらです。
しかし、多くの女性を含む国民を犠牲とした“民主主義を求める戦い”に、いかほどの大義があるのか疑問です。
単に、戦いのための戦いに没頭しているにすぎません。