(14日、アフガニスタンの首都カブールで、大統領選の票を投じる女性(EPA=時事)【6月14日 時事】)
【自立に向けた重要な1歩】
アフガニスタンでは、今年末までの米軍など外国部隊撤退を控え、カルザイ大統領の後任を決定するという、アフガニスタンの将来を大きく左右する大統領選挙の決選投票が行われています。
****アフガン死傷者7人に 決選投票を妨害…新大統領に「安定」の重責****
アフガニタンで14日、大統領選挙の決選投票が行われた。
4月5日に行われた初回投票で首位になったアブドラ元外相(得票率45%)と2位だったガニ元財務相(同31・6%)の戦いで、暫定結果は7月2日に発表され、最終結果は不服申し立て審査の後、同月22日に公表される。
イスラム原理主義勢力タリバンは、選挙の妨害を宣言している。
東部クナール州では14日朝、治安部隊と武装勢力の戦闘が発生し、女性市民1人が死亡、市民や兵士6人が負傷した。首都カブールでもロケット弾が撃ち込まれた。
政府は兵士や警官約40万人を全土に展開して警戒に当たり、内務省は、14日朝までの24時間でタリバン兵計72人を殺害したと発表した。
アフガンでは、北大西洋条約機構(NATO)軍主体の国際治安支援部隊(ISAF)が今年末までに撤収する。NATOを主導する米軍はその後、規模を現在の約3万2千人から約9800人に縮小して駐留し、2016年末までに撤収する予定だ。
憲法の3選禁止規定で今回、出馬できなかったカルザイ大統領は、来年以降の駐留米兵の地位を定める両国の「安全保障協定」への署名を拒否したが、決選投票に進んだ2候補は署名を明言している。
米軍の支援は当面、継続するとはいえ、アフガン治安部隊の役割は段階的に増していく。
イラクでは米軍撤収後に、イスラム過激組織の増長で治安が悪化しただけに、新大統領は今後、安定をどう確保するかという重責を担うことになる。【6月14日 産経】
*****************
周知のように米軍が撤退したイラクが内戦状態に陥りつつある現在、改めてアフガニスタンが自立できるのかが問われていますが、今回選挙は自立に向けた重要な1歩になります。
アブドラ元外相は北部同盟幹部としてタリバン政権打倒に貢献した経歴があり、2009年の前回大統領選挙では第1回投票でカルザイ大統領に次ぐ2位となりましたが、選挙に不正があるとして決選投票を辞退・ボイコットしました。
ガニ元財務相は世界銀行での勤務経験があります。
“両氏の政策に大きな違いはなく、決選投票では民族票が結果を左右する可能性が高い。
アブドラ氏が1次投票から引き続き優勢との見方がある一方、直接対決になれば、最大民族パシュトゥン人のガニ氏が少数派タジク人に支持基盤を持つアブドラ氏を逆転するとの観測も出ている。民間企業が有権者約2800人を対象に実施した世論調査では、ガニ氏を支持するとの回答が49%を占め、アブドラ氏支持(42%)を上回った。”【6月14日 時事】
もとより、アフガニスタンのような国での“世論調査”なるものは、あくまでも参考程度にすぎません。
【ジャーナリスト:選挙に泥を塗るような報道はしないという選択】
“両氏の政策に大きな違いはない”という点では、どちらが勝つかより、選挙が安全かつ公正に行われるかの方が重要かもしれません。
タリバンはすべての投票所を標的に攻撃を仕掛けると警告する声明を出しており、実際、前出記事にもあるような事件・妨害も報告されています。
ただ、本当にこの程度の妨害であれば、選挙はおおむね安全に行われたと言えるでしょう。
本当にそうなのか?タリバンの攻撃を恐れず、有権者が投票に出かけたのか?
4月5日に行われた第1回投票でも多くの妨害があり、犠牲者も少なからずあったものの、予想されたよりはスムーズに行われ、カルザイ大統領も選挙の“成功”を評価した・・・と報じられています。
****アフガン:大統領選、投票率60% 市民ら23人死亡****
任期満了に伴うアフガニスタン大統領選挙は6日、本格的な開票作業に入った。
独立選挙委員会(中央選管)によると、5日の投票で、有権者約1200万人のうち推定700万人以上が投票。投票率は約60%に上った。
カルザイ大統領は5日夜、テレビ演説で「我が国が民主国家であることを世界に示せた」と述べ、旧支配勢力タリバンの攻撃が続く中、票を投じた国民をたたえた。
2009年の前回選挙では約500万人が投票したとされる。「多数の不正票が投じられた」と批判され、実際に投票した人はこれより少ないとみられており、今回の関心度の高さを示した。(中略)
アフガン内務省によると投票日の5日、治安当局と武装勢力の交戦などで武装勢力の179人が死亡。一方、警察官12人とアフガン軍兵士7人が死亡し、民間人が4人亡くなった。91個の地雷や爆弾が見つかり、未然に処理したという。
タリバンは5日深夜、「1088件の攻撃を全土の投票所に仕掛けた」と発表。規模は誇張されているとみられるが、タリバンが大規模攻撃を仕掛けたのは間違いなさそうだ。【4月6日 毎日】
**************
タリバンが大規模攻撃を仕掛けたのは間違いなければ、この程度の犠牲者で済むとは思われません。
実際はもっと激しい妨害もあり、また、不正もあったにもかかわらず、国の将来を案じるジャーナリスト側が“国益のために”敢えてそうしたネガティブな側面は報じなかったとも指摘されています。
****アフガン大統領選報道のジレンマ****
選挙を傷ものにしたくない記者たちが不正や爆撃を報じず「自己検閲」したことの是非
4月5日に実施されたアフガニスタン大統領選挙は「成功裏に終わった」と伝えられている。
だが本当に公正に行われたのか、タリバンによる妨害はなかったのか、投票率はどれぐらいだったのか・・・・。私たちが正確な情報を得ることはできなかった。
外国メディアは「民主主義の勝利」「タリバンに打撃」といった見出しで、称賛の嵐だった。
アフガニスタン国内でも肯定的な評価ばかり。当局やメディアは有権者の勇気や治安部隊のプロ意識をたたえ、反政府勢力の弱体化を指摘した。
しかしこの選挙がどれはどの成功を収めたのかは、誰も分かっていない。理由は簡単だ。アフガニスタンのジヤーナリストが、選挙に泥を塗るような報道はしないという選択をしたからだ。タリバンによる投票日の攻撃は報じない、というように。
彼らはタリバンに対する恐怖心からその選択をしたわけではない。
むしろ、タリバンの攻撃を報じなかったために報復をほのめかされた記者たちもいる。タリバンにとって暴力は広報の側面もあるからだ。なぜ攻撃を報じないのかと、何人もの記者にタリバンから怒りの電話がかかってきたという。
それでも記者たちが報じなかったのは、能力不足だからでも怠慢だからでもない。この13年間、アフガニスタンのジャーナリストたちは数え切れないほどの戦闘やテロ行為を報じてきた。
だが今回の大統領選では、できる限りの明るい光を当てようと芝居を打ったのだ。彼らはそれを愛国心からやったと語る。
タリバンの攻撃に目をつむるという決定は「国益に基づくものだ」と、テレビ局1TVの報道部長アブドゥラ・アザダ・ケンジャニは言う。メディアは「選挙に汚名を着せたり国の将来を危険にさらす」べきではない、と。
しかしジャーナリストが誰かの利益のために一度でも事実を曲げると、後はよどみ切った泥沼に沈んでいくだけだ。
カウントされた「幽霊票」
大統領選投票日に起きた暴力を報じた数少ないメディアによれば、実際にはこれまでの選挙より多くの攻撃があった。
治安が悪化しているというニュースは投票率を下げかねない。有権者が正確な情報を得ていれば、命を落とすリスクを冒してまで投票には行かなかったかもしれない。しかも自分たちの1票がきちんと反映されるかどうかも分からない選挙にだ。
選挙戦の間に行われた世論調査によれば、大統領選が自由かつ公正に実施されると考えていた人はわずか25%だった。そんな状況で、投票率が高まるなんてあり得るだろうか。
推定では有効票は700万以上、登録有権者数の60%に上ったとみられるが、私たちが真の投票率を知ることはない。
国際監視団やメディアが目を光らせていた首都カブールなど都市部では、投票所の前に長い列が見られた。だがジヤーナリストのファザル・ラーマンは、地方では選挙が行われた形跡がない地域もあったと報じた。
カブールから南西へ100キロ余りのガズニ州では、総票数4万7658票の大半が「幽霊票」だとラーマンは指摘する。誰も投票していないのにガウントされた数字だ。「独立選挙委員会は投票所の数を32力所としていたが、私かこの目で開設が確認できたのは12力所だけだ」とラーマンは書いた。
このような報道はほかにはほとんど見られなかった。選挙が本当に自由で公正に行われたからか。あるいはアフガニスタンのメディアが選挙に傷を付けたくなかったからか。
私はアフガニスタンのジャーナリストたちにひどく同情するし、彼らのプレッシャーも理解できる(中略)
有権者を危険にさらした
・・・・とはいえ、投票日に報じるべき事件を報じなかった記者は、役割を果たさなかったと言わざるを得ない。
さらには治安に関する誤った情報を信じて投票所に向かい、爆撃に遭った人々に対する責任も感じるべきだ。
駐留軍の縮小を続ける外国部隊にとって、アフガン戦争は過去の話になりつつある。今回の大統領選も、バックミラーで見ているような感覚だ。
だがアフガニスタンのジヤーナリストたちはそんなことを言っていられない。彼らは大統領選後もこの国を見守り続ける必要がある。
「国益のために」と言えば愛国心にあふれているように聞こえるが、それはまったく逆の結果をもたらしかねない。【5月27日 Newsweek日本版】
*******************
“何人もの記者にタリバンから怒りの電話がかかってきた”というのはユーモラスでもありますが、投票に出かけて犠牲となった人が多くいるとしたら笑ってはいられません。
「幽霊票」などの不正行為についても、今になって下記のような事実が公表されています。
****不正疑惑で職員半数を停職=アフガン選管****
アフガニスタン選挙管理委員会は、4月に実施された大統領選挙初回投票で不正に関わった疑いがあるとして、決選投票までに全職員のほぼ半数に当たる約5300人に停職処分を下した。
報道によると、処分を受けた職員の大半は各投票所の現場担当者だった。この他にも自治体首長や政府職員、警察幹部らも不正に関与した疑惑が浮上し、政府に処分を要請したという。【6月14日 時事】
*****************
全職員のほぼ半数が不正行為で停職になった・・・・一体どういう選挙が行われたのか?
そうした疑問も当然ありますが、そんな広範な不正を暴く自浄能力がアフガニスタン選挙管理委員会にあったのか?それならどうして全職員のほぼ半数が停職となるような事態を招いたのか?・・・どうもそのあたりが釈然としません。
【それでも“特筆に値する快挙”】
しかしながら、選挙が安全かつ公正に行われたかは非常に疑問ではあるものの、それでもアフガニスタン史上初の平和的な政権交代は評価に値するとの指摘もあります。
****米軍の運命を握る政権交代****
・・・・選挙で誕生した新政権が、旧政権の政策を検討して新たな方針を決定する・・・・民主主義国家では当たり前だが、アフガニスタンでは穏やかに政権交代が実現すること自体初めてのことだ。
4月の第1回投票が成功裏に終わったとの報道は、いささか誇張されている。多くの不正が確認され、選挙当日のタリバンによる攻撃も発生した。
カルザイがおとなしく引退する気配もなく、退任後も影響力を及ぼすと考えられている。
それでも前回09年の大統領選に比べれば大きな進歩だ。当時は腐敗が横行し、100%が不正票たった地域も。カルザイ政権の信用は失墜し、タリバンを勢いづかせることにもなった。
カーネギー国際平和財団の上級研究員セーラ・チェイスは、今回の選挙が変革の節目になるとの考えは「妄想」だと主張する。誰が大統領になろうと、駐留米軍が完全撤退した後、アフガニスタン政府はうわべだけでも治安を維持するのに相当の困難を背負うことになる。
アメリカの努力もむなしく、今も腐敗ははびこったまま。成功したと一部で言われている「選挙による民主主義」が、短命に終わる可能性もある。
それでも、アフガニスタン史上初の平和的な政権交代がこのまま穏やかに進行するとしたら、大きな前進だといえるだろう。私たちにとっては当然のことが、この国では特筆に値する快挙になるのだ。【6月10日 Newsweek日本版】
******************
まあ、まだ「選挙による民主主義」が短命に終わると、また、イラクの二の舞になるとも決まった訳でもありませんから、とりあえずは選挙がなんとか無事に行われ、新政権が速やかに確立されて自立へ向けて歩みだすことを願っています。選挙結果をめぐって混乱拡大・・・なんてならないように。
なお、“アフガン内務省によると、投票所約7200カ所のうち約800カ所が治安上の理由から閉鎖された”【6月14日 毎日】とのことです。
タリバンと交戦状態にあるなかでの選挙ですからやむを得ないでしょう。